行政手続き

クリニック事業譲渡における行政手続きと契約上の手続き【譲受者向け】

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クリニック事業譲渡における行政手続きと契約上の手続き【譲受者向け】
クリニック事業譲渡における行政手続きと契約上の手続き【譲受者向け】

クリニックを事業譲渡する際、譲受側は新規開設手続きが必要です。保健所へ診療所開設届やエックス線装置備付届を提出し、厚生局で保健医療機関指定を申請します。事業譲渡では売り手と買い手の契約調整も必要です。保険診療開始の遡及指定を受けるためには、旧クリニックの廃止と新開設が同時に行われることが条件です。個人情報の提供には患者同意が不要ですが、事前に自治体の条件確認と十分な引継ぎが必要です。

本記事では、クリニックの事業譲渡において譲受側に求められる手続きを整理し、保険医療機関の遡及指定など、特に問題となりやすい論点を詳しく解説します。

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事業譲渡でクリニックを譲受する際の手続きの概要

最初に、譲受側で必要になる行政手続きと契約上の手続きの概要をまとめておきます。

行政手続きの概要

個人事業クリニックの事業譲渡による承継では開設認可自体を承継することはできないため、譲渡側でいったん診療所を廃止し、譲受側で同じ場所に診療所を新規開設する、というプロセスとなります。

それを含め、個人医師がクリニックを譲り受けする場合に必要となる、基本的な行政手続きは以下の通りです。

届出・申請先手続き(個人による譲り受けの場合)
保健所①診療所開設届出(開設日から10日以内に届出、③の遡及指定を受けようとする場合は前開設者の廃止届の翌日付とする)
②「診療用エックス線装置備付届」の提出(レントゲン装置が必要な場合)。
厚生局③保険医療機関指定申請(開設する月の申請期日までに提出)
④保険医療機関指定に関する遡及扱いの申請(①の開設日付での遡及指定を申請、手続き方法は自治体により異なる)
税務署⑤個人事業の開業届出(新規開業の場合)
⑥青色申告承認申請(始めて青色申告をする場合)
⑦青色専従者給与に関する届出
⑧給与支払事務所等の開設届出
⑨源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請

譲り受けるのが医療法人の場合

なお、譲受側が個人ではなく医療法人の場合、定款の変更認可申請、定款変更登記、診療所開設許可申請の提出などがあわせて必要となります。

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レントゲン設置手続き、麻薬施用者免許手続きなど

クリニックでは、診療科によってはレントゲン装置を設置しない場合もあるでしょう。

レントゲン(診療用エックス線装置)を設置する場合は、診療所開設日付で「診療用エックス線装置備付届」を保健所に提出します。

また、譲り受け前から使われていた装置を引き継ぐ場合は、売り手側は旧診療所廃止日付の「診療用エックス線装置廃止届」、買い手側は開設日付の備付届を、それぞれ提出します。

診療科によっては、医療用麻薬を治療で使用したり処方したりする場合もあるでしょう。そのような際には、保健所に麻薬施用者免許の申請をおこないます。クリニック内に麻薬を扱う医師を2人以上置く場合には、麻薬管理者免許の申請も必要です。

保険医療機関の指定期日の遡及扱いを受ける方法

事業譲渡の場合での、通常のクリニック新規開設と異なる重要なポイントは、上記表④の保険医療機関遡及指定です。

クリニックの新規開設時は、保険医療機関の指定を受けます。

この手続きは、自治体ごとに毎月所定期日まで申請を受け付け、申請を受理した翌月の1日を指定期日としておこなうことになっています。毎月の所定期日を過ぎて申請した場合、翌々月1日が指定期日になります。その指定を受けるまでの間は、保険診療をおこなうことはできません。

保険医療機関指定申請はクリニック開設後におこなうため、事業譲受後すぐにクリニックを開設しても、保険診療開始までの間にタイムラグが生じてしまうことになります。

そこで、医業承継により開設者の変更がなされるケースに限って、「前の開設者による診療所廃止と同時に引き続いて診療所が開設され、これまでの患者が引き続きそこで診療を受ける」という条件を満たせば、遡及指定を受けられる特例的な措置が設けられています。

遡及扱いが認められると、申請した月の1日に遡って保険医療機関の指定を受けることになるため、譲受後すぐに保険診療が可能となり、スムーズな承継が実現できます。

この場合の医業承継の条件は、自治体により多少異なります。

基本的に、「先代の院長から子などへ承継され、親族内で代替わりする」ケースや、「そのクリニックに勤務している医師が新院長になり診療を継続する」ケースが想定されており、後者の場合、十分な引き継ぎがおこなわれることも条件に加えられるのが通例です。

M&Aによる承継の場合、以下のようにすることで遡及指定を受けられる可能性があります。

  • クリニック名は変えない
  • 前開設者による診療所廃止の次の日に診療所開設をおこなう
  • 売り手側医師が承継後もしばらくの間は医師として勤務を続けるか、買い手側の医師が承継前からしばらくの間売り手側クリニックに勤務し、新旧の院長の間で十分な引き継ぎをおこなう

遡及指定の条件や手続き方法については、承継の事前に自治体に問い合わせておくとよいでしょう。

患者へのカルテ引き継ぎの告知義務はないが、承継の告知・周知は重要

医業承継による診療所開設のメリットのひとつは、既存の患者を引き継ぐことにより、開設当初からある程度の収益が見込めることです。

カルテを引き継げば、患者の引き継ぎをスムーズにおこなうことができますが、カルテには個人情報が記載されていることから、法律上の扱いが問題となります。

業務上で取得した個人情報を第三者に提供する際には、原則として本人の同意が必要です。ただし、事業譲渡にあたり、事業の一部として売り手から買い手に個人情報が提供される場合には、本人の同意は不要とされています。

したがって、医業承継において患者カルテを買い手の医師・医療法人に提供する際には、患者の同意は不要です。

参考までに、厚生労働省の資料にあるQ&Aを掲載しておきます。

Q4-27
医療機関の廃止等の理由により、別の医療機関が業務を承継することになりましたが、診療録等の個人データを提供する際に、患者の同意が必要なのでしょうか。
A4-27
本件のような場合は、「合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合」(個人情報保護法第23条第5項第2号)であり、承継先の医療機関は第三者に該当しないので、患者の同意がなくても提供可能です。
※出典:厚生労働省『「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&A(事例集)』

ただし、同意が不要なのは、個人情報を取得したときと同じ目的、つまり医療行為のために利用する場合に限られます。例えば、買い手医師が医業とは別に事業を持っていたとして、そちらの事業のためにカルテの情報を利用することは、本人の同意がなければ許されません。

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事業譲渡契約を締結する前に押さえておくべき点

事業譲渡では、承継する権利義務(資産・負債・各種契約など)を事業譲渡契約書で指定し、譲渡対価の支払いと引き換えに引き渡します。このこと自体は行政手続きではなく、私的な商取引上の手続きです。

なお、売り手と第三者との間での契約(雇用契約・テナント契約・リース契約など)を承継するには、その契約の相手方の同意も求められます。

そのため、事業譲渡契約の前後にかけて、売り手・買い手・契約相手方の三者間で契約の承継に関して適宜協議・調整をおこなう必要があります。

事業譲渡契約締結後の手続きをスムーズに進める上で、契約締結前の交渉段階で押さえておくべきポイントを、以下で説明します。

行政手続きに関するポイント

診療所開設届出の際には、敷地・建物の平面図や賃貸借契約書、エックス線診療室放射線防護図(平面図および立面図)などの添付書類の提出が求められるため、売り手に書類の存在を確認してもらい、所在不明の場合は対応について協議する必要があります。

保険医療機関の遡及指定に関しては、条件や手続き方法を自治体に問い合わせた上で、クリニック名の承継や、診療引き継ぎのための勤務の方法・期間・条件などについて、売り手側と十分に協議しておくことが必要です。

契約の承継に関するポイント

契約の承継に関し、事業譲渡契約締結前の段階において特に留意すべきポイントは以下の2点です。

  1. そもそも承継が可能な契約か(チェンジオブコントロール条項の有無など)
  2. 契約の相手方が契約の承継に同意してくれるか

「チェンジオブコントロール条項(COC条項)」とは、一方の契約当事者に経営権・支配権の異動があった場合に、他方の当事者が一方的に契約を解除したり契約内容を制限したりすることができる、とする条項です。

クリニックの事業で締結される契約のうち、問題となりやすいのは、医療機器のリース契約、テナントの賃貸借契約、雇用契約です。

リース契約

リース契約は原則として承継不可能な契約内容となっている場合が多く、売り手のもとで残債を一括返済して契約を解消することになるのが通例です。ただし、契約内容やリース会社との交渉によっては、リース契約の契約上の地位を買い手に移転する(リース債務の名義を買い手に変更する)ことが可能な場合もあります。リース物件の承継が重要な場合、事業譲渡契約締結前にリース会社と協議しておく必要があります。

テナント契約

テナント契約の承継(賃借人の地位の承継または再締結)が可能かどうかは、貸主との交渉や貸主の都合によるところが大きく、承諾料の支払いや賃料・共益費の値上げを要求される場合もあります。テナント契約の承継可否や費用増加は事業承継そのものの成否につながるため、事業譲渡契約締結前に貸主と十分に協議しておく必要があります。

人的資源の引き継ぎ

人的資源の引き継ぎも承継開業のメリットのひとつであり、買い手の希望通りにスタッフが雇用契約承継に応じてくれるかどうかが大きなポイントとなります。

雇用契約承継の打診にあたり、スタッフにM&Aの事実を告知する必要があります。M&Aに関する第三者への告知は、機密管理の観点から譲渡契約締結後におこなうのが原則ですが、雇用承継が重要な論点である場合には柔軟な対応が必要です。

交渉が進展し、M&Aに関する事実を周囲に告知できるようになった段階で売り手側にスタッフへの告知をしてもらい、雇用承継に応じてくれるスタッフの人数や特に重要なスタッフの勤務継続意思を確認した上で、事業譲渡契約締結に進んだ方がよいでしょう。

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まとめ

クリニックの事業承継の場合は、運営の主体が変わることから、医療法人の包括承継に比べても多くの煩雑な手続きが必要になります。やるべきことを整理しておき、時間的な余裕をもって取り組みましょう。

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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。

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