医療法人社団と医療法人財団の違い!どちらを選ぶべきなのか解説
目次
医療法人は医療法人社団と医療法人財団に分けられ、それぞれ異なる特徴があります。本記事では、医療法人社団と医療法人財団の違いを解説します。それぞれの特徴からどちらを選ぶべきなのかも紹介しているので、最後までご覧ください。
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医療法人の種類
医療法人は、病院や診療所など医療施設を設立・運営する組織で「医療法人社団」と「医療法人財団」の2つに分けられます。医療法人社団は、個人出資がメインの形態で比較的柔軟な運営が可能です。一方、医療法人財団は、個人または法人が寄附・拠出した財産を基に設立、運営される医療法人です。
医療法人の設立には、地域における医療供給体制を安定させる目的があり、個人経営では得られない法的および財務的なメリットがあります。
医療法人は営利を目的とせず、利益は法人内での設備改善や待遇改善に使われます。法人化することで、事業承継や税制優遇などの恩恵を受けられるため、長期的な医療運営におすすめです。
医療法人社団と医療法人財団の違い
医療法人社団は、医師や歯科医師などの個人または団体が共同で設立する法人です。設立者は経営に関与し、法人の所有権や運営権も持ちます。利益は法人内での医療事業に使用されますが、法人解散時の残余の分配は、出資持ち分ありの医療法人のみ可能です。
一方、医療法人財団は、特定の目的に基づき財産を提供して設立される法人です。設立者は法人の運営に直接関与せず、財産は法人に帰属します。解散時にも財産は設立者に返還されず、公益に使用されるため、財団はより公益性が高い法人です。
医療法人社団 | 医療法人財団 | |
出資者 | 最低2名以上の出資者(医師、歯科医師など医療従事者)が必要 | 一定の財産が法人に対して拠出されることが求められる |
人員と役員 | 社員が3名以上理事が3名以上監事が1名以上 | 理事・理事長・監事が4人以上評議員が4人以上 |
議決機関 | 社員総会 | 評議員会 |
業務執行機関 | 理事会 | 理事会 |
監査機関 | 監事 | 監事 |
2007(平成19)年の医療法改正において、非営利性の徹底と地域医療の安定性の確保のため、出資持分あり医療法人の新規設立はできなくなりました。法改正以前に設立された出資持分ありの医療法人は「経過措置型医療法人」として、経過措置が取られています。
しかし、医業承継であれば持ち分ありの医療法人を経営できるため、「持ち分あり」を希望する場合には医業承継がおすすめです。
参考:医療法改正の概要(平成18年6月公布、平成19年4月施行)p.28|厚生労働省
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医療法人社団のメリット
医療法人社団のメリットは2つ挙げられます。
- ローリスクで自由に運営しやすい
- 資本金が0円で良い
それぞれ解説していきます。
ローリスクで自由に運営しやすい
医療法人社団の最大のメリットの一つは、運営リスクが財団よりも低い点です。
社団は複数の医師や出資者が資金を拠出して設立するため、出資者同士でリスクを分担でき、個人にかかる資金的負担が軽減されます。
また、医療法人社団は意思決定の柔軟さも特徴的です。出資者が経営に直接関与でき、社員総会での意見反映や理事の選任が可能です。これにより、医療機関の運営方針や意思決定が迅速で自由に行えます。
対照的に、医療法人財団は出資者が経営に関与せず、理事が公益性に基づいて運営するため、意思決定の自由度が低くなります。
資本金が0円で良い
医療法人社団は、資本金が0円でも設立できる点がメリットです。
一般的な法人設立では、一定の資本金を準備する必要がありますが、医療法人社団は出資者が医師や歯科医師などであれば、資本金0円で設立が可能です。これにより、開業時の資金負担が軽減され、資金繰りのプレッシャーを軽減しつつ法人を設立できます。
また、資本金が不要だからといって経営面での制約が生じるわけではなく、法人化のメリットである税制優遇や医療機関としての信用力向上の恩恵も受けられます。
資本金が不要なため、余った資金を設備投資や人材採用に回すなど、効率的な経営を行う基盤を整えることも可能です。
医療法人社団のデメリット
医療法人社団のデメリットは2つあります。
- 資金流出に備える必要がある
- 会計が複雑になる
それぞれ解説していきます。
資金流出に備える必要がある
医療法人社団は、資金流出に備える必要があります。特に、基金拠出型(持分なし)の医療法人社団は、運営資金に基金を用います。
基金とは、出資者から提供された資金に対して返還義務がある形式の資金拠出です。このように、出資者から提供された基金は返還しなければならないため、資金が外部へ流出する可能性があります。
医療法人は返還時期が近づくと一度に大きな資金流出が発生することがあり、これが法人の資金繰りに負担を与えます。
特に設備投資や事業拡大のために多額の基金を拠出してもらった場合、その返還期が一度に重なると資金繰りが厳しくなるリスクがあります。そのため、医療法人社団では、将来の基金返還を見越した資金管理が必要です。
会計が複雑になる
医療法人社団は、出資者が利益を分配することができないため、通常の企業とは異なる会計処理が求められます。
特に、医療法人特有の税制優遇措置や資金の取扱いが複雑であり、法人全体の財務状況を把握するためには、会計システムの整備が必要です。
さらに、医療機関の運営に関連する収支報告や税務申告が求められるため、専門的な知識を持った会計士や税理士との連携が必須になります。これにより、事務作業の負担が増加し、コストがかかります。
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医療法人財団のメリット
医療法人財団のメリットは2つあります。
- 財産の安定性が高い
- 社会的に好印象
詳しく説明します。
財産の安定性が高い
医療法人財団は、設立時に財産を拠出し、その財産は法人の所有物となるため、財産の安定性が高いです。これは、法人設立者や理事が個人としてその財産を持ち出すことができないため、医療事業が長期的に安定して運営されることを保証します。
また、設立時に拠出された財産が法人の目的に沿った形でのみ使用されるため、財務の透明性が確保されやすく、外部からの信用も高まりやすいです。そのため、財政的な安定性を重視する場合、財団の形態が適しているといえます。
社会的に好印象
医療法人財団は、営利を追求しない組織であるため、社会的に高い評価を受ける傾向があります。
特に、医療や福祉の分野では、公共の利益を優先する姿勢が重視されるため、患者や地域社会からの信頼が得やすいです。また、公益性が強い活動を行うため、社会的貢献が認められやすく、自治体や企業などからの支援が得やすくなる場合があります。
このような社会的評価は、事業拡大や人材の確保にもプラスに働きます。
医療法人財団のデメリット
医療法人財団のデメリットは2つ挙げられます。
- 設立時のハードルが高い
- 乗っ取られる可能性がある
それぞれ解説していきます。
設立時のハードルが高い
医療法人財団を設立するためには、法人に帰属させる一定額の財産が必要であり、その拠出資金が設立時の大きなハードルです。
通常、医療法人社団よりも多額の資金が要求されるため、資本力に乏しい医療従事者にとっては、財団を選択することは難しいです。
さらに、設立の際には、厚生労働省や都道府県からの許認可が必要であり、設立手続きが煩雑で時間がかかることもデメリットになります。
乗っ取られる可能性がある
医療法人財団が乗っ取られる可能性は、主に法人内部での権力争いや理事会の運営が原因です。
医療法人財団では、設立者であっても絶対的な経営権を持つわけではなく、理事会の決議が法人運営に大きな影響を与えます。理事会は、経営の重要事項を決定する組織であり、過半数の理事が反対すれば、設立者や理事長であっても解任される可能性があります。
また、財団は出資者による配当がないため、経営権を巡る利益対立が生じやすいです。理事や監事が協力的でない場合、経営方針の不一致により、最悪の場合、設立者が経営から追放されることがあります。
このような乗っ取りを防ぐためには、信頼できるメンバーを選び、理事会運営の透明性を確保することが重要です。
社団と財団はどちらを選ぶべき?
医療法人社団は、出資者が集まって設立する法人形態で、最低4人がいれば設立可能です。設立のハードルが低く、全国的にも医療法人社団が多数を占めています。また、社団は出資者が運営に直接関与できるため、経営面での柔軟性が高いのが特徴です。
一方、医療法人財団は、公益性の高い医療活動を行うために設立される法人で、最低8人の理事や監事が必要なため、設立のハードルが高いです。
さらに、不動産や医療機器、人材などの運営資金を寄付などの財源から賄う必要があり、個人資金での運営は難しいでしょう。そのため、財団は大規模な病院や医療施設の運営に向いています。
上記の通り、小規模かつ設立をスムーズに進めたい場合は社団が適しており、社会貢献や公益性を強調する大規模な医療事業を目指す場合は財団が適しています。
医療法人社団と医療法人財団の違いを理解して設立しましょう
医療法人には「医療法人社団」と「医療法人財団」の2種類があります。医療法人社団は、医師や歯科医師が複数名集まって設立し、出資者が経営に関与できる柔軟な法人形態で、資本金0円で設立が可能です。
一方、医療法人財団は、公益目的で財産を拠出して設立され、設立者が経営に関与せず、理事会が運営を行うため、公益性が高いのが特徴です。
社団は出資者同士でリスクを分担しやすい一方、財団は財産の安定性が高いですが、設立や運営に多額の資金が必要です。また、財団は内部の権力争いによって設立者が解任される可能性があるため、理事会運営の透明性が重要です。
これらのことから小規模な医療機関は社団、大規模で公益性を重視する場合は財団が適しています。
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▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。