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〈税理士解説〉医療法人の病院やクリニックを承継する際に税金で気をつけること

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医療法人の病院やクリニックを承継する際に税金に気を付けること
医療法人の病院やクリニックを承継する際に税金に気を付けること

医業承継(医療版M&A)では、税務も欠かせない知識の1つです。そこで、弊社のコンサルタントとともに医業承継に携わる税理士・飯田先生に、医療法人の病院やクリニックを承継する際に税制で留意すべき点について、お話を伺いました。

後編である今回は、買い手側から見た、承継時にかかる税金で注意すべき点について解説していただきます。

▼前編を読む

税理士・飯田光先生

国内最大手「日本経営ウィル税理士法人」へ在籍中、メガバンクへ出向し事業承継業務に従事。その後、マネーフォワードグループ税理士法人にて、中小企業向けにクラウド型会計システムを駆使し先進的な税理士業務を行う。現在、株式会社G.C FACTORYのコンサルタントとしてM&A仲介に加え、税理士法人G.C FACTORYへ寄せられる税務会計・財務に関する買収監査にも従事。

買収における留意点

買収における留意点は、「価値評価(バリュエーション)」と「買収監査(デューデリジェンス)」で、買収予定の病院やクリニックの評価内容、財務及び税務面等を確認することです。

「価値評価(バリュエーション)」とは、資産や収益性等から価値を評価することを指し、対象の病院やクリニックの価値がどれくらいになるのか、税理士、会計士、証券会社などに依頼をして、評価を行うことをいいます。

承継予定の病院やクリニックの実態を把握する目的で財務内容等を確認することを、「買収監査(デューデリジェンス)」といいます。買収監査では、「財務」「税務」「法務」「ビジネス」など、各分野の専門家が確認します。こちらは売り手と基本合意を締結した後、独占交渉期間中に実施する流れが一般的です。

これは、せっかく費用をかけてデューデリジェンスを行うので、実施期間中にほかの候補者と交渉が進んでしまうことを防ぐためです。

財務や税務、法務などの領域ごとにまとめつつ、相当な分量のレポートに仕上げるといった、多大な作業がデューデリジェンスでは必要になります。業界ごとの特性もあるので、病院やクリニックのデューデリジェンス経験が豊富な専門家に依頼するのが望ましいでしょう。

病院やクリニックの譲渡価格における価値評価の算出方法

価値評価の方法は、大きく分けて以下の3つがあります。

  1. マーケットアプローチ:類似業種、類似企業との比較や、類似の買収事例を元に評価する方法
  1. インカムアプローチ:対象となる病院やクリニックから、将来得られるであろう利益を元に評価する方法
  1. コストアプローチ:対象となる病院やクリニックの純資産価額等を元に、評価する方法

医療法人の病院やクリニックの承継(継承)であれば、主にコストアプローチを使って譲渡価格を算出することが多いです。

コストアプローチには、簿価純資産価額法、時価純資産価額法、時価純資産価額+営業権法等の方法があり、3つ目の時価純資産価額+営業権法を採用することが多いです。このコストアプローチ(時価純資産価額+営業権法)による、病院やクリニックの現在における価値とは、時価の純資産価額と営業権の合計額のことを指します。

たとえば、以下のような事例があるとします。

時価純資産価額と営業権、この2つを足した金額で評価するのがコストアプローチです。譲渡対価が2,000万円だとすると、この2,000万円が時価純資産と営業権を足した金額ということになります。時価純資産価額1,000万円を超える部分は、対象法人の超過収益力を評価した営業権です。

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価値評価する際は、隠れた負債や資産に注意

価値評価する際は、滞留債権(窓口未収金など)や減価償却の不足額がないかに注意が必要です。

診療代の保険請求分は支払基金から入金されますが、窓口で患者が支払う分が未収となっているケースがあります。このように病院やクリニックに長期滞留している債権がある場合、本当に回収できるのかよく見極めなくてはいけません。

先程の<事例1>のケースであれば資産に医療機器があるため、査定をすれば時価が算出しやすいでしょう。しかし、査定は手間がかかるため、代わりに帳簿価額をベースに評価をするケースが多いです。その際には、医療機器の減価償却に不足額が無いかという調査を行う必要があります。

というのも、医療法人は減価償却を意図的に止められるため減価償却が行われず、減価償却を毎年行った場合の金額よりも、帳簿での医療機器の記載額が高くなっていることがあるのです。

単年度で生じた税務上の欠損金は、その発生年度の翌年以降で期限切れ(繰越期限10年)となるまで、将来に繰り越すことができます。減価償却費を計上しなくても欠損が生じている場合、欠損金の発生年度を遅らせるために、医療法人があえて減価償却費を計上していないケースがあるのです。

そうすると、たとえば本来1億円の帳簿価額が無い医療機器に対して、帳簿に1億円と記載されてしまっていることになります。そのような食い違いを無くすために、減価償却の不足額が無いかという確認が必要なのです。

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売却側の賃貸借契約や生命保険契約の内容にも注意

賃貸借契約にある保証金や敷金など、解約時に返却されるものは帳簿上では資産として計上されますが、本当にそれらの資産計上額が正しいのか確認が必要です。

たとえば、賃貸借契約書には「建物を返却する際には、あらかじめ1,000万円支払った保証金のうち、500万円を返却する」と記載があるにもかかわらず、帳簿上では誤って1,000万円全てが資産として計上されてしまっているケースがあったとします。
そうなると、本来資産として計上されるべき返却金の金額と合わなくなってしまうので、建物の賃貸借契約書もチェックしておかなければいけないのです。

もう1つ、注意したいのが生命保険の積立です。法人が支払う生命保険料は、一部を経費(損金)に計上し、残りは資産に計上されるタイプが多いです。
生命保険の場合、解約すれば解約返戻金が戻ってくるので、その金額がいくらかということを調べなければいけません。
帳簿に記載されている保険積立金が1,000万円となっていても、実際に戻ってくる金額が2,000万円ということもあり得ます。よって、実際の解約返戻金額についても確認しておきましょう。

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帳簿に記載されていない簿外債務について

帳簿を見ただけではわからない数字の一つとして、退職給付債務があります。

中小規模の医療法人では、基本的には税務会計(税金計算のために行われる会計)を採用しているところが多いでしょう。上場企業では会計基準を遵守して決算書を作成しているので、退職給付債務は負債としてきちんと記載されています。

一方、クリニックや医院のように小規模な医療法人の場合には、退職給付債務を負債として計上していない場合が多いです。従業員や役員が退職する際には退職金を払わなければいけないにもかかわらず、それが帳簿に計上されていないというケースもよくあります。

よって、価値評価では、退職金規定もしっかりと確認しなければなりません。「この人は勤続年数が何年で、今の給与がいくらなので、辞める時の退職金はこの金額」というように、ひとり一人の退職金要支給額を算出し(外部積み立てがあれば差し引いて)、この合計金額を純資産のマイナス項目として認識します。

たとえば、最近私が受け持った案件の話になりますが、その医療法人では「退職金はこのように払います」と退職金規定を定めていたため、従業員はそれを認識して入職していました。
しかし、医療法人は従業員の退職金を毎年積み立てているはずが、途中から何らかの理由で止めてしまっていたのです。
そのため、本来退職金として支払うはずの積立金が無く、裏側に見えない形で負債だけが存在していたので、簿外債務として認識する必要があることを先方にお伝えしました。

また、医療法人として運営しているクリニックや医院が残業代を従業員に支払っておらず、それを従業員から訴えられていているような場合もあります。そのようにお金を払わなければいけない可能性があるのであれば、それも価値評価では負債と考えるので注意しておきましょう。

まとめ

前編・後編にわたって、売り手と買い手の双方が医業承継で留意すべき税制について、税理士・飯田先生に解説していただきました。病院やクリニックの医業承継には、税金は切っても切り離せないもの。ちょっとした税務の知識を知っているだけでも支払う税金額がかなり変わるので、税金に対する知識は知っておいて無駄にはなりません。ぜひ、医業承継を行う際の参考にしてみてください。

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この記事の監修者

税理士_飯田光

税理士・飯田光先生

国内最大手「日本経営ウィル税理士法人」へ在籍中、メガバンクへ出向し事業承継業務に従事。その後、マネーフォワードグループ税理士法人にて、中小企業向けにクラウド型会計システムを駆使し先進的な税理士業務を行う。現在、株式会社G.C FACTORYのコンサルタントとしてM&A仲介に加え、税理士法人G.C FACTORYへ寄せられる税務会計・財務に関する買収監査にも従事。

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