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M&Aのシナジー効果や種類とは?クリニックのM&Aで成功した事例も解説

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M&Aのシナジー効果や種類とは?クリニックのMAで成功した事例も解説
M&Aのシナジー効果や種類とは?クリニックのMAで成功した事例も解説

M&Aでは事業を始める際のコスト低減や、事業拡大のメリットだけでなく、それらが組み合わさったときに発生する「相乗効果(シナジー効果)」の検討も重要です。

たとえば、企業の統合による販路の拡大や経営資源の共有によるコスト削減など、さまざまなシナジー効果が期待できます。

本記事では、M&Aにおけるシナジー効果の種類や活用方法について解説します。

またクリニックのM&Aでシナジー効果を得られた成功事例や、効果を最大限に引き出すために必要な分析手法もまとめていますので、クリニックのM&Aを検討されている方は、ぜひ最後までご覧ください。

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M&Aにおけるシナジー効果とは

M&Aにおけるシナジー効果とは、一般的に2つ以上の組織が統合することで相乗効果が生まれ「1+1が3以上になる」ことを指します。

たとえば、2つの企業がそれぞれ100万円の価値を持っていたとして、統合後には250万円の価値を生み出せるようになるといった具合です。

シナジー効果は、M&Aを検討する際の重要な判断材料になります。具体的には、重複する業務を統合して経費削減につなげたり、それぞれの企業が持つ販売網を相互活用することで売上を増加させたり、ノウハウの共有による業務効率を向上させたりすることが可能です。

また、人材や設備の共有によってコストを抑えられるほか、市場での競争力を高められるメリットもあります。

M&Aの代表的なシナジー効果の種類

M&Aで生まれるシナジー効果は、大きく4つの種類に分類できます。

  • 販売シナジー
  • 生産シナジー
  • 投資シナジー
  • 経営シナジー

M&Aを検討する際には、あらかじめこれらのシナジー効果の検討が重要です。

ここでは4つのシナジー効果について、具体例を交えながら詳しく解説していきます。

販売シナジー

販売シナジーとは、M&Aによって販売面で相乗効果が生まれることを指します。

たとえば東京で強みを持つ企業が大阪で実績のある企業と統合をすれば、関西圏での販売網が手に入ります。若者向けに商品を取り扱っている企業とシニア層に強い企業が統合すれば、それぞれの新しい顧客層へアプローチが可能です。

相手企業の営業ノウハウを採り入れることで、販売効率を向上させることも可能です。

M&Aによって新市場への進出や顧客基盤の拡大、ブランド力の向上など、売上増加につながる「販売シナジー」の効果が出てきます。

生産シナジー

生産シナジーとは、生産や業務面による相乗効果のことです。

設備や技術、ノウハウを共有したり統合したりすることで、コスト削減や生産性向上が実現します。

たとえば、同じような製品を作っている2つの工場を統合すれば、重複する設備を整理して稼働率を上げられます。一方の企業が持っている最新技術をほかの生産ラインに導入することで、品質向上やコスト削減も可能です。

また、共有できる原材料を数多く仕入れることで、コスト低減につなげられる点も生産シナジーによる効果の特徴です。

M&Aによって経営資源を効率的に活用できて、収益性の向上やコスト低減などの「生産シナジー」の効果が生まれます。

投資シナジー

投資シナジーとは、M&Aによって企業の研究開発力や技術力が掛け合わされ、新たな価値を生み出す相乗効果のことです。

企業が持っている研究の技術と、もう一方の企業が持つ製品化のノウハウを組み合わせることで、革新的な商品やサービスを生み出せる可能性が広がります。

たとえば経営資源が豊富な企業がベンチャー企業を買収することで、ベンチャーの新しい技術に開発費用を投資したり新たな商品開発につなげたりと、新規事業の展開も可能です。

M&Aによって研究開発の効率化ができたり、全く新しい商品や事業展開ができたりと「投資シナジー」の効果も期待できます。

経営シナジー

経営シナジーとは、M&Aによって経営管理面で発生する相乗効果のことです。

経営ノウハウや人材、業務システムなどを統合したり共有したりすることで、経営状況の改善が可能です。

たとえば、経営面で課題を抱えている企業を経営管理に優れている企業が買収した場合、買い手側の企業が持っている経営ノウハウや業務システムを活用することで、買収された企業の経営が大きく改善される可能性もあります。

また企業が統合されることで、それぞれが持っている優秀な人材の共有も可能です。経理や人事、法務などの共有の管理部門を統合することで、人材のコスト削減もできます。

M&Aによって組織の経営基盤が強化され、業務効率の向上や管理コストの削減といった「経営シナジー」の効果も生まれます。

クリニックにおけるM&Aのシナジー効果

クリニックのM&Aでは、医師が初めてクリニックを開業する際の「承継開業」の場合と、すでにクリニックを経営している医師や医療法人が「事業拡大」のためにM&Aを行う場合で、得られるシナジー効果が異なります。

ここでは、それぞれのパターンで得られるシナジー効果を具体的に解説します。

承継開業の場合

M&Aによるクリニックの承継開業では、初めて開業する医師にとって特に大きなシナジー効果が期待できます。

新規開業に比べると、さまざまなコストやリスクが軽減されるためです。

ここでは、承継開業によって得られる3つの具体的なシナジー効果について解説します。

患者基盤の活用

クリニックの承継開業において大きなシナジー効果の一つが、既存の患者基盤の活用です。

新規開業の場合は患者を一から集める必要がありますが、承継開業ならそれまで通院していた患者さんの多くを、そのまま引き継ぐことが可能になります。

開業直後からある程度安定した収益を見込めることは、開業医として大きな安心材料になるでしょう。

設備や施設の活用

クリニックの承継開業では、既存の医療設備や施設をそのまま活用できることも大きなシナジー効果の1つです。

新規開業では医療機器の購入や内装工事など、多額の初期投資が必要になるためです。承継開業なら高額なレントゲン装置や治療用の医療機器、電子カルテシステムなどの設備をそのまま使用できます。

また、待合室や診察室などの内装には、医療業界独自のさまざまな法令による建築基準が設けられています。

新規開業の場合、法令や規則、導線などを意識しながら自身の内装に対する希望も考慮するのは簡単なことではありません。承継開業なら医療機関として最適な内装や動線で作られているので、内装で悩むことも少なくなります。

人材の活用

クリニックの承継開業において、既存の医療スタッフを引き継ぐことも大きなシナジー効果の1つです。

新規開業では看護師や医療事務などのスタッフを新たに採用し、教育も必要になりますが、承継開業では即戦力のスタッフをそのまま継続雇用できます。

長年そのクリニックで働いてきた看護師なら、通院患者の性格や生活環境まで把握しています。

受付スタッフも保険請求などの実務に精通し、地域の患者さんとの関係も良好に築けているでしょう。

経験豊富なスタッフにそのまま継続して働いてもらうことで、開業後すぐに質の高い医療サービスを提供でき、円滑な運営が可能になります。

事業拡大(分院)の場合

すでにクリニックを経営している医師や医療法人がM&Aを活用して事業拡大(分院)をする際にも、さまざまなシナジー効果が期待できます。

コスト削減や業務効率化、地域でのブランド力の向上などです。

ここでは、事業拡大によって得られる主な3つのシナジー効果を解説していきます。

スケールメリットによる効果

スケールメリットによる効果とは、M&Aにより医療機関の規模(スケール)が大きくなることで得られる相乗効果のことです。

たとえば複数のクリニックをグループ運営することで医薬品の仕入れ数が増加し、それにともない単価の交渉も可能です。

またクリニックの人材確保も、母体となる医療法人などがまとめて求人広告を打ち出せるので、広告費用も抑えられます。急な休暇や病欠が出た場合でも、グループ内のクリニックから応援を出せるため、安定した診療体制を維持できます。

ネームバリューによる信頼性の向上

ネームバリューによる信頼性の向上とは、複数のクリニックを展開することで得られる「ブランド力」による相乗効果のことです。

たとえば複数の場所でクリニックを展開すると、より多くの患者の目に触れる機会が増えて、そのクリニックのグループ名が認知されていきます。

グループ全体で高い水準の接遇を保つことで、患者から「このグループのクリニックなら安心だ」というイメージが付き、今後事業拡大を行う際にも患者からの信頼を得られやすくなります。

診療科や事業の組み合わせによる相乗効果

M&Aによって異なる診療科や医療関連の事業を組み合わせることで、より充実した医療サービスによる相乗効果も生まれます。

たとえば訪問診療を展開している医療法人が高齢者住宅を譲り受ければ、入居者に対して医療サービスの提供も可能になり、より安心して暮らせる環境が実現します。

特に高齢化が進む日本において、このような医療と介護の連携は今後ますます重要度が増していくことでしょう。

診療科や事業の組み合わせによるシナジー効果は、患者へのサービス向上だけでなく、経営面での相乗効果も期待できます。

クリニックのM&Aでシナジー効果を高めるためにはフレームワークで検討が必須

クリニックのM&Aでシナジー効果を最大限に引き出すためには、計画的な分析と検討が欠かせません。

その際に「フレームワーク」と呼ばれる分析の枠組みが役立ちます。フレームワークとは、複雑な状況を整理し、検討するために活用するツールのことです。

たとえば「医師や看護師はどのくらい在籍しているのか」「医療機器は充実しているか」「経営状態は健全か」といったように、それぞれの要素に分けて細かくチェックすることが重要です。

このような分析を行うことで、クリニックを譲り受けたあとのシナジー効果がわかり、効果的なM&Aかどうかが判断できます。

ここでは、クリニックのM&Aで確認すべき主な項目5つを具体的に解説していきます。

従業員

「従業員」の分析は、M&Aによるシナジー効果を調べる上で重要な項目の1つです。

具体的には、以下の2つの項目を確認することで、クリニックの現状と課題が見えてきます。

分析項目確認のポイント
人数と専門性医師や看護師、受付スタッフの人数スタッフが所持している資格の種類経験年数
働き方と待遇給料体制福利厚生の内容勤務シフトの組み方

上記の視点で分析することで、M&A後にスムーズな診療を続けられるか、また改善すべき点が明確になります。

医療施設

医療施設の分析では、主に2つの視点でチェックしていきます。

分析項目確認のポイント
建物と設備の状態建物の築年数内装の状態待合室や診察室の配置バリアフリーに対応しているか
医療機器診療に必要な医療機器の有無機器のメンテナンス状況電子カルテなどITシステムの整備状況今後必要な設備投資の見込み

これらの視点で分析することで、M&A後に必要な設備投資の費用や、診療体制の維持に必要な条件が明確になります。

経営基盤

M&Aにおいて「経営基盤」の分析は、最も重要な分析要素といえるでしょう。

下記の項目をもとに、特に入念な分析が必要です。

分析項目確認のポイント
財務状況月間の売上高と利益固定費(人件費や家賃など)の状況借入金の有無と返済状況保険診療と自由診療の割合
運営体制診療時間と診療日数予約システムの運用の有無受付から会計までの業務の流れ
外部との関係リース会社との契約状況医薬品や消耗品などの仕入れ先との関係

これらの項目をチェックすることで、クリニックの現状の経営状況が明確になり、将来の収益の見込みも把握できます。

患者基盤

「患者基盤」はクリニックの価値を決める重要な要素です。

クリニックに通っている患者を分析することで、承継後の収益性が把握できます。

分析項目確認のポイント
患者数と特徴1日(月間)の平均患者数年齢層や男女比の傾向
地域性地域の特性(ビジネス街や郊外など)来院手段(駐車場の有無なども含む)周辺地域の人口属性地域のニーズ
評判クリニックの評判や口コミ待ち時間の状況や対策

特に地域で長年親しまれてきたクリニックでは、地域周辺からの評判も承継後の成功を大きく左右する要因です。

仕入先

医薬品などの仕入れ先の分析も、承継後の収益性に関わる要素です。

しかし、メーカーとの仕入れ状況は詳細まで確認できないことも多くあるため、大枠以下のような項目で分析するとよいでしょう。

分析項目確認のポイント
基本情報主要な取引先の名称年間の仕入れ総額主な仕入れの種類
在庫管理在庫の保管状況在庫管理の方法
法令関係麻薬の管理状況廃棄物処理の委託先など

これらの分析により、M&A後の仕入れの一元化や在庫の共同管理による効率化など、具体的なシナジー効果を見込めます。

特に複数のクリニックを運営する場合、スケールメリットを活かした仕入れコストの削減も可能です。

クリニックのM&Aでシナジー効果を得た成功事例

クリニックのM&Aにおけるシナジー効果は、診療科目の組み合わせや地域性など、さまざまな要因によって生まれます。

ここでは、私たち「エムステージマネジメントソリューションズ」が手がけた案件の中から、シナジー効果を生み出した2つの成功事例を紹介します。

内科×泌尿器科の組み合わせで販売シナジーを得た事例

異なる診療科目の組み合わせによって、販売シナジーが効果的に出た事例を紹介します。

売り手となったのは、首都圏で内科クリニックを運営していた院長の坂本先生(仮名)です。このクリニックは約150平米と広いフロアを有していましたが、内科のみでは十分に活用できていない状況でした。

一方、買い手となった大学教授の内村先生(仮名)は、泌尿器科が専門でしたが、在宅診療での内科診療経験も持っていました。

私たちは診療圏の調査を行った結果、この地域には泌尿器科の医院が少なく、広域からの集患が見込まれることが判明したのです。

そこで、大学教授の内村先生に内科と泌尿器科を組み合わせた診療形態をご提案しました。実際に承継後は従来の内科の患者に加えて、広域から泌尿器科の患者も集まり、承継前を上回る収益を実現しています。

関連記事:【首都圏×内科】定年を数年後に控えた教授が大学を辞め、医院継承により開業した事例

地方のクリニックを承継開業して売上シナジーを得た事例

地理的な条件と経営の安定性が組み合わさり、売上シナジー効果が出た事例を紹介します。

売り手となったのは、人口15万人に満たない北海道の地方都市で、内科クリニックを運営していた理事長の星野先生(仮名)です。このクリニックは、医師1名と看護師など5名のスタッフの小規模な体制でしたが、年間売上2億円を誇る高収益な医院でした。

買い手となったのは、公立病院の勤務医月本先生(仮名)です。

勤務医の月本先生は開業の意思は強かったものの、人口減少が著しい地域での開業はためらっていました。しかし、理事長の星野先生が運営していたクリニックのある都市では、大手企業の進出によって人口流入が続いており、将来性も期待できる地域だったのです。

そのような背景から、勤務医の月本先生はクリニックの将来性を高く評価され、一般的な算定価格の1.5倍という金額を提示して成約が決まりました。

承継後は電子カルテの導入など新たな取り組みも行い、クリニック運営の向上に挑戦されています。

関連記事:【北海道×内科】地方都市でも多くの買い手が集まり高額譲渡に成功した医院継承事例

クリニックのM&Aでシナジー効果を高めるには専門家の分析や知識も重要

クリニックのM&Aでシナジー効果を最大限に引き出すためには、医療と経営の両方の視点による分析が欠かせません。

私たちの事例でも、診療圏調査による地域性の把握や、診療科目の組み合わせによる相乗効果など、さまざまな角度からの検討が成功につながりました。

特にクリニックの場合、医師の方が診療を続けつつ、ご自身で承継先を見つけるのは非常に困難です。

医療業界特有の知識や実績が豊富な、M&A仲介会社に相談することもおすすめします。

クリニックのM&Aについてお悩みの方は、医療業界のM&Aを専門とした「エムステージマネジメントソリューションズ」にご相談ください。

買い手と売り手双方の希望に沿ったマッチングはもちろんのこと、より承継後にシナジー効果が生まれるような経営戦略についてもご提案させていただきます。
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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。プレジデント社より著書『”STORY”で学ぶ、М&A「医業承継」』を上梓。

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