譲渡価格や投資額の見方・考え方【譲受者向け】

買収 2023/11/06

第三者が経営する病院やクリニックを医業承継M&Aによって受け継ぐことは、事業投資にほかなりません。そのため買い手は、「対価はどれくらいが妥当なのか」「投資資金はどれくらいの期間で回収できそうなのか」といった点を検討します。

それらを適切に検討するためには、医療機関の譲渡価格、また投資資金には、どのような内容が含まれるのかを理解しておかなければなりません。

また、意外と見落とされがちですが、税務上の累積赤字がある医療法人の譲渡であれば、節税効果も計算に入れる必要があります。

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譲渡価格とは? 譲渡価格には何が含まれているか

M&Aによる医業承継とは、金銭を対価として病院やクリニックを譲り受けることです。しかし、病院やクリニックには、不動産(土地・建物)や自動車のように、「これ」と指し示せるモノとしての実体がありません。そのため、譲渡価格により譲り受けることができる範囲として何が含まれるのかは、個別の契約によって明確に定めることになります。

一般的に、医業承継の譲渡価格に含まれるものを、医療法人の場合と事業譲渡の場合にわけて考えてみます。

医療法人の譲渡価格に含まれるもの

医療法人には、出資持分の定めのある法人と定めの無い法人とがあります。

しかし、出資持分の有無に関わらず、医療法人の譲渡価格はおおよそ以下のもので構成されています。

  1. 医療法人が所有する資産、負債のすべて(時価で評価した総資産から負債を差し引いた時価純資産)
  2. 機械などのリース契約、土地や建物などの不動産賃貸契約、従業員との雇用契約などの各種契約
  3. 患者のカルテおよびそれに付随するもの
  4. のれん

医療法人を譲り受ける場合は法人を丸ごと引き継ぐことになるため、その譲渡価格には医療法人に関する有形・無形のあらゆるものが含まれることになります。

このうち、わかりにくいのが「のれん」ですが、これは、別名「超過収益力」ともいい、貸借対照表に資産として計上されていないものの、収益の源泉となる要素、たとえば、地域での知名度や、患者からの信頼などを金額として評価したものだといえます。

ただし、「のれん」はそれだけを取り出して、これがいくら、という風に事前に示すことは困難です。

逆に考えて、譲渡価格が1から3の合計額を上回っている場合、その上回った部分が事後的に「のれん」として認識できるという風に考えるとわかりやすいかもしれません。

事業譲渡の譲渡価格に含まれるもの

複数の医療機関を経営している医療法人からその一部を引き継ぐ場合や、個人経営のクリニックを引き継ぐ場合は、事業譲渡のスキームによって医業承継がおこなわれます。

事業譲渡による医業承継は、法人を包括的に譲り受けるのではなく、資産・負債や各種契約などをひとつひとつ選別して個別に譲り受けます。

したがって、事業譲渡で譲渡価格に含まれるものは、買い手側が譲渡を望んだ事業、資産・負債、のれんなどとなります。したがって、譲渡価格に含まれるものは、譲受側が何を望むのかによって変わります。

譲渡対価

具体的な譲渡対価の決め方も確認しておきましょう。病院の場合、かつては「病床1床あたり○○万円」といった形で譲渡対価が決められるといわれていたこともありました。

しかし、医療機関の収益性が全般に低下傾向にあり、病床機能再編も求められていることなどから、現在ではこうした方法が用いられることはあまりありません。

近年の医業承継における譲渡対価の算出にはいくつかの方法が用いられていますが、小規模から中規模程度の譲渡案件において、実務上よく用いられているのが、「年買法(※)」と呼ばれる考え方です。

(※「年倍法」と表記されることもあります)。

年買法=時価純資産価額+営業利益の数年分

時価純資産価額とは、病院やクリニックの資産や負債を時価に換算した上で、資産から負債を差し引いて算出した価額のことです。

これに、営業利益の数年分を加えた金額を譲渡価額とします。

この営業利益の数年分が、おおむね、先に述べた「のれん」に相当するものといえるでしょう。それを何年分として評価するのかは、売り手、買い手双方の事情や、経済情勢などによって変わるため一概にはいえませんが、2~3年分程度とされる場合が多いようです。

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投資額の考え方

M&Aの譲渡価格は、譲渡対価として売り手と買い手との間でやりとりされるものです。一方、買い手の投資額には、譲渡対価以外の費用も含まれます。

譲渡対価以外の主な費用は以下の4つです。

  • 仲介手数料
  • デュー・デリジェンス費用
  • 不動産関連費用
  • 運転資金

仲介手数料

M&A仲介会社に仲介を依頼した場合に支払う手数料(報酬)です。

仲介手数料の算出方法や支払いタイミングは、M&A仲介会社によって異なります。算出方法については、多くの場合、譲渡対価を基準として段階的に一定の料率を掛けて求める「レーマン方式」が採用されています。

相場としては、譲渡価格の5~10%程度(ただし最低報酬額は、500万円程度)だと考えていただければよいでしょう。

また、支払いタイミングとしては、中間合意(基本合意)の段階と、最終契約締結後の段階とに支払うパターンが多く見られます。

デュー・デリジェンス費用

デュー・デリジェンスとは、買い手側が、譲り受ける病院やクリニックを会計、税務、法務、事業性、などの様々な面から精査し、対象法人・事業の価値や継承時のリスクなどをチェックすることです。

デュー・デリジェンスには、弁護士や公認会計士、税理士、あるいはデュー・デリジェンス専門コンサルタントなどの専門家に依頼しておこなわれるため、その人たちに支払う報酬が必要となります。

金額は譲り受ける病院などの規模やどこまでデュー・デリジェンスをおこなうのかによって違いますが、数十万円から数百万円の範囲内であることが一般的です。

不動産・機械・設備関連費用

医療法人を承継する場合、不動産やそれに関連する契約のすべてを包括的に承継するため、それと別に不動産関連の費用が生じることは基本的にありません。

ただし、賃貸借契約において法人代表者の変更に伴う規定が定められている場合には、その規定に従い別途費用が生じる場合があります。

個人クリニックを引き継ぐ事業譲渡の場合は、譲受側が不動産オーナーと賃貸借契約を結び直さなければなりません。したがって、その際に生じる仲介手数料や敷金、礼金などが必要となります。

また、承継に際して、新たな医療機器や医療システム、什器などを導入する、クリニック名を変えるので看板を作り直す、ユニフォームを新調するなど、機械、設備、備品等に関する費用も投資金額のうちに見込んでおかなければなりません。

運転資金

病院、クリニックの承継後、保険診療を開始してから保険診療の診療報酬が振り込まれるのは診療の翌々月です。

キャッシュが入ってくるまでの人件費や不動産賃料、リース料、水道光熱費など、先に出ていく支出に充てるための運転資金を準備しておかなければなりません。

必要となる運転資金は譲り受ける病院の規模などによって変わりますが、最低でも固定経費の3か月分プラスアルファ程度の運転資金は準備しておいた方がよいでしょう。

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投資金額に見合った、事業展開が可能か

医業承継の際に支払う投資金額が適正かどうかを判断するための1つの目安として、投資回収期間があります。

これは、譲渡金額プラスアルファの投資資金が、その譲り受けた医療機関から得られる純利益(収益ではなく)の何年分くらいで回収できそうかという観点から、譲渡金額の妥当性を判断する考え方です。

たとえば、その医療機関の過去の平均的な純利益が年間2,000万円、投資総額が1億円であれば、投資回収期間は5年と見込めます。

もし4年で投資回収をしたいと考えているのなら、投資金額が高すぎることになるので、4年での回収金額が可能となる8,000万円までの価格引き下げを交渉するなどしなければなりません。

ただし、譲り受け後に経営的な“てこ入れ”をすることで、純利益を2,500万円までアップさせられる見込みがあるなら、1億円でも投資回収期間は約4年となり、見合うことになります。

このように、譲り受け後の事業展開、投資回収期間などの要素を組み合わせて考えながら、投資金額が妥当かどうかを考えます。

どれくらいの投資回収期間が妥当なのかは一概にはいえませんが、比較的規模の小さい(譲渡価格1億円未満程度)案件なら2年以内程度、規模の大きな案件でも5年程度までとされることが多いでしょう。

累積欠損金がある医療法人を取得することのメリット

なお、上記に関連して、税務上、過去に計上した赤字の残額である「累積欠損金」が計上されている医療法人を譲り受けることのメリットも押さえておきましょう。

M&Aによる譲り受けは、譲り受けた医療機関から得られる利益を目的とした投資なので、赤字=利益が出せていない医療法人を取得しても意味が無いと思われるかもしれません。

たしかに、毎年大幅な赤字が続き、貸借対照表上も債務超過状態(資産より債務の方が多い)状態であり、その改善が見込めないのであれば、特別な関係性があって相手を救済するようなケース以外では、譲り受けの対象にはならないでしょう。

しかし、なにか偶発的な事情によって、たまたまある年に大きな赤字が出てしまっている、あるいは、数年間赤字が続いているものの、経営的なてこ入れをすることで、黒字に転換させられる確信があるという場合であれば、赤字法人を受け入れることも検討に値します。

なぜなら、過去の累積赤字(累積欠損金)は、10年以内であれば将来の利益額と相殺して、利益を減らすことができるというメリットがあるからです。

これを「欠損金の繰越控除」といいます。

たとえば、1年前に1億円の欠損金を計上している法人を譲り受けて、その法人が翌決算期に5,000万円、翌々期に5,000万円の利益を計上したとします。

本来であれば、その5,000万円には法人税等が課税されますが、過去の欠損金を繰り越して控除することにより利益を0にできるため非課税になるというわけです。

なお、上記はあくまで基本的な考え方を示したものであり、実際の課税計算にあたっては様々な制限等もあります。

実際のM&Aで、赤字医療法人の欠損金の繰越控除を考慮する場合は、必ず税理士にシミュレーション計算をしてもらってください。

まとめ

医療機関のM&Aによる譲り受けは、投資としておこなうものです。本記事で解説した基本事項を踏まえた上で、譲渡価格だけではなく投資金額全体を考慮し、また、収益や利益だけではなく税効果も含めた総合的なシミュレーションに基づき、投資意思決定に臨みましょう。

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