収入印紙が必要な譲渡契約書は?必要な金額や節税のポイントも解説
目次
クリニックや企業のM&Aを行う際に交わされる「譲渡契約書」には、収入印紙が必要になるケースがあります。
また、収入印紙の貼付ミスや金額不足が発覚した場合は、支払うべき印紙税の3倍もの過怠税が課されるので注意しなければなりません。
そこで本記事では譲渡契約書の種類からそれぞれの収入印紙の有無、収入印紙でミスが発覚した際のペナルティなどを解説いたします。
印紙税の節税テクニックもご紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
M&Aにおける譲渡契約書とは
譲渡契約書とはクリニックや企業などのM&Aにおいて、売り手側と買い手側の間で取り交わす契約書のことです。
医院継承では、承継する内容によって交わされる譲渡契約書が異なります。
たとえばクリニックの事業そのものを譲渡する場合は「事業譲渡契約書」、経営陣の交代では「経営引継契約書」などが交わされます。
これらの契約書のうち、一部のものには印紙税法に基づいて収入印紙を貼付しなければなりません。
関連記事:医業承継(医院継承)で使われる主な契約書・書類とは?
収入印紙とは
収入印紙とは「課税文書」に対して税金を納めるためのものです。
印紙税法によって、特定の文書(課税文書)を作成した際に印紙税を収めることが義務化されています。
“別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。”
そのため、該当する契約書や領収書を作成した際には、印紙税を収めるために収入印紙を貼付し、消印をしなければなりません。
引用:e-Gov法令検索|印紙税法 第三条
なお電子契約の場合は「課税文書に該当しない」ため、収入印紙は不要です。
印紙税法は「文書」に対して課税するためで、電子データは文書に含まれないという解釈によるものです。
収入印紙の有無は譲渡契約書の種類で異なる
医院継承で作成される譲渡契約書は、その内容によって収入印紙の要・不要が決まります。
印紙税法では、課税文書を第1号文書から第20号文書まで分類しており、該当する号によって印紙税額が定められています。
収入印紙が必要な譲渡契約書
収入印紙が必要な譲渡契約書は、主に印紙税法の「第1号文書」と「第15号文書」に該当するものです。
第1号文書とは「不動産、鉱業権、無体財産権、船舶もしくは航空機または営業の譲渡に関する契約書」を指します。
たとえば以下の譲渡契約書が該当します。
【事業譲渡契約書】
会社や個人事業の経営を譲渡する際に作成する契約書。
【不動産譲渡契約書】
土地や建物などの不動産を売買する際に作成する契約書。
【知的財産譲渡契約書】
特許権や実用新案権、商標権、意匠権、著作権などを譲渡する際に作成する契約書。
第15号文書は「債権譲渡または債務引受に関する契約書」のことを指し、たとえば「債権譲渡契約書」が該当します。
【債権譲渡契約書】
金銭債権や売掛金などの債権を、第三者に譲渡する際に作成する契約書。記載金額が1万円未満の場合は非課税。
上記のような「第1号文書」や「第15号文書」に該当する譲渡契約書を作成した場合には、基本的に収入印紙を貼付する必要があります。
収入印紙が要らない譲渡契約書
以下の譲渡契約書は、非課税文書となるため収入印紙が不要です。
【株式譲渡契約書】
株式を譲渡する際に作成する契約書。
【動産譲渡契約書】
動産(機械設備や車両など)を譲渡する際に作成する契約書。
【出資持分譲渡契約書】
持分会社や医療法人などの出資持分を譲渡する際に作成する契約書。
譲渡契約書に収入印紙が必要な場合の金額一覧
事業譲渡契約書や不動産譲渡契約書など「第1号文書」に該当する譲渡契約書を作成した際には、契約金額に応じた収入印紙を貼付する必要があります。
【第1号文書の印紙税】
契約書に記載された金額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
出典:国税庁|印紙税額
債権譲渡契約書などの第15号文書を作成した際には「1万円以上」の契約金額が記載されていた場合に200円の印紙税が発生します。
【第15号文書の印紙税】
契約書に記載された契約金額 | 印紙税 |
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上のもの | 200円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
【令和9年3月31日まで】不動産譲渡契約書の印紙税に関する軽減措置
令和9年3月31日までに作成される譲渡契約書のうち、「不動産譲渡契約書」については「印紙税の軽減措置」が適用されます。
10万円を超える契約金額に対して軽減措置が適用され、最大12万円まで印紙税が軽減されます。
通常の税額と「印紙税の軽減措置」が適用されたあとの税額は、下記のとおりです。
【不動産譲渡契約書で軽減される印紙税一覧】
契約書に記載された契約金額 | 通常の税額 | 軽減後の税額 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 | 500円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
出典:国税庁|印紙税の軽減措置の延長について
クリニックのM&Aで交わされる主な譲渡契約書と収入印紙の有無
医院継承は個人のクリニックを承継する場合もあれば、医療法人そのものを承継するなど、さまざまなケースがあります。
ここでは、医院継承で交わされる主な譲渡契約書と、収入印紙の有無について解説していきます。
事業譲渡契約書
個人開設のクリニックを承継する際には「事業譲渡契約書」が交わされます。
クリニックの建物や医療機器、患者情報などクリニックの経営で必要なすべての資産と共に負債も譲渡される契約書です。
事業譲渡契約書は、印紙税法第1号文書の「営業の譲渡に関する契約書」に該当し、契約金額に応じた印紙税が課税されるので、収入印紙を貼付しなければなりません。
株式譲渡契約書(MS法人の譲渡)
MS法人を承継する際には「株式譲渡契約書」が交わされます。
MS法人とは、医療法人にはできない「営利事業」が行える株式会社のことです。
通常クリニックは「非営利性」が求められることから、配当の分配も禁止されていて「株式」の発行もできません。
MS法人なら一般的な株式会社などと同様の企業形態となるため、医療機器のリースや医薬品の販売などの営利事業が行えて株式の発行も可能です。
関連記事:MS法人とは|設立のメリット・デメリットと活用上の注意点
株式譲渡契約書に関しては非課税となるため、収入印紙は不要です。
出資持分譲渡契約書
出資持分ありの医療法人を承継する場合には「出資持分譲渡契約書」を交わします。
出資持分あり医療法人では、出資者が出資額に応じた法人の財産を持っており、理事長の交代や法人の承継を行う際に、この出資持分の譲渡が行われます。
出資持分は株式と同様の性質を持つため、「株式譲渡契約書」と同様に出資持分譲渡契約書も非課税となり収入印紙は不要です。
拠出金債権譲渡契約書
出資持分なしの医療法人の1つ「基金拠出型医療法人」の場合は「拠出金債権譲渡契約書」が交わされます。
出資持分なし医療法人には「出資持分」という概念がないため、通常の株式譲渡や出資持分譲渡のような方法では承継できません。
代わりに理事の交代と合わせて、法人に対する拠出金債権や貸付金などの債権を譲渡することで、実質的な法人の支配権を移転させる方法が取られます。
拠出金債権譲渡契約書は、印紙税法第15号文書の「債権譲渡に関する契約書」に該当し、課税文書となるため収入印紙(200円)が必要です。
厳密には「契約金額が1万円未満の場合は非課税」となるのですが、クリニックの承継において1万円未満の契約金額になることは現実的に考えにくいでしょう。
株式や出資持分譲渡契約書でも「収入印紙が必要になる」ケース
株式譲渡契約書や出資持分譲渡契約書は、基本的に非課税なので収入印紙も不要です。
しかし、契約書の中に「譲渡代金を受領した事実や受領予定に関する記載」がある場合には、第17号文書「売上代金に係る金銭または有価証券の受取書」に該当し、収入印紙が必要になるので注意しなければなりません。
契約書内に記載された金額によって、課せられる印紙税は異なります。
【第17号文書の作成で発生する印紙税】
記載された受取金額 | 印紙税 |
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上 100万円以下 | 200円 |
100万円を超え 200万円以下 | 400円 |
200万円を超え 300万円以下 | 600円 |
300万円を超え 500万円以下 | 1千円 |
500万円を超え 1千万円以下 | 2千円 |
1千万円を超え 2千万円以下 | 4千円 |
2千万円を超え 3千万円以下 | 6千円 |
3千万円を超え 5千万円以下 | 1万円 |
5千万円を超え 1億円以下 | 2万円 |
1億円を超え 2億円以下 | 4万円 |
2億円を超え 3億円以下 | 6万円 |
3億円を超え 5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え 10億円以下 | 15万円 |
10億円を超えるもの | 20万円 |
受取金額の記載のないもの | 200円 |
出典:国税庁|印紙税額
このような課税を避けるためには、契約書に金額の授受に関する記載はせず「譲渡の合意」だけにすることが重要です。
このように、作成する譲渡契約書や内容によっても印紙税の有無は異なります。
不要な課税による負担を増やさないためにも、医院継承は専門家と相談しながら行うことをおすすめします。
収入印紙の購入方法
収入印紙の購入方法は、主に4つあります。
【郵便局】
全国の郵便局の窓口で購入できます。「ゆうゆう窓口」が設置されている郵便局なら土日などの営業時間外でも収入印紙が購入できます。
【法務局】
法務局はすべての収入印紙を確実に取り扱っているため、高額な収入印紙を用意しなければならない場合でも安心です。
【コンビニ】
コンビニでも収入印紙は購入可能です。年中無休で24時間いつでも購入できるので大変便利ですが、少額の収入印紙しか取り扱っていない場合が多く在庫数も限られます。
【金券ショップ】
定価よりも1〜2%程度安く購入できる場合があります。ただし基本的に買い取った金券しか販売していないため在庫数は少ないことが多いです。
譲渡契約書に貼付する収入印紙は高額なことが多いため「郵便局」もしくは「法務局」に向かったほうが確実に収入印紙を揃えられるでしょう。
収入印紙の貼付忘れや金額不足で知っておくべきこと
譲渡契約書に収入印紙を貼り忘れてしまったり、不足していた場合にはペナルティが課されるので注意しなければなりません。
ここでは収入印紙でミスがあった場合に、どのような状況になるのか解説していきます。
契約は問題無く成立
収入印紙の貼付を忘れたり金額が不足していたりしても、契約自体は問題なく成立します。
収入印紙の貼付は税金を納めるための手続きにすぎず、契約が成立するための条件ではないためです。
契約は互いの同意で成立すると民法によって定められており、収入印紙があるかどうかは契約の成立とは関係ありません。
“契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。”
出典:e-Gov法令検索|民法第522条
したがって、医院継承においても収入印紙に関するミスがあったとしても、譲渡契約が無効になったり、承継手続きができなくなったりすることはありません。
過怠税が課される
収入印紙が無くても契約書類の効果そのものは有効ですが、税務上はペナルティとして「過怠税」が課せられる点は注意しましょう。
収入印紙の貼付を忘れていた場合には必要だった印紙税額の3倍が、金額が不足していた場合には不足分の3倍の過怠税が課せられます。税務調査などで収入印紙のミスが発覚する前に、自主的に貼付忘れや金額不足を申し出た場合には、それぞれ過怠税は1.1倍に軽減されます。
消印忘れも過怠税が課される
収入印紙を貼付しても、消印(印紙と文書にまたがって押印すること)を忘れた場合も過怠税の対象となります。
消印は収入印紙がすでに使用済みであることを明示し、不正な再利用を防ぐために印紙税法で義務付けられているためです。
“課税文書の作成者は、前項の規定により当該課税文書に印紙をはり付ける場合には、政令で定めるところにより、当該課税文書と印紙の彩紋とにかけ、判明に印紙を消さなければならない。”
引用:e-Gov法令検索|印紙税法 第8条 2項
消印のない収入印紙は「未使用」とみなされ、別の文書に貼り直される可能性があると判断されます。
消印を忘れた場合の過怠税は、消印されていない収入印紙の金額分が課せられます。
電子契約による譲渡なら収入印紙は不要
電子契約で譲渡契約を締結する場合、収入印紙は一切不要です。
これは、印紙税法が「文書」に対して課税するものであり、電子データは法律上の「文書」に該当しないためです。
「法の抜け穴」を狙ったグレーな方法に思えるかもしれませんが、国会答弁でも明確に「電子契約は課税されない」と回答されています。
“文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。”
出典:衆議院|第162回国会(常会)質問主意書「五について」
電子契約は印紙税の節約以外にも、契約締結の迅速化や文書管理の効率化、郵送コストの削減といったメリットもあります。特に遠方同士の医院継承では、電子契約のほうが手続きの短縮が可能です。
ただし、法的に有効となる電子契約を行うためには、電子署名法の要件を満たした電子署名を行う必要があります。単純にワードやドキュメントなどで作成した契約書では、電子契約としての効果はないため注意が必要です。
医院継承の手続きを電子契約で行いたい、できる限り節税効果のある手続きを行いたい場合は、医療業界を専門とした仲介会社に相談することをおすすめします。
まとめ:適切な譲渡契約書の作成は専門家に相談を
医院継承における収入印紙の有無は、契約書の種類や記載内容によって異なります。
収入印紙の貼付ミスは、過怠税を課されるリスクがあるので注意しなければなりません。
医院継承を成功させるためには印紙税だけでなく、契約書の内容や手続きの進め方についても専門的な知識が必要です。
特に初めての承継では「適正な譲渡価格なのか」「契約書の内容は適切か」「税務リスクはないか」といった不安を抱えている先生も多いことでしょう。
私たち「エムステージマネジメントソリューションズ」は、医院継承専門として培ってきた豊富な経験で印紙税の最適化から承継戦略まで、先生の状況に合わせてトータルサポートいたします。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継にお問い合わせください。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
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