電子カルテの標準化によるメリットと選び方
目次
電子カルテの標準化により、システム間のデータ連携が容易になり、導入費用の低減と安全な運用が可能になります。標準規格FHIRの導入で異なる電子カルテ間の情報共有がスムーズに行えるため、院内外でのデータ交換が円滑になります。クラウド型電子カルテの普及も進み、コスト削減が期待されます。厚生労働省は標準化を推進しており、補助金の検討も進められています。標準化された電子カルテは、効率化と患者の利便性向上に貢献します。
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電子カルテの標準化によるメリット
厚生労働省の主導によって、患者さんの同意のもとで「電子カルテ情報を共有する」仕組みの検討が進んでいます。情報共有に合わせて、データの規格を統一する必要があり、標準規格準拠の電子カルテの普及の必要性が議論されています。電子カルテの標準化とは厚生労働省が指定する電子カルテの標準規格であるHL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resourc:以下FHIR)規格に準拠した文書のデータ入出力ができることを指します。電子カルテを標準化することにより、以下のようなメリットがあります。
ベンダー独自の仕様を標準化し、システム連携しやすくなる
オーダリングシステムから始まった医療情報の電子化は、現在のクラウドサービス型の電子カルテシステムの登場に至るまでに、自由度の高い規格の開発などが進められてきました。その結果、データ入出力が標準化されておらず、現状ではベンダーの異なる電子カルテ間では情報の交換・共有が難しい仕様になっています。FHIRの導入により、これらのデータを標準化することでシステム間の連携が容易となります。
低額で安全な電子カルテの導入を可能にする
厚生労働省では電子カルテの標準化にあたりクラウド型の使用が推奨されています。クラウド型の電子カルテはオンプレミス型である従来の電子カルテと比較して導入費用が低額でありシステムの移行も容易であるメリットがあります。またクラウド型では企業が保有するサーバに電子カルテの情報を格納しており、これまでの院内にサーバを設置して運用するオンプレミス型と比較して維持費用も低額です。さらに、セキュリティや個人情報保護に対する仕組みも同時に構築されているため、安全に導入することが可能です。電子カルテを導入している医療機関は増加傾向にあり、今後クラウド型の普及はますます進んでいくと考えられます。
院内外の情報共有がスムーズに
FHIRは医療機関同士などでデータ交換を行うための標準規格であり、データを標準化して入出力することが可能です。電子カルテが標準化されることにより院内の検査システムや放射線システムとの連携がスムーズになります。
さらに院外においても、診療情報提供書、退院サマリ、電子処方箋などの標準化が検討されています。これらにより、他の医療機関に受診、紹介する際に以前より容易に共有することができると見込まれています。
システムの導入・移行が容易になる
標準化されていない電子カルテは、複数の会社のシステムが接続、稼働している状態です。システム同士の接続が多くなる分、手間、費用がかかるというデメリットがあります。また、標準化されていない場合にはデータの移行は容易ではありません。データを移行する方法として旧システムから新システムにデータを抽出し移行するデータコンバートがありますが、時間も費用もかかってしまいます。電子カルテの標準化が進めば、新システムの導入・移行時にもデータ移行が容易になり、その分コスト削減も期待できます。
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電子カルテの普及状況
電子カルテの普及率は経年的に増加傾向にあります。平成20年では一般病院では14.2%、診療所では14.7%程度でしたが、令和2年の調査では一般病院で57.2%、診療所でも49.9%とおよそ半数で電子カルテが導入されています。また普及率は病床数が多いほど高い傾向にあります。同じく令和2年のデータでは400床以上では91.2%、200床未満では48.8%と、大きな差が生じており、小規模病院での普及が遅れています。
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電子カルテ標準化関連の補助金
電子カルテ標準化にあたり導入費用が懸念されます。現在、電子カルテ標準化に関する補助金は「医療情報化支援基金」として、厚生労働省において検討中であり、まだ決定されていません。この補助金では「標準規格準拠の電子カルテ」を導入する場合の費用を助成することとなっていますが、助成対象医療機関の範囲(病院やクリニックなど)、助成要件をどうするか、助成割合をどう設定するかなどが検討されています。
標準化されている電子カルテの選び方
標準化されている電子カルテを選ぶ際には標準規格が実装されているか、クラウド型か、オンプレミス型か、また操作のしやすさについて検討することが必要です。
標準規格が実装されているかどうか
標準規格とは格納されている診療データを上述のFHIRという規格でアウトプットできることを指します。他医療機関から FHIR規格でアウトプットされた診療データを、自院の電子カルテにインプットでき、他院に紹介する際にも同様の規格でアウトプットする機能を備えた電子カルテです。こうした機能を備えることで「医療機関間の電子カルテ情報の共有」が可能となり、診療の質、業務の効率化、患者の利便性向上が図れるため集患効果も期待できます。
クラウドか、オンプレミスか
現在使用されている電子カルテシステムにはクラウド型とオンプレミス型があります。
クラウド型電子カルテは、インターネットを通じてクラウド事業者が持つサーバーにカルテデータを保存・管理し、そのサーバーからデータを呼び出して利用します。場所や端末を選ばずに利用可能で、メンテナンスも事業者が行う点がメリットですが、事業者が提供する設定以外のカスタマイズができない点や個人情報の取り扱いなどのセキュリティ面の懸念があります。
オンプレミス型では、サーバーコンピュータを自院内に設置し、データの保存・管理を行います。自院内のコンピュータをローカルネットワークで接続し、院内のみで完結したシステムになっています。これまで多くの医療機関で使用されているため、ベンダーによるサポートがあり、専門的な機能や高度な医療機器との連携機能を備えている場合があるというメリットがあります。一方で、自院でメンテナンスやシステムバージョンアップ、データバックアップなどの対応が必要であることや導入・維持の費用が高額である点がデメリットです。
使いやすいかどうか
電子カルテを選ぶ際には操作しやすいタイプを選ぶことが重要です。また操作性だけではなく、カルテや文書作成をサポートしてくれる機能を有している電子カルテもあり、実際に使用して確認しておくことがおすすめです。
標準化された電子カルテにより効率化・コスト削減が可能に
電子カルテはこれから新規開業するにあたっては必須の設備であり、現在紙カルテで運営している医療機関も電子カルテへの移行が望ましいとされています。
電子カルテが標準化されることにより院内外のシステム連携・情報連携が効率的に行えるようになり、効率化によるコスト削減も期待できます。
これから電子カルテを導入する際には、標準化されているものを選択するとよいでしょう。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。