時間外加算に該当する処置とは?手術における加算方法や時間外対応加算との違いも解説


目次
医療機関において、通常の診療時間外に行う医療処置には「時間外加算」が適用可能です。この加算制度は、救急医療体制の確保や医療従事者の労働環境への配慮など、重要な役割を担っています。
しかし、実際の運用にあたっては、多くの経営者が悩まされるポイントでもあります。
特に「どのような場合に加算が認められるのか」「手術の場合はどう算定すれば良いのか」「時間外対応加算との違いは何か」といった疑問を抱えている経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、適切に診療報酬の請求をするために、時間外加算制度の基本から算定する上での注意点までくわしく解説します。
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時間外加算の処置とは
時間外加算の処置とは、医療機関があらかじめ定めていた通常の診療時間以外で実施した医療処置に対して認められる制度です。時間外診療を行う医療機関を支援する目的で設けられています。
「診療時間外」に該当する時間は、以下のように定義されています。
- 平日の場合:午前8時より前と午後6時以降
- 土曜日の場合:午前8時より前と正午以降
この時間帯での診療や処置に対して、通常の診療報酬点数に加えて追加の報酬が得られます。
ただし、単に時間外というだけでは時間外加算の対象とはなりません。患者の容態に緊急性があり、かつ時間外の処置が医療機関側の都合ではない場合にのみ認められます。
適切に時間外加算を算定するためにも、診療時間を院内に明示し、受付時間と実際の処置時間を正確に記録する必要があります。
オンライン診療による処置も時間外加算の対象
医療のデジタル化が進む中、ビデオ通話などを用いたオンライン診療でも、一定の条件を満たせば時間外加算の算定を行えます。
オンライン診療を行った際に時間外加算を算定するためには、以下の施設基準を満たさなければなりません。
施設基準 | オンライン診療のガイドラインに準拠した体制インターネット環境と必要な通信機器の設備地方厚生支局への届出書の提出 |
要件 | 診療時間外による受付ビデオ通話や電話による診療(FAXやメールは対象外)緊急性のある診療(定期的な予約診療は対象外) |
点数 | 初診・再診ともに50点深夜加算や休日加算と重複は不可 |
ただし、対面診療における時間外加算の必要条件と同じように、時間外加算の処置として扱われないケースもあるので注意しましょう。
関連記事:オンライン診療ガイドラインの要点をわかりやすく解説
時間外加算は深夜加算や休日加算との併用が不可
医療機関の診療報酬の請求では時間外加算・深夜加算・休日加算をまとめて「時間外等加算」とも呼ばれています。これらの加算は重複して算定はできず、実施した時間帯などに応じて最も点数の高い加算のみが適用される仕組みです。
たとえば休日の深夜帯(午後10時から翌朝6時まで)に医療処置を実施した場合、深夜加算と休日加算のうち、最も高い点数が設定されている休日加算が適用されることになります。そのため、医療機関は患者の受診時間を正確に把握し、適切に加算しなければなりません。
ここでは、深夜加算と休日加算について解説します。
深夜加算となる処置
深夜加算は、午後10時から翌朝午前6時までの時間帯に実施した処置に対して算定できる加算制度です。
この時間帯は医療スタッフの身体的・精神的負担が特に大きく、また対応する患者の緊急性も高いことから通常の時間外加算に比べて、より高い点数が設定されています。
ただし、夜間診療を専門とする医療機関で、通常の診療時間と深夜加算の時間が重なる場合には算定できません。
また、医療機関側の都合で深夜に処置を行ったり、定期的な診療や処置を行ったりした場合も対象外です。
休日加算となる処置
休日加算は、医療機関が通常休診としている日に「緊急で実施した処置」に対して算定できる加算です。
休日加算の対象となる日は、以下のとおりです。
- 日曜日
- 国民の祝日
- 年末年始(12月29日~31日、1月2日~3日)
ただし、すべての医療機関が休日加算を算定できるわけではありません。
算定が認められるのは、以下のような医療機関です。
【休日加算を算定できる医療機関】
- 地域医療支援病院
- 認定された救急病院
- 救急医療対策事業に位置づけられている保険医療機関など
休日加算も、医療機関の都合によって休日に行った処置などは対象外となります。
時間外等加算の点数一覧
時間外等加算の点数は、患者の年齢と診療の種類によって異なります。
それぞれの点数は下記のとおりです。
【患者が6歳以上の場合】
時間外等加算の種類 | 初診 | 再診 |
時間外加算 | 85点 | 65点 |
深夜加算 | 480点 | 420点 |
休日加算 | 250点 | 190点 |
【患者が6歳未満の場合】
時間外等加算の種類 | 初診 | 再診 |
時間外加算 | 200点 | 135点 |
深夜加算 | 365点 | 260点 |
休日加算 | 695点 | 590点 |
医療機関は患者の年齢と診療時間帯を正確に把握し、適切な算定が必要です。
時間外加算の処置として認められないケース
時間外加算は、すべての時間外の診療に対して適用できるわけではありません。
医療機関の運営状況や受付のタイミングによっては、加算の対象外となるケースがあります。
主に「診療が続いている状態での診療」と「医療機関の都合による診療」の2つの状況において、時間外加算は認められません。
ここでは、時間外加算の処置として認められないそれぞれのケースを解説します。
診療が続いている状態で診療時間外の診療をした場合
医療機関の診療時間内に開始した診療が長引いて時間外にまでおよんだ場合、その状況下で新たな患者の診療を行っても時間外加算の対象とはなりません。
これは厚生労働省の規定によるものです。
“当該保険医療機関が常態として診療応需の態勢をとり、診療時間内と同様の取扱いで診療を行っているときは、時間外の取扱いとはしない。”
引用:厚生労働省|診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について
たとえば、診療時間内の診察が続いている中で、診療時間外となる午後6時以降に新たな患者さんを受け付けた場合は加算ができません。
時間外加算の適用は、あくまで「診療体制が解除されている状態(すぐに診察を行えない状態)による時間外の診療」に限られるためです。
診療時間内に行っている診療が診療時間外まで継続している場合は「診療体制が整っている状態」になるため、その時点で新たに診療を診療したとしても時間外加算は適用されません。
このため、医療機関側は実際の診察時間を適切に記録し、加算の可否を判断しなければなりません。
医療機関の都合で診療時間外に診療をした場合
医療機関の都合により通常の診療時間外に診療を行った場合は、時間外加算は適用されません。
厚生労働省の規定では、以下のように明確に定められています。
エ 時間外加算は、保険医療機関の都合(やむを得ない事情の場合を除く。)により時間外に診療が開始された場合は算定できない。 |
引用:厚生労働省|診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について
たとえば、医師や医療スタッフの勤務時間の関係で時間外に診療を行った場合、予定を変更して通常の診療時間外に診療を設定した場合などは、時間外加算を算定できません。
時間外加算は、患者の急な体調不良など、基本的に緊急性のある場合にのみ認められる制度であるためです。医療機関側の事情で時間外に行った診療は加算ができません。
医療機関は運営上の都合による時間外診療と、患者の緊急性による時間外診療をしっかりと区別して記録する必要があります。
手術における時間外加算1と2の違い
時間外加算の制度は、一般的な診療と手術によっても条件や制度の内容が異なります。
手術における時間外加算には、主に外科医の過重労働対策としての役割が含まれています。
外科医の長時間労働や不規則な勤務形態は、若手医師の外科離れの要因となっており、特に緊急手術への対応による時間外・休日・深夜勤務は大きな負担となっていました。
こうした状況を改善するために、2014年度の診療報酬改定において手術の時間外加算の点数が増額されたのです。
手術における時間外加算制度は、手術の所定点数と医療機関の体制に応じて「時間外加算1」と「時間外加算2」の2段階に分かれています。
ここではそれぞれの違いについて解説します。
所定点数が150点以上の場合は時間外加算2
時間外加算2は、緊急を要する手術が診療時間外に発生した際に適用される、基本的な加算制度です。
手術の点数が150点以上であり、なおかつ原則外来患者(入院中の患者以外)に対して行われる手術が対象となります。
具体的な加算率は、下記のとおりです。
- 休日や深夜帯の手術:手術点数の0.8倍を加算
- その他の時間外:手術点数の0.4倍を加算
時間外加算2は、特別な施設基準の届出を必要としないため、多くの医療機関で一般的に算定されています。
ただし、時間外加算が認められるのは、患者の容態から緊急性があり時間外の手術が必要な場合に限られます。
医療機関の都合(たとえば手術室の予約状況や医師のスケジュールの都合)によって時間外となった場合には、時間外加算は適用されません。
所定点数が1,000点以上かつ要件を満たした場合は時間外加算1
時間外加算1は、手術点数が1,000点以上の比較的大きな緊急手術に対して適用される加算制度です。
時間外加算2に比べて、加算率は2倍高く設定されています。
- 休日や深夜帯の手術:手術点数の1.6倍を加算
- その他の時間外の手術:手術点数の0.8倍を加算
ただし、時間外加算1を算定するためには以下のような施設基準を満たし、地方厚生局への届出が必要です。
【時間外加算1が適用される施設基準の一例】
- 手術に関わる術者および第一助手について、その手術前日の夜勤時間帯(午後10時から翌日の午前5時まで)に当直、夜勤、緊急呼出しを行った日数が年間4日以内であること
- 同じ医師が2日以上連続で夜勤時間帯(午後10時から翌日午前5時まで)に当直を行った回数が年間4回以内であること
- これらの要件はクリニック単位ではなく医師一人ひとり個別に判断される
また、加算1が認められるのは以下のような場合に限られます:
- 休日・時間外・深夜加算が算定できる初診・再診に引き続いて行われた緊急手術の場合
- 入院中の患者の病状が急変し、緊急手術が必要となった場合
- 検査等の実施後、速やかに(8時間以内に)緊急手術を開始した場合
時間外加算1の要件は、当直と手術の組み合わせを制限して医師の連続勤務による過度な負担を防ぎ、より良い労働環境の整備を行うための施策になっています。
時間外加算の処置となるタイミング
時間外加算の処置として適用されるタイミングは、一般的な処置の場合は診察開始時間、手術の場合は執刀した時間です。受付をしたタイミングではありませんので、注意しましょう。
手術の場合は、以下の条件も満たす必要があります。
初診又は再診から手術までの間に、手術に必要不可欠な検査等を行い、かつ、当該検査等の終了後に手術(休日に行うもの又はその開始時間(執刀した時間をいう。)が診療時間以外の時間若しくは深夜であるものに限る。)を開始した場合であって、当該初診又は再診から手術の開始時間までの間が8時間以内である場合(当該手術の開始時間が入院手続きの後の場合を含む。) |
なお、入院患者に対して休日や深夜に手術を行った場合には、下記の条件を満たせば「休日加算」または「深夜加算」を算定できます。
「通則 12」の入院中の患者に対する手術の休日加算1及び2又は深夜加算1及び2は、病状の急変等により、休日に緊急手術を行った場合又は開始時間が深夜である緊急手術を行った場合に算定できる。 |
注意点として、時間外加算は原則として外来患者に対する手術が対象となるため、入院患者に対する手術では、病状の急変による緊急手術の場合を除き、時間外加算は算定できません。
時間外加算と「時間外対応加算」との違い
医療機関の診療報酬に関する制度の中で「時間外加算」と「時間外対応加算」は、一見似たような名称ですが、その目的や内容は大きく異なります。
時間外対応加算とは「時間外に対応できる体制を整えている医療機関」が算定できる制度であり、時間外の患者からの問い合わせに対応できる体制を整備し、施設基準を満たすことが必要です。
両者の主な違いは、以下のとおりです。
時間外加算 | 時間外対応加算 | |
加算制度の概要 | 深夜や休日などをのぞいた、診療時間外に行った診療や手術に対する加算 | 時間外でも患者からの問い合わせなどに対応できる体制を整えている医院が算定できる制度 |
対象となる患者 | 初診・再診どちらにも算定可能 | 再診にのみ算定可能 |
算定要件 | 時間外に診療や手術を行った場合 | 時間外でも対応できる体制を整備していることに対する加点 |
点数 | 初診:85点再診:65点(6歳以上の患者に対して診療を行った場合)時間外等加算の点数については「時間外等加算の点数一覧」を参照 | 医療機関の体制によって下記4段階の点数時間外対応加算1:5点時間外対応加算2:4点時間外対応加算3:3点時間外対応加算4:1点 |
大きく異なる点は、時間外加算が「実際の診療行為」に対する評価、時間外対応加算は「診療体制の整備」に対する評価という点です。
また、時間外対応加算は、時間外に対応できる体制(施設基準)によって算定できる点数が異なり、診療時間外の対応体制について院内の掲示物などで患者に対して周知しなければなりません。
時間外に処置を行った際には適切な加算を行いましょう
時間外加算の制度について十分に把握していないと、本来算定できるはずの点数を取り逃してしまい、医療機関の経営で大きな損失となりかねません。
診療時間外の受付時間や実際に処置を行った時間など、加算の条件をしっかりと確認しておきましょう。また、クリニックの体制を整備することで「時間外対応加算」も算定できます。
自院の状況に合わせて、どのような加算が取得可能か、またどのような体制づくりが必要か検討してみましょう。
医療機関の経営をより良いものにするためにも、このような加算制度の適切な活用も重要です。
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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。プレジデント社より著書『”STORY”で学ぶ、М&A「医業承継」』を上梓。