病院の後継者不在の実態|院内継承・第三者継承(M&A)のメリット・デメリット

売却 2022/09/08

我が国では、少子高齢化の進展や若年世代の意識変化などを背景とした、中小企業の後継者不足が指摘されて久しくなります。
これは医療業界においても同様で、現経営者が高齢化しているにも関わらず、様々な理由により、後継経営者が定まっていない病院が増えています。この状況が進めば、地域医療体制の存続にも影響が生じかねません。

本記事では、この問題の実態を紹介するとともに解決法を探っていきます。

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高齢化する病院経営者と後継者不在

近年、少子高齢化の進展に伴い、多くの産業分野で中小企業の後継者不足が問題となっています。

日本経済の土台を支えてきた中小企業の多くが、黒字のまま廃業に追い込まれる恐れがあることから、経済産業省が第三者承継(いわゆるM&A)のガイドラインを策定し、その後押しを図るなど、国の産業政策上も喫緊の課題として認識されています

まず、経営者の高齢化の状況を確認しましょう。民間調査会社の帝国データバンクの「全国「社長年齢」分析調査(2021年)」よると、2021年の社長の平均年齢は60.3歳であり、調査が開始された1990年以降、31年連続で過去最高を更新している状況です。

医業経営においても例外ではありません。

厚生労働省が公表している「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和2年)によると、医療機関の代表者の平均年齢は以下のようになっています。

医療機関経営者(開設者または法人の代表者)の平均年齢と人数

▼病院

 全体男性女性
平均年齢64.7歳65.1歳59.1歳
人数5,142人4,820人322人

▼診療所

 全体男性女性
平均年齢(歳)62.0歳62.4歳59.3歳
人数72,586人64,048人8,538人

医業経営者の平均年齢は、他産業と比べても抜きん出て高くなっていることがわかります。そして、これはあくまで「平均」です。

では、80歳以上の、高齢病院経営者の人数がどれくらいかといえば、下記のようになっています。

▼病院

全体男性女性
80~84歳229人221人8人
85歳以上178人167人11人

▼診療所

全体男性女性
80~84歳2,092人1,927人165人
85歳以上1,645人1,454人191人

(いずれの表も、厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和2年)所収のデータを元に著者作成。)

85歳を超えた年齢になっても、病院や診療所の代表者として働くということは、どうなのでしょうか?

もちろん、心身の健康状態は人によって異なり、中には若い人と同じように気力も体力も充実して働ける人もいるでしょう。

しかし、もし後継者不在で辞めるに辞められず、90歳近い高齢になってもやむを得ず働かざるをえない状況だとすれば、ご本人にとっても、周りのスタッフや患者さんにとっても、決して幸せな状況だとはいえないのではないでしょうか。

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病院の後継者不在の状況

では、病院における後継者不在の状況はどうなっているのでしょうか?

帝国データバンクでは、「全国企業「後継者不在率」動向調査」を毎年実施し、企業の後継者不在率を調査・公表しています。(なお、この調査における、「後継者不在」は、後継者が「いない」と「未定」をあわせたのである点にご留意ください)。

2020年の同調査によると、全業種の「後継者不在率」が65.1%であるのに対して、「病院・医療」のカテゴリーにおいては、73.6%となっており、全業種平均と比べても、高い後継者不在率が示されています。

病院の後継者不在の理由

次に、病院において、後継者が不在となる理由について確認しましょう。

日本医師会総合政策研究機構の調査資料「日医総研ワーキングペーパー No.440 日本医師会 医業承継実態調査:医療機関経営者向け調査」(2020年1月6日)によりますと、医療機関(病院、有床診療所、無床診療所の全体)において、後継者がいない背景事情としてもっとも多いのは、「医師の子ども・親族がいない」で、半分以上を占めています。

 医師の子ども・親族がいない医師の子ども・親族がいるが、継がせたくない医師の子ども・親族がいるが、承継の意向がないその他
病院、有床診療所、無床診療所の全体54.3%6.1%25.5%14.0%
病院のみ41.7%8.3%25.0%25.0%

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親族内継承が減少している背景

上記のうち、医師の子ども・親族がいない場合の対応については、後ほど述べます。

興味深いのは、「医師の子ども・親族がいる」にもかかわらず、継がせたくない、あるいは、承継の意向がない場合が全体の3分の1ほどもある点です。

ここには、現在の医療経営者の世代と、後継者世代の大きな意識ギャップがあります。

現在、事業承継を控えた60~70代以上の医業経営者が開業、あるいは承継により経営者と20~30年程度以前と、現在を比べると、医業経営をとりまく環境は、確実に圧壊しています。
マクロ的な視点でいえば、国内の人口減少を背景とした総医療費の圧縮圧力があります。これは、医業経営の収益性の低下に直接結びついています。

また、生産人口の減少は、医師はもちろん、コメディカルやその他事務員も含め、病院スタッフの求人難を生んでいます。求人難に加えて「働き方改革」の流れもあることから、病院経営における労務管理の難度は、年々高まっています。2024年からは医師の働き方改革も実施される予定であり、残業時間の上限規制がはじまります。
特に地方において、ただでさえスタッフ不足に苦しむ病院の経営は、ますます困難度を増してくるでしょう。

スタッフだけではなく老朽化した病棟の建て替え問題もあります。この20年間で、病院の建築費は2倍近くまで上昇しており、現経営者が病院を設立した時代と比べても、建築・改築費用は格段に高くなっています。

さらに、病院DXがうたわれるようになり、IT化のための設備投資も求められます。

他にも、地域医療体制の再編によるリハビリ・回復期病床ニーズの増加などもあり、今後の病院経営環境の不透明さが増していることは間違いありません。

そのような状況を背景として、病院の経営者・理事長という立場がかつてのように魅力的なものではなくなりつつある点が、医師の子がいても、後継者とならない背景にあるでしょう。

さらに、昔なら、子が「家業」を継ぐのは当たり前のことだと考えられていましたが、現代ではそのような封建的な考えを持つ若年世代は減っています。
将来の病院経営環境に対する認識や、家業に対する意識など、多くの面で、現経営者世代と、後継者世代に意識ギャップが生じているのです。

そのような世代間の意識ギャップが存在することしっかり認識した上で、病院の承継についての話あいを早期に進めることが、後継者不在対策のポイントとなります。

医師の子がいない場合の対策(1)院内承継

医療法人の理事長は、医師または歯科医師でなければならないのが原則です。例外的に、病院経営の実務に長く携わった経験がある人であれば、理事長になることが認められる場合もありますが、レアケースです。

そこで、そもそも子がいなかったり、子がいても医師ではなかったりする場合は、親族承継以外の承継方法を考えなければなりません。

これには、(1)院内承継、(2)第三者承継 がありますが、まず院内承継から確認しましょう。

院内承継のメリット・デメリット

院内承継とは、病院で勤務している医師に、医療法人理事長になってもらうなどして、経営を引き継ぐ方法です。

院内承継のメリットは、現経営者の考え方、現在の病院の理念や文化をよく知っている人が承継するために、それらを引き継ぎやすいことです。他のスタッフからも比較的受け入れやすいでしょう。

一方、デメリットは、適任者が見つかりにくいことです。なぜなら、医業経営に強い関心がある医師は自分で開業をすることが多く、勤務医を選んでいる時点で経営には興味がない人が多いからです。

また、仮に適任者がいたとしても、譲渡に関する対価を、後継者が用意できるのかという問題があります。これは、現経営者の承継意図(対価をどの程度求めたいのか)や、課税上の問題なども絡むため、ケースバイケースですが、単純に贈与できるようなものではない、ということです。

これらの点を解決することが、院内承継のポイントになります。

医師の子がいない場合の対策(2)第三者承継(M&A)

第三者承継とは、いわゆる「M&A」のことです。

冒頭に述べたように、中小企業の後継者不在、事業承継問題に危機感を募らせている経済産業省では「中小M&Aガイドライン」策定したり、全国47都道府県に「事業承継・引継ぎ支援センター」を設置したりして第三者承継の相談に乗るなど、中小企業におけるM&Aの円滑な促進に力を入れています。

病院の場合も、近年、M&Aが着実に増加しています。

よくあるパターンは、徳洲会グループや愛友会グループなどの、大手の病院グループに入るパターンや、地域の近隣の病院がM&Aで経営統合するパターンです。また、介護事業を展開する事業会社(株式会社)や、投資ファンドが病院を買い受ける事例も、少しずつ増えています。

第三者承継のメリット・デメリット

第三者承継のメリットは、まず親族内、院内に後継者がいなくても、病院が残せることです。また、現経営者にとって、譲渡対価を確実に得られることが、メリットに感じられることもあるでしょう。

ただし、病院の場合は、設立に関して行政から規制を受けている許認可業であり、また株式会社と異なり、非営利が基本とされているため、一般的な株式会社のM&Aとは異なる面が多くあります。また、時間がかかることもあります。これらがデメリットです。

まとめ

親族内承継においても院内継承、第三者継承(M&A)においても、税制面や体制面など様々な準備や手続きが必要になります。売り手・買い手に合ったスキームを選択し、時間をかけて検討していきましょう。

病院の後継者不在対策には、時間がかかります。特に医師の子がいる場合、親は当然病院を引き継いでもらえると思っていたのに、実は子のほうはまったく違う意識の場合があります。「まだ先」だと思っていると、深刻な事態になる場合もあるので、早めの確認や準備を心がけるとともに、信頼できるアドバイザーに、早期に相談することがポイントになります。

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