医院開業に失敗して潰れるクリニックの8つの特徴!休廃業が増加している原因と対策を解説


目次
クリニックの開業は、医師にとって大きな夢の実現ではあるものの、ゴールではなく始まりです。
せっかく夢を実現したにもかかわらず、経営に失敗してしまう場合もあります。
そこで本記事では、医院開業で失敗しやすいクリニックの特徴を8つ紹介し、その背景にある原因と、失敗を避けるための具体的な対策について詳しく解説していきます。
医院開業でよくある失敗をしないように、この記事で原因と対策方法を把握しておきましょう。
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医院開業に失敗して潰れるクリニックの8つの特徴
クリニック開業前の準備段階、または開業後の経営で失敗してしまうクリニックの主な特徴を8つご紹介します。
①開業資金や設備投資による資金繰りの悪化
テナントビルや戸建てなど、開業方法によっても必要な金額は大きく異なりますが、一般的には開業時に下記のような初期費用が必要です。
- 土地や建物の取得
- 賃貸費用
- 医療機器の購入
- 内装工事
- 広告宣伝費
これらの費用を過剰に見積もってしまったために開業後の運転資金が圧迫され、資金繰りが悪化しているクリニックも多くあります。
特に高額な医療機器は開業後の運転資金に大きく影響してくるため、患者の利用頻度などを考慮して慎重に導入しなければなりません。
②ニーズを把握していない
「この地域なら、この診療科目が求められているはずだ」という思い込みだけで開業すると失敗のリスクが高まります。
たとえば高齢者が多い地域で小児科を開業してしまうなど、患者のニーズを正確に把握せず開業してしまうケースも見られます。
求められる医療や近隣住民の年齢層など、事前の診療圏調査を怠って開業をすると「想定よりも患者が少ない」という事態に陥りかねません。
③地域のクリニックの状況を把握していない
開業エリア周辺に、同じ診療科目を掲げるクリニックが多数存在する場合は、患者の奪い合いになり失敗のリスクが高まります。
特に地域に根ざした人気のクリニックがある場合には、そのエリアでの新規参入は避けたほうが良い場合もあります。
競合のクリニックがいるエリアで開業する場合でも、競合の診療内容や強みを調査し、自身のクリニックで差別化できるように戦略を考えなければなりません。
競合との差別化ができていないと、診療料金の競争に巻き込まれたり、患者に選んでもらえなかったりする可能性があります。
④集患対策を行っていない
どれだけ素晴らしい医療サービスを提供できるクリニックでも、集患のためのマーケティング戦略を怠っていると患者は集まらず失敗します。
特にインターネットによる情報収集が当たり前の環境になっているため、ホームページ作成は必須で、SNSやオンライン広告の活用も視野に入れる必要があります。
高齢者の型がターゲットの場合には、Web媒体ではなく地域住民へのチラシ配布のほうが効果的な場合もあるでしょう。
主な診療科目やターゲット層に合わせて、具体的な集患戦略を行う必要があります。
⑤スタッフの教育ができていない
クリニックの評判は、医師の診療スキルだけでなく、受付や看護師などの対応も大きく影響します。
言葉遣いが悪かったり患者への配慮が欠けていたりすると、患者離れにつながるだけでなく、悪い口コミによって新規の患者も来院されなくなります。
また、スタッフのマニュアルが整理されておらず、業務効率が悪かったりスタッフ間の連携が取りづらかったりすると、スタッフの離職にもつながるのです。
医療接遇(患者への丁寧な対応)の重要性を理解し、定期的な研修を行うなど、スタッフ教育に力を入れることが、クリニックの成功には欠かせません。
関連記事:クリニックが成功するスタッフ教育とは?「やってはいけないこと」や重要なポイントを解説
⑥患者の口コミに対処していない
インターネットやSNSが普及した今、患者の口コミはクリニックの評判に大きな影響を与えます。
特にGoogleマップのレビューや医療系の口コミサイトにネガティブな書き込みがあった場合、それを放置しておくと、新たな患者が来院をためらう要因になるので注意しなければなりません。
悪い口コミが投稿されていた場合には真摯に受け止め、迅速に改善する旨を返信しましょう。
良い口コミに対しても感謝の言葉を伝え、丁寧なコミュニケーションを心がけることでクリニックの信頼性向上につながります。
また、スタッフに口コミの内容を共有することも重要です。
悪い口コミの改善をするのはもちろんのこと、良い口コミはスタッフのモチベーション向上につながります。
⑦患者の利便性が悪い
患者がクリニックを選ぶ際、診療内容だけでなく「通いやすさ」も重要な要素です。
【患者のストレスの原因や利便性が悪い主な要因】
- 最寄り駅から遠い
- 駐車場(駐輪場)がない
- 院内が狭くて待ち時間が長い
- 予約の方法が電話だけで使いにくい
中でも「駐車場(駐輪場)」の有無は利便性に大きく直結する要素です。
都市部の駅近くの場合は駐車場が無くても影響は少ないと言えますが、駅から遠いクリニックや地方のクリニックの場合には、駐車場の有無が集患に大きな影響を与えるでしょう。
また自由診療をメインにする場合には、キャッシュレス決済への対応やオンライン予約システムの導入など、利便性を高める工夫も欠かせません。
「他のクリニックのほうが便利だ」と思われないよう、患者目線の環境整備も大切です。
⑧院長が一人でマネジメントをしている
勤務医時代に比べると、開業医は非常に数多くの業務が発生します。
【開業医が行う業務の一例】
- スタッフの採用から教育
- 労務管理
- 経理・財務
- 集患・マーケティング
- 行政手続き
特に初めて開業する場合、これらすべてを院長一人で抱え込むと診療に集中できなくなり、経営戦略を考える時間も無くなってしまいます。
経営に関しては税理士やコンサルタントなどの専門家のサポートを受けたり、スタッフ教育は経験豊富な医療スタッフに任せたりなど、院長自身が業務に追われない環境づくりも重要です。
【2024年】医療機関の休廃業率は年々増加
東京商工リサーチの調査によると、2024年の医療機関の休廃業・解散件数は786件と、過去最多を更新しています。
【2024年度の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の休廃業】
倒産 | 64件 |
休廃業・解散 | 722件 |
合計 | 786件 |
出典:帝国データバンク|医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)
2000年には99件だった休廃業・解散件数は、年々増加傾向です。
残念ながら医療機関の休廃業は、上記のグラフの傾向どおりに今後もしばらく増えていくと予測されています。
医療機関の休廃業が増加している背景
医療機関の休廃業が増加し続けている背景には、下記の要因が挙げられます。
- 経営者の高齢化
- コロナ関連の補助金削減や融資の返済
- 備品や人件費などのコスト増加
- 患者の「かかりつけ医」の見直し
それぞれ詳しく解説していきましょう。
経営者の高齢化
開業医の平均年齢は年々上昇しており、令和4年の時点で診療所の医師は平均年齢60.4歳※です。
出典:厚生労働省|令和4年「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
多くの開業医が引退を考える年齢になってきているものの、後継者が見つからず廃業を選択するクリニックが増えているのです。
特に最近では、子どもが医師だったとしても開業医に興味が無かったり、または別の地域で開業したりするケースも増えつつあります。
身内に後継者がいない場合は、第三者への医院継承という選択肢もありますが、なかなか希望のマッチングが実現しないまま、廃業となってしまうクリニックがあるのも現状です。
コロナ関連の補助金削減や融資の返済
新型コロナウイルス感染症が蔓延した頃、多くの医療機関が政府からの支援金や補助金を活用して経営を維持していました。
また、コロナ禍による経営悪化に対応するため、実質無利子・無担保のゼロゼロ融資(コロナ融資)を受けたクリニックも多くあります。
そして、コロナ禍が落ち着いてから数年が経過した現在、融資の返済期間を迎えています。
特にコロナ禍以前から経営が厳しかったクリニックは資金繰りに行き詰まり、休廃業に追い込まれてしまうわけです。
また、コロナ禍で一時的に患者が減少したクリニックも、コロナ後も元の水準まで回復せずに返済負担だけが重くのしかかっている所も多くあります。
備品や人件費などのコスト増加
近年の物価上昇や人材不足により、クリニック経営における固定費が大幅に増加しています。
【増加が著しい主なコスト】
- 医療材料費
- 光熱費
- 人件費
- 医療機器のメンテナンス費
中でも人件費は、医療人材の不足が深刻化している傾向にあることから、優秀なスタッフを確保するために高い給与設定を考慮する必要もあるでしょう。
しかし、診療報酬の改定では十分なプラス改定がなされていないため、支出が増える一方で収入が伸び悩み、経営を圧迫している部分もあります。
特に医療機関の支出は固定費の割合が大きいため、人件費などの固定費増加は経営を大きく傾ける要因になるのです。
患者の「かかりつけ医」の見直し
インターネットやSNSの普及により「ずっと同じ医師にかかる」という従来の習慣から「評判の良いクリニックを探して通院する」という患者が多くなっていると考えられます。
患者は口コミサイトやSNSで医療機関の評判を確認し、予約のしやすさや待ち時間の短さ、医師の対応など、さまざまな要素を簡単に比較できるようになったためです。
この変化に対応できていないクリニックは、徐々に患者離れが進んでいってしまいます。
また、ITにあまり詳しくない場合には患者が減っている要因がわからず、対策できないまま経営不振に陥ってしまうわけです。
特に医療のデジタル化(オンライン予約など)への対応が遅れているクリニックでは、若年層を中心に患者が減少する可能性は高いでしょう。
医院開業で失敗しないためのポイント
医院開業時にしてしまいがちな失敗を避け、安定したクリニックの経営を実現するために、押さえておくべき重要なポイントを7つ紹介します。
診療圏の分析を入念に行う
開業エリアのニーズや人口動態、同じ診療科目となる競合の有無も調査せずに開業すると、患者が集まらずに経営不振に陥ってしまいます。
そうならないためにも、クリニックの開業において「診療圏の分析」が重要です。
【診療圏調査で確認すべき項目】
- 人口動態(年齢構成や将来的な人口の変化)
- 競合クリニックの状況(診療科や規模、評判など)
- 地域住民の医療ニーズ
- 交通アクセス状況
- 近隣施設(商業施設や学校、企業など)
たとえば競合が多い場合でも「生活習慣病に特化している」「アレルギー疾患に強い」「夜間診療に対応」など、競合には無い強みを自院でアピールすれば集患にもつなげられます。
地域の医療ニーズに合った診療科目やサービスを提供し、競合との差別化を図る戦略を立てるためにも、診療圏の分析は欠かせません。
開業資金の負担を減らし運転資金に余力を持つ
クリニックの開業では初期投資を抑え、運転資金に余裕を持つことも重要です。
特に保険診療がメインの場合、診療報酬が入金されるまで約2か月程度かかります。
開業してすぐに患者が集まるとも限らないため、最悪の事態を想定した上で人件費や家賃、材料費などの支出に耐えられる運転資金を用意しなければなりません。
【開業資金の負担を減らす主な方法】
- テナント開業で初期費用を抑える
- 医療機器はリースを活用する
- 補助金や助成金を活用する
- 中古の医療機器を検討する
- 医院継承による開業を検討する
開業後の精神的な不安を軽減するためにも、少なからず約6か月程度の運転資金は確保しておくことをおすすめします。
関連記事:クリニックの運転資金の調達方法とは?資金の内訳や運転資金不足を防ぐ対策も解説
オンライン化で利便性を高める
今や「選ばれるクリニック」の要素として、IT化やオンライン化は必然です。
特に若年〜中年層の患者を獲得するには、デジタル化による利便性の向上が欠かせません。
【取り入れたいオンラインサービスの一例】
- Web問診(来院前に症状や既往歴を入力して待ち時間が減少)
- オンライン予約(24時間いつでも予約可能)
- オンライン診療(通院困難な患者へのフォロー)
- 電子決済(キャッシュレス支払い)
- LINE連携(予約確認や健診結果の共有)
これらのサービスは患者の利便性向上だけでなく、スタッフの業務効率化にもつながります。
たとえばオンライン化によって電話の対応時間や紙カルテの入力時間を削減できれば、目の前の患者に対して、より質の高い対応が可能です。
また、オンライン化やIT化の導入には補助金や助成金の対象となっているものも多いので、賢く利用して負担を軽減しましょう。
関連記事:セルフレジの導入費削減!クリニックが利用できる働き方改革推進支援助成金や補助金を紹介
設備投資は費用対効果を考慮する
最新の医療機器の導入は診療の質を向上させ、患者へのアピールにもつながる可能性があります。
しかし最新の医療機器は高額なため、収益性をしっかりと分析しなければ運用資金の負担だけが増加してしまいます。
下記の項目を考慮した上で、費用対効果を入念に検討しましょう。
【設備投資の判断基準例】
- 地域のニーズ
- 競合となるクリニックの導入状況
- その機器を使用する患者の割合
- 導入費用の償却期間に対する収益予測
- 維持費やランニングコスト
特に開業資金が少なく、設備投資によって運用資金を圧迫してしまうような場合には、必要最低限の設備からスタートし、患者のニーズや収益状況を見ながら設備投資を行っていく方法が賢明です。
給与体系や福利厚生を充実する
優秀なスタッフを確保し、定着してもらうには魅力的な待遇が欠かせません。
【スタッフ獲得のポイント】
- 地域の給与水準より低くならないようにする
- 残業時間の削減(ITの導入による業務効率化など)
- 資格取得の支援制度を設ける
- 産休や育休を取得しやすい環境づくり
- 定期的な昇給・賞与制度
特に看護師や医療事務は、クリニックの顔となるため患者満足度に直結する重要な人材です。
人件費は固定費として大きな負担になりますが、優秀なスタッフがいることで口コミも良くなり、長期的な集患にもつながっていきます。
「働き方改革」の取り組みが重要視されている昨今、スタッフが満足して働けるように給与体系や福利厚生を充実する必要があります。
働きやすい職場環境づくりを行う
優秀なスタッフを採用できても、職場環境が悪ければすぐに離職してしまいます。
特に医療業界は人間関係のストレスも大きいと言われていますので、働きやすい環境づくりに注力しましょう。
【働きやすい環境づくりのポイント】
- 業務マニュアルの整備によるストレス軽減
- 定期的なミーティングでコミュニケーションを取る
- 休憩室や更衣室など施設面の配慮
- iTの導入による業務効率化
- 各種休暇を取得しやすい環境づくり
中でも休暇に関しては有給休暇だけでなく、育休や産休も取得しやすい環境づくり(雰囲気づくり)が重要です。
今や育休は女性だけでなく、男性(産後パパ育休)も積極的に取得していくべきと言える時代になっています。
男性スタッフも気負うことなく育休が取れるように、シフト管理だけでなくいわゆる「風通しの良い雰囲気づくり」も欠かせません。
スタッフの離職率を下げるためにも、ワークライフバランスが取れる職場環境づくりが重要です。
開業相談できる機関を活用する
クリニックの開業には医療の知識だけでなく、経営や法務、人事などさまざまな専門知識が必要です。
これらすべてを一人で抱え込まず、専門家のサポートを積極的に活用しましょう。
【開業時に相談できる主な機関や専門家】
機関 | 主なサポート内容 |
地域の医師会 | 開業手続きや地域内の医療機関との連携 |
医療業界を専門とした税理士や会計士 | 資金計画や税務関係 |
医院開業コンサルタント | 新規開業に向けたサポート |
社会保険労務士 | スタッフの労務管理 |
医療機器のメーカー | 設備導入や融資の相談 |
医院継承(M&A)の仲介会社 | 承継開業のサポート |
関連記事:診療所の開業相談ができる機関
特に医院継承(M&A)による開業は、新規開業に比べると初期投資を抑えられたり、既存の患者基盤を引き継げたりするメリットがあります。
初めて医院開業される方こそ、開業時のリスクが抑えられる医院継承の検討もおすすめします。
医院開業で失敗しないためには専門家のサポートも必須
クリニックの開業は、医師自身が本当に行いたかった医療を実現し、収入面においても勤務医に比べて大きく上回る可能性があります。
しかし、医療の知識と経営の知識は別物であり、優れた医師が必ずしも優れた経営者になれるとは限りません。
休廃業率が増加している今だからこそ、開業前の準備や開業後の経営戦略が非常に重要です。
この記事で紹介した失敗事例や対策ポイントを参考にして、入念な分析をしながら開業計画を立てましょう。
また、開業に関して少しでも不安な点がある場合には、一人で悩まずに専門家に相談することもおすすめします。
特に医院継承による開業を検討している場合は、私たち「エムステージマネジメントソリューションズ」までお気軽にご相談ください。
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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
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