税務

医療法人と個人事業主の違いは?税金や迷った場合のポイントを解説

公開日
更新日
医療法人と個人事業主の違いは?税金や迷った場合のポイントを解説
医療法人と個人事業主の違いは?税金や迷った場合のポイントを解説

クリニックの開業を検討している際に、医療法人と個人事業主どちらが最適なのか悩まされる方は多いと思います。

選択を誤ると税負担の増加や経営の自由度の制限など、さまざまなデメリットが発生する可能性もあるため慎重に選択しなければなりません。

本記事では医療法人と個人事業主それぞれのメリット・デメリットや税金の違い、選択に迷った際の判断基準について具体的に解説していきます。

病院・クリニックの承継をご検討中の方はプロに無料相談してみませんか?
エムステージグループの医業承継支援サービスについての詳細はこちら▼

医療法人と個人事業主(個人クリニック)における運営方針の違い

医療機関の経営形態には大きく分けて「医療法人」と「個人事業主(個人クリニック)」の2つがあります。

それぞれ特徴が大きく異なるため、自身の経営方針に合った形態での開業が重要です。

ここでは医療法人と個人事業主の、基本的な運営方針の違いを解説します。

医療法人とは

医療法人とは、医療法に基づいて設立された法人のことです。

主な目的は地域医療への貢献や患者の健康を守ることで、利益の追求を優先しない非営利組織です。

医療法人を設立するには、各都道府県知事から認可を受けなければなりません。

法人格のため社会的に信用度は高くなり、資金調達や契約は比較的スムーズに行えますが、非営利組織であるために余剰金の配当はできません。

定期的に社員総会を開催したり事業報告書を提出したりなど、個人事業主に比べると運営上の義務や手続きも増加します。

個人事業主(個人クリニック)とは

個人事業主(個人クリニック)とは、医師個人が経営する医療機関のことを指します。

医療法人とは異なり利益の追求を目的とした運営も可能で、クリニックで得た収入も個人の所得として自由に使えます。

医療法人に比べると運営上の制約も少なく、設備投資や経営方針の意思決定も自身の判断で行える自由度の高さが魅力です。

医療法人と個人事業主の税金の違い

医療法人と個人事業主では、適用される税金の種類が大きく異なります。

ここでは、それぞれに発生する主な税金の種類を解説します。

医療法人にかかる税金

医療法人には、主に以下のような税金が課せられます。

税金の種類概要
法人税医療法人の事業活動で得た利益に対して課せられる税金
地方法人税上記の法人税額に対して課せられる国税
法人住民税事業を行う都道府県や市町村に対して納める税金
法人事業税医療法人の事業活動に対して課される税金
固定資産税医療法人が所有している建物や医療機器などに課せられる税金

医療法人の法人税は資本金の金額や年間の所得によって、15%〜23,2%の税率が課せられます。

区分税率(令和4年4月1日以降の事業開始)
資本金1億円以下の医療法人年間所得が800万円以下の部分:15%年間所得が800万円超の部分:23.2%
資本金1億円超の医療法人23.2%

出典:国税庁|法人税の税率

医療法人の場合、所得に応じて軽減税率を受けられたり「特定医療法人」として承認された際に軽減税率が受けられたりなど、さまざまな優遇措置が設けられています。

医療法人に課せられる税金は所在地や医療法人の規模によっても異なるため、専門家である税理士などに相談するのがおすすめです。

個人事業主にかかる税金

個人事業主の場合には、以下のような税金が課せられます。

税金の種類概要
所得税事業で得た利益に対して課せられる税金
住民税居住している都道府県や市町村に対して納める税金
個人事業税事業を行うことに対して課せられる税金
固定資産税建物や医療機器などに課せられる税金

個人事業主の所得税は、所得が高くなるほど税率も高くなる「累進課税制度」が適用されて、5%から最大45%までの7段階が設けられています。

そのため医療法人に比べると、個人事業主のほうが税金の負担が大きくなりやすい仕組みです。

医療法人のメリット・デメリット

医療法人には税制面での優遇や社会的な信用度の向上など、経営面でのメリットがある一方で運営上の制約や事務負担の増加などのデメリットがあります。

ここでは医療法人化による具体的なメリット・デメリットを詳しく解説していきます。

メリット

医療法人化して運営することで、以下のようなメリットがあります。

  • 節税がしやすい
  • 社会的な信用度が高い
  • 医院継承(医業承継)がしやすい
  • クリニックの複数展開がスムーズ

それぞれ詳しく解説します。

節税がしやすい

医療法人は税金面で大きなメリットがあります。

個人事業主の場合、所得税は累進課税になっていて最大45%の税率が適用されますが、医療法人の場合は法人税が最大23.2%と、税負担が大きく違います。

医療法人なら自身の役員報酬を経費計上できるため、課税対象となる所得を減らすことも可能です。

また退職金の支払いも経費として認められるため、将来的な節税対策もできます。

医療法人化によって、さまざまな節税方法を活用できるのがメリットと言えます。

社会的な信用度が高い

医療法人は手続きを行えば誰でも設立できるわけではなく、都道府県知事の認可を受けることで初めて設立可能なため、個人事業主に比べると社会的な信用度も高くなります。

特に金融機関から融資を受ける際にも、医療法人のほうが信用度が高いため融資もスムーズに行くでしょう。

また、医療法人は求職者からのイメージも良くなる傾向にあります。

求職者からすると「医療法人」が付いているほうが、安定した将来性をもたれるイメージは強い傾向にあります。

医療法人化は簡単にできるものではない分、ネームバリューとしてのメリットが大きい点も魅力です。

医院継承(医業承継)がしやすい

医療法人化しておくことで、医院継承時に譲渡手続きがシンプルで行いやすいメリットがあります。

個人経営のクリニックを医院継承する場合は売り手側が閉院の手続きを行ったのち、買い手側が新規開業の手続きをしなければならないため、両者に煩雑な手続きが必要です。

一方で医療法人のクリニックであれば、医院継承時の主な手続きは出資持分がない場合には理事長の交代のみ、出資持分がある場合には譲渡や払い戻しと理事長の交代を行います。

クリニックを運営している法人はそのままで経営者のみ交代するだけですので、手続き上クリニックを一度閉院する必要もなくスムーズな承継ができます。

クリニックの複数展開がスムーズ

クリニックを複数展開する場合にも、医療法人なら開業や運営がスムーズにできます。

個人事業主が複数のクリニックを開業する場合には、個別に開設手続きや管理を行わなければなりませんが、医療法人の場合は法人名義で一括した運営ができるからです。

医療法人として一括管理することで、経営面にもメリットがあります。

たとえばそれぞれのクリニックに必要な医療機器のリース契約や医薬品の購入も、医療法人として一括で行うことで、価格交渉もスムーズに行えます。

また、従業員も法人として一元管理できるため、各クリニックに対して必要な人員配置をすることも可能です。

デメリット

医療法人化には運営上の制約や事務作業の増加など、個人事業主に比べて下記のような負担や制限が生じます。

  • 社会保険の加入が必須
  • 事務管理や手続きが増える
  • 利益や財産を自由に扱えない

医療法人化を検討する際には、あらかじめデメリットについても十分に理解しておく必要があります。

社会保険の加入が必須

医療法人では従業員が5人以上いる場合、以下のような社会保険への加入が法律で義務付けられています。

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 労働保険

上記の保険料は給与に応じて決まり、医療法人も毎月費用を負担しなければなりません。

また、毎月の保険料の計算や納付の手続き、従業員の社会保険の資格取得や喪失手続きなど、専門的な事務作業も増加します。

これらの業務も、一般的には社会保険労務士などに業務委託されるケースがほとんどです。

事務手続きや管理が増える

医療法人は、法人組織として運営するために必要な事務手続きや管理業務が増加します。

特に重要な手続きが、都道府県知事への事業報告書の作成や提出、資産総額の変更登記です。

事業報告書は医療法人の事業内容や財務状況を詳細に記載する必要があり、貸借対照表や損益計算書などの決済書類も添付しなければなりません。

また、毎事業年度末から3か月以内に、資産総額の登記を行う必要もあります。

さらに社員総会を年1回以上、理事会を年2回以上開催しなければなりません。

社員総会では事情報告や決済報告を行い、理事会では重要な意思決定事項に関する決議をしたり、議事録の作成や保管をしたりする必要があります。

医療法人として運営する場合には、専門的な知識が必要な業務や管理が増えます。

これらの数多くの業務を適切に行うためにも、税理士や社会保険労務士などの専門家と業務提携をしたり事務担当の従業員を雇用したりするのが一般的です。

利益や財産を自由に扱えない

医療法人は非営利組織として定められているために、利益や財産の使用には制限があります。

最も大きな制限は、医療法人で得た利益は役員報酬や職員の給与に使うのみで、個人的には使用できない点です。

また、医療法人の資産を活用して、不動産投資や株式投資などの収益事業も行えません。

医療法人が最優先すべき目的の「地域医療の貢献や患者の健康を守ること」から逸脱してしまわないように、利益や財産の使用には制限があります。

■■■関連記事■■■

個人事業主のメリット・デメリット

個人事業主としてクリニックを経営する場合、医療法人に比べると規制が少なく経営の自由度が高い点がメリットです。

一方で節税しにくく税負担が大きい、契約や融資の際に審査のハードルが高いなどのデメリットもあります。

ここでは個人事業主としてクリニックを経営する際の、メリット・デメリットを解説します。

メリット

個人事業主(個人クリニック)には、医療法人にはない独自のメリットがあります。

  • 利益や財産を自由に使える
  • 自分の意向に沿った経営ができる
  • 小規模事業者向けのサービスが活用できる

ここでは、個人クリニックの主なメリットを解説します。

利益や財産を自由に使える

個人事業主の最大のメリットは、クリニックで得た収益を自由に使用できることです。

医療法人では非営利組織という性質上、利益の使途に制限がありますが、個人クリニックでは確定申告を行って、税金を納付した後の利益は自由に使用できます。

不動産投資や株式投資など、将来的な資産形成への投資も可能であるため、得た利益に対する自由度の高さは、個人事業主の大きな魅力と言えます。

自分の意向に沿った経営ができる

個人事業主は、自身の意思決定のみでクリニックの経営が行えます。

診療時間を変更したり新しい診療科目を変更したりする場合にも、総会などを開催する必要がありません。

医療法人と比べて、状況に合わせて柔軟に経営方針を変えられる点がメリットです。

小規模事業者向けのサービスが活用できる

個人事業主は、小規模事業者向けの支援制度やサービスを活用できます。

たとえば「小規模企業共済」は、個人事業主の退職金制度として活用できる制度です。掛金は全額所得控除になるため、節税効果もあります。

また、日本政策金融公庫が提供している「新規開業資金」も利用可能です。個人事業主を対象に、開業で必要な資金として最大7,200万円まで借り入れできます。

借り入れから5年間は支払いを利息だけにできる「据え置き期間」も適用されるため、何かと出費の多くなる開業後も、返済負担は軽いと言えます。

デメリット

個人事業主がクリニックを運営する上では、いくつかの制約や課題もあります。

  • 節税がしにくい
  • 審査に通りにくい
  • 医院継承(医業承継)の手続きが煩雑

特に収益が増えた際の税負担の大きさや審査のハードルの高さが、個人事業主特有の課題です。

ここでは、個人事業主としてクリニックを開業する前に、知っておくべき3つのデメリットを解説します。

節税がしにくい

個人事業主の最大のデメリットは、税負担が大きい点です。

特に個人事業主が支払う必要のある「所得税」は、所得金額に応じて最大45%まで課税されます。

ほかにも住民税や事業税もあるため、収入が増加するほどに税負担も大きくなり、軽減税率などの優遇措置もありません。医療法人に比べると節税しにくい点は、経営上の大きな障壁と言えます。

審査に通りにくい

個人事業主は医療法人に比べると融資や契約時の審査において、不利になりやすい傾向にあります。

特に高額な医療機器の導入や新規開業資金の融資においては、個人の信用力や資産状況が重視されます。

都道府県知事から認可を受けた医療法人に比べると、どうしても審査のハードルは高くなりがちです。

ほかにも不動産賃貸契約を行う際も、医療法人に比べると審査が難しくなったり追加の保証人が必要になったりします。個人事業主は、契約や融資がスムーズに進まないこともあります。

医院継承(医業承継)の手続きが煩雑

医院継承する場合には、個人事業主のクリニックのほうが手続きが煩雑になります。

一度廃業手続きを行い、引き継ぐ側が新たに開業をするという流れで手続きを行う必要があるためです。

たとえば身内へ承継する場合であってもクリニックの土地・建物・医療機器などの資産評価や譲渡契約の締結が必要です。

また、保険医療機関の指定申請や各種許認可の取得など、新規開業と同様の手続きもしなければなりません。

理事長の変更だけで承継手続きが完了する医療法人に比べると、個人事業主のクリニックは承継手続きが複雑と言えます。

個人開業医が医療法人にしない理由

医療法人化にはさまざまなメリットがありますが、すべての開業医にとって医療法人化が最適な選択とは限りません。

実際に、多くの開業医が医療法人化を選択していません。

ここでは個人開業医が医療法人化を見送る主な理由について、具体的に解説していきます。

利益が自由に使えなくなるため

個人開業医が医療法人化しない理由は、得られた利益の使い方に制限がかかる点が大きいと言えます。

個人事業主であれば、クリニックで得た利益でマイホームを購入したり投資にまわしたりと、使い方は自由です。

一方で医療法人化にすると、自身に入ってくる収入は役員報酬だけになります。

利益の分配が禁止されているため、どれだけクリニックの売上が上がっても定められた役員報酬や賞与しか入ってきません。

勤務医と変わらない報酬の形になるのが好ましくない医師にとっては、医療法人化を躊躇する大きな要因と言えます。

医療法人に引き継げない負債があるため

個人開業医が医療法人化しない理由は、開業時に抱えた負債の問題が挙げられます。

医療機器の購入費用や建物の建設費用など、クリニックを開業する際に必要となった「設備資金」に対する借り入れは、医療法人に引き継ぐことが可能です。

一方で、開業後の運転資金として借り入れたものに関しては、基本的に医療法人には引き継がれず個人の負債として残ってしまいます。

負債を抱えている状態で医療法人化すると、個人に残った負債は役員報酬から返済することになり、生活が苦しくなるケースもあるのです。

クリニックの運転資金に関する借り入れをしている医師にとっては、大きな足かせとなる要因と言えます。

不動産経営などを医療法人の所有にできないため

医療法人では不動産経営などの収益事業が制限されることも、医療法人化しない理由として挙げられます。

医療法人は非営利法人として医療を提供しているため、医療に直接関係のない不動産賃貸業は行えません。

たとえばアパートや駐車場などの不動産経営を行っていた場合、医療法人化しても個人所有のままになります。

この場合、管理や手間が増えるだけでなく、医療法人から役員報酬を受け取り不動産所得も受け取ることになるため、税負担が増える可能性もあります。

資産運用や収益の多角化を考えている医師にとっては、悩まされる問題と言えるでしょう。

法人化への手続きが煩雑で運営の手間が増えるため

医療法人の設立には非常に煩雑な手続きが必要になり、またその後の運営業務も増加することが、医療法人化しない理由として挙げられます。

医療法人を設立する際、まずは定款の作成や都道府県知事の認可申請などの手続きが必要になり、準備から認可が下りるまで数か月かかってしまいます。

クリニック開業後も定期的な社員総会や理事会などの開催、事業報告書の提出などが必要です。

これら数多くの業務に対応するために、税理士や社会保険労務士などに業務委託も必要になるため、運営コストも増加します。

煩雑な手続きが発生し運営管理の負担増加が、医療法人化へのハードルが高くなっている要因です。

■■■関連記事■■■

医療法人と個人事業主で迷った場合のポイント

医療法人と個人事業主で迷った場合には、以下の4つのポイントをチェックしましょう。

  • すでに課税所得が1,800万円以上ある
  • マイホームなど高額な出費の予定がない
  • 分院など事業拡大も視野に入れている
  • 後継者がいる

上記の項目に「当てはまる方」は、医療法人のほうがメリットを享受できる可能性が高いと言えます。

医療法人化の大きなメリットとして挙げられるのは、節税効果が高いことです。

個人のクリニックで課税所得1,800万円以上ある場合、所得税の税率は40%が適用されます。

同じ条件で医療法人化すると、800万円以下の部分には軽減税率15%が適用され、800万円超の部分には基本税率23.2%が適用されるため、個人で経営しているときよりも税負担が軽くなります。

ただし医療法人にすると役員報酬しか入ってこなくなるため、マイホームの購入や子どもの教育費用などの大きな費用が必要になる場合には、医療法人化する前に貯蓄しておきましょう。

将来的に分院したい、後継者がいるなど医院継承も予定している場合には、医療法人のほうがスムーズに手続きができます。

これからクリニックを開業する場合には、まずは個人事業主としてスタートし、医療法人化の節税効果が得られるようになってから検討するのもおすすめです。

医療法人と個人事業主はライフスタイルや目的を明確にして選びましょう

医療法人は節税効果が高く分院展開や事業承継がしやすいというメリットがありますが、利益の使途に制限があり事務負担も大きくなります。

一方で個人事業主は利益を自由に使えて経営の意思決定も迅速に行えますが、社会的な信用度が低いことから契約や融資が難しい場合もあり、税負担も大きいです。

まずは個人でクリニックを開業して、経営が軌道に乗ってきてから医療法人化を検討してみるのもおすすめです。

ただし個人でクリニックを開業する場合には、医療機器のリースの契約や融資などのハードルが高くなる可能性もあります。

そこでクリニックを継承して開業をすれば、医療設備は整っており従業員や既存の患者も引き継ぐことが可能です。

新規開業時のさまざまな不安が軽減される「医院継承」による開業も検討してみてください。

この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。

医業承継バナー_売却_1 医業承継バナー_買収_1
▼おすすめの買収・売却案件はコチラ!▼

最新のニュース&コラム

ニュース&コラム一覧に戻る