ひとつの医療法人で「医科」と「歯科」は両方経営できるのか?併設のメリットと鍵を握る「定款」の仕組み
目次
「うちは歯科の医療法人だけど、同じ法人で医科も始められるのだろうか」このようにお考えの先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
医療法上、ひとつの医療法人で医科と歯科の併設経営は認められています。ただし実現するには法人の基本ルールとなる「定款」の変更が欠かせません。
本記事では、定款に何を記載するのか、どの部分を書き換える必要があるのかといった仕組みの解説から、「拡張」と「分院」の違い、手続きの流れ、経営上のメリット・注意点までをまとめました。
新規に法人を設立する場合は最初から定款に医科・歯科の両方を含めるだけで済みますが、本記事では既存の医療法人が、あとから診療科を追加するケースを中心に解説します。
医療法人は医科と歯科を同じ法人で経営できる
医療法上、ひとつの医療法人で医科と歯科の併設経営ができます。
医療法第10条第2項では「病院又は診療所が、医業及び歯科医業を併せ行うものである場合」と定めており、医科と歯科を併設した病院・診療所を管理者規定の対象にしています。
ただし制度上認められていることと、今すぐ開設できることは別問題です。医科歯科の併設を実現するには、法人の基本文書である定款の変更が必要になります。
医科歯科の併設には定款の変更が必要
定款とは法人の目的や事業内容、運営のルールを定めた基本文書です。会社でいう「会社の憲法」にあたり、法人の事業範囲は定款の記載内容で決まります。
医療法人の定款には、主に以下の事項が記載されています。
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 法人の目的 | どのような医療を提供するか |
| 法人の名称 | 医療法人○○会 など |
| 開設する施設の名称・開設場所 | ○○クリニック・東京都○○区○○ など |
| 役員に関する規定 | 理事・監事の定数や選任方法 |
| 社員総会に関する規定 | 総会の開催・決議の方法 |
| 資産・会計に関する規定 | 資産の管理・事業年度 |
| 解散・定款変更に関する規定 | 法人を解散する条件や定款を変える手続き |
併設のために変更するのは「施設の名称・開設場所」の欄です。
たとえば「○○クリニック/東京都○○区○○」と記載されている欄に「○○クリニック/東京都○○区○○/歯科」といったように診療科目もあわせて書き込みます。歯科だけの法人が内科を追加するときは、この欄に「内科」を書き足します。
歯科法人が医科を追加するケースも医科法人が歯科を追加するケースも、定款変更の手続きの流れは共通です。
関連記事:医療法人の定款変更完全ガイド|手続きの流れから費用・失敗しないポイントまで解説
定款変更を怠ると法人全体が処分の対象になる
定款を変更しないまま新しい診療科を始めると、法人全体が行政処分の対象になります。医療法人は定款に定めた事業の範囲内でしか活動できず、無許可での診療科開設は医療法第54条の9(定款変更の認可義務)への違反にあたるためです。
“定款又は寄附行為の変更(厚生労働省令で定める事項に係るものを除く。)は、都道府県知事の認可を受けなければ、その効力を生じない。 “
保険診療はもちろんのこと、自由診療であっても違法です。定礎変更を行っていなかった場合には、まず都道府県知事から改善命令を受けます。それでも命令に従わなかった場合には業務のすべて、または一部の停止を命じられます。
このとき業務の停止処分を受けるのは新しい診療科だけではありません。既存の診療科を含む法人全体の業務が対象になり得ます。
併設の方法は「拡張」と「分院」の2つに分かれる

既存の診療所に新しい診療科を追加する方法は、「拡張」と「分院」の2種類に分かれます。併設の方法によって管理者の人数や届出の内容、手続き全体の負担が大きく変わるため、計画の初期段階で確認しておくことが重要です。
同じ施設内で一体運営するなら「拡張」になる
同一フロア・同一施設内で診療科を追加し、実質的に一つの施設として運営している場合は「拡張」扱いになる可能性が高くなります。
拡張なら管理者は今の1人のままで対応でき、届出も保健所への変更届と厚生局への変更届のみです。管理者を新たに確保する必要がない分、分院より手続きの負担が軽くなります。
別フロア・別建物なら「分院」になる
1階が歯科・2階が医科のように階が分かれる場合や、別の建物で開設する場合は「分院」扱いになる可能性が高くなります。各フロアで独立した診療が完結する構造であれば、同じビル内でも別の診療所として扱われます。
分院の場合は、新しく開設する診療所ごとに管理者を配置しなければなりません。その管理者は法人の理事にも就任する必要があります。届出も新規の診療所開設届と保険医療機関指定申請が必要になり、拡張より手続きが増えます。
拡張か分院かは保健所の判断で決まる
拡張と分院は管轄の保健所が判断するもので、自分では選べません。建物の構造や図面をもとに判断されます。同じフロアに設置する計画でも「分院」とみなされるケースがあるため、計画段階で図面を持参して保健所に相談するのが最も確実な方法です。
相談を後回しにして拡張を前提に計画を進めてしまうと、あとから分院と判定され、管理者の確保からスケジュールを組み直す事態になりかねません。
関連記事:クリニックの分院開業に必要な資金とは?調達方法や注意点も解説
管理者の配置は医療法第10条で決まる
医科と歯科を併設して行う診療所の管理者は、主に行う診療によって決まります。医業を主に行うなら医師、歯科医業を主に行うなら歯科医師が管理者です。
“病院又は診療所の開設者は、その病院又は診療所が、医業及び歯科医業を併せ行うものである場合は、それが主として医業を行うものであるときは臨床研修等修了医師に、主として歯科医業を行うものであるときは臨床研修等修了歯科医師に、これを管理させなければならない。 “
ただ、条項の中に記載されている「主として医業を行うもの」の判断基準は法令に明文化されていません。診療科の構成や患者数、売上の割合などが目安になるとされていますが、公的な基準はなく、最終的には保健所への確認が必要です。
関連記事:クリニック開設における管理者とは?経営者や開設者との違いも解説
開業までのスケジュールと手続き
医科歯科併設の計画から開業までの所要期間は、拡張なら約6か月、分院なら6か月から1年が目安です。分院は管理者の確保や新規の開設手続きが加わる分、期間が長引きやすくなります。
大まかな流れは以下のとおりです。
- 保健所への事前相談(拡張か分院かの判断)
- 管理者の確保
- 社員総会での定款変更決議
- 都道府県知事への認可申請(約3か月)
- 保健所・厚生局への届出
- 開業
診療科目の追加は、届出だけでは済みません。都道府県知事の「認可」を受けなければなりません。定款変更の認可手続きは拡張・分院どちらも共通で、届出の段階で内容が分かれます。
ここからは社員総会の決議、認可申請、届出という3つの手順を解説します。
社員総会で定款変更を決議する
手続きの最初は社員総会での決議です。
“社団たる医療法人が定款を変更するには、社員総会の決議によらなければならない。 “
社員総会では定款の変更条項と変更内容を議案にかけます。具体的には、診療科目の追加、分院であれば新しい施設の名称・所在地の追記が議案の中心になります。決議のタイミングは、次の都道府県への申請期日から逆算して設定しておきましょう。
都道府県知事に認可申請を出す
社員総会の決議後、都道府県に認可申請を提出します。手続きの詳細は都道府県ごとに異なります。東京都の場合、手続きは「仮申請→補正対応→本申請→認可」の順です。仮申請から認可書の受領まで約3か月かかります。
主な提出書類は次のとおりです。
- 新旧対照表(定款の変更前と変更後を並べた書類)
- 社員総会の議事録
- 変更の理由書
- 新たに開設する施設の概要(診療科目・構造設備・人員配置など)
- 事業計画書・収支予算書
仮申請の段階ではこれらの書類の写しで対応できますが、本申請では正本・副本の2部を提出します。都道府県ごとに追加で求められる書類があるため、管轄の担当課に事前確認しておくと手戻りを防げます。開業予定日から逆算して早めに動くことが大切です。
認可後に保健所と厚生局に届出を出す
定款変更の認可を受けただけでは、まだ診療を開始できません。保健所と地方厚生局への届出を済ませて初めて、保険診療がスタートします。
届出の内容は拡張と分院で異なります。
【拡張の場合】
| 届出先 | 届出内容 |
|---|---|
| 保健所 | 診療所の変更届 |
| 厚生局 | 保険医療機関の届出事項変更届 |
【分院の場合】
| 届出先 | 届出内容 |
|---|---|
| 保健所 | 新規の診療所開設届 |
| 厚生局 | 新規の保険医療機関指定申請 |
分院の場合は、新たに保険医療機関番号が付与されます。ここまで完了して初めて、保険診療を実施できる状態が整います。
関連記事:クリニックの開業スケジュールを徹底解説!新規と承継開業それぞれの流れを紹介
医科歯科を併設する経営上のメリット
医科歯科の併設は手続きの複雑さはあるものの、経営面で複数のメリットがあります。
ここでは代表的な3つのメリットを解説します。
①患者を法人内で包括的に診られる
医科歯科が同一法人内にあれば、患者は外部の医療機関に紹介されることなく、法人内で医科・歯科の両方を受診できます。カルテ情報の共有もスムーズになり、治療方針を統一しやすい点も患者にとっての安心材料です。
法人側にとっても紹介の手間が減り、患者に通院を継続してもらいやすくなる点は経営上のメリットです。医院継承(M&A)の場面でも、患者を医科・歯科の両方で継続的に診られる体制は、法人の強みとして評価されます。
②収益源を広げて経営基盤を安定させられる
医科と歯科の両方を経営すれば、収益源を広げられる点がメリットです。どちらかの売上が落ち込んでも、もう一つの診療科の売上で補える構造になり、法人全体の経営基盤が安定しやすくなります。
収益源を広げる手段として、自由診療への展開も有効です。実際、歯科の美容医療を手がける法人が、法的リスクを抑えるために医科を併設するといった例もあります。保険診療と自由診療を組み合わせることで、収益の幅をさらに広げられます。
③医院継承やM&Aの場面でも有利になる
医科と歯科を併設していると、医院継承の場面でも有利になります。医院継承には親族内承継と第三者承継(M&A)の2つがあります。
親族内承継では、後継者の資格に関わらず事業を続けられる点が有利です。後継者の資格と法人の診療科がずれることがあっても、定款変更で診療科を追加すれば対応できます。たとえば歯科医師の後継者が医科のみの法人を継ぐケースでも、歯科を追加すれば運営を続けられます。
第三者承継(M&A)でも、新しく法人を作らずに事業を広げられる点が有利です。医科の法人を買収したあとに歯科を加えたい場合も、既存の法人の定款変更だけで診療科を追加できます。
医科歯科の両方を手がける法人は、医科または歯科のみの法人より事業領域が広く、売却時の法人価値も高まりやすい傾向があります。
関連記事:病院の後継者不在の実態|院内継承・第三者継承(M&A)のメリット・デメリット
併設にあたって押さえておくべき注意点
医科と歯科の併設経営にはメリットがある一方で、計画段階で把握しておくべきリスクも存在します。ここでは、とくに押さえておくべき3つの注意点を解説します。
管理者となる医師または歯科医師の確保が必要になる
医科歯科の併設には、常勤の医師または歯科医師を新たに確保する必要があります。歯科法人が医科を追加する場合も、医科法人が歯科を追加する場合も同様です。管理者は「常勤」が原則で、非常勤の医師を管理者に充てることは認められていません。
この人材確保が、今の医療業界では難しい状況にあります。
厚生労働省の「一般職業紹介状況」(2024年)によると、医師・歯科医師等の有効求人倍率は3.14倍となっています。つまり仕事を探している人1人に対して、求人が3件以上ある計算です。求人を出しても応募が集まりにくく、採用までに時間がかかることを見込んでおく必要があります。
設備投資と手続きに時間・費用がかかる
医科と歯科では、必要な医療機器の種類も費用も大きく異なります。
歯科は歯科用ユニット・レントゲン・滅菌器などの機器一式で2,000万〜3,500万円程度が目安です。ユニットの重量を支えるための床の補強(床上げ)が必要になる分、内装工事費もさらに高くなる傾向があります。
医科は診療科によって差が非常に大きくなります。一般内科では電子カルテ・レントゲン・心電計などの基本機器で、1,000万〜2,000万円程度です。循環器内科や脳神経外科のように画像診断装置(CT・MRIなど)を導入する診療科では、数千万円から億を超える費用にもなります。
導入する設備の種類によって投資額は大きく変わるからこそ、その費用を回収できる見込みを立てておくことが重要です。追加する診療科の集患見込みと投資回収期間を、事前にシミュレーションしておきましょう。
こうした収支計画は、医業経営に詳しい税理士やM&A仲介会社などに相談することをおすすめします。
関連記事:クリニックの開業資金はいくら必要?診療科目別でわかる費用や調達方法を紹介
管理者が退職すると診療の継続が困難になる
管理者として配置した医師(または歯科医師)が退職した場合、後任を確保するまで該当の診療科を運営できなくなります。
前述のとおり、医師・歯科医師の採用市場は厳しく、退職してから後任を探し始めても、すぐには見つかりません。1人の管理者に依存する体制は、法人にとって大きなリスク要因です。開設前の段階から、後任候補を含めた人員計画を立てておくことが重要です。
医科と歯科の併設に関する相談先
医科歯科の併設には法律・手続き・経営判断など、専門知識が必要な場面が数多くあります。とはいえ、どの段階で誰に相談すべきかが分かりにくく、見当違いの窓口に相談して時間を無駄にしてしまうこともあります。
段階に応じて、適切な相談先を押さえておくことが重要です。
| 段階 | 相談先 | 相談内容 |
|---|---|---|
| 計画段階 | 保健所 | 拡張か分院かの判断、施設基準の確認 |
| 手続き段階 | 行政書士 | 定款変更認可の申請手続き代行 |
| 戦略段階 | M&A仲介会社 | 法人の取得・承継を伴う場合の事業戦略 |
私たちエムステージマネジメントソリューションズでは、医科と歯科の併設を含む医院継承(M&A)のご相談を無料で受け付けています。
先生の状況に合わせたアドバイスが可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
医療法人の医科歯科併設に関するよくある質問
医科と歯科の併設について、先生からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 医科と歯科で保険医療機関番号は別になりますか?
別番号になります。拡張(同一施設として扱われる場合)であっても同様です。
たとえば茨城県のコード内容別医療機関一覧表では、「医科(歯科併設)」と「歯科(医科併設)」が別ファイルで掲載されています。
レセプト請求・会計処理もそれぞれ独立して行う形になります。
Q2. 個人クリニックのまま医科と歯科を併設できますか?
併設自体は可能です。個人開設の場合は定款がないため、定款変更の手続きは不要で、保健所への開設届の変更届で対応します。
ただし、個人開業では管理者を開設者本人が兼ねるのが原則です。たとえば医師が開設したクリニックに歯科を追加する場合、管理者は医師のままになります。
医療法人は分院ごとに別の管理者(理事)を置けますが、個人開業では管理者の使い分けをできない点はデメリットです。
Q3. 定款変更の費用はどのくらいかかりますか?
定款変更の認可申請自体に、手数料はかかりません。ただし、行政書士等の専門家に手続きを依頼する場合は、別途報酬が発生します。
また分院開設を伴う場合は、開設届・保険医療機関指定申請の手続き費用も加わる点を見込んでおきましょう。
まとめ|医科歯科の併設は定款変更で実現できる
医科と歯科の併設は、定款変更さえ行えば実現できます。ただし、拡張・分院の区分確認、常勤の管理者確保、設備投資の回収計画など、事前に詰めておくべき点は多くあります。
医院継承(M&A)を見据えている場合は、早めに専門家へ相談しておくと安心です。
私たちエムステージマネジメントソリューションズは、医科と歯科の併設を含む医院継承(M&A)をサポートしています。先生の法人運営の将来設計に向けて、ぜひお気軽にご相談ください。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにお問い合わせください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計70件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。
【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。