クリニックの原状回復費用を安く抑えるコツ5選!注意点やトラブルも解説
目次
クリニックを閉院したり移転したりする際「原状回復にどのくらいの費用がかかるのか」と頭を抱える院長先生は多いです。一般的なオフィステナントと異なり、クリニックは医療設備の撤去や感染性廃棄物の処理といった専門的な工事が多いため、想定以上の費用が発生しやすい傾向にあります。
そこで本記事ではクリニックの原状回復費用の相場や高くなる理由、安く抑えるための5つのポイントを詳しく解説します。トラブルを未然に防いで、スムーズな閉院や移転を実現するため、ぜひ参考にしてください。
クリニックの原状回復とは「入居前の状態に戻す工事」のこと
原状回復とは、テナントを退去する際に借主が自らの費用で「入居前の状態に戻す」義務のことで、民法第621条(賃借人の原状回復義務)で定められています。
“賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。”
賃借人は通常の使用によって生じた自然な劣化(経年変化)を除き、自ら設置した内装や設備を撤去したり修復したりする必要があります。
クリニックの場合、開院時に診察室や処置室、待合室といった専用の内装を施工し、医療設備を設置しているケースがほとんどです。そのため、退去時にはこれらをすべて撤去・修繕しなければなりません。
一般的なオフィステナントよりも工事の規模が大きくなりやすい点が、クリニックの原状回復の大きな特徴です。
「スケルトン返し」と原状回復の違い
原状回復と混同されやすい言葉に「スケルトン返し」があります。この2つは、返却時の状態に明確な違いがあります。
- 原状回復:借りたときの状態に戻すこと。内装がある状態で借りた(居抜き)場合は、その状態に戻します。
- スケルトン返し:建物の構造体(コンクリート)のみの状態に戻すこと。床・壁・天井の仕上げ材や設備をすべて取り除きます。
クリニック物件では、特約で「スケルトン返し」が指定されていることも多く、その分工事範囲が広くなり費用も膨らむ傾向にあります。
クリニックの原状回復で対象となる主な工事項目

原状回復の工事内容は、物件の規模や診療科目によって大きく異なります。一般的なオフィスの退去工事と比べてクリニックに特有の工事項目も多く、それぞれに専門知識と費用を要します。
ここでは、クリニックの原状回復で対象となる代表的な工事項目を見ていきましょう。
撤去・造作解体工事
受付カウンター・診察室の間仕切り壁・内窓・造作棚など、開院時に設置した造作物の解体と撤去が対象になります。内装の仕上げがない「スケルトン渡し」の物件でも、施工した造作物はすべて撤去しなければなりません。木材や金属などの廃材が大量に発生するため、廃材処理費用も工事費に含まれます。
床・壁・天井の修繕工事
内装の仕上げ材を修繕または張り替える工事です。クロスの張替えや床タイルの補修、塗装の塗り直しなどを行います。医療機関では衛生面を重視するため、床に長尺シートなどを使用しているケースが多く、これらを剥がした後の下地処理も必要になるため、手間とコストがかかります。
設備工事(電気・ガス・水道)
医療機器のために増設した電気系統や給排水管を元に戻す工事です。特殊なコンセントの撤去や、配管の閉塞作業が含まれます。特に歯科医院などは水回りの配管が複雑で、床下の工事が必要になることもあることから、専門的な知識や技術を持った業者に依頼することが必須です。
医療設備の撤去
レントゲン装置や歯科ユニット、大型の検査機器などの解体と搬出を行います。これらも精密機器なので、一般の解体業者ではなく専門の業者による作業が必要です。また、レントゲン室に使用されている放射線防護用の鉛板(鉛ボード)は非常に重量があり、撤去と廃棄に特殊な手順を要するため、費用が高額になります。
クリーニング・消毒
すべての工事が終わった後に、物件全体を清掃します。次の入居者が安心して利用できる状態にするための重要な工程です。医療機関の場合は通常の清掃だけでなく、必要に応じて除菌や消毒作業が行われることもあります。
【診療科別】クリニックの原状回復費用の目安
クリニックの原状回復費用は診療科目や施設規模、契約条件(スケルトン返却特約の有無)によって大きく異なります。あくまでも参考値ですが、目安として下記の表を参照してください。
| 診療科 | 坪単価の目安 | 総額の目安(30〜50坪程度の場合) |
|---|---|---|
| 内科・小児科など | 3万〜8万円 | 150万〜500万円 |
| 歯科医院 | 5万〜12万円 | 200万〜600万円 |
| 整形外科・眼科 | 6万〜15万円 | 400万〜1,000万円 |
坪単価の目安は3万〜8万円程度ですが、歯科ユニットのバキューム配管や整形外科のレントゲン室など、特殊な設備が入っている場合は別途見積もりが必要になります。放射線設備や大型の医療機器は原状回復費用には含まれないケースが多く、処分費や撤去費が別で発生する場合もあります。
クリニックの原状回復費用が高額になる5つの理由
クリニックの原状回復費用が、一般的なオフィスに比べて高額になるのには明確な理由があります。医療機関特有の設備や厳格な廃棄物処理ルールが、コストを押し上げているためです。ここでは主な理由を5つ解説します。
指定業者制度で相見積もりが取れないため
ビルによっては、管理会社が指定した業者しか原状回復工事を行えない「指定業者制度」を採用しているケースがあります。特に「B工事」と呼ばれる工事区分がある物件では注意が必要です。
B工事とは管理会社が発注者となり、テナントが費用を負担する工事のことです。テナント側が業者を自由に選べないため、競争が生まれず、割高な工事費になりやすい傾向があります。複数の業者から見積もりを取って費用を比較する「相見積もり」が原則として取れないため、費用の妥当性を検証しにくい点が問題です。
医療設備の撤去に専門業者が必要なため
歯科ユニットのバキューム配管・給排水、クリニックの検査機器用特殊配管・動力電源など、一般テナントには存在しない設備を完全に撤去するには、専門的な知識と技術を持つ業者が必要です。対応できる業者が限られるため、費用が割高になりやすく、工事期間も長くなる傾向があります。
放射線防護壁など特殊内装材の撤去があるため
歯科・整形外科・眼科などのレントゲン室を持つクリニックでは、放射線防護のための鉛板・鉛ボードが壁や天井に施工されています。
これらの特殊内装材の撤去には専門的な手順が必要で、一般の解体業者では対応できません。鉛廃材は産業廃棄物として適正に処理しなければならないため、処理費用も別途発生します。
感染性廃棄物の処理に専門業者が必要なため
注射針・点滴バッグ・血液が付着した可能性のある廃棄物は「感染性廃棄物」として、法律上の特別な処理が義務づけられています。環境省は感染性廃棄物について以下のとおり定義しており、通常の廃棄物よりも厳しい基準が設けられています。
“感染性廃棄物は、「爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物」と同法第2条第3項に定められている特別管理一般廃棄物又は同条第5項に定められている特別管理産業廃棄物に該当し、通常の廃棄物よりも厳しい基準が設けられています。”
出典:感染性廃棄物関連|環境省
一般の産業廃棄物とは全く別ルートで処理しなければならず、処理できる業者が限られるため費用が高くなります。クリニックが保有している薬品の残りや廃液についても、適切な処理が必要です。
スケルトン返却特約で内装一式の撤去が発生するため
賃貸借契約の特約で「スケルトン返却」が義務づけられている物件では、開院時に施工したすべての内装を解体、撤去しなければなりません。そのため内装工事に多く投資したクリニックほど解体コストも膨らみます。
「スケルトン渡しで借りた物件はスケルトンで返す」という原則を押さえておくことが大切ですが、実際には「入居時に特約の内容を確認していなかった」という院長先生も多く、退去直前に判明してトラブルになるケースがあります。
クリニックの原状回復費用を抑える5つのポイント
原状回復費用を完全になくすことは難しいですが、事前の準備と交渉次第で費用を抑えられるケースもあります。ここでは原状回復費用の削減に効果的な、5つのポイントを解説します。
原状回復の負担範囲を把握して不要な工事を省く
まずは入居時に結んだ賃貸借契約書を、細かく精査することが重要です。契約書には「どこまでが借主の負担」で「どこからがオーナーの負担か」が明記されています。たとえば共用部にかかる設備の劣化や、入居前から存在した設備の不具合まで見積もりに含まれていないかを確認します。
また、自然な経年劣化による傷や汚れは、民法の規定上、借主の負担ではありません。「オーナーが求めてくる工事項目がすべて正当な原状回復範囲かどうか」を確認し、不要な工事を断ったり・交渉したりすることで費用を抑えられます。
複数の業者に相見積もりを取る
指定業者制度がない物件であれば、複数の業者から相見積もりを取ることで適正価格を把握できます。原状回復工事は業者によって見積もりにも差が出るため、最低でも3社から見積もりを取り、工事内容と金額を比較したうえで依頼先を選びましょう。
指定業者制度がある場合でも、「他社の見積もり金額を参考に工事費用の減額を交渉する」ことは可能です。
オーナーに設備の残置を交渉する
設備や造作物の撤去工事を省くための有効な方法の一つが、オーナーへの「残置交渉」です。たとえばエアコン・照明器具・診察台の架台・造作棚などを「次のテナントに活用してもらえる可能性があるため、撤去せずに置いていきたい」とオーナーに提案してみましょう。
オーナー側にとっても、次のテナント誘致に使える設備があれば費用削減になるため、交渉が成立するケースもあります。ただし老朽化した設備や汚損の目立つ設備は、かえって処分費の負担をオーナーに押しつける形になるため、提案する設備の状態は慎重に見極める必要があります。
医療機器は売却や買取に出す
古くなった医療機器を「産業廃棄物」として処分すると、高額な搬出・処分料がかかってしまいますが、これを「中古医療機器」として売却したり買取に出したりすることで、処分コストを大幅に削減できます。
特に年式が新しいものや定期メンテナンスが施されている機器は、中古市場で高い需要があります。得られた売却益を原状回復の工事代金に充当することで、実質的な自己負担額を大きく減らすことが可能です。
クリニックの譲渡を検討する
原状回復費用を根本的に削減するための最も有効な選択肢の一つが、クリニックの医院継承です。内装、設備、医療機器、さらには患者さんやスタッフもそのまま後継者に引き継げば、原状回復工事そのものが不要になります。
さらに、クリニックの事業価値(のれん)に対する対価を受け取れるため、廃院した場合と比べて経済的な負担も大きく下げられます。
医院継承の具体的な方法や譲渡対価に関しては「クリニックのM&Aにおける「のれん」とは?営業権との違い・算出方法」も参考にしてください。
適正価格を見極める「見積書チェック表」と項目の見方
原状回復の見積書は項目が細かく専門用語も多いことから「専門業者だから問題ないだろう」と内容を精査せずに承諾してしまいがちです。
しかし、不要な項目や過剰な計上を見抜くことで、費用を大幅に削減できる可能性があります。以下のチェック表を参考にして、見積書の内容をしっかりと確認しておきましょう。
| 確認項目 | 内容 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 解体範囲 | 工事の範囲はどこからどこまでで解体・撤去をするのか | 契約書の原状回復義務の範囲と一致しているか。経年変化による劣化まで含まれていないか |
| 医療機器撤去費 | 医療機器の解体・搬出にかかる費用 | リース機器が含まれていないか。売却・買取予定の機器まで撤去費として計上されていないか |
| 廃棄物処理費 | 解体廃材・感染症廃棄物・産業廃棄物の処理費用 | 廃棄物の種別(感染性・産業廃棄物)ごとに費用が分かれているか |
| 養生費 | 作業中に共用部の床や壁を傷つけないための保護費用 | 面積や資材の種類に対して金額が適正か。他社見積もりと大きく金額が異ならないか |
| 夜間・休日作業日 | ビル管理規則や他テナントへの配慮から、騒音を伴う解体作業を夜間・休日に行う場合の割増費用 | 昼間作業が可能な工程まで割増扱いになっていないか。割増率が明示されているか |
| B工事の範囲 | 管理会社指定業者が行う工事でテナントが費用を負担する部分 | どの工事がB工事に分類されているか。A工事・C工事との区分が明確か |
クリニックの原状回復でよくあるトラブル
原状回復の準備が不十分だと、工事の遅延やオーナーとの費用負担をめぐるトラブルに発展することがあります。
ここでは原状回復に関して起きやすいトラブルの例と、対策方法を紹介します。
リース機器の未返却によって原状回復工事が遅れる
多くのクリニックで利用されているリース機器は所有権がリース会社にあり、勝手に解体したり処分したりすることはできません。リース会社への返却手続きを忘れていると、解体業者が現場に入っても作業を始められず、工事がストップしてしまいます。
その結果、退去期限までに工事が終わらず、超過した日数分の賃料(損害金)を請求される恐れがあります。
このような事態にならないためにも、閉院を決めた時点でリース中の機器をすべてリストアップし、リースの満了日や返却手続きのスケジュールを工事日程に組み込むことが大切です。リース会社に早めに連絡を取り、回収スケジュールの調整を依頼しましょう。
建物付帯設備の「所有区分」をめぐってオーナーと対立する
空調設備や給排気ダクト、天井照明などが「もともとビルに備わっていたもの(オーナー所有)」か「テナントが入居時に増設したもの(借主所有)」か、記録が曖昧なことから起こるトラブルもよくあるパターンです。特に入居期間が長期にわたる場合、記憶や当時の資料が失われ、双方の主張が食い違う場合もあります。
借主側が「最初から付いていた」と考えていても、オーナー側から「借主が増設したものだから撤去しろ」と要求されれば、工事範囲が広がり費用が跳ね上がります。
こういったトラブルを防ぐためには、入居時に施設の状態を写真・動画で記録し、不動産管理会社と「入居時確認書」を取り交わしておくことが有効です。すでに開業しているクリニックであれば、いまからでも現状を撮影・記録しておくことをおすすめします。
クリニックの原状回復に関するよくある質問
原状回復費用は敷金や保証金でまかなえますか?
基本的には、入居時に預けている敷金や保証金から原状回復費用が相殺され、残額があれば返還されます。しかしクリニックの場合は工事費が高額になりやすいため、敷金だけでは不足し、追加で支払いが必要なケースも多いです。
指定業者以外に依頼できない場合はどうすればいいですか?
指定業者制度がある物件では、原則として指定業者以外に工事の依頼はできませんが、工事費用の減額交渉は行えます。他社から相見積もりを取り、その金額を根拠として「指定業者に同水準の価格で施工してほしい」と交渉することで、費用を引き下げられる可能性があります。
また不必要な工事が含まれていないかを確認することも重要です。疑問点があれば、不動産に詳しい弁護士や専門家に相談しましょう。
カルテなど保存義務のある書類の保管方法は?
カルテ(診療録)は医師法第24条第2項によって、最低でも5年は保存しなければなりません。
“前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。”
閉院後も保存義務は継続するため、院長先生が自ら保管を続けるか、専門の書類保管サービスを利用する必要があります。ただし、カルテには患者の個人情報が含まれるため、自宅で保管することは個人情報保護の観点から適切ではありません。
処分する場合もシュレッダーや機密書類専門の廃棄業者を利用し、情報漏洩が起きないよう適切に対応する必要があります。
まとめ:原状回復の負担を減らしたいなら医院継承も検討を
クリニックの原状回復は、多額の出費と膨大な事務作業を伴う負担の大きい工程です。特に「スケルトン返し」が条件となっている場合、100万円から1,000万円単位の費用がかかることもあります。
これらの退去負担を完全に回避するための、最も有効な方法が「医院継承(医業承継)」です。内装や設備を次世代の医師にそのまま引き継ぐことで、原状回復の必要がなくなり、閉院のコストを減らし、クリニックの価値に対する対価も受け取れます。
私たちエムステージマネジメントソリューションズでは、クリニックの譲渡に関する無料相談を受け付けています。「閉院時の原状回復費用がいくらになるか不安」「自分のクリニックが譲渡可能か知りたい」という先生は、お気軽にお問い合わせください。医療経営士の資格を保有した専門のコンサルタントが、最適なご提案をいたします。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにお問い合わせください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。
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