院内処方で違法な行為は?薬剤師のいない状態で行える調剤業務を解説
目次
院内処方を行う際には、薬剤師法や医師法などの法律を遵守しなければなりません。
薬剤師以外の従業員が調剤を行ったり診察を行わずに薬を処方したりすると、患者の安全を脅かすだけでなく、従業員に厳しい罰則が科される可能性もあります。
本記事では、院内処方で違法行為に該当するケースや薬剤師が不在の状態で行える調剤業務について具体的に解説します。
薬剤師しか行えない業務、薬剤師以外でも行える業務の区別をしっかりと理解し、適切に院内処方を行いましょう。
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院内処方の条件として薬剤師が必要
クリニックが院内処方を行う場合には、調剤業務が発生するため薬剤師が必要です。
これは、薬剤師法によって定められています。
第19条 薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。 |
出典:薬剤師法|法令リード
例外的に医師の処方が認められるケースがあるものの、原則として薬剤師以外の調剤は認められていません。
なお「処方」は薬を提供することで「調剤」は薬を調剤する行為のことを指します。
クリニックで院内処方を行う場合には、まずは薬剤師を確保する必要があります。
違法性のある院内処方のケース
院内処方を行うには、医師法や薬剤師法などの法律を遵守しなければなりません。
法律に違反する行為は患者の安全性を脅かすだけでなく、医師や医療スタッフ、薬剤師などが罰則の対象となる可能性があります。
ここでは、よくある違法な院内処方のケースを解説します。
- 医師の指示のもと事務員や看護師が調剤を行った
- 薬剤師の不在時に医療事務スタッフが調剤を行った
- 医師が通院患者の診察をせずに薬の処方を行った
上記は一見して効率的に思えるかもしれませんが、すべて法律違反となるため注意してください。
医師の指示のもと事務員や看護師が調剤を行った
医師の指示で事務員や看護師による調剤を行った場合には、薬剤師法違反となります。
たとえ医師の監督下であっても、事務員や看護師に調剤作業を任せることはできません。
人手不足を補うために、事務員や看護師に調剤を任せてしまうケースも実際にはあるようですが、違法行為となるため注意が必要です。
薬剤師の不在時に医療事務スタッフが調剤を行った
薬剤師が不在の時間帯に調剤が必要になり、医療事務スタッフなどが一時的に調剤を行うことも違法行為になります。
いかなる状況でも医療事務スタッフの調剤に該当する業務は認められていません。
薬剤師が不在のときには院外処方に切り替えたり、薬剤師が不在の時間帯を作らないシフト管理が必要です。
医師が通院患者の診察をせずに薬の処方を行った
薬剤師が在籍していたとしても、医師が患者を診療せずに薬を処方する行為は医師法の違反となります。
医師法第20条によって、医師が自らが診察をせずに治療や診断書、処方箋の交付を行うことが禁止されています。
第20条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。 |
出典:医師法|法令リード
たとえ通院患者から「診察は時間がかかるし、いつももらっている薬だけが欲しい」といわれたとしても、診療を行う必要があります。
しかし2022年に導入された「リフィル処方箋」であれば、医師が処方した薬を一定の期間再診なしで処方することが可能です。
関連記事:リフィル処方箋とは?制度概要とクリニックや診療所への影響
違法な院内処方を行った場合の罰則
違法な院内処方を行った場合、法律に基づいて複数の罰則が科される可能性があります。
たとえば調剤の基本原則となる、薬剤師法の第19条に違反した場合には下記の罰則が科せられます。
医師・歯科医師又は獣医師 | 左記以外の者 |
50万円以下の罰金 | 3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金 |
また、違法な調剤行為が原因で患者の健康に重大な影響をおよぼしたり、死亡したりした場合には業務上過失致死傷罪に問われる可能性もあります。
業務上過失致死傷罪の罰則は「5年以下の懲役もしくは禁固、または100万円以下の罰金」です。
また、刑事罰に加えて民事上の損害賠償責任も発生します。
被害の程度によっては、数千万円規模の賠償金を支払わなければならないケースもあります。
薬剤師がいない場面で医師による院内処方が行えるケース
薬剤師がいない状況下での院内処方は、基本的に例外的なケースに限って認められています。
薬剤師法および医師法で定められた以下2つの条件に該当する場合のみ、医師による調剤が可能です。
- 患者や看護している人が医師による薬剤交付を希望したとき
- 医師法第22条に該当するとき
それぞれ詳しく解説します。
患者や看護している人が医師による薬剤交付を希望したとき
患者や看護している人が「医師に調剤をしてもらいたい」と希望した場合には、医師自身による調剤が認められています。
これは薬剤師法の第19条に、例外的なケースとして記載されています。
ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合において自己の処方せんにより自ら調剤するとき、又は獣医師が自己の処方せんにより自ら調剤するときは、この限りでない。 患者又は現にその看護に当たつている者が特にその医師又は歯科医師から薬剤の交付を受けることを希望する旨を申し出た場合 |
出典:薬剤師法|法令リード
ただしこの場合においても、医師が医療スタッフに調剤業務を行わせるのは違法です。
あくまでも患者や看護者から希望があった場合に「医師自身が調剤すること」が認められています。
医師法第22条に該当するとき
医師が自ら処方、調剤を行えるもうひとつのケースは、医師法第22条に該当する場合です。
こちらも「医師が自己の処方で自ら調剤を行う行為が認められるケース」として、薬剤師法の第19条の中に記載があります。
医師法(昭和23年法律第201号)第22条各号の場合又は歯科医師法(昭和23年法律第202号)第21条各号の場合 |
出典:薬剤師法|法令リード
医師自身の調剤が認められるのは、以下8つのパターンです。
一 暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合 二 処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合 三 病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合 四 診断又は治療方法の決定していない場合 五 治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合 六 安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合 七 覚せい剤を投与する場合 八 薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合 |
上記8つのパターンに該当する場合には、医師自らが調剤を行うことが可能です。
薬剤師以外の従業員が行っても違法にはならない業務内容
厚生労働省は薬剤師の対人業務を充実させ、業務負担を軽減する観点から、2019年4月に「調剤業務のあり方について」という通知を発表しました。
この通知では調剤業務の効率化を図るため、薬剤師以外の従業員が実施可能な業務の範囲を明確に示しています。
ここでは、厚生労働省が認めている「薬剤師が直接見える範囲内での調剤業務」と「薬剤師がいなくても行える業務」を解説します。
薬剤師が直接見える範囲内での調剤業務
以下のような業務は、薬剤師が直接見える範囲内での業務に限り、薬剤師以外の従業員でも行えます。
- シート包装された薬(PTPシート)の必要数を数えて取り揃える作業
- 一包化(1回分ずつ小分けにすること)した薬の数を数える作業
上記は単純作業かつ薬の品質に影響も与えず、患者に危害が及ばない業務として、薬剤師以外の従業員が行うことを認めています。
ただしこれらの業務を行う場合でも、あくまで薬剤師の指示が必要です。
従業員が独自で判断し、業務を行うことは認められていないので注意してください。
また、いかなる場合においても軟膏剤や水剤、散剤を軽量したり混合したりする業務は薬剤師しかできません。
薬剤師がいなくても行える業務
下記2点の業務は「調剤に該当しない行為」として取り扱われるため、薬剤師が見ていない環境でも行えます。
- 納品された医薬品を棚に納める作業
- 調剤済みの薬をお薬カレンダーや配薬カートに入れる作業
これらの業務を行う前提条件として、薬の適切な管理体制が必要です。
調剤行為に該当しないため、薬剤師が不在の場合でも問題なく行えます。
院内処方の無資格調剤は立ち入り検査や通報で発覚する
無資格調剤の実態は、保健所による定期的な立ち入り検査や医療従事者からの通報(内部告発)によって発覚するケースも多いです。
ここでは無資格調剤が明らかになった事例を2つ紹介します。
それぞれ薬局における事例ではあるものの、クリニックでも同様のケースが起こることが予測できます。
保健所の立ち入り検査
医療機関が法令に則った医療行為を行っているのか調査するために、保健所は定期的な立ち入り検査を行います。
ある薬局では薬剤師不在時に事務員が調剤を行っていた違法行為が保健所の立ち入り検査で発覚し、12日間の業務停止処分となりました。
この事例では薬剤師が不在の状態で約2か月にわたり、毎週特定の曜日に事務員1名が処方箋に基づいて数百件もの調剤を行い、患者に薬を交付していたのです。
保健所の立ち入り検査は、このような患者の安全を脅かすような医療行為の実態を調査するため、定期的に実施したり第三者の通報によって臨時的に実施されたりすることもあります。
従業員による通報(内部告発)
医療機関の無資格調剤は、従業員からの内部告発によって発覚するケースも多くあります。
ある大手調剤薬局チェーンでは、事務員が厚生労働省や保健所、複数の全国紙や業界紙に対して内部告発を行ったことで、無資格調剤が明らかになりました。
この事例において会社側は、最初の保健所の立ち入り調査でも業界紙からの問い合わせに対しても「無資格調剤の実態はない」と否定し続けました。
しかし、内部告発者が提供した具体的な情報によって、事務員による無資格調剤の実態が明らかになります。
さらに深刻なことに、立ち入り検査を受けた会社側は無資格調剤の事実関係の調査よりも、内部告発者の特定を優先しました。
告発者を特定して黙らせることで、事態を収束させようとする隠蔽体質も露呈した結果となったのです。
違法性のある院内処方は従業員の不信感にもつながる
残念ながら医師の指示によって、無資格の従業員が調剤を行う事例は一定数存在しています。
実際に多くの医療事務スタッフや看護師が、インターネット上の掲示板などで「医師から調剤を指示されて困っている」「これは違法なのでは?」といった相談を投稿しているのが現実です。
このような状況は従業員の職場に対する不信感を大きくさせ、離職する可能性も高くなります。
それだけでなく、知識や経験のない従業員に調剤を任せる行為は、医療事故のリスクを高めることにもなりかねません。
目の前の人手不足や業務効率を優先するあまりに無資格調剤を指示してしまうのは、従業員が抱える不安や負担、さらには患者の安全性までも軽視した行為になってしまいます。
患者はもちろんのこと、従業員も安心して働ける環境を作り上げるためにも、法令を遵守した適切な人員配置と業務体制の構築が不可欠です。
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違法にならないための院内処方の運用方法
院内処方において違法な調剤行為をしてしまわないように、明確な運用ルールを定めて徹底することが重要です。
ここでは無資格調剤を防ぎ、適切な院内処方を実現するための具体的な方法を、3つ解説します。
- 薬剤師のシフト管理を徹底する
- 薬剤師がいないときには院外処方にする
- 薬剤師以外の従業員が行える業務内容を明文化する
適切な運用体制を構築しておくことで、患者の安全を守りながらスタッフも安心して働ける環境が整います。
薬剤師のシフト管理を徹底する
院内処方を適切に運用するには、薬剤師の勤務時間を確実に確保することが重要です。
具体的には以下のポイントに注意して、シフトの作成を行うようにしましょう。
- 診療時間中は必ず薬剤師が在籍するようにシフトを組む
- 薬剤師の休憩時間や急な休暇にも対応できるように複数の薬剤師を雇用する
また、忙しい時間などは薬剤師を多めに配置するなど、業務過多を防ぐ施策も大切です。
薬剤師がいないことで調剤業務が滞ったり、意図せずとも従業員が無資格調剤に該当する業務を行ったりしてしまわないためにも、適切なシフト管理が欠かせません。
薬剤師がいないときには院外処方にする
小規模のクリニックでは薬剤師1名の体制で運営されることも多く、その場合は薬剤師の不在時に無資格調剤が行われるリスクが高まります。
また、薬剤師が複数人在籍していたとしても、どうしてもシフト調整が合わずに薬剤師が不在となる時間帯や日程が発生してしまうこともあるでしょう。
このようなケースの対応策として、院外処方にも対応できるように体制を整えておくことが大切です。
ただし、院内処方から一時的に院外処方へ切り替える際には、患者への説明や配慮も欠かせません。
たとえば「申し訳ありませんが、薬剤師不在のため安全な医療提供の観点から院外処方とさせていただく」と丁寧に説明をすれば、患者も「このクリニックはしっかりとルールを守っている」と理解し、また今後も安心して通院してもらえるでしょう。
薬剤師以外の従業員が行える業務内容を明文化する
薬剤師の業務効率を上げながら法令違反を防ぐには、薬剤師以外の従業員が実施可能な業務範囲を明確に定めることが重要です。
たとえば厚生労働省が「薬剤師以外の従業員が行っても良い業務」として明文化している内容を下記のような表にしてプリントし、クリニック内で従業員が目視できる場所に掲示しておくなども効果的です。
薬剤師の監視下でできる業務 | 薬剤師が不在でもできる業務 | 絶対にできない業務 |
PTPシートの必要数のカウント一包化された薬剤の数量確認薬剤の在庫管理補助 | 納品された医薬品の棚入れ作業調剤済み薬剤のお薬カレンダーへの配置調剤済み薬剤の配薬カートへの配置 | 散剤や水剤の計量軟膏剤の混合一包化作業処方箋に基づく調剤作業全般 |
業務可能な区分を明文化しておくことで、従業員が意図せずに違法な行為を行うリスクも軽減でき、安心して働ける環境ができます。
また、保健所が立ち入り検査を行った際にも、適切な業務管理を行っていると評価されるポイントにもなるでしょう。
違法な院内処方にならないためも薬剤師と医師による連携が重要
院内処方における無資格調剤は法令違反だけでなく、患者の安全を脅かし、従業員の不安も大きくさせる深刻な問題です。
これを防ぐためには、薬剤師と医師の連携が欠かせません。
特に重要なのは医師が薬剤師の専門性を尊重し、人手不足や業務効率を理由に事務職員や看護師に調剤業務の指示をしないことです。
薬剤師も医師と積極的にコミュニケーションを取り、処方内容の確認や疑義照会を適切に行うことで、医療安全の向上に貢献できます。
このような連携体制は、医薬分業の本来の目的である「ダブルチェック」を果たすことにもつながります。
より安全で質の高い医療サービスを提供するためにも、院内処方を実施する際には薬剤師の適切な配置が欠かせません。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。