医療法人化をマルっと解説!メリット・デメリットから手続きの流れまで
目次
医療法人化は、事業拡大や節税に関していくつかメリットがあります。しかし、手続きが増えたり、運営管理が大変になったりするなどのデメリットもあるため、医療法人の特徴を理解しておくことが大切です。
この記事では、医療法人化のメリットやデメリット、医療法人化の要件について解説します。また、医療法人化の手続きについても解説しているので、参考にしてください。
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医療法人化とは?
医療法人化とは、診療所や個人病院などの医療機関が個人経営から法人組織へ移行することです。
医療法人としての組織運営を行うことで、経営の安定化や社会的信用の向上が期待できます。個人での経営では経営者が死亡した場合や、個人的な財産との分離が不十分なため、経営リスクが高くなることがありますが、医療法人化することでこれらのリスクを軽減できます。
医療法人は、医療法人社団と医療法人財団の2種類です。
概要 | |
医療法人社団 | 複数の医師や出資者が共同で出資し、運営する法人。最低4人の設立メンバーが必要で、設立のハードルが低く、小規模からスタートしやすい。 |
医療法人財団 | 拠出された財産をもとに公益的な医療活動を行う法人。最低8名の理事・監事が必要。不動産や医療機器、人材などの費用は寄付から賄う。公益性を重視するため、設立や運営に高いハードル。 |
開業医から法人化する場合、設立のハードルが低い医療法人社団が多い傾向です。
医療法人化のメリット
医療法人化のメリットは3つあります。
- 事業拡大が目指せる
- 社会的信用が上がる
- 節税効果が高い
それぞれ詳しく解説します。
事業拡大が目指せる
医療法人化することで、事業の拡大が目指しやすくなります。個人経営では資金調達が難しく、また融資の面でも個人保証が求められることが多いです。
しかし、法人化することで銀行からの融資が受けやすくなり、施設や設備の拡充、スタッフの増員などが進めやすくなります。
また、法人としての経営戦略を練りやすく、複数のクリニックや施設を展開する場合でも、法人が一括して管理できるため、効率的な運営が可能です。事業承継も容易になり、長期的な視野で事業を計画できる点が、医療法人化の大きなメリットといえます。
社会的信用が上がる
医療法人化により社会的信用が上がります。医療法人は設立要件や運営基準を満たし、定期的に行政機関へ報告を行い監査を受けることが必要です。これにより、外部からの透明性が高く評価され、安定した経営が期待できるため、患者や取引先からの信頼が高まります。
また、資産は法人化により経営者の個人資産とは切り離されるため、信用が増し、銀行などからの融資も受けやすくなります。このように、医療法人化は経営基盤を強化し、持続的な成長を目指す上で必要です。
節税効果が高い
医療法人化することで、税制面での優遇措置が受けられるため、節税効果が高まります。個人経営の場合、所得税の累進課税が適用され、所得が増えるほど税率が高くなる傾向です。
一方で、法人化することで法人税の一律課税が適用されます。これにより、一定以上の所得を得ている場合は、法人化により税負担が軽減されます。
また、経費として認められる範囲も広がり、役員報酬や退職金などが税控除の対象となるため、節税効果を高めることが可能です。家族を役員として雇用した場合、所得を分けることも可能であるため、トータルでの税負担を軽減できる仕組みになっています。
医療法人化のデメリット
医療法人化のデメリットは2つあります。
- 医療法人化の手続きが大変
- 運営管理・運営費にリソースが必要
それぞれ解説していきます。
医療法人化の手続きが大変
医療法人化を進めるには、複雑で時間のかかる手続きが必要です。まず、法人設立の申請書類や、定款、社員や役員の名簿、事業計画書、資産目録など、多くの書類を準備しなければいけません。
これらの書類を地方自治体の認可を受けた後、法務局に登記する必要があります。しかし、この過程は複雑であり、書類不備や手続きのミスが生じると再提出が求められ、設立までに時間がかかることも多いです。
また、手続きに際して専門家の助言を仰ぐ場合、その際の費用もかかるため、時間的・金銭的な負担が大きくなる可能性があります。設立後も運営管理にかかる手続きや報告義務が増えるため、個人経営よりも管理面での労力が増加するでしょう。
運営管理・運営費にリソースが必要
医療法人化すると、個人経営時よりも運営管理に必要なリソースが増加します。法人としての財務報告や決算報告の義務があり、これを適切に行うためには専門的な知識を持つスタッフや外部の税理士、会計士のサポートが必要です。
また、法人運営には役員報酬や法人税の支払い、各種社会保険料の負担など小規模の個人経営(5人未満)では発生しない運営費がかかるため、資金管理が大切です。加えて、事業拡大や人員増加に伴い、管理部門の整備やシステム導入が必要になることもあります。
医療法人化は長期的に見れば事業の安定や成長をもたらしますが、初期段階でのリソース確保や管理体制の構築には十分な計画と準備が必要です。
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医療法人化の要件
医療法人化には3つの要件を満たす必要があります。
- 社員と役員を配置
- 業務に必要な資産を用意
- 契約の引き継ぎ
それぞれ解説します。
社員と役員を配置
医療法人を設立するためには、法人内での組織構成が必要です。特に、社員と役員の配置が法的に求められます。社員は法人の「所有者」としての立場であり、経営方針や重要な意思決定を行うための総会を通じて影響力を持ちます。また、役員は法人の日常的な経営・運営を行う責任者です。
医療法人では、理事長を含む理事のほか、監事の設置が必要で、これらの役職には医療に関する専門知識や経営に精通した人材が求められることが一般的です。
これらの役割を適切に配置し、法人としての運営を行うことが、医療法人化の要件になります。また、役員の任期や報酬についても定款で規定されているため、事前の準備が必要です。
業務に必要な資産を用意
医療法人化するためには、業務に必要な資産を確保することが大切です。
業務に必要な資産とは、医療法人としての運営を安定的に行うための基盤であり、診療所や病院の建物、医療機器、スタッフの給与や運営資金などが含まれます。
医療法人を設立する際には、個人経営からの資産の移行が必要で、これに伴う契約や所有権の変更手続きが発生します。
また、法人として運営を行う場合、資産の管理や報告が厳格に行われるため、財務管理システムの整備が必要です。これらの資産が法人として適切に管理されていることを示すことが、地方自治体の認可を受けるために大切な要件です。
契約の引き継ぎ
医療法人化に際しては、これまで個人名義で行っていた契約を法人名義に引き継ぐ手続きが必要です。賃貸契約、医療機器のリース契約、取引先との契約、スタッフの雇用契約など、法人化後の事業運営に必要なすべての契約が対象です。
これらの契約を個人から法人へと適切に移行するためには、契約先との交渉や新しい契約書の作成が必要になることが多く、手続きには時間と手間がかかります。
既存の契約内容によっては、法人名義への変更ができない場合もあり、その場合は新たに契約を結び直す必要があります。
そのため、法人化前の段階で契約の精査を行っておくことが必要です。このような契約の引き継ぎが円滑に行われないと、法人化後の事業運営に支障が出る可能性があります。
医療法人化はこんな方におすすめ
医療法人化は、事業の拡大を目指す医療機関にとって有効な選択肢です。個人事業での成長には限界がありますが、医療法人になることで、より大規模な運営が可能になります。
たとえば、法人化により資金調達が容易になり、金融機関からの信頼も向上します。また、取引先や患者からの信頼度も高まり、安定した成長が期待できるでしょう。
分院を設立して事業を広げたいと考える場合にも最適です。医療法人であれば、複数の診療所を効率的に運営するための枠組みが整備され、適切な組織運営が可能となります。法人化により経営の透明性が向上し、安定した経営基盤を築くことができます。
医療法人化は、節税対策としても有効です。個人事業主の場合、所得税の負担が大きくなりますが、法人化することで法人税率を適用でき、節税が可能です。法人税は個人の所得税よりも低いため、収益が高くなるほど税負担が軽減されます。
さらに、法人化によって、役員報酬や退職金などの経費計上が可能となり、より柔軟に資金を活用できるのもメリットです。
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医療法人化に必要な8つの手続き
医療法人化には8つの手続きが必要です。
- 設立の事前登録
- 医療法人設立説明会に参加
- 定款を作成
- 設立総会を開催して議事録を残す
- 設立認可申請書を作成し提出
- 設立認可書の受領
- 設立登記申請書類の作成
- 登記完了
それぞれの手続きを解説していきます。
設立の事前登録
医療法人を設立する際には、まず事前に都道府県の「医療課」または「保険医療課」で登録を行います。この事前登録は、設立希望者が医療法人を設立する意図を当局に知らせるためのものです。通常、申請者の基礎情報や設立予定地の状況、診療所や病院の概要を記載します。
この段階で、法人設立が適切であるか、法的要件を満たしているかなどの初期的な確認が行われるため、必要な書類や条件について事前に確認し、不備がないように準備することが大切です。なお、都道府県によって事前登録の手順や提出書類が異なることがあるため、地域の窓口に確認する必要があります。
医療法人設立説明会に参加
多くの都道府県では、医療法人設立のための説明会が開催されており、これに参加することが推奨されています。説明会では、医療法人設立に必要な手続きや法的要件、具体的な申請方法、注意点について説明が行われます。
この説明会に参加することで、必要な書類の準備や今後のスケジュールについて明確に理解することができるため、申請の際にトラブルや手戻りを防ぐことが可能です。また、参加者は質問をすることもでき、個別のケースに応じたアドバイスを得ることもできます。
定款を作成
医療法人を設立する際、定款は法人の運営の基本となる重要な文書です。定款には、以下の6項目を記載します。
- 法人の名称
- 設立の目的
- 開設場所
- 設立時の財産
- 役員の構成
- 公告の方法
などが記載されています。厚生労働省は定款の例を公表しており、これを参考にすることが推奨されます。(出典:社団医療法人の定款例|厚生労働省)
定款の作成は、法人の基本的な枠組みを決定するため、慎重に行うことが必要です。誤りや不備がある場合、申請が滞る原因となるため、専門家に確認しましょう。
設立総会を開催して議事録を残す
医療法人設立のためには、設立総会を開催し、議事録を作成する必要があります。議事録に記載する内容は、総会の開催日時、出席者、議題、討議内容、決議事項などです。
重要な議題には、法人設立の承認、定款の承認、役員の選任などが含まれます。議事録は法的証拠としての役割を果たすため、正確に作成することが必要です。
設立認可申請書を作成し提出
医療法人の設立には、設立認可申請書の作成と都道府県への提出が必要です。また、申請には仮申請と本申請があります。仮申請では主に書類の不備を確認するための簡易審査が行われます。その後、本申請を行い、正式な審査に進みます。
都道府県によっては申請者に対する面談が実施される場合もあり、設立の意図や法人の運営方針について説明が必要です。仮申請と本申請の間には通常、数週間から数か月の時間がかかるため、スケジュールを十分に考慮して準備を進めることが大切です。
設立認可書の受領
設立認可申請書を提出し、審査が完了すると、都道府県から設立認可書が交付されます。この認可書は、医療法人が正式に設立されるための証明書であり、受領後は速やかに次の手続きに進む必要があります。
認可書の受領後、法人としての活動が認められることになりますが、これで手続きが終了するわけではなく、次の登記手続きが必要です。認可書は法人の重要な書類となるため、紛失しないよう大切に保管し、必要に応じてコピーを作成しておきましょう。
設立登記申請書類の作成
設立認可書を受領した後、2週間以内に設立登記を行う必要があります。登記を行わなければ、法人は正式に設立されたことにはならず、法律上の存在とみなされません。登記申請書には、定款や設立総会の議事録、設立認可書のコピーなどが必要です。
また、登記申請には手数料も発生するため、費用の準備も忘れないように行います。登記が完了すると、法人としての活動を正式に開始できます。
登記完了
登記完了後に医療法人としての活動が正式にスタートします。しかし、登記後にもいくつかの手続きが必要です。例えば、税務署に対して法人設立届出書を提出し、法人としての税務処理の準備を整える必要があります。
また、社会保険や労働保険の加入手続きも行い、法人として雇用管理ができる状態にすることが求められます。医療機関としての届出も必要となるため、保健所や関連する機関に提出する書類についても確認しておくことが大切です。
医療法人化は余裕を持って行いましょう
医療法人化とは、診療所や個人病院などが個人経営から法人組織へ移行することで、経営の安定化や社会的信用を高める方法です。医療法人には、複数の医師が共同で設立する「医療法人社団」と、財産を拠出して公益的な活動を行う「医療法人財団」の2種類があります。
法人化により、事業拡大や節税効果、社会的信用の向上が期待できますが、法人化手続きは複雑で時間がかかるため、リソースが必要です。事前準備に6ヶ月、仮申請から認可までに6ヶ月、設立登記と開設許可に2カ月、全体で約1年程かかります。
また、経営者の個人資産と法人資産が分離され、事業承継や融資も容易になりますが、運営管理やコスト面での負担が増える点がデメリットです。そのため、医療法人化を行う場合は余裕を持って行いましょう。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。