患者の同意なくカルテを引き継ぐのは違法?閉院時の引き継ぎ方や注意点を解説
目次
カルテを引き継ぐことは個人情報保護法違反にはなりません。しかし、患者の個人情報を含んでいるため、適切に管理することが求められます。
本記事では、カルテを引き継ぐ際の法律的な注意点から重要なポイント、管理方法などを詳しくまとめました。
また、記事の最後には患者が転院したい場合のカルテの引継ぎ方法にも回答しています。スムーズに医院継承を行うためにも、カルテの取り扱いを確認しましょう。
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カルテの引き継ぎは個人情報保護法違反にはならない
個人情報保護法では、以下のように住所や年齢などの個人情報を第三者に提供する際に本人の同意が必要とされています。
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。 |
しかし、例外として「事業の承継に伴い個人データの提供が必要な場合は、個人情報保護法に該当しない」とされています。
次に掲げる場合において、当該個人データの提供を受ける者は、前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。 一 個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合 二 合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合 三 特定の者との間で共同して利用される個人データが当該特定の者に提供される場合であって、その旨並びに共同して利用される個人データの項目、共同して利用する者の範囲、利用する者の利用目的並びに当該個人データの管理について責任を有する者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いているとき。 |
そのため、医院継承などで患者のカルテ情報を引き継ぐ場合は、個人情報保護法違反に該当しません。
医院継承(医業承継)による利用しか認められない
医院継承時のカルテの引き継ぎは患者の同意なく行えますが、本来の利用目的を超えて取り扱うことは禁止されています。
個人情報取扱事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。 |
つまり、引き継いだカルテ情報は基本的に患者の治療のためだけに使用可能ということです。患者の同意なしにカルテ情報から年齢や性別、居住エリアなどを分析して、マーケティングに活用するなどといった行為は認められません。
カルテ情報の引き継ぎ後でも、もともとの利用目的の範囲を超えて取り扱う際には、患者の同意が必要です。
閉院に伴うカルテの引き継ぎ先や管理責任
病院やクリニックの閉院の状況によって、カルテの引き継ぎ先や管理責任者も変わります。
ここでは下記の3つのケースで、カルテの取り扱い方を解説します。
- 廃業する場合
- 医院継承(M&A)をする場合
- 院長が急逝した場合
廃業する場合
閉院(廃業)する場合、カルテの管理責任は病院やクリニックの管理者にあり、廃業後も最低5年間は保管しなければなりません。
前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。 |
法律上は5年間の保管が義務とされていますが、実際のところ20年間は保管が必要になります。それは万が一医療事故が発生し、患者が病院やクリニックに対して損害賠償請求をする場合には、医療行為を行った時から20年間は請求可能となっているためです。
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間は,損害及び加害者を知った時(権利を行使することができることを知った時)から5 年,不法行為の時(権利を行使することができる時)から20年になりました。 |
紙カルテは、自宅で保管していると経年劣化などで傷んでしまうため、ほとんどの場合は「書類保管サービス」を利用します。
医院継承(医業承継)をする場合
医院継承の際、カルテの管理責任も引き継いだ先の管理者(買い手)に移るため、紙のカルテを引き継いだ際には電子カルテの導入がおすすめです。
電子カルテならカルテ情報の管理場所に困ることもなく、クラウド上で半永久的に保管可能です。厚生労働省も電子カルテの導入を推進しており、診療報酬の点数引き上げ条件に「電子カルテの導入」を条件としています。
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院長が急逝した場合
院長が急逝したあと、後継者がいる場合は前述した「医院継承(医業承継)をする場合」と同様で、カルテの管理責任は後継者にあります。
一方で、後継者不在で閉院となった場合には、電子カルテの保管責任は誰にも引き継がれません。院長に遺族がいた場合でも、カルテの管理責任については引き継がれることなく消失します。
管理責任がなくなった場合のカルテの管理方法として、厚生労働省は「行政機関にて保存するのが適当」と回答しています。
通常は廃止時点における管理者において保存するのが適当であるとされ、管理者たる医師がいない場合には、行政機関において保存するのが適当であるとされている(昭和47年8月1日 医発第1113号 厚生省医務局長、薬務局長回答 )。診療記録等を適切に管理できる状態でなくなった場合、もしくはそのような状態になることが明らかとなった場合には、まず所管の保健所に相談し、患者の個人情報が適切に保護される方法をとることが求められる。 |
後継者不在のまま院長が急逝したあとのカルテの保管は、管轄の保健所などに相談しましょう。
医院継承(医業承継)でカルテを引き継ぐ際の注意点
医院継承時のカルテの引き継ぎは患者の同意を得なくても行えますが、慎重な管理が欠かせません。
丁寧にカルテを引き継ぎ、医院継承後の経営をスムーズに進めるために、売り手側と買い手側それぞれの注意点をチェックしましょう。
売り手側の注意点
買い手側が問題なくカルテを引き継いで経営をスタートさせるために、売り手側が注意すべき点を3つ紹介します。
患者に医院継承の旨とカルテの引き継ぎのお知らせをする
法律上、医院継承によるカルテの引き継ぎを患者に伝える必要性はありません。
しかし、患者との信頼関係を維持するという点において、医院継承の告知とともにカルテの取り扱いに関して丁寧な解説を行うとよいでしょう。
たとえば、院内の掲示板などで医院継承の時期や新しい医師の紹介とともに、カルテの取り扱いについての記載があると、患者の不安も軽減されやすくなります。
紙カルテの場合は最低保存期間を共有する
紙カルテで診察していた場合は、買い手側に最低保存期間を共有しましょう。理由は法定保管期間の間、適切な環境で紙カルテを管理する義務があるためです。
カルテ情報は法律上、最後の診療日から5年間(実際は20年間が最適)は保管する必要があります。患者の直近の来院日なども共有して、買い手側が最低保存期間がわかるようにしましょう。
可能であれば引き継ぐ医師と一緒に診察をする
カルテの引き継ぎだけでなく、買い手側の医師と一緒に診察をして患者と面識を持ってもらうことも重要です。
売り手側の前院長に診てもらいたくて通っていた患者も少なくないこともあり、医院継承後に患者が離れてしまうことは、買い手側としても避けたい問題です。そのため、新しい医師の人柄を知ってもうらための引き継ぎ期間を作ることもよいでしょう。
買い手側の注意点
買い手側にも、カルテを引き継ぎ後に失敗しないための重要なポイントがあります。医院継承のメリットを最大限に活かすためにも、これから紹介する3つのポイントを抑えておきましょう。
紙カルテだった場合は電子カルテの導入を検討する
譲受する医院が紙カルテでの診療を行っていた場合は、電子カルテの導入を検討しましょう。
電子カルテを導入するとカルテの管理場所に困らなくなり、患者データの検索や更新が簡単になるため業務の効率化にもつながります。また、電子カルテなら半永久的に保管できるため、保管期間を気にする必要もありません。
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電子カルテの場合は保険医療機関コードの変更が必要
個人が経営している病院やクリニックから電子カルテを引き継いだ場合は、経営者の変更手続きとして、管轄の厚生局で「保険医療機関コード」の変更手続きをしなければなりません。
この変更手続き(設定変更)を、電子カルテやレセプトコンピュータにも行う必要があります。
ただし、医療法人から医療法人への医院継承だった場合には、保険医療機関コードの変更はありません。
引き継いだ患者の初診で丁寧に説明する
医院継承後、初めて患者の診療をする際は、自己紹介とともにカルテ情報を引き継いでいることや患者の治療経緯の確認を行いましょう。
特に診察の引き継ぎ期間が設けられなかった場合には、患者を安心させるためにも丁寧な説明が重要です。
引き継いだ患者の初診で丁寧に説明する
医院継承後、初めて患者の診療をする際は、自己紹介とともにカルテ情報を引き継いでいることや患者の治療経緯の確認を行いましょう。
特に診察の引き継ぎ期間が設けられなかった場合には、患者を安心させるためにも丁寧な説明が重要です。
カルテを引き継いだ際のトラブル事例
カルテには担当した医師独自の記載がされていたり、把握済みの内容が省略されていることがあります。また、文字そのものが読めないために、患者の状況を明確に把握できないことも少なくありません。
ここではカルテを引き継いだ際に、よくあるトラブルを紹介します。
カルテの記載内容が不足していた
カルテの情報不足により、患者の正確な状況把握が困難になってしまうケースがよくあります。
たとえば、長期通院されている患者の診療記録(サマリー)が、詳細に記載されていない場合です。カルテの情報は患者の安全に関わるため、誰がいつ見ても患者の状況が把握できるように詳細に記載しましょう。
字体によっては読みにくく理解に時間がかかる
手書きのカルテの場合、後任の医師が文字を読めず、理解に時間がかかってしまうケースがあります。
これは紙カルテだけの問題ではなく、電子カルテでもタッチペンを使用した記入で起こり得るトラブルです。診療中にカルテを記載する時は素早く書くことも要求されますが、他の人が見ても読みやすい字を心がけましょう。
治療方針や処方などの根拠が記載されていなかった
患者の治療方針や処方の根拠が記載されておらず、後任の医師が判断に迷うケースがあります。特定の薬を処方した理由、その治療法を選択した根拠などが記載されていない場合、後任の医師は前任者の意図を明確に把握できません。
結果として医療ミスのリスクが高まったり、患者との信頼関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。カルテには結果を記載するだけでなく、理由や根拠を残しておくことも重要です。
カルテの引き継ぎに関して患者の方からよくある質問
ここでは患者の方が自らカルテの引き継ぎなどを行いたい時に、よくある質問を3つ紹介します。
- 閉院した病院やクリニックからカルテをもらう方法は?
- 転院先にカルテを引き継いでもらいたいが開示できるか?
- カルテ開示の費用は?
それぞれ回答します。
閉院した病院やクリニックからカルテをもらう方法は?
閉院した病院やクリニックからカルテをもらうケースとして考えられるのは主に「医療ミスが発覚して損害賠償を請求したい」「他院を利用したい」の2つです。
「医療ミスが発覚して損害賠償を請求したい」場合は、まず閉院した病院やクリニックの院長に直接連絡しましょう。その地域の保健所で保管されているケースもあるので、保健所にも問い合わせてみてください。
カルテの管理者や管理場所がわかったら、書面にて開示請求を行います。
別の病院やクリニックを利用したい場合は、閉院となった際に患者が転院するための紹介状が発行されます。紹介状を転院先に提出することで、それまで受けていた治療を引き継ぐことが可能です。
転院先にカルテを引き継いでもらいたいが開示できるか?
転院を希望する場合は、一般的にカルテの開示請求ではなく、紹介状によって引き継ぎを行います。
転院時にカルテを引き継がない理由として、他の医師が見たときにすぐに理解できる内容ではないケースもあるためです。
紹介状のほうが患者の症状や経過、処方した薬や行った治療方法などを詳細に記載されており、引き継ぎ後の治療もスムーズに行えます。請求時の手間や費用も抑えられるため、転院を希望する場合は担当の医師に紹介状を書いてもらいましょう。
カルテ開示の費用は?
カルテの開示費用は病院・診療所などによって異なりますが、諸経費含めた総額で10,000円程度用意しておくと良いでしょう。
カルテの開示手数料のみで3,000円〜5,000円程度必要です。ほかにも紙媒体での発行であれば1部あたりの印刷料金が数十円、CD-RやDVDなどの電子データによる発行であればディスク料金として数千円かかります。
詳しい費用については、通っている病院に問い合わせましょう。
医院継承(医業承継)や閉院時はカルテの引き継ぎと管理をしっかり行いましょう
医院継承や閉院時のカルテの取り扱いは、法律上の義務だけでなく患者との信頼関係を維持するうえでも重要です。後任の医師が円滑に診療を始められるように、日頃からカルテは詳細に明記しましょう。
また、医院継承時にはカルテの引き継ぎだけでなく、行政との複雑な手続きも必要になるため、専門家のサポートが必要です。
エムステージマネジメントソリューションズでは、医療経営士の資格をもったチームが、医院継承に関する書類の作成や手続きを全面的にサポートいたします。気になる方は、まずは無料相談にてお気軽にお問い合わせ下さい。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。