医療事務の電子カルテは難しい?使い方や役立つ資格を紹介
目次
電子カルテの導入が初めての場合、院長を含めてしっかりと知識を持ったスタッフがおらず、操作方法の教え方がわからないことがあります。
本記事では医療事務における電子カルテの基本的な仕事内容や、電子カルテの使い方を教えるコツなどをまとめました。
医療事務スタッフとして即戦力になれる電子カルテの資格も紹介しているので、就職や転職を検討している方も、ぜひ最後までご覧ください。
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電子カルテとは?医療事務での主な業務内容との関係性
電子カルテとは、患者の診療内容や診断結果など、これまで手書きで記録していた「紙カルテ」を電子データで管理するシステムのことです。
電子カルテにすることで同時に複数の端末で患者情報が共有できたり、カルテの管理が簡単になったりと、さまざまな業務の効率化につながります。
医療事務の仕事では、以下の場面で電子カルテを取り扱います。
- 受付業務
- 会計業務
- レセプトの作成
それぞれの業務内容ごとに、どのような電子カルテの操作があるのか解説しましょう。
受付業務
受付業務では、初診の患者に対応した場合、電子カルテに新しく患者の名前や性別、年齢などの基本情報を入力します。
通院患者の場合は、預かった保険証から電子カルテの情報を閲覧し、予約日に間違いがないかなどをチェックするのが主な業務です。
ただ、2024年12月2日からはカードでの健康保険証は発行されなくなり、マイナンバーカードを健康保険証代わりとして利用することになります。
患者はカードリーダーにマイナンバーカードを読み込ませるだけで受付が完了し、電子カルテもマイナンバーカードから読み込んだ患者情報をもとに、自動的に作成することも可能です。
マイナンバーカード保険証が一般的になれば、電子カルテによって受付業務はさらに減らせるでしょう。
会計業務
患者が診察を終えたあと、医師が電子カルテに入力した診療内容を元に、診療報酬の点数や患者が加入している医療保険の種類などを参照して、医療費の計算を行います。
医療事務としての主な業務は、自動的に計算された医療費の内容に誤りがないか、チェックすることです。
医師が入力したカルテの内容に間違いがないかも、丁寧にチェックしなければなりません。
レセプトの作成
レセプトとは「診療報酬明細書」のことで、健康保険組合や共済組合などに対して、患者が負担した医療費以外の診療報酬を請求するために必要な業務です。
電子カルテと「レセプトコンピューター(レセコン)」を連携させれば自動的に作成してくれるため、特に作成に関して操作は必要ありません。
ただし、レセプトは医療機関の収益に直結する重要な書類ですので、自動計算の内容に誤りがないか、丁寧にチェックする必要があります。また、算定ルールをしっかりと理解することも必要です。
電子カルテの普及率は一般診療所で約50%
厚生労働省が令和2年に行った調査のうち、電子カルテの普及率は400床以上の大型一般病院では約90%あるものの、200未満の小規模な病院や一般診療所では約50%しか普及していません。
一般病院全体 | 400床以上の一般病院 | 200床未満の一般病院 | 一般診療所 |
57.2% | 91.2% | 48.8% | 49.9% |
政府は2030年までに電子カルテ導入率100%を目指しており、その一環として電子カルテを導入した医療機関に対して、報酬点数を引き上げる施策(医療DX推進体制整備加算)などを行っています。
また、電子カルテの普及率を上げるために、政府主導で標準型電子カルテの開発も進められています。標準型電子カルテがリリースされれば、電子カルテの導入費用を軽減できるため、普及率も上がっていくことでしょう。
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電子カルテ導入による医療事務スタッフのメリット
電子カルテを導入することで、医療事務スタッフにとって主に以下のような業務負担の軽減が期待できます。
- 業務の効率化につながる
- 情報をリアルタイムに共有できる
- カルテの出し入れの手間やリスクが減る
- わかりやすいフォーマットに変更できる
電子カルテを使ったことのない医療事務スタッフの場合、最初は「以前のほうが仕事がしやすかった」と感じるかもしれません。しかし、紙カルテと比べて圧倒的に業務量が減ることは事実です。
電子カルテ導入による、医療事務スタッフのメリットを詳しく解説します。
業務の効率化につながる
電子カルテは患者の受付から会計までの一連の流れにおいて、カルテ情報をリアルタイムに共有できるため業務の効率化につながります。
紙カルテの場合は受付から診察室までのカルテを運び、診察が終わったら再び受付までカルテを運ばなければなりません。
電子カルテなら、その必要もなくなります。また、入力方法のテンプレート化もできるため、情報の入力も短時間で完了します。
情報をリアルタイムに共有できる
電子カルテは、複数の端末でリアルタイムに患者情報を共有できることが、大きなメリットです。
たとえば初診の患者の場合、受付で基本情報を入力すれば診察室にいる医師がリアルタイムに初診患者の状態を把握できます。
また、診察を終えて医師が電子カルテに診察内容を入力すれば、受付の端末で診察情報を確認できて、自動的に計算された医療費のチェックもすぐに行えます。
カルテ情報をリアルタイムに共有することで、患者の待ち時間も減り、満足度の向上にもつながるでしょう。
カルテの出し入れの手間やリスクが減る
電子カルテはサーバー上で情報を管理するため、カルテを出し入れする手間も無くなります。患者の名前などで検索すれば、すぐに患者のカルテが見つかります。
紙カルテの場合は管理スペースが必要なだけでなく、紛失してしまうこともあるでしょう。電子カルテなら、その心配もなくなります。
わかりやすいフォーマットに変更できる
電子カルテは記載方法をテンプレート化したり、入力方法をチェック式にしたりなど、誰が見ても内容を理解しやすいフォーマットにできることがメリットです。
紙カルテの場合は医師の書いた文字が読めなかったり、独特な書き方で内容を理解するまでに時間がかかったりすることもあります。また、診察内容を明確に理解できなければ、報酬点数を誤るリスクも高くなるでしょう。
電子カルテなら、統一されたフォーマットで素早く情報を確認することが可能です。
医療事務スタッフが電子カルテを難しいと感じる理由やデメリット
電子カルテの導入によって、さまざまな業務改善が見込まれる一方で、負担に感じたり操作が難しいと思ったりする医療事務の方もいらっしゃいます。難しいと感じる主な理由は以下の通りです。
- 紙カルテに慣れているので操作に戸惑うから
- クリニックが変わると操作方法も全く異なるから
- 電子機器が使えなくなった場合は対応に追われるから
それぞれ詳しく解説します。
紙カルテに慣れているので操作に戸惑うから
医療事務スタッフの方が電子カルテを難しく感じる理由のひとつに、手書きでのカルテ作成に慣れていることが挙げられます。
電子カルテはある程度キーボードを使用する必要があるため、スタッフによっては難しく感じることもありますが、種類によってはペンタブで紙カルテと同じような操作ができるものもあります。
パソコン操作に苦手意識を持っているスタッフが多い場合は、ペンタブに対応した電子カルテの導入も検討してみましょう。
クリニックが変わると操作方法も全く異なるから
電子カルテの操作方法は、メーカーによって大きく異なるため、医療事務のスタッフが転職した場合に「また電子カルテの操作方法を1から覚えなくてはならない」と負担に感じることもあります。
電子カルテメーカーのマニュアルで操作方法を学ぶにしても、医療事務スタッフには必要のない情報があると、わかりにくいでしょう。新しいスタッフがすぐに覚えられるように、必要な部分をピックアップしてマニュアル化することも大切です。
電子機器が使えなくなった場合は対応に追われるから
完全に電子カルテのみで患者情報を管理していた場合、停電やサーバーダウンなどのトラブルが発生したときに、カルテを閲覧できなくなる可能性があります。
カルテを閲覧できなければ診察ができず、医療費の計算もできなくなってしまうため、万が一の事態に備えて、手計算による診療報酬計算のマニュアルなどを用意することも必要です。また、停電時も電気が使えるように、発電機などを用意しておくと良いでしょう。
電子カルテの使い方を医療事務スタッフに教えるコツ
電子カルテに苦手意識を持った医療事務スタッフに対して、電子カルテの操作方法を教えるコツを紹介します。
- マニュアルよりもまずは実際に触れてもらう
- 電子カルテで主に入力する項目などを理解してもらう
- 医師の視点と考え方を伝える
- インストラクターを活用する
- 医療事務向けの電子カルテ講座を活用する
これから電子カルテを導入予定の方や、すでに導入されている医療機関に勤務予定のスタッフの方も、ぜひ参考にしてください。
マニュアルよりもまずは実際に触れてもらう
電子カルテの使い方を覚えてもらうためには、まずは実際に機器に触れてもらうことが大切です。
マニュアルを読んだだけでは理解できない部分もあるため、まずは先輩スタッフと一緒に電子カルテを実際に操作し、そのあと復習としてマニュアルを読むことで理解度が深まるでしょう。
電子カルテで主に入力する項目を理解してもらう
医療事務スタッフが電子カルテに入力できる内容は少ないため、すぐに覚えられるでしょう。医療事務スタッフが電子カルテに入力できる項目は以下の通りです。
- 患者の基本情報(氏名、生年月日、住所など)
- 保険情報
- 会計に関する情報
- 予約管理
医療事務スタッフは、主に上記の項目しか入力ができません。患者の処方箋や診療記録などを医療事務スタッフが入力する場合には、メディカルクラークの資格が必要です。
医師の視点と考え方を伝える
医療事務スタッフが患者の診療内容を電子カルテに入力する場合、事務的に電子カルテの入力をするのではなく、医師の視点を持って考察する重要性を伝えましょう。
「どんな考えで診察をしたのか」「なぜ、そのような治療法を選択したのか」など、医師の診断方法を考察するクセをつけておくことで、カルテの入力ミスを防げます。
また、医療事務スタッフが考察した内容が合っていたのか、実際に医師に聞いてフィードバックを受けるのも良い方法です。医師と対話をすることで、次第に医師の考え方(診断方法)も理解できるようになるでしょう。
インストラクターを活用する
初めて電子カルテを導入した際は、操作方法を教えられるスタッフがいない場合が多いでしょう。
そのようなときは、電子カルテのインストラクターを活用するのもおすすめです。電子カルテの導入前からスタッフ研修が行われ、導入後も数週間〜数か月にわたって現場でサポートをしてくれます。
導入後のシステムエラーなどもすぐに対処してくれるため、安心して電子カルテの操作方法を身につけられます。インストラクターを検討する場合には、導入した(導入予定の)電子カルテのメーカーに問い合わせてみましょう。
医療事務向けの電子カルテ講座を活用する
あらかじめ電子カルテの使い方をマスターしておきたいという方は、医療事務向けの電子カルテ講座の活用を検討しましょう。
パソコンが不慣れな方に向けた、パソコンの操作方法から学べる講座もあります。中にはレセプトチェックも学べる講座もあるため、医療事務スタッフとして即戦力の人材になりたい方におすすめです。
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医療事務に役立つ電子カルテに関する資格
電子カルテはカルテの管理からレセプトの作成、医療費の計算まで、さまざまな業務プロセスを改善してくれる機器です。
今後、電子カルテを取り扱う医療機関が増えていくなかで、電子カルテに関するスキルや知識を所有していると証明できれば、医療事務の就職や転職時にも即戦力として活躍できるでしょう。
ここでは、医療事務に役立つ電子カルテに関する資格を3つ紹介します。
電子カルテ実技検定試験
電子カルテ実技検定試験は、電子カルテの取り扱いや操作に関するスキルを、一定数持っていると証明できる資格です。
試験は実技のみで実際に電子カルテの作成を行い、60点満点のうち60%以上の正解で合格となります。
電子カルテ実技検定試験の資格を持っていれば、医療事務の就職や転職時にアピールできて、実際の業務も不安なく始められます。
試験は年2回開催されているため、開催日などはホームページをチェックしましょう。
電子カルテオペレーション実務能力認定試験
電子カルテオペレーション実務能力認定試験は、実務で必要とされる電子カルテ操作だけでなく、医療のITに関する基本的な知識も所有していることが証明できる資格です。
試験は学科と実技の両方があり、60%以上の正答率で合格となっています。試験では、文部科学省のカリキュラムに沿った「C&C電子カルテシステムⅡ」が使用されているのが特徴です。
電子カルテの操作方法については、医師しか入力ができない患者の症状に関する入力も学べるため、次に紹介する「メディカルクラーク」の取得を検討している方にもおすすめです。
試験は年2回開催されているので、ホームページで開催日をチェックしましょう。
メディカルクラーク(医療事務技能審査試験)
メディカルクラークは日本医療教育財団が主催していることもあり、医療事務の資格のなかでも認知度が高く人気の資格です。持っていれば、医師の代わりに電子カルテの作成ができるほどのスキルを持っていることが証明できます。
試験は学科と実技の両方があり、それぞれ70%以上の得点率で合格となります。
メディカルクラークは、電子カルテに関することだけでなく医療事務スタッフとして現場で必要とされるスキルや能力を持っていることがアピールできるため、就職や転職でも有利になるでしょう。
試験は毎月実施されているため、ホームページでチェックしましょう。
医療事務スタッフが電子カルテを扱う際の注意点
電子カルテは、医療事務の業務効率を大幅に向上してくれる強い味方ですが、取り扱いに注意しなければ、さまざまなリスクやトラブルに発展してしまいます。
ここでは、医療事務スタッフが電子カルテを扱う際に、注意すべきポイントを紹介します。
個人の機密情報だということを忘れない
電子カルテには、患者の非常にデリケートな個人情報が含まれていることを忘れてはいけません。電子カルテで得た患者の個人情報に関することを、スタッフ同士の雑談のネタにすることはもってのほかです。
たとえば受付のスタッフが電子カルテを閲覧しながら、業務とは関係ない会話をしている様子を発見した場合、そのクリニック自体に不信感を抱くでしょう
必要な時だけ閲覧できるようにしたり、むやみにカルテを閲覧していないかチェックできるシステムを導入したりするなどの対策も必要です。
システムダウン時のオペレーションを共有しておく
電子カルテの導入後は、万が一システムがダウンした場合のオペレーションをスタッフ全員に共有しておきましょう。システムがダウンすると患者のカルテを閲覧できず、診療や会計処理ができなくなり混乱してしまいます。
たとえば、電子カルテが使用できなくなった際に、紙カルテに移行するマニュアルを作成して周知しておくなどの対策が重要です。
システムがダウンすると、原因追及から復旧まで何時間もかかってしまうため、緊急時の対応について周知しておきましょう。
医療事務スタッフが電子カルテに医療情報を代行入力するなら「メディカルクラーク」が必要
先述のとおり、医療事務スタッフが電子カルテに入力できる内容は限られています。しかし、医師は患者の診療もしなければならないため、電子カルテの入力が業務負担増加の要因として懸念されていました。
そこで、電子カルテの入力を含んだ、医師の事務作業を代行する「メディカルクラーク」が、2008年にできました。
じつは医師の代わりに電子カルテを入力する行為は、特に国家資格などは必要なく、誰でも業務可能です。しかし、実際には医療に関する専門知識なども必要であるため、それぞれの医療機関でメディカルクラークに配属されるための条件を設けていることがほとんどです。
メディカルクラークを配置した場合には診療報酬が上乗せされるため、病院や診療所も経営上のメリットがあります。医療事務スタッフに電子カルテの代行入力も対応してもらいたい場合は、メディカルクラークの配置を検討しましょう。
医療事務スタッフは今後普及していく電子カルテの使い方の習得が必須
2030年には電子カルテの普及率が100%になるように、政府も推進活動を行っています。医療事務スタッフとして働くなら、電子カルテの取り扱いに関するスキルや知識を習得していることが、今後必須となるでしょう。
特に小さな診療所で紙カルテでの業務しか経験していない場合には、電子カルテに関する資格の取得もおすすめです。将来その診療所で電子カルテが導入された際に即戦力として活躍でき、転職する場合にも有利になるでしょう。
また、電子カルテの導入は、病院や診療所そのものの価値を高める要因にもなります。事実として電子カルテが導入されているほうが、医院継承でマッチングしやすい傾向にあります。
「そろそろ将来の経営も考えないと…」と思っている方は、ぜひ私たちにご相談ください。21年以上の医師紹介の実績を活かし、売り手の方の希望や相性を考慮して最適な候補者をご紹介します。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。