クリニックや医院を承継開業するには?想定スケジュールと成功させるポイント
クリニックや医院の開業は、勤務医から独立して立ち上げる新規開業と、既に存在する施設を引き継いで開業する承継開業の2つの方法があります。承継開業は、すでに稼働している施設を引き継ぐため、新規開業に比べて多岐にわたる準備と調整が必要です。専門家のサポートを受けることでより安定した経営を目指すことができます。
本記事では、承継開業を行う際の想定スケジュールや成功させるための要点などを解説します。
病院・クリニックの承継開業をご検討中の方はプロに無料相談してみませんか?
エムステージグループの医業承継支援サービスについての詳細はこちら▼
クリニックや医院の承継開業を取り巻く環境
失敗しないためには、開業するタイミングなども重要になってきます。ここでは、クリニックや医院を開業する際に、現状ではどのような要因があるのかをみていきましょう。
有床診療所から無床診療所の転換
▼ 医療施設数の年次推移
出典:厚生労働省『医療施設(動態)調査』
上のグラフから分かる通り、近年は一般病院や病床を持つ有床の一般診療所の数が減少しているのに対し、病床を持たない無床の一般診療所の数は増加しています。
これは、有床診療所は診療報酬が低く設定されている*ため収益化が難しく、有床診療所から無床診療所へ転換が進んでいるためだと考えられます。
*日本医師会総合政策研究機構『2019 年(第6回)有床診療所の現状調査』
実際、日本医師会による有床診療所の現状調査における試行的コスト計算では、入院患者1人1日当たり収支は1,866円の赤字で、年々その赤字幅は大きくなっているとされています**。
収益の悪化
高齢化による社会保障費の急速な増加により、診療報酬は政府により毎回引き下げの圧力が高まっています。
また、最近のコロナ禍による受診控えや人件費・資材費などの増加などもあり、クリニックや医院は経営状態が悪化しています。
患者数の減少
都心への人口集中と地方の過疎化などがあり、一部の都市部を除いて人口が減少傾向にあることは、今後の患者数減少のリスク要因の1つです。
また、コロナ禍による受診控えの影響を受け、患者数が減少したケースもあったことがうかがえます***。
***厚生労働省『病院報告(令和3年7月分概数)概況』
クリニックや医院の医師の高齢化
▼診療所に従事する医師数及び平均年齢の年次推移
出典:厚生労働省『平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』
厚労省の調査(上図)によると、診療所に勤務する医師の平均年齢は2008(平成20)年より上昇を続けており、直近の2018(平成30)年では60歳以上の医師が半数近くを占めていることが分かります。
60歳以上といえば、一般企業であればそろそろ定年も見えてくる頃です。医師には定年はありませんが、体力などの問題もあり、今後引継ぎなどを考えるところも増えていくでしょう。
その際に親族などに後継者がいれば良いのですが、そうでない場合も多いため第三者承継というケースも増えていくことが予想されます。
クリニックや医院の承継開業の流れ
クリニックや医院の承継開業にあたり必要な項目を落とし込んだ開業までの流れをまとめていきます。こちらを参考に、承継開業の全体の流れをつかんで見通しを立てておくようにしましょう。
①診療方針・経営基本計画の策定
全てを自分の思い通りにしやすい新規開業に比べ、すでに稼働しているクリニックや医院を引き継ぐ承継開業では、できることに立地や建物の構造など制約は出てきてしまいます。
よって、開業を決めたら物件を探す前に、まず自分が開業したいクリニックや医院の診療方針や経営基本計画などのコンセプトを決めておくようにしましょう。
診療コンセプトが明確になっていると、探す物件の選定もしやすくなりますし、「どんなエリアで、どんな患者さんに、どんな診療を提供したいのか」という承継後のイメージも湧きやすくなるでしょう。
②買収のお問い合わせ・ヒアリング
診療のコンセプトが決まったら、クリニックや医院の医業承継を専門に取り扱うM&A仲介会社に相談してみましょう。
医業承継専門の仲介会社に相談すると、承継を考えているクリニックや医院の物件を多数紹介してもらえますし、コンサルタントは司法書士や税理士などと連携を取っているため、自身で専門家を探す必要がなく安心です。
問い合わせをすれば、どのような案件を探されているのか、専門のコンサルタントがしっかりヒアリングしてくれるでしょう。
③承継するクリニックや医院の選定・マッチング
開業希望地ややりたい診療コンセプトなど、最初にヒアリングした希望の条件を元に、M&A仲介会社の持つ案件の中から、あなたの希望とマッチする案件を提案してもらえます。
提示された案件の詳細情報を見ながら、比較検討していきましょう。
④秘密保持契約・仲介契約の締結
信頼でき承継をお任せしたいM&A仲介会社が決まったら、譲渡希望者から預かる個人情報やこの先の医業承継の交渉で知りえた機密情報を第三者に漏らさないよう、M&A仲介会社と秘密保持契約を締結します。
ここで、M&A仲介会社と依頼内容や報酬金額等を記載する仲介契約書も締結し、いよいよ売り手との交渉に進んでいきます。
⑤承継元の見学・面談
提案された物件の中から、承継に進みたいと思うクリニックや医院を選び、現地の内見や現院長との面談を実施します。
現地の周辺環境や施設の内装、スタッフの雰囲気、医療機器などを実際に見た後、レセプトや決算データで患者の層や数を確認します。
そこで、「本当に自分がこのクリニックや医院を承継し自分がイメージしている診療を行っていけるのか」を判断しましょう。
⑥承継条件の整理
譲渡先の詳細情報や実際に見学した内容を元に、承継する案件を決定します。その後は、譲渡先とそのクリニックや医院を承継する上での詳細条件を調整していきます。
医療機器は処分するのか引き継ぐのか、患者を引き継ぐために自分が非常勤で入るのか現院長が非常勤で残るのか、スタッフの引継ぎなどはどうするのかなど、譲渡後にトラブルにならないよう承継の詳細な点までしっかり決めます。
⑦承継元との承継条件の合意・基本合意書の締結
承継条件の調整が終わったら、譲渡先とお互い合意した内容を盛り込んだ基本合意書を締結します。基本合意書はこの承継に関する合意内容を定めたものですが、法的拘束力はありません。
⑧銀行の選定と資金調達
承継するクリニックや医院が定まったら、譲渡対価を支払うために買い手側に融資をしてもらう金融機関を選定します。
例えば、病院の承継・M&Aを専門に行うエムステージマネージメントソリューションズのコンサルタントであれば事業計画も作成してもらえるので、それをもとに金融機関からできるだけ有利な条件で借入れを行えるよう交渉してもらうようにしましょう。
⑨買収監査(デューデリジェンス)の実施
最終的な譲渡契約を締結する前に、承継予定のクリニックや医院に何か隠れたリスクがないか、買収監査(デューデリジェンス)を実施します。小規模のクリニックや医院の場合には、この買収監査を省略して行わない場合もあります。
買収監査の結果、承継予定のクリニックや医院に今まで知らなかったリスクがあったり財務などの情報が正しくなかったりした場合には、再度承継条件の調整を行います。
⑩譲渡契約の締結・譲渡対価の支払い
承継条件の最終調整を譲渡契約書に盛り込み、譲渡契約を締結し承継を実行していきます。あらかじめ定められた承継実行日に、売り手は承継対象のクリニックや医院の資産を承継し、買い手は譲渡対価を売り手に支払って承継が完了します。
⑪開設手続き・各種申請
クリニックや医院を開業するためには、行政への届け出や手続きなども行わなければなりません。開設届や廃止届の提出、保険医療機関指定手続きなどを行う必要があります。
さまざまな申請や手続きを開業前の決められた期限までに行わなければならないので、承継開業を行うことについて事前に保健所や消防署に相談しておくと良いでしょう。
⑫クリニックや医院の承継開業
これらの項目を経て、ようやく承継開業となります。初めての承継開業の場合、開業後に予期せぬ事態が発生する場合もあります。
M&A仲介会社と契約を結んでいると、クリニックや医院開業後でも、運営面の相談や支援してもらえるので安心です。
クリニックや医院の承継開業を成功させるポイント
承継開業の成功ポイント1:診療コンセプトを決める際に、損益分岐点も試算を
自分が行いたい診療のコンセプトが決まったら、資金計画も考えるようにしましょう。
患者1人当たりのおおよその診療報酬の平均単価を決め、開業資金や人件費など日々のコストを算出し、損益分岐点を見積ります。
もし、そこで黒字化が難しいという予測が立てば、診療計画の見直しが必要です。
承継開業の成功ポイント2:施設や設備、医療機器が老朽化していないかを確認する
初期投資を抑えるためにも、承継したクリニックや医院の設備や医療機器など、使えるものはなるべくそのまま使いたいもの。
しかし、古い施設の場合は現在の耐震基準などを満たしておらず建て替えが必要であることや、医療機器が古い場合は買い替えも検討する必要があります。
建て替えや買い替えが必要な場合には、売り手に譲渡対価の値下げ交渉ができる場合もあるため、譲渡契約の前にしっかり確認しておきましょう。
承継開業の成功ポイント3:しっかりした引継ぎで、患者離れを防ぐ
承継開業のメリットの1つは、承継するクリニックや医院にこれまで通院していた患者もそのまま引き継げるということ。しかし、急な医業承継による院長の交代は、患者離れを引き起こしてしまうリスクもあります。
今までの患者を離さないためには、一定の引継ぎ期間を決めて元院長と2人で診療を行いながら、丁寧に患者に事情を説明するなどの配慮が必要です。
承継開業の成功ポイント4:既存スタッフとの連携は慎重に
既存のスタッフをそのまま引き継げれば、通院患者は慣れ親しんでいますし、新たなスタッフを採用教育する手間も省けるでしょう。
そのため、しっかりスタッフ達とミュニケーションを取って、なるべく引き続き働いてもらうようにしたいもの。
しかし、既存スタッフと新しい医師や院長との相性などもあります。引き継ぐと決める前に一度面接を行い、新たに開業するクリニックや医院の診療方針や雇用条件を説明し、理解してから働いてもらうことが重要です。
まとめ
承継開業の流れやポイントについて把握したら、まずは医業承継専門のM&A仲介会社に相談してみましょう。実際に利用する・しないは別として、承継開業の経験豊富なコンサルタントに開業計画の相談に乗ってもらえますよ!
承継開業をお考えの方は医業承継専門の仲介会社エムステージマネジメントソリューションズにお問い合わせください。専門のコンサルタントが、徹底サポートいたします。まずは資料をチェックされてみてはいかがでしょうか。
▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。