承継の契約時に出てくる!押さえておきたい【医療分野のM&A基本用語集】2
前回の記事では、医療分野のM&A基本用語として、病院やクリニックのM&Aの方法に関する用語を紹介しました。今回は、譲渡契約の流れや契約書に関する基本用語を解説します。秘密保持契約書や意向表明書、基本合意書、買収監査、最終契約書とクロージングなど、具体的な用語を理解することで、契約をスムーズに進められるようになるでしょう。
▼前回の記事は以下からご覧ください。
病院やクリニック承継する契約時に出てくる、M&A用語
出典:厚生労働省医政局委託『医療施設の合併、事業譲渡に関わる調査研究報告書』
譲渡契約の際に登場する用語を詳しく解説するので、契約の前にどんなものなのかイメージできるようにしておきましょう。
秘密保持契約書(NDA)
病院やクリニックを承継する際に最初に結ぶ契約で、仲介会社などを利用する際はその仲介会社と、その後譲渡側と承継先側が締結します。
医療機関の名前や営業情報、財務情報、従業員の個人情報、取引先情報、交渉過程で知った機密情報を第三者へ開示しないことを約束するものです。
書類の中では、秘密情報の定義や秘密情報開示の目的、秘密保持義務、複製の禁止、秘密情報と返還及び破棄、契約期間、情報漏洩した場合の損害賠償などについて定めます。
意向証明書(LOI)
これまでの交渉で合意した内容を整理し、譲渡側に承継先側から譲渡契約を本格的に進めていく意思を伝えるためのものです。
意向表明書には、シンプルに承継先側の意向だけが書かれている場合もありますが、通常は譲渡対象や譲渡価額などを大まかな条件、承継後の事業展開の考えなどを記載します。
記載された情報に法的拘束力はなく、意向表明書は提出しない場合もあります。
基本合意書(MOU)
意向表明書の後に、基本合意書を締結します。これまでの交渉で合意した内容を整理し、最終契約の締結に向けて、譲渡側と承継側双方の認識を揃えるために取り交わします。
譲渡価額や譲渡日、スケジュールや、買収監査で情報等に誤りがあった場合の基準などを定めます。
基本合意書を締結すると、譲渡側はその承継先相手としか譲渡交渉ができなくなるため、単独交渉権を得られます。
基本合意書も必ず締結しなければならないものではならず、案件規模が大きくない場合やクロージングまでの時間が限られている場合などは、結ばないこともあります。
意向表明書と基本合意書の違いとは
意向表明書は承継先側が譲渡側に対して一方的に承継の意向を示すものであるのに対し、基本合意書は条件交渉が行われ大筋合意ができた後に、お互いの合意内容を示すものです。
記載内容は、意向表明書が承継を行う意思や取引額や譲渡資産などの大まかな条件のみの記載であるのに対し、基本合意書はこれまでの交渉に基づく取引条件や独占交渉権、買収監査に関する事項など、最終契約に向けたより細かい条件が盛り込まれます。
買収監査(デューデリジェンス、DD)
最終契約を締結する前に、買収側(承継先)が承継予定の病院やクリニックが、基本合意書に基づき、財務内容が正確であるかや買収金額が妥当であるかなどを確認するために行う調査のことです。
買い手本人または第三者である承継後の顧問弁護士などに協力してもらい、病院やクリニックの情報を元に、事業や法務、税務、会計などの観点から、取引に必要な手続きやリスクなどを洗い出し、適切な買収対価や取引条件を判断します。
最終契約書(DA)
交渉により、最終的に合意した内容を約束する最終契約書となります。最終契約書には、取引の基本条件や表明保証、宣誓、クロージング実行の前提条件、補償等が記載されます。
医業承継にはさまざまなスキームがありますが、最終契約書の内容もそれぞれ異なります。それによって、契約書の名前も株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など、締結しなくてはならない書類の種類が違うのです。
クロージング
クロージングとは、最終契約書に基づく取引が完了することをいいます。最終契約書を締結した後に、対価の受け渡しと引継ぎ作業が完了した時点のことを指します。
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▼承継の流れについては、こちらの記事を参考にしてください。
最終契約書(DA)に出てくるM&A用語
医業承継における最終契約書は2つに分けられ、医療法人を譲渡する際のものと、個人診療所(クリニック・医院)や分院を譲渡する事業譲渡の際のものがあります。
医療法人を譲渡する際には、出資持分譲渡契約書または拠出金債権譲渡契約書もしくは合併契約書と、経営引継契約書が必要です。一方、事業譲渡の場合は、事業譲渡契約書のみとなります。
契約日、実行日
契約書の中で出てくる場合、契約日は譲渡契約を締結する日のことをいい、実行日はクロージング日ともいわれ、契約に沿って実際に譲渡が完了する日のことをいいます。
表明保証
契約または契約当事者や法務、財務、税務などに関する事実が真実であるとして、契約相手側にその内容を保証するものです。
これに違反していた場合には、相手側は契約を解除出来たり補償してもらえるといった規定が記載されています。
表明保証は譲渡側だけでなく承継先側も対象になるので、病院やクリニックの譲渡後に承継先が適切な運営をすることを内容に盛り込んでおくと、承継後の運営トラブルを防ぐことができます。
前提条件
譲渡が成立する前に、譲渡側と承継側の双方が実行するべき義務のことをいいます。あらかじめ定めた前提条件を全て行わないと、譲渡は実行できません。
前提条件には、貸借対照表が定められた状態になっていることや、医療法人の社員総会で譲渡の承認が得られていることなどが内容に含まれます。
承継後の義務
最終契約書締結後の、譲渡側と承継先側双方がやるべき義務についても記載されます。主に、行政手続きや請求書が届いた際の取り決めなどが定められます。
まとめ
医業承継とひと口に言っても、さまざまな書類や契約が多いことをお分かりいただけたかと思います。
医療業界で病院経営をずっとされてきていても、医療のM&Aである医業承継はやはり勝手が違うもの。やはり、医業承継のプロにお任せするのが安心です。
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▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。
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