病院・診療所を譲渡する際に用意する資料
目次
病院・診療所を譲渡する際に用意する資料には、事業計画書や報告書、マーケティング施策が含まれ、組織資料には設立時の書類や登記簿謄本、定款などが含まれます。財務資料は決算書類や総勘定元帳、固定資産台帳が必要です。経理資料には請求書や会計システム仕様書が含まれ、設備資料には図面や医療機器一覧が必要です。人事・労務資料には組織図や雇用契約書、就業規則が求められます。
本記事では、病院・診療所を譲渡する際に用意する主な資料を、ジャンル別に紹介します。病院・診療所など医療機関のM&Aでは、一般的な事業会社(株式会社)のそれとは異なる部分も多いため、注意すべきポイントも解説します。
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経営・組織についての資料とその概要
一般的な財やサービスの取引と異なり、M&Aでは、医療法人や病院、診療所といった組織そのものが譲渡の対象になります。そのため、医療事業やその他事業の経営状態や経営計画、組織状態についての資料が必要とされます。
経営に関する資料
経営に関しては、病院や診療所のビジョンやミッション、経営戦略、事業計画などがわかる資料を提出します。具体的な資料として主に下記が挙げられます。
- 事業計画書(病院・診療所の事業を成功に導くために、事業内容や経営戦略などをまとめた資料)
- 事業報告書(法人の概要や診療科などの事業内容などを記載した資料)
- マーケティング施策に関する資料(競合状況や病院の地域特性など)
上記の資料を提示することで、買い手側は買収を検討する病院・診療所の将来性や事業の方向性などを把握できます。また、財務データには表れない病院・診療所の将来性や無形資産の価値(地域住民からの信頼、医師の専門性など)、買い手医療機関とのシナジー効果などが評価されることにもつながるでしょう。
組織に関する資料
組織に関しては、医療法人や病院・診療所の実態や組織図などがわかる資料を提出します。具体的な資料として主に下記が挙げられます
- 病院・診療所の設立時の提出書類(医療法人設立認可申請時に提出した書類など)
- 登記簿謄本
- 定款
- 社会保険医療機関指定通知書
- 出資者・社員・役員の名簿
- 社員総会および理事会の議事録(一般的には直近3期分)
- 訴訟に関する資料(ある場合)
上記の資料を提示することで、買い手側は病院・診療所の組織構造や体制などを理解し、買収後の統合(PMI)や事業を円滑に進めやすくなります。
なお、医療法人化していない個人経営の医療機関の場合は、法人組織に関する書類は当然存在しませんが、後述する組織図や人事関係の資料はまとめるべきでしょう。
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財務・経理についての資料とその概要
買い手側は、売り手の病院・診療所の財務データ(収益性や安定性など)や経理の健全性などを基準に、買収可否の判断や買収額の算定を実施します。
たとえば利益率や売上などの指標が優れている病院・診療所は、そうでない場合と比べて高値で売却できる可能性が高まる傾向があります。買い手の判断をスムーズに進めるためにも、自社の価値を最大限評価してもらうためにも、財務や経理に関する資料の提出は基本的に不可欠です。
財務に関する資料
財務に関しては、直近における売上や利益、資産、負債等の財務状況がどのように推移しているかがわかる資料を提出します。具体的な資料として主に下記が挙げられます。
- 直近3期分における決算書類一式(青色申告決算書や法人決算書)
- 総勘定元帳
- 固定資産台帳や減価償却明細表
- 当期における月次合計残高資産表
- リース契約書や賃貸借契約書など(リースや賃貸借の契約がある場合)
- 土地建物登記簿謄本、固定資産税評価証明書(不動産を所有している場合)
- 保険に関する契約書(保険契約がある場合)
上記資料の提示により、買い手側は病院・診療所の財務状況をもとに、M&Aのリスクやシナジー効果、将来性を合理的に評価しやすくなります。
経理に関する資料
経理に関しては、経理業務の手順や会計システムの概要、請求書や支払い記録の管理方法などがわかる資料を提出します。
- 取引先に対する請求書や支払い記録
- 会計システムやソフトウェアの仕様書
- 経理業務のマニュアル
上記資料の提示により、買い手側はITシステムや経理のスムーズな統合が可能になります。
設備についての資料とその概要
買い手側は、売り手側の病院・診療所が保有する設備も判断材料の1つとします。そのため、不動産や医療機器などに関する資料の提出を求められることが一般的です。具体的には、主に以下の資料を用意する必要があります。
- 病院・診療所の図面
- 保有する医療機器・器具の一覧と詳細(製品名や購入日など)
- 医療機器のメンテナンスや保証に関する資料(メンテナンスの契約書、保証書など)
- 医療機器の設備保守に関する計画書、履歴がわかる資料など
こうした資料を提示することで、買い手側は病院の設備や保守管理の状況、将来的に発生する設備更新費用などを把握できるようになります。
人事・労務についての資料とその概要
病院や診療所の譲渡では、人事・労務に関する資料も求められることが一般的です。
人事・労務に関する資料は、病院・診療所の人材構成や労働条件、労務管理状況などを明示し、買い手側がスムーズにスタッフ(医師など)の引き継ぎをおこなったり、人事制度などの統合を円滑に実施したりできるようにする目的で必要です。
人事に関する資料
人事に関しては、医師等スタッフの人数や職種、役職、福利厚生、給与体系などがわかる資料を提出します。また、医師の評価・教育制度や離職率に関するデータを求められることもあります。
具体的には、主に以下の資料を用意する必要があります。
- 職員の組織図(職務や年齢、雇用年数、雇用形態などがわかるもの)
- スタッフの人数がわかる資料
- 医師や看護師の勤務シフト
- 人材育成のマニュアル
上記資料の提示により、買い手側は「どのような人材を抱えているのか」を把握し、医師等スタッフの引き継ぎ、買収後の計画に基づいた人材採用・育成などを円滑に実施できます。
労務に関する資料
労務に関しては、医師などのスタッフに関する雇用や働き方、トラブルに関する詳細がわかる資料が求められます。具体的には、主に以下の資料を用意する必要があります。
- 雇用契約書(給与体系や福利厚生などの諸条件がわかるもの)
- 就業規則(出勤・退勤時間や休暇日数などがわかるもの)
- 退職金規定(退職金の金額や支給基準、支払い方法などが記載されたもの)
- 源泉徴収簿
- 退職給付引当金の状況がわかる資料
- 社会保険の加入状況がわかる資料
- 労務関係のトラブルや訴訟に関する資料(ある場合)
上記資料の提示により、買い手側は病院・診療所の労働環境や労務管理状況の実態を把握し、経営統合の方針や医師の生産性維持・向上につながる施策の検討ができるようになります。
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診療についての資料とその概要
病院・診療所の譲渡では、営業(日々の診療業務)に関する資料を求められることも多いです。具体的には、主に以下の内容がわかる資料を求められます。
- 外来の診療時間、診療日、年間診療日数
- 1日あたり平均患者数(新患、急患それぞれの人数)
- 入院患者の数、ベッド稼働率・患者に関する年齢層、地域などのデータ
- 診療科目の内容、および科目別の売上および患者数
- 院内・院外処方などの薬剤に関するデータ
- 過去の診療データ(カルテなど)
診療内容や患者数などを買い手側に把握してもらうことで、M&A後スムーズに事業を継続できるようになります。また、財務データに表れない視点から売り手の病院・診療所が有する強み(患者ニーズに即したサービス提供や固定客の存在など)を把握してもらう効果も期待できます。
まとめ
病院・診療所の譲渡で必要となる資料は多岐にわたります。すべての資料がかならず必要となるわけではなく、買い手側の要望によって実際に求められる資料の組み合わせは変わってきます。
とはいえ、用意するのに時間がかかる資料もあるため、時間に余裕を持って準備を進めることが重要です。また、専門的な知識を要する資料もあるため、顧問弁護士、税理士、社会保険労務士、M&Aアドバイザーなどの専門家の協力を得ながら用意していくことになるでしょう。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。