医院・クリニック承継開業の資金調達【コンサルタント解説】
承継開業での融資審査は、新規開業に比べて実績があるため通りやすいですが、引き継ぐ病院やクリニックの実績が重視されます。融資先として地方銀行や信用金庫、メガバンク、政策金融公庫があります。審査が通らない理由には経営状況の悪化や特別な手技の欠如などがあり、複数の金融機関に同時に申し込むことが推奨されます。事業計画書にはリスク対策を含め、説得力と実現可能性を持たせることが重要です。
本記事では、エムステージマネジメントソリューションズの田中コンサルタントが、これまで医業承継の融資審査に関わってきた経験をもとに資金調達のポイントを解説します。
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承継開業での融資審査のポイント
融資審査は、融資を申し込んだ医療法人や医師個人に、返済能力があるのかどうかを審査する手続きです。
新規開業と比較すると、承継開業の方が今まで運営してきた実績がある分、融資審査は通りやすいと言えます。融資した場合に、きちんと返せるのかを想定しやすいためです。
承継開業で融資審査を申し込むと、まず資金調達先に「引き継ぐ予定の病院やクリニックの実績を見せてください」と言われます。経営実績がある場合、承継開業して今までの実績をどう維持ができるか、もし維持できない場合にはその穴埋めとしてどういう対策を考えているか、ということを説明します。
同時に複数の金融機関に対して審査を申し込む
承継開業で融資を受ける資金調達先としては、地方銀行や信用金庫、メガバンク、政策金融公庫などの金融機関があります。医療機関の開業向け融資プランを持っているようなところもあるので、その方が融資を申し込みやすいでしょう。
万が一融資が通らなかった場合には、売り手との合意があっても承継ができなくなってしまうので、必ずいくつかの金融機関に並行して審査を申し込むようにしましょう。
融資審査が通らない場合
融資審査が通らない理由として、以下のようなケースが考えられます。
- 承継する病院やクリニックの経営状況が良くない
- 前院長が特別な手技を持っていたなど、引き継いだ後に業績を維持できる担保がない
- 融資を受けようとする医師にほかの借り入れがある
申し込んだ融資が必ず全て通るわけではないので、注意して審査に取り組まなければなりません。
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融資審査に通る事業計画書作りのコツ
事業計画書は、以下の点に注意しながらしっかりと作り込む必要があります。
- 想定リスクへの対策を盛り込む
- 実現可能と思わせる説得力を持つ
- 融資担当者の信頼を得るようにプレゼンする
想定リスクへの対策を盛り込む
承継したことで売上が落ちそうな要因があれば、どういう対策を取るのかということが重要になります。
売上が落ちる分、自分が穴埋めできる対策を考え、プランも併せてしっかり事業計画書の中に盛り込むようにしましょう。たとえば、承継前は診療日が週3日だったところを、承継開業後は週6日にする、などといった施策が考えられます。
実現可能と思わせる説得力を持つ
事業計画書は、「この人だったら、この計画でちゃんと事業をやっていけるだろう」と金融機関から思ってもらえるものにしなくてはなりません。
また、事業計画書だけでなく、承継する病院やクリニックの売上実績はもちろん、開業する医師自身の今までの実績や人間性、資産なども見られます。
さらに、融資後もきちんと事業計画書通りに運営できているか、金融機関はチェックしています。もし、計画通りの運営ができていなければ、「早めに返済して欲しい」と言われることもあるので気をつけましょう。
融資担当者の信頼を得るようにプレゼンする
事業計画書は金融機関に提出して終わりではなく、融資担当者との面談で内容のプレゼンテーションを行います。1分程度で、簡潔に伝えられるようにしましょう。
承継によるマイナス面に対して開業予定の医師がどう対策していけるかということをしっかりと伝え、担当者に信頼してもらうことが肝になります。
事業計画書作りで苦労した、Oクリニックの事例
T医療法人が運営する複数のクリニックのうち、Oクリニックのみ開業予定のM先生に切り分けて承継するという案件でした。
事業計画書作りのためにこれまでの実績を見ようとしたところ、T医療法人はグループ全体のみの会計で部門別には行っておらず、引き継ぐ予定のOクリニック単体の収支が分からなかったのです。
Oクリニック単体の売上は何とか分かりましたが、かかる経費が分かりません。たとえば、グループ内のクリニックを掛け持ち勤務していたスタッフもいたため、Oクリニック単体でかかる人件費が算出できないのです。
私は苦肉の策として、現状のOクリニックの売上実績をベースに、単体でどれぐらいの経費がかかっているかという理論上の数字を作ることにしました。
Oクリニックの家賃や光熱費、材料費、必要なスタッフ人数分の人件費、医療機器のリース代と保守費用など、把握できるコストを全て調べ、Oクリニックの売上実績を元に経費を想定した数値を算出しました。
そうして事業計画に落とし込み何とかまとめたのですが、提出先のある地方銀行からは「部門別会計をやっていないようなクリニックは、審査ができない」として、審査自体してもらえませんでした。
結局、ほかの金融機関で私の想定した数字を信頼してもらうことができ、融資をしてもらうことができました。しかし、部門別会計をしていないようなグループ経営の病院やクリニックは、このように大手の金融機関などからは審査自体してもらえない可能性があることも考慮しておかなければなりません。
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まとめ
融資審査のポイントや事業計画書作りの大切さを分かっていただけたのではないでしょうか。エムステージマネジメントソリューションズのコンサルタントであれば、事業計画書の作成もアドバイザー業務に含まれているので、安心してご依頼ください。
融資先の担当者との面談にも一緒に伺いますし、必要であれば開業予定の先生に代わって私がプレゼンも行います。これまで代理でプレゼンを行った先生からは、「事業計画書を作成してくれた田中さんの方が理解しているので、ぜひプレゼンもお願いします」と言われる程ですよ。承継開業をお考えの先生はまずは資料をチェックされてみてはいかがでしょうか。
▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。