【2026年版】ヘルスケア業界のM&A動向を徹底解析!失敗しない継承のポイントと流れを解説
目次
人材不足や物価高騰、報酬改定への対応などヘルスケア業界を取り巻く経営環境は年々厳しさを増しており「事業をどう存続させるか」「競争力をどう高めるか」といった悩みを抱える経営者は少なくありません。
こうしたなか、業界全体で解決策として選ばれているのがM&Aです。特に医療機関においては、医師の高齢化による後継者不足に加え、2026年4月から本格化する「医師偏在対策(開業規制)」を見据えて、戦略的に医院継承を選ばれる先生や経営者も増えています。
そこで本記事では、ヘルスケア業界の定義から最新のM&A動向、メリット・デメリットまでを徹底解説します。M&Aを成功させるポイントも、売り手と買い手双方の視点から解説していますので、ぜひ参考にしてください。
ヘルスケア業界の定義
ヘルスケア業界と一言でいっても、その範囲は非常に広いものです。経済産業省は「ヘルスケア業界」について、下記のように定義しています。
“ヘルスケア産業=健康や医療、介護に関わる産業のうち、個人が利用・享受するサービスであり、健康保持や増進を目的とするもの、または公的医療保険・介護保険の外にあって患者/要支援・要介護者の生活を支援することを目的とするもの”
出典:経済産業省「令和5年度ヘルスケア 産業基盤高度化推進事業」
実際の業界で表すと、大きく下記4つに分類されるでしょう。
【医療機関分野】
病院、クリニック(診療所)、歯科診療所など、保険診療を中心とした医療サービスを提供する機関です。医師の高齢化と後継者不在が深刻化しており、M&Aニーズが高まっています。
【介護施設分野】
介護医療院、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、グループホームなど、高齢者向けの介護サービスを提供する施設です。特に日本は超高齢化社会になっていることから、今後も需要が拡大していくと考えられます。
【予防・健康増進分野】
フィットネスクラブ、健康食品、サプリメント、予防医療サービスなど、病気になる前の健康維持や増進を目的とした産業です。近年の健康意識の高まりとともに市場も拡大しています。
【ヘルステック(デジタルヘルスケア)分野】
オンライン診療プラットフォーム、健康管理アプリ、ウェアラブルデバイス、AIを活用した診断支援システムなど、テクノロジーを活用した新しいヘルスケアサービスです。スタートアップ企業が多く参入しており、大手企業によるM&Aが活発化しています。
ヘルスケア業界は2050年にかけて77兆円超えの市場規模

経済産業省の「令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業」によると、ヘルスケア産業の市場規模は2050年に向けて大幅な成長が見込まれています。

出典:経済産業省「令和5年度ヘルスケア 産業基盤高度化推進事業」
2020年時点で約25兆円だった市場規模は、2050年には77兆円を超えると予測されており、約3倍の拡大が見込まれています。超高齢化社会を迎えた日本において、ヘルスケアは最も成長が期待される産業の一つになっていて医療業界以外の参入も増えています。
今後ヘルスケア業界のM&Aが加速する要因
ヘルスケア業界でM&Aが加速している背景には日本の超高齢化社会だけでなく、構造的な問題や制度変更など、複数の要因が絡み合っています。特に2026年以降も、これから紹介する4つの要素によってM&Aの需要は高まっていくことでしょう。
医師・経営者の高齢化と後継者不在
ヘルスケア業界の中でも、特に医療機関に関して医師や経営者の高齢化が非常に深刻です。一番高齢化しているのが診療所で、2024年12月時点で平均年齢は60歳となっています。

出典:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
さらに子どもが医師ではなかったり、医師であったとしても親のクリニックを継ぐ意思がない(勤務医を希望する)ケースも増えており、後継者不在に悩む経営者も増加しています。このような状況下で、廃業を避けるためにもM&A(医院継承)を選択する医師が増えているのです。
関連記事:開業医の平均引退年齢|引退時に抱えがちな問題点と対策
医療制度の改革や経営環境の変化
医療機関を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。
- 診療報酬の改定による収益への影響
- 医師の働き方改革による人件費の増加
- 電子カルテやオンライン資格確認の義務化に伴う設備投資
- 光熱費や物価上昇による経営圧迫
これら複数の要因が重なり、特に小規模クリニックでは経営の継続が困難になるケースも出ています。こうした環境の変化に対応することが難しい医療機関にとって、M&A(医院継承)は地域医療を守りながら経営を安定化させる有効な選択肢にもなっています。
医師偏在による開業規制の本格化(2026年4月〜)
2026年4月からは、医師偏在指標に基づいた実質的な「新規開業規制」が本格化します。国は医師が不足している地域と過剰な地域を明確化し、「医師偏在指標」に基づいて都市部などの医師が多数配置されている区域での新規開業に対して強い規制をかける方針を示しています。
これによって人気エリア(集患が多く見込まれるエリア)で開業したくても「希望の診療分野で開業ができない」という事態が発生する可能性もあるわけです。
しかし、既存の医院を引き継ぐ「承継開業」であれば、この規制の影響を受けにくい(または回避できる)可能性があります。そのため、都市部での開業を目指す医師にとって、M&Aは「開業場所を確保する」ための極めて有効な手段として注目されています。
関連記事:【2026年4月施行】医師の開業規制に関する完全ガイド!今後の対策方法も解説
スタートアップの出口戦略が「IPO」から「M&A」へシフト
デジタルヘルスケア分野のスタートアップ企業において、出口戦略(イグジット)のトレンドが変化していることもM&A増加の大きな要因です。
かつては「上場(IPO)」が主な目標でしたが、近年は東証の市場再編による上場維持基準の厳格化や、審査難易度の上昇により、IPOのハードルが高くなっています。そのため、創業者が事業をより確実に成長させる手段として、大手企業や医療グループへの「M&A(バイアウト)」を選択するケースが増えています。
買い手側にとっても、医療DX化を加速させるための技術や人材をスピーディーに獲得できるため、今後さらに活発化するでしょう。
関連記事:医療法人における医療DX導入の完全ガイド!導入事例や注意点も徹底解説
ヘルスケア業界のM&Aに関するメリット
ヘルスケア業界のM&Aでは、売り手側は引退後の資金確保と地域医療の継続を実現でき、買い手側は新規開業に比べて初期投資を抑えながら既存の患者基盤をそのまま引き継げるのが魅力です。
また開業後もすぐに安定した診療収入が見込めるため、経営リスクも大幅に軽減できます。ここではヘルスケア業界の中でも、医療機関に関する売り手側と買い手側それぞれのメリットを詳しく解説します。
売り手側のメリット
売り手側にとってM&Aを活用する最大のメリットは、後継者が不在であっても長年築き上げてきた医院を存続させ、地域医療への貢献を継続できる点です。廃業となると患者の「かかりつけ医」がなくなるだけでなく、共に働いてきたスタッフも解雇せざるを得ません。第三者に承継することで、患者の診療とスタッフの雇用や生活を守ることが可能です。
また閉院となると、医療機器の処分やテナントの原状回復、カルテの保存などで多額のコストと手間がかかります。譲渡することでこれらのコストを回避し、そればかりかクリニックの資産や営業権(のれん)が評価されて創業者利益としての譲渡対価が得られます。
これによって引退後の資金不安を解消し、ゆとりある「ハッピーリタイア」が実現するのも魅力です。
買い手側のメリット
買い手側の最も大きなメリットは、2026年4月以降本格化する「医師偏在対策」による新規開業規制の影響も、承継開業であれば規制の影響を受けにくい可能性があることです。希望の地域で開業できる可能性が高まります。
さらに、M&Aはゼロからの新規開業と比較して、内装工事や高額な医療機器の購入といった初期投資を大幅に抑えられます。また、前院長から患者やスタッフをそのまま引き継げるため、集患や採用に時間を割くことなく、初月から一定の収益が見込めるのも魅力です。
このように、M&Aは新規開業に比べると低リスクかつスピーディーに事業を軌道に乗せることができる、非常に合理的な開業・拡大手段といえます。
ヘルスケア業界のM&Aに関する注意点
M&Aでは契約後にスタッフの大量離職や患者の流出、想定外の負債発覚などのトラブルが発生するケースがあります。特にデューデリジェンス不足によって承継後に経営が悪化したり、理念の不一致から地域での評判が低下してしまったという失敗もあります。
M&Aで失敗しないためにも、これから紹介する注意点と対処方法を理解しておきましょう。
売り手側の注意点
売り手側が最も注意すべきは譲渡価格の設定です。医療機関の価値は時価純資産に営業権を加えて算定されますが、評価方法は複数存在し、仲介会社によっても提示額が大きく異なります。適正価格を把握せずに交渉すると、本来得られる対価を下回る条件で契約する可能性があります。
関連記事:クリニックのM&Aにおける「のれん」とは?営業権との違い・算出方法
また、M&Aの検討段階における情報漏洩に注意しましょう。まだ何も決まっていない段階で噂が広まるとスタッフの動揺を招き、大量離職や患者離れにつながる恐れがあります。M&Aそのものが破談になるリスクもあるため、スタッフや患者への説明は専門家と相談の上、適切なタイミングで行うことが極めて重要です。
買い手側の注意点
買い手側が最も警戒すべき点は、承継後に発覚する潜在的なリスクです。スタッフへの未払い残業代などの「簿外債務」や、過去に医療事故や患者トラブルなどが発生していた場合には悪評も引き継いでしまうリスクがあります。
これらのリスクを回避するためにも、財務・法務・税務などの専門的な調査(デューデリジェンス)を徹底し、医院の実態を正確に把握することが不可欠です。
双方の注意点
売り手側と買い手側が注意しなければならないのが「経営理念や組織風土の一致」です。単純に「お金」の面だけでM&Aを決めてしまうのは避けましょう。売り手側が大事にしていた経営理念が承継後に意図せず全く違うものになってしまったり、買い手側も資産とも言える大事なスタッフが離職したり患者が離れたりしてしまうためです。
そこでトップ面談などでお互いの診療方針や「患者さんやスタッフをどう大切にするか」といった価値観を確認しあうことも重要です。
関連記事:医院継承(M&A)のトップ面談とは?スムーズな承継を実現するポイントを解説
ヘルスケア業界のM&A(医院継承)の成功事例
私たちエムステージマネジメントソリューションズが承継の支援をした事例の中から、ハッピーリタイアを実現した成功事例をご紹介します。
東京都で30年間小児科クリニックを運営してきた青山先生(仮名・65歳)は、60歳をすぎたあたりから経営のリタイアを考え始めました。そこで青山先生には子どもがいなかったため、第三者への承継を検討されます。ただ当時、小児科専門クリニックは買い手候補が少なく、複数のM&A仲介会社に依頼してもなかなかマッチングに至りませんでした。
そこで私たちにご依頼いただき、医療業界の幅広いネットワークを活用して3つの買い手候補者様をご紹介しました。青山先生はその中から隣県で複数のクリニックを展開されている医療法人の経営者「馬場氏(仮名)」と面談を行い、譲渡価格の丁寧な調整や退職金と持分譲渡を組み合わせたスキームの提案によって、1年強で成約となりました。
青山先生は希望通り65歳でリタイアでき、承継後のクリニックは患者数・収益ともに増加し、買い手側の馬場氏も早期の投資回収が実現する見込みとなっています。
関連記事:【東京×小児科】粘り強く医院継承先を探し、希望通りのリタイアメントを実現
医院継承におけるM&Aの相場と評価方法
医院継承における譲渡価格は、非常にシンプルにすると下記の式で算出されます。
譲渡価格の目安 = 時価純資産 + 営業権(のれん代)
- 時価純資産:資産から負債を引いた時価評価額
- 営業権:収益力やブランド価値(修正営業利益の1〜3年分程度)
たとえば時価純資産が3,000万円、年間実質利益が2,000万円のクリニックの場合、譲渡価格7,000万円という計算です。
譲渡価格 = 3,000万円(時価純資産) + 4,000万円(営業権:実質利益の2年分) = 7,000万円
ただしこれはあくまで大まかな評価方法の目安で、実際の譲渡価格は様々な要素が考慮されます。
関連記事:医院・クリニックの売却相場|価格の考え方や計算方法を解説
医院継承のM&A成約までの流れと期間
医院継承(M&A)は、一般的に相談から成約まで6か月〜1年程度の期間がかかります。
【医院継承までの流れ】
1. 初回相談・秘密保持契約の締結
まずはM&A仲介会社に相談し、秘密保持契約を締結します。この段階で、クリニックの概要や希望条件を伝えます。
2. 譲渡価格の算定・譲渡候補先の選定
クリニックの財務状況や事業内容を分析し、適正な譲渡価格を算定します。その後、買い手候補をリストアップしてマッチングを進めます。
3. トップ面談
売り手と買い手が直接顔を合わせ、経営理念や診療方針、今後の展望などについて話し合います。この面談で、お互いの相性を確認することが重要です。
4. 基本合意書の締結
トップ面談で合意が得られた場合、譲渡価格や譲渡条件などの基本的な事項を記載した基本合意書を締結します。
5. デューデリジェンス(買収監査)
買い手側がクリニックの財務状況、法務状況、ビジネス状況などを詳細に調査します。簿外債務や訴訟リスクがないかを確認する重要なプロセスです。
6. 最終契約の締結
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な譲渡価格や条件を決定し、最終契約書を締結します。
7. クロージング(引き渡し)
契約に基づき、クリニックの引き渡しを行います。行政への届出、スタッフや患者への説明、資産の譲渡などを実施し、M&Aが完了します。
関連記事:医師のクリニックの開業スケジュールを徹底解説!新規と承継開業それぞれの流れを紹介
ヘルスケアのM&Aで失敗しないためのポイント
M&Aのあと「スタッフが大量離職した」「想定外の負債が発覚した」「患者が離れて経営が悪化した」といった失敗事例は少なくありません。特にデューデリジェンス不足や理念の不一致によって、承継後に大きなトラブルに発展するケースも見られます。
こうした失敗を避けるためにも、売り手と買い手の双方が押さえるべき4つのポイントを解説します。
医療業界に精通したM&A専門家・アドバイザーを選定する
医療業界のM&Aを成功させるためには、医療業界特有の法規制にも精通した専門家のサポートを受けましょう。一般的なM&A仲介会社では、医療法や診療報酬制度、医師偏在対策などの専門知識が不足している場合があるためです。
医療業界に特化したM&A仲介会社を選ぶことで、適切な譲渡価格の算定や買い手候補の選定、行政手続きのサポートなど、スムーズなM&Aが実現します。また、医療経営士などの資格を持ったコンサルタントのいる会社であれば、経営面でのアドバイスも受けられるためさらに安心です。
条件面だけでなく「診療方針」や「理念」の一致も確認する
M&Aは単なる資産の売買ではありません。売り手側が長年築いてきた患者との信頼関係やスタッフとの絆をどう引き継ぐかが重要です。そのため、トップ面談では条件面だけでなく、診療方針や経営理念が一致しているかを確認しましょう。
たとえば売り手側が「患者一人ひとりに寄り添った丁寧な診療」を大切にしてきたのに、買い手側が「効率重視の診療」を目指している場合、承継後にスタッフや患者が離れてしまうリスクがあります。お互いの価値観を確認し、信頼関係を築くことが円滑な承継のカギです。
徹底したデューデリジェンスを実施する
買い手側にとって、多額の借入金や簿外債務は大きなネガティブ要素となるため、徹底的なリスクの洗い出し(デューデリジェンス)が不可欠です。
一方で売り手側は財務内容を良く見せようと、安易に役員借入金の「債務免除」などを先に行うのはリスクがあるので避けましょう。万が一M&Aが成約しなかった場合に、多額の「債務免除益」に対する税負担だけが残ってしまうためです。
こうした事態を防ぐためにも、デューデリジェンスを通じて双方がリスクを正確に把握し、成約の確度が高まった適切なタイミングで債務処理を行うことが重要です。
第三者に承継を検討する場合、債務整理のタイミングはM&A仲介会社と相談した上で行いましょう。
成約後も「PMI(統合プロセス)」が重要
M&Aは契約が終わればすべて完了というわけではありません。むしろ成約後の丁寧な統合プロセス(通称PMI:Post Merger Integration)が承継の成功を左右するといっても過言ではありません。
特に重要なのは、スタッフや患者への丁寧な説明と新院長への信頼構築です。たとえば承継後しばらくは前院長と新院長が一緒に診療に入り、患者やスタッフとの関係を引き継ぐ期間を設けることも効果的です。
M&A仲介会社を選ぶ際も、またアドバイザーと相談する際にも、M&Aのあとの引き継ぎに関するサポートをしてもらえるのか確認しておきましょう。
ヘルスケアのM&Aで失敗しないためのポイント
M&Aのあと「スタッフが大量離職した」「想定外の負債が発覚した」「患者が離れて経営が悪化した」といった失敗事例は少なくありません。特にデューデリジェンス不足や理念の不一致によって、承継後に大きなトラブルに発展するケースも見られます。
こうした失敗を避けるためにも、売り手と買い手の双方が押さえるべき4つのポイントを解説します。
医療業界に精通したM&A専門家・アドバイザーを選定する
医療業界のM&Aを成功させるためには、医療業界特有の法規制にも精通した専門家のサポートを受けましょう。一般的なM&A仲介会社では、医療法や診療報酬制度、医師偏在対策などの専門知識が不足している場合があるためです。
医療業界に特化したM&A仲介会社を選ぶことで、適切な譲渡価格の算定や買い手候補の選定、行政手続きのサポートなど、スムーズなM&Aが実現します。また、医療経営士などの資格を持ったコンサルタントのいる会社であれば、経営面でのアドバイスも受けられるためさらに安心です。
条件面だけでなく「診療方針」や「理念」の一致も確認する
M&Aは単なる資産の売買ではありません。売り手側が長年築いてきた患者との信頼関係やスタッフとの絆をどう引き継ぐかが重要です。そのため、トップ面談では条件面だけでなく、診療方針や経営理念が一致しているかを確認しましょう。
たとえば売り手側が「患者一人ひとりに寄り添った丁寧な診療」を大切にしてきたのに、買い手側が「効率重視の診療」を目指している場合、承継後にスタッフや患者が離れてしまうリスクがあります。お互いの価値観を確認し、信頼関係を築くことが円滑な承継のカギです。
徹底したデューデリジェンスを実施する
買い手側にとって、多額の借入金や簿外債務は大きなネガティブ要素となるため、徹底的なリスクの洗い出し(デューデリジェンス)が不可欠です。
一方で売り手側は財務内容を良く見せようと、安易に役員借入金の「債務免除」などを先に行うのはリスクがあるので避けましょう。万が一M&Aが成約しなかった場合に、多額の「債務免除益」に対する税負担だけが残ってしまうためです。
こうした事態を防ぐためにも、デューデリジェンスを通じて双方がリスクを正確に把握し、成約の確度が高まった適切なタイミングで債務処理を行うことが重要です。
第三者に承継を検討する場合、債務整理のタイミングはM&A仲介会社と相談した上で行いましょう。
成約後も「PMI(統合プロセス)」が重要
M&Aは契約が終わればすべて完了というわけではありません。むしろ成約後の丁寧な統合プロセス(通称PMI:Post Merger Integration)が承継の成功を左右するといっても過言ではありません。
特に重要なのは、スタッフや患者への丁寧な説明と新院長への信頼構築です。たとえば承継後しばらくは前院長と新院長が一緒に診療に入り、患者やスタッフとの関係を引き継ぐ期間を設けることも効果的です。
M&A仲介会社を選ぶ際も、またアドバイザーと相談する際にも、M&Aのあとの引き継ぎに関するサポートをしてもらえるのか確認しておきましょう。
ヘルスケアのM&Aに関するよくある質問
ヘルスケア業界のM&Aを検討する際、多くの医師から「医療法人を株式会社に売却できるのか」「費用はいくらかかるのか」「本当にメリットがあるのか」といった質問をいただきます。ここでは、M&Aを検討する上で特によく寄せられる3つの質問に回答します。
医療法人のM&Aのメリットは?
医療法人のM&Aには、売り手側と買い手側それぞれに大きなメリットがあります。
| 売り手側のメリット | 買い手側のメリット |
|---|---|
| 地域医療を継続できるスタッフの雇用を維持できる廃業コストを回避できる譲渡対価が得られる | 新規開業に比べて初期投資を抑えられる既存の患者基盤とスタッフをそのまま引き継げる開業規制の影響を受けにくい |
医療法人を株式会社に売却できますか?
医療法により、医療法人は営利法人である株式会社に直接売却はできません。ただし、一定のスキームを用いることで、株式会社が実質的に医療法人を取得することが可能です。
たとえば株式会社が医療法人の出資持分を取得したり、株式会社が設立した医療法人が既存の医療法人を吸収合併するといった方法があります。ただし、これらのスキームは複雑で法的なリスクも伴うため、必ず専門家に相談しましょう。
M&Aにかかる費用はいくらですか?
仲介会社により異なりますが「着手金+中間金+成功報酬」という手続きの段階ごとに費用が発生するタイプと、M&Aが成立するまで費用はかからない「完全成功報酬」が一般的です。
【相談料・着手金】
初回相談は無料の会社が多いですが、着手金として数十万円〜数百万円かかる場合があります。
【中間金】
基本合意書締結時に、成功報酬の一部を中間金として支払う場合があります。
【成功報酬】
M&Aが成約した際に支払う費用で、譲渡価格に応じて変動します。一般的には「レーマン方式」と呼ばれる料金体系が用いられ、譲渡価格の3%〜5%程度が目安です。
関連記事:医院継承のM&A手数料の種類と相場は?費用を抑えるポイントも解説
まとめ|ヘルスケアのM&Aは専門家への早期相談が成功のカギ
ヘルスケア業界のM&Aは、2026年の医師偏在対策や後継者不足を背景に、今後ますます活発化することが予想されます。売り手にとっては「ハッピーリタイアと地域医療の存続」、買い手にとっては「開業規制の回避とリスク低減」という大きなメリットがあります。
ただ医療機関の承継は法規制が複雑で、専門的な知識と経験が不可欠です。また、準備から成約までには時間がかかるため、少しでも検討を始めたら、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
私たちエムステージマネジメントソリューションズは、医療業界に特化したM&A仲介会社として、21年以上の実績と1.7万件以上の医療機関とのネットワークを活かし、あなたの医院継承を全力でサポートいたします。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにお問い合わせください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。
【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。