診療圏調査の手順や注意点・簡易診断できるサービス紹介
目次
診療圏調査とは、クリニック開業前に行うマーケット調査です。仮定した開業地での推計患者数を把握し、ニーズを判断します。調査手順は、開業地の仮定、診療圏の設定、競合クリニック数と人口の調査、推計患者数の算出です。昼間・夜間人口や競合クリニックの集患力も重要なポイントです。データを活用し、効率的に診療施設を設計することが推奨されます。
診療圏調査とは
診療圏調査とは開業前に行うマーケット調査です。特定の場所で開業をするとどれくらいの患者さんが来るのかを推測します。そこで、それぞれの土地において推計患者数(候補地のポテンシャル)を把握できるのです。
推計患者数が多いとニーズが高いことになり、小さいとニーズが小さいことから開業には不向きである可能性があります。このデータが「その地域で開業した場合にどの程度の患者さんが集まるか」という予測を立てる材料となるわけです。
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診療圏調査の手順
診療圏調査は次の手順で進めることが一般的です。
- 開業地を仮定する
- 診療圏を設定する
- 競合クリニック数を調べる
- 人口を調べる
- 推定患者数を割り出す
開業地を仮定する
診療圏調査を進めるためには、まず調査対象となる開業地を仮定します。実際に開業をする予定の場所だけでなく、調査をしたい場所を選ぶことも可能です。
地元で地域医療に貢献したい、都市圏で開業したいなど、コンセプトに合わせていくつか開業地候補を選びましょう。
診療圏を設定する
次に診療圏を設定していきます。診療圏とは、クリニックに来る患者さんがどの範囲から来るのかを把握するためにあります。方法としては次の2種類あります。
- 車での到達時間を基準とする
- 同心円の距離において設定する
診察圏の設定が正確でなければ推計外来患者数を正確に出せないので注意が必要です。同心円の距離は一般的に半径1km~1.5kmまでを指します。内科や小児科など競合する医療機関が多い場合はこの距離が短くなります。
患者さんは車で来る可能性もあるので、車での到達時間に関しても確認することが重要です。また、最寄り駅から病院までの距離も参考にします。
競合クリニック数を調べる
診療圏調査の際には競合クリニックの数が計算に必要となります。同じ診療科を標榜しているクリニックが何件あるのかを調べましょう。
標榜予定の診療科がエリアになければ、「この地域ではこの科の医師が不足していて需要がある」といったことが分かるため、その地域のニーズに合ったクリニックを開業することが可能になります。
人口を調べる
診療圏調査にあたり、人口は重要な情報のひとつです。後述しますが一般的な人口は夜間人口と呼ばれるもので、診療圏調査では昼間人口も大事な情報となります。
また、地域の高齢者率も調べましょう。必然的に患者の高齢化が進んでいる地域では患者数が減少する可能性も出てくるでしょう。
推定患者数を割り出す
1日ごとの外来見込み患者数を確認していきましょう。推定患者数は次の式で出すことが一般的です。
エリア人口×受療率÷(科目別競合医院数+1)=推計患者数
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診療圏調査の際に注意すべきポイント
診療圏調査の際に注意する場合次のポイントが挙げられます。
- 昼間人口と夜間人口
- 競合クリニックの集患力
- 競合クリニックの将来性
- 年代、世帯
- 情報の鮮度
- 将来推計人口
昼間人口と夜間人口
昼間の人口と夜間の人口をそれぞれ調べることが大切です。国勢調査による人口とは夜間人口になります。それぞれエリアによって、昼間の方が人が多い場合や夜間の方が人が多い場合があります。
夜間人口を参考にする場合は注意が必要となります。人口が多くてもクリニックを開けている日中の時間帯に人がいなければ来院患者数が想定より低くなってしまいます。
例えばビジネス街であれば、一般的に昼間の方が人が多いことになります。昼夜による差は都心部に行けば行くほど差が出るので、都心部に病院やクリニックを設計する場合は注意をしましょう。
診察圏調査を業者に依頼する場合、昼夜それぞれにおいて来院患者数を予測するサービスがある場合があります。そのデータをもとに設計すれば、無駄なく効率的に診療施設を作ることができます。
競合クリニックの集患力
競合クリニックの集患力を把握する必要があります。クリニックによって最新の医療機器を備えていたり、腕の良い医者と地域で評判が高かったり、診察中に子どもを預かるなどさまざまな特徴があります。それらの要件を踏まえて強度を設定するのです。
他にも駐車場があれば患者さんが来やすくなり、日曜日診療しているとそれだけでも集患力が異なります。このようになにをやっているのかを明確にすることで競合クリニックの特徴が出るのです。
それぞれのクリニックによる強みを把握することで、集患力のほかに将来性も分析できます。
競合クリニックの将来性
競合クリニックが将来を見据えて経営計画を立てている場合は徐々にでも集患力が増える可能性があります。
現段階で競合クリニックの来院患者数が少なくても、将来的に伸びる可能性がある場合があります。まだ開業したてで若い医師がいるクリニックでも、医師の能力だけでなくマーケティング能力が高い場合があります。
また、競合クリニックの院長が高齢だからと安易に閉院すると予測することも危険です。後継者のいる・いないの調査やM&Aの可能性も視野に入れるとよいでしょう。
このようにさまざまな要素において、競合クリニックの将来性を確認することが重要です。
年代、世帯
各地域には、独自の人口と世帯の特徴があります。開業後も安定して経営していくためには、ターゲット層の選定と自院のコンセプト設計が重要です。
ここで、人口・世帯特性図が役に立ちます。年齢層や世帯が異なればニーズも異なります。
子どもや若者が多い地域では、駐車場を設けて家族で来院できるようにする、子どもが喜ぶ明るい店内にするなどの工夫が考えられます。高齢者が多い地域であれば、バリアフリーに対応することで、より多くの患者を呼び込むことができます。
似たような競合クリニックがあっても、診療エリア調査のレポートを参考に、ターゲット層の選択やコンセプトの設定などで他院との差別化を図ることができます。
開業予定の地域によって目指す病院の種類が異なりますので、人口・世帯特性図と診療圏調査を併せて検討し、その地域にあったクリニックを開業することをお勧めします。
情報の鮮度
競合クリニックの開業・閉院状況などの情報は頻繁に変更になるため、常に最新の情報を把握することが大切です。最新の情報でなければ、正しい調査ができなくなります。
専門業者に依頼する場合にはいつの時点の情報なのか確認したり、自分の足で現地に行って調査したりすると良いでしょう。
将来推計人口
将来推計人口は国立社会保障・人口問題研究所が発表しており、全国の他に都道府県、市町村別で確認できます。
年代ごとの将来の推定人口も確認できます。今後人口が増えていく地域なのか、減っていく地域なのかも踏まえて開業地を検討していきましょう。
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簡易的な診療圏調査に活用できるもの
簡易的な診療圏調査をするためには次のものを活用できます。
- CLINICStationPortal「WEB診療圏調査」
- 日経メディカル開業サポート「簡易診療圏調査機能」
- MEDIVA「診療圏調査」
CLINICStationPortal「WEB診療圏調査」
CLINICStationPortalのWEB診療圏調査は、すぐに開業希望エリアの推計来院患者数がわかるのが大きな特徴です。無料登録でその場で結果がわかるため時間がかからず、気軽に調査が可能です。
まだ開業するかどうかも決めかねている状態であったり開業地を既に絞り込んでいる場合におすすめです。
https://clinicstation.jp/research/
日経メディカル開業サポート「簡易診療圏調査機能」
日経メディカル開業サポート「簡易診療圏調査機能」は、Web上で住所の入力や科目選択、調査範囲選択のみと簡単に診療圏を調査できます。この他にも開業や経営において必要な知識を提供しており、さまざまな用途において活用できるサービスです。
https://nm-kaigyo.nikkeihr.co.jp/medicalarea/
MEDIVA「診療圏調査」
MEDIVA「診療圏調査」はスマートフォンアプリであり、気軽に診療圏調査をできるのが特徴です。候補地に足を運び歩きながら、片手のスマホで調査結果を見られます。
調査したい場所・診療科を指定すると推定患者数を調べることができ、夜間人口と昼間人口の両方に対応しています。
アプリ内のリンクから周辺の物件や事業承継候補施設の情報を調べることもできます。
https://mediva.co.jp/products/products002/
診療圏調査を依頼できる企業
診療圏調査は次の企業に依頼できます。
- 株式会社日医リース
- PHC株式会社
株式会社日医リース
株式会社日医リースは、開業予定地を中心に地図上の単純な距離だけでなく地理的特徴を考慮して推定患者数と競合クリニックの分布を示すマップを作成します。
https://www.nichii-lease.com/practitioner/treatment-zone-search/
PHC株式会社
PHC株式会社ではクリニック開業における機器類の導入やスタッフ教育などさまざまなサービスを提供しており、診療圏調査も依頼できます。
競合クリニックの情報や将来の見込み患者数を調べることが可能です。
https://www.phchd.com/jp/phcmn/service/eliaresearch
開業準備には診療圏調査を活用
診療圏調査で得られる情報は開業にあたってとても重要なものです。自院の目指すコンセプトと地域住民のニーズを踏まえて検討していきましょう。
クリニックや医院の開業であれば、0から構築していく「新規開業」ではなく、既存のクリニックや医院を引き継ぐ「承継開業」という方法もあります。
エムステージマネジメントソリューションズのコンサルタントは医療経営士の資格を保持しているため、経営に関するアドバイスなどのサポートも行います。「事業計画書の作成」や「資金調達コンサルティング及び金融機関等との融資交渉」なども開業支援の業務内なので、安心して依頼できるでしょう。
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▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。