クリニック閉院時の従業員への手続きは?閉院に必要な費用や注意点も解説
目次
クリニックの閉院を考えたときに、従業員に伝えるタイミングや行うべき対応について悩まれる経営者の方は多いでしょう。
本記事では、クリニック閉院時に従業員に対して行うべき手続き、対応などを詳しくまとめました。閉院のデメリットを解消できる「医院継承」についても紹介しています。
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病院やクリニックが閉院する際に従業員に行う手続き
閉院は従業員にとって事実上「解雇」となります。従業員が混乱しないように余裕をもった告知などの配慮が必要です。
また、法令も遵守しなければなりません。ここでは、病院やクリニックが閉院する際に、従業員に対して行うべき主な手続きを3つ紹介します。
- 30日前までに告知をする
- 次の勤務先の紹介や提案をする
- 退職金の支払いを行う
以下でそれぞれ詳しく解説していきます。
30日前までに告知をする
病院やクリニックを閉院する場合、従業員に対して少なくとも30日前までに閉院の告知をしなければなりません。「少なくとも30日前までに」告知を行う理由は、労働基準法で定められているためです。
また、30日前までに告知しなかった場合は、閉院までの日数に応じた平均賃金を支払う義務が発生します。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。 |
ただし、あくまでこれは従業員の生活を最低限守るための法律でしかないため、実際にはさらに余裕をもった告知をすることが推奨されます。
次の勤務先の紹介や提案をする
閉院を知らされた従業員がまず考えるのは「次の勤務先はどうしたらいいのだろう」という不安です。
そのため、次の勤務先の紹介や提案を行ってサポートしましょう。たとえば同じ地域でつながりのあるクリニックを紹介したり、医療に特化した人材紹介会社を活用するなどの方法があります。
また、クリニックを閉院するのではなく「医院継承(M&A)」を視野に入れるのもいいでしょう。医院継承なら「現状の従業員をそのまま雇用してもらう」と条件を付けて経営を引き継ぐことが可能です。
退職金の支払いを行う
就業規則に退職金の規定を定めている場合は、従業員に対して退職金を支払う必要があります。
退職金の計算方法として一般的なのは「基本給の1/2 × 勤続年数」です。しかし、退職金はあくまで事業主から従業員に対する感謝の気持ちですので、規則で定めていない限り支払う必要はありません。
クリニックの閉院は増加傾向にある
株式会社帝国データバンクが調査したデータを見ても明らかなように、クリニックの閉院は年々増加傾向にあります。
データ引用:医療機関の 「休廃業・解散」 動向調査 (2023 年度)|株式会社帝国データバンク
2023年には709もの医療機関が休廃業しており、過去10年間で最多を記録しています。とくに2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響もあって、休廃業を余儀なくされた医療機関が急増しました。
しかし閉院の割合は、新型コロナウイルスの影響を受ける前から増加傾向にあったことが、グラフから見てとれます。
病院やクリニックの閉院が増加している理由を、次の章で解説していきます。
病院やクリニックの閉院が増加している理由
病院やクリニックの閉院が増加している背景には、次の2つが大きく影響しています。
- 後継者がいない
- 経営状況の悪化が続いている
それぞれの要因を詳しく解説していきます。
後継者がいない
病院やクリニック閉院の増加の背景には、深刻な後継者不足があります。
全国の民間医療機関や病院、診療所の経営者を対象に実施された調査によると「現段階で後継者候補はいない」という回答が47.9%にもおよびます。
上記のグラフから、医療承継を視野に入れた場合に約半数近くの医療機関が苦戦を強いられると予測できるでしょう。
また、後継者候補が見つからない理由として「子ども・親族がいない」が、もっとも大きな割合を占めています。
【後継者がいない背景】
- 子ども・親族がいない:54.3%
- 子ども・親族がいるが承継の意向がない:25.5%
上記のような理由から、今後も後継者不足による閉院は増加していくと考えられます。
経営状況の悪化が続いている
病院をはじめ医療機関の経営状況は、ここ数年で悪化の一途をたどっています。
2020年度から赤字割合が大きくなっているのは、やはり新型コロナウイルス感染症による影響が非常に大きいです。
2021年に赤字割合が減少した背景には、医療機関向けに施行された「新型コロナウイルス感染症に関する補助金」の支援が功を奏したといえるでしょう。
しかし2022年には再び赤字割合が増加していることから、コロナウイルス感染症の影響によって離れた患者が、戻ってきていないことも予測できます。
経営状況が一向に良くなる傾向にないことから、閉院や勤務医へのキャリアチェンジを視野に入れられる方も増えています。
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クリニック閉院手続きの手順
クリニックや診療所の閉院は、一般的な事業に比べて複雑で多岐にわたる手続きが必要です。
ここではクリニックを閉院する際に必要な、5つの手順を紹介します。
- 従業員や取引先などに告知
- 閉院に関する届出の提出
- 資産や負債などの整理
- 設備や備品などの処分
- テナントの場合は原状回復
それぞれの項目で、注意しなければならないポイントを把握しておきましょう。
1. 従業員や取引先などに告知
クリニックの閉院が確定したら、まずは従業員や取引先などに告知を行います。冒頭で解説したとおり、従業員に対しては少なくとも30日前までに告知しなければなりません。
告知を行う際は全体連絡はもちろんのこと、従業員一人ひとりとの個別面談も視野に入れましょう。個別面談で退職金や閉院後の勤務先に関することなどを説明し、従業員の不安を解消することも大切です。
また、医薬品メーカーや医療機器の業者などの取引先にも早めに連絡をして、契約解除の手続きを円滑にすすめましょう。
2. 閉院に関する届出の提出
クリニックを閉院するには、保健所や税務署などに様々な書類を提出しなければなりません。
主な届出として、以下のようなものがあります。
概要 | 届出の種類 | 提出先 | 期日 |
診療所関連 | 診療所廃止届 | 保健所 | 閉院後10日以内 |
健康保険関連 | 保険医療機関廃止届 | 地方厚生局 | 閉院後速やかに提出 |
税務関連 | 個人事業の廃業届 | 税務署など | 閉院後1か月以内 |
社会保険関連 | 健康保険 厚生年金保険適用事業所全喪届 | 年金事務所 | 閉院後5日以内 |
ほかにもX線装置の設備がある場合は「診療用エックス線装置廃止届」麻薬の使用がある場合は「麻薬使用者業務廃止届」など、閉院には数多くの届出が必要です。
届出の種類によって閉院前に提出するもの、閉院後に提出するものなど、期限が異なる点にも注意しなければなりません。
閉院に関する手続きは非常に複雑で多岐にわたるため、税理士などの専門家に相談したりサポートを受けたりするのをおすすめします。
3. 資産や負債などの整理
クリニックを閉院するにあたって、資産や負債なども整理しなければなりません。とくに借入金のある場合はしっかりと確認し、金融機関と相談して返済方法についての計画などが必要です。
また、取引先に未払いがあれば支払い、患者の未収金がある場合には回収しなければなりません。
4. 設備や備品などの処分
クリニック閉院に伴い、設備や備品などの処分も必要です。
リースの医療機器については、リース会社と相談して契約終了の手続きを行います。リース以外の医療機器については、医療機器を専門とする業者に買い取ってもらえば資金の回収にもなります。
処分品のなかでも、注意しなければならないのが「医薬品」です。医薬品を廃棄する場合は、基本的に産業廃棄物処理業者に依頼しなければなりません。
また、向精神薬を廃棄した際には廃棄した薬の品名や数量、廃棄した年月日などを記録し、2年間は保管が必要です。
医薬品の処分には様々なルールが定められているため、廃棄物処理業者や薬剤師に相談をしながら廃棄しましょう。
5. テナントの場合は原状回復
テナントで賃貸契約を結んでいた場合は、閉院時に原状回復が必要です。原状回復の範囲は賃貸借契約をしっかりと確認する必要がありますが、一般的には以下のような作業を行います。
- 壁や床の補修
- 医療機器や設備などの撤去
- 電気設備や配管などの原状回復工事
- 受付カウンターなどの造形物や装飾の撤去
クリニックや診療所の原状回復費用は高額になりやすいため、あらかじめ複数の業者から相見積もりをとっておきましょう。
クリニックを閉院する際に必要な費用
クリニックを閉院する際に必要な費用の相場は、数百万〜1,000万円もの金額がかかります。
閉院に必要な費用は、クリニックの規模や従業員数などによって大きく異なりますが、一般的な項目は以下のとおりです。
- 従業員への退職金
- リース代や負債などの精算
- 税理士などの専門家への報酬
- 建物の解体や原状回復の費用
- 医療機器や備品などの処分費用
上記のなかでも費用が大きくなりやすいのは、従業員への退職金や建物の解体、原状回復費用です。
退職金は一般的に「基本給の1/2 × 勤続年数」で支払うため、長く勤めてくれたスタッフが複数人いるだけで数百万円はかかります。
また、クリニックの原状回復費用は、坪単価3〜8万円が相場です。30坪ほどのクリニックであれば、原状回復に90〜240万円ほどかかります。
退職金や原状回復費用だけでも数百万円程度はかかるため、閉院時には1,000万円を超える費用が必要になるケースもあります。
閉院ではなく医院継承なら閉院費用がかからない
クリニックの閉院を考えている方は、医院継承も検討してみましょう。
医院継承なら閉院費用がかかることもなく、むしろ譲渡益を得られる可能性があり、従業員や患者にもメリットがあります。
ここでは医院継承を選んだ場合の従業員の動き、そして閉院と医院継承の選び方を解説していきます。
医院継承する場合の従業員の動き
閉院ではなく医院継承の場合、基本的に従業員は同じクリニックで働き続けられます。理由は、医院を譲渡する際に「従業員の雇用は継続すること」を前提に行われることが多いためです。
ただし経営者が変わるため、雇用契約は結び直さなければなりません。組織体制や業務内容にも変更が生じ、従業員自身が継続雇用を望まない場合は、必要に応じて新しい勤務先の紹介などを行うことが求められます。
詳しくは「医院継承時のスタッフの引き継ぎ・採用のポイント」で解説しています。
閉院と医院継承の選び方
クリニックの経営引退を考えたときに「閉院」と「医院継承」で悩まれる経営者の方もいらっしゃるでしょう。
そこで閉院した場合と医院継承した場合の、主なメリット・デメリットを紹介します。
メリット | デメリット | |
閉院 | 後継者などを探す必要がない 閉院のタイミングを決められる | 閉院の費用がかかる 他院への患者の引き継ぎや紹介が必要 従業員が解雇になる |
医院継承 | 患者が困らない 譲渡益を得られる 従業員の雇用を継続できる | 継承まで数か月〜1年ほどかかる 希望通りの条件で継承できるとは限らない M&A仲介業者への費用がかかる |
閉院の場合は、経営者自身が閉院タイミングを決められるものの、高額な費用が必要になり従業員も職を失ってしまいます。
一方で医院継承は譲渡益が得られたり従業員の雇用も継続できたりと、非常にメリットの高い選択肢といえるでしょう。
譲渡までの時間や費用・手間などがかかるデメリットもありますが、閉院の費用に比べると安く抑えられるため、クリニックの閉院に急を要するケースではない限りは医院継承がおすすめです。
気になる方は無料相談を受け付けておりますので、閉院に関するお悩みもお気軽にご相談ください。
クリニックを閉院する際の注意点
クリニックの閉院は、診療を停止してテナントを原状回復したら終わるわけではありません。これまで診療した患者の個人情報を保管したり、麻薬に関する免許を返納したりする必要があります。
それぞれの注意点を詳しく解説します。
麻薬に関する免許の返納が必要
クリニック閉院時に忘れてはいけないのが、麻薬取扱者免許の返納です。
麻薬取扱者免許は、クリニックを閉院した日から15日以内に返納しなければなりません。
麻薬取扱者は、当該免許の有効期間中に当該免許に係る麻薬業務所における麻薬に関する業務又は研究を廃止したときは、十五日以内に、麻薬輸入業者、麻薬輸出業者、麻薬製造業者、麻薬製剤業者、家庭麻薬製造業者又は麻薬元卸売業者にあつては厚生労働大臣に、麻薬卸売業者、麻薬小売業者、麻薬施用者、麻薬管理者又は麻薬研究者にあつては都道府県知事に、免許証を添えてその旨を届け出なければならない。 |
また、未使用の麻薬の在庫についても定められたルールで適切に譲渡、または破棄が必要です。
廃止時に麻薬を所有していて、麻薬及び向精神薬取締法第36条の規定に基づく譲渡を行わない場合、県職員立ち合いのもと、麻薬を廃棄する必要がありますので、薬務課もしくは管轄の保健所等にご連絡ください。譲渡又は廃棄を行わないまま、50日を過ぎて麻薬を所持していた場合、不法所持となりますのでご注意ください。 |
閉院してもデータ保管が必要なものがある
クリニックを閉院したあとも、保管しなければならない医療データや記録などがあります。
【閉院後も保管が必要な医療データの例】
保管が必要なデータ | 保管が必要な期間 |
カルテ | 5年間 |
処方せん | 3年間 |
レントゲンに関するデータ | 3年間 |
向精神薬処方の記録 | 2年間 |
とくにカルテに関しては、閉院後に患者から開示請求があった場合に対応できるよう、適切に保管しておく必要があります。
保管期間が定められている医療データを把握し、閉院後すぐに廃棄しないように注意しましょう。
クリニックを閉院する際に従業員や患者に関するよくある質問
クリニックを閉院する際に、経営者の方や従業員の方が疑問を抱いたり悩んだりすることを2つ紹介します。
- 従業員や患者に閉院のお知らせをするのはいつ頃がいいでしょうか?
- クリニックや病院が突然閉院した場合、従業員の給与は支払われますか?
上記のよくある質問に対して、回答していきます。
従業員や患者に閉院のお知らせをするのはいつ頃がいいでしょうか?
従業員や患者に閉院のお知らせをするのは、最低でも2〜3か月前がいいでしょう。
法律上のルールでは、従業員への告知は閉院の30日前までで問題ありませんが、1か月前に告知をした場合、従業員の次の勤務先探しや患者の新しいかかりつけ医探しのための期間としては、短いといえます。
そのため、余裕をもって事前に知らせることが大切です。
クリニックや病院が突然閉院した場合、従業員の給与は支払われますか?
突然閉院した場合でも、従業員の給与は支払われます。
経営者は労働者に対して、働いた分の賃金を支払わなければならないと労働基準法によって定められているため、クリニックや病院が破産手続きを行ったとしても、基本的に給与を優先的に支払われる仕組みになっています。
財産が少ないなどの理由で、給与の支払いができない場合は、国が未払い賃金の8割を立て替えてくれる制度を利用しましょう。
ただし、従業員向けの制度であるため、従業員が自ら申請をする必要があります。
まとめ:クリニックを閉院する際は医院継承も視野に入れて進めよう
クリニックの閉院は従業員や患者、さらには地域の医療環境などに大きな影響を与えます。
従業員が仕事先に困るだけでなく、患者も新たなかかりつけ医を探す必要が出てくるため、数か月前にはお知らせしておきましょう。
また、閉院には従業員への退職金の支払いや医療機器の廃棄、原状回復など多額な費用が必要ですが、医院継承であれば閉院費用は必要なく、従業員も働き続けられるなどのメリットがあります。
せっかく長年の努力で築き上げられたクリニックを閉院するのではなく、次世代に引き継ぐ「医院継承」も検討してみてはいかがでしょうか。
閉院を考えておられる経営者の方はぜひ一度、医療経営士による無料相談をご利用ください。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。