院内処方と院外処方、開業するならどちらを選ぶべきか
目次
院外処方を行う医療機関が増加しており、医科の入院外における院外処方率は77.3%です。院外処方のメリットには診療報酬点数の増加、安全性向上、薬剤管理の負担軽減があり、デメリットには患者の手間と費用負担の増加があります。院内処方は患者の負担軽減や薬の調整のしやすさがメリットで、特殊な薬の取り扱いや薬剤管理の負担がデメリットです。開業地や患者層によってどちらにするかが分かれます。
院外処方の病院・診療所が増えている
厚生労働省が出した「令和2(2020)年社会医療診療行為別統計の概況」をみると、院外処方の医療機関が年々増加していることがわかります。
医科の入院外における院外処方率は総数で 77.3%であり、病院では80,8%、診療所では76.3%に及びます。
いずれの比率においても、年々増加傾向にあることから、院外処方の病院・診療所が増えていることがわかるのです。
※参照:厚生労働省「令和2(2020)年社会医療診療行為別統計の概況」
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院外処方のメリット
院外処方のメリットは、医療機関の収益アップに直結し、業務効率の向上にもつながることです。また、ヒューマンエラーの防止にも貢献できます。
診療点数が高い
院外処方の場合、診療報酬点数が高くなります。
処方せん料や薬剤服用歴管理指導料などの点数が追加され、調剤料なども院内処方より高く算定されるためです。
安全性の向上
院内処方の場合、処方内容のチェックは、1人だけが担当します。
一方で院外処方であれば、診察した医師と薬剤師の2名が処方内容の2重チェックを行います。そのため、調剤ミスや重複投薬のミスが防止でき、患者さんが安心して薬を服用できるのです。また、院外の調剤薬局に薬剤師を配置することで薬剤費の適正化につながります。
薬に精通した専門の薬剤師が処方することで、薬の過剰処方が防止でき、患者さんに無駄な負担がかからないように対策することが可能です。
薬剤の管理が不要
薬の在庫管理が不要になるため、薬剤管理するための工数や人件費が削減でき、院内スタッフが患者さんのサポートに注力しやすくなります。
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院外処方のデメリット
院外処方のデメリットは以下の2つです。
- 患者の手間が増える
- 患者の費用負担が増える
患者さんの手間が増える
院外処方の場合、患者は医療機関の外にある調剤薬局まで足を運び、処方してもらうまで待たなければなりません。特に小さな子供を連れた大人や、足の悪い高齢者には負担となります。
また雨の日などの天候が悪い日も同様に負担となってしまいます。
患者さんの費用負担が増える
院外処方では、処方せん料や薬剤服用歴管理指導料などの点数が追加され、調剤料なども院内処方より高く算定されます。そのため、患者さんの費用負担が増えてしまいます。
院内処方のメリット
院内処方のメリットは以下の3つです。
- 薬価差益がある
- 日数や薬の調子をしやすい
- 利便性がある
薬価差益がある
薬価差益とは「クリニックで仕入れた薬価と、患者が支払う薬価の差分の利益」のことです。薬価差益が生まれることで、クリニックの収益が上がります。
ただし近年は薬価の見直しにより、あまり差益は見込めなくなっているといわれています。
日数や薬の調整をしやすい
院外処方の場合、薬の個数や種類を変更するのが難しい場合があります。
一方で院内処方の場合、患者さん自身の都合でなかなか来院できない時は、薬の量を多めに処方して日数が調整できます。また薬の種類を変更し、柔軟に対応することも可能です。
患者さんの状況に合わせて処方できる点は、院内処方のメリットの1つと言えるでしょう。
利便性がある
患者が院外の薬局に足を運ぶ必要がなくなるため、身体的な負担が抑えられます。特に小さな子供を連れた大人や、足の悪い高齢者には便利になるでしょう。
また窓口の費用負担も抑えられるため、経済的にもメリットがあります。
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院内処方のデメリット
院内処方のデメリットは以下の2つです。
- 手に入りにくい薬の処方に困る
- 薬剤の管理に工数とスペースが必要
手に入りにくい薬の処方に困る
薬が特殊なものだと、取り寄せる必要があり、患者さんをお待たせしなければならないケースが出てきます。
場合によっては、患者さんに再び来院してもらう必要が出てくるため、患者さんに負担がかかる可能性があるのです。
一方で院外処方の場合、専門の薬剤師が常駐して特殊な薬を管理しているため、上記のようなケースは少なくなります。
薬剤の管理に工数とスペースが必要
院内で薬剤を管理するには、適切なスペースが必要です。手狭になりがちなクリニックの場合、スペースの確保に苦慮する場合があるでしょう。
そして薬剤を管理するためには、調剤担当のスタッフ分の人件費がかかります。
院内処方と院外処方の併用は不可
院内処方と院外処方の両方を併用することは、原則として禁止されています。
たとえば同一患者が同じ日に診療を受け、薬剤の一部を院外処方、残りを院内処方してもらったとします。
この場合、処方せん料と処方料が二重算定されることになって認められないため、院内処方と院外処方の併用は禁止です。
自院・患者さんにとって良い選択を
院内処方・院外処方のメリット・デメリットを紹介してきましたが、患者さんは院内処方・院外処方をどのように考えているのでしょうか。
内閣府 規制改革推進室「医薬分業における規制の見直し」では、医薬分業に関するアンケート結果がまとめられています。
『医師と薬剤師がそれぞれの専門知識を生かして正しく診療や調剤を行うこと」「医師が必要以上に多い薬や高い薬を処方して利益を追求することを防ぐこと」のためには、医療機関と薬局の建物が離れている方が望ましいと思いますか?』
上記の問いに対しては「思う」と答えた方が31.4%。「思わない」と答えた方が28.9%、どちらともいえない・分からないと答えた方が39.8%の結果となっています。
医薬分業に関してはやや肯定的ですが、その必要性についてはあまり理解されていないようです。
一方で、院内処方と院外処方での患者負担額の差については高いと感じる患者が多いようです。
『「医薬分業」を行わない医療機関で直接薬をもらうよりも、「医薬分業」を行う医療機関から処方せんを受け取り、薬局で薬をもらうほうが、同じ薬をもらう場合でも、サービス料金が約300円(医療保険でカバーされる金額を加えると約1000円)増えますが、薬局で受けられるサービスの内容に照らして、この価格差は妥当だと思いますか?』
上記の問いに対しては「妥当だと思う」と答えた方が14.2%、「高すぎると思う」と答えた方が58.5%、「安すぎると思う」と答えた方が0.7%、「どちらともいえない・分からない」と答えた方が26.6%でした。
上記はあくまで一例にはなりますが、開業時の処方形態を決める際に参考にしてください。
医療機関にとって、採算性や利便性を追求することは、安定経営のために必須です。負担額が増えているとはいえ、数百円程度であれば気にならない方も多いでしょう。
しかし患者さんに負担をかけず、患者さんのニーズが満たせるように方針を立てることも重要なことです。
どちらが良いのかは開業地や医師自身の考え方、患者さんの年齢層等によって変わります。新規開業時には、上記を踏まえ、自院・患者さんにとって良い選択を行いましょう。
クリニックや医院の開業であれば、0から構築していく「新規開業」ではなく、既存のクリニックや医院を引き継ぐ「承継開業」という方法もあります。
エムステージマネジメントソリューションズのコンサルタントは医療経営士の資格を保持しているため、経営に関するアドバイスなどのサポートも行います。また、「事業計画書の作成」や「資金調達コンサルティング及び金融機関等との融資交渉」なども開業支援の業務内なので、安心してご依頼ください。
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▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。