院内処方はなぜなくなった?減少した背景や将来性を解説
目次
院内処方を行っている医療機関は年々減少しており、最近はまったく見かけなくなったと感じられる方も多いでしょう。
院内処方が減少した背景には、政府による医薬分業の推進があります。
医薬分業とは、医療機関は診療に専念し、薬局で調剤を行うことで患者にとってより適切な医療サービスを提供する取り組みのことです。
本記事では、医薬分業によって院内処方が減少した理由、医療機関を開業する際の院内処方と院外処方の最適な選び方を解説しています。
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医療機関全体の約2割まで減少!院内処方はなぜなくなった?
厚生労働省の調査によると、2022年の時点で院内処方を行っている医療機関は全体の約2割にまで減少しています。
データ参照元:厚生労働省|病院 – 診療所別にみた医科の院外処方率の年次推移
院内処方が右肩下がりでなくなってきた背景には、1997年に政府が「医薬分業」を本格的に推進し、医療機関にとって院内処方を行うメリットが少なくなったことが挙げられます。
院内処方は患者にとって便利ではあるものの、以下のようなケースが実際に起きていました。
- 利益の高い薬を優先的に処方していた
- 儲けるために必要以上に薬を処方していた
- 別の医療機関で処方されている薬との飲み合わせを考慮せずに処方していた
政府はこのような事態を解消し、患者が本当に安心して薬を処方できる環境作りのために、院外処方(医薬分業)を推進しました。
具体的な施策として、2年に1度の薬価改定が挙げられます。
政府がさまざまな薬の仕入れ価格を適切にコントロールすることで、患者の症状を無視した利益優先の薬の処方を抑えられます。
事実、薬価改定によって医療機関は、薬の利益と在庫を抱えるコストなどを考慮した場合に、赤字の可能性が高くなることもあるのです。
このような背景から、今後も院内処方は減少していくと予測されます。
院内処方のメリット
院内処方のメリットは主に2つあります。
- 患者の手間や時間が減少する
- 院外処方に比べて薬を安く処方できる
薬の利益が小さくなった現状において、院内処方のメリットは主に患者側によるものです。
それぞれ詳しく解説していきましょう。
患者の手間や時間が減少する
院内処方は、患者が薬を受け取るまでの手間や時間も少ない点がメリットです。
患者が院内処方で薬を受け取る流れは、診療後に会計を行い、そのまま院内の「お薬カウンター」などで薬を処方してもらいます。
診療後すぐに薬の準備ができるため、院外処方に比べて薬を受け取るまでの時間も短いです。特に高齢の方にとっては、移動の負担が少なくなります。
同じ地域内に院内処方と院外処方の医療機関があった場合には、院内処方の医療機関を利用する可能性は高いでしょう。
院外処方に比べて薬を安く処方できる
院内処方は調剤薬局を仲介しないため、患者は薬を安く処方してもらえるメリットがあります。
院外処方は点数が非常に高くなるので、患者が支払う費用は院内処方に比べて約2倍以上にもなります。
院内処方 | 院外処方 |
処方料:42点 | 処方箋料:68点 |
調剤料:28点(1〜7日分の処方) | 調剤基本料:42点 |
薬剤服用歴管理指導料:43点(3か月以内の再来局の場合) | |
合計:70点(700円) | 合計:153点(1,530円) |
上記は基礎的な点数だけですので、実際はさらに点数が高くなるでしょう。
患者の負担を考慮するのであれば、院内処方のほうが魅力的だといえます。
院内処方のデメリット
院内処方のデメリットは大きく2つあります。
- 在庫管理のためのスペースと人件費が必要
- 在庫を抱えることで赤字の可能性がある
患者にとって院内処方によるデメリットは特にありませんが、薬の利益が大きく減少したことから、主に医療機関側のデメリットが大きいといえるでしょう。
それぞれ詳しく解説します。
在庫管理のためのスペースと人件費が必要
院内処方を行う場合は、薬の保管場所を確保しなければなりません。
小さな診療所を開業する場合には、薬の保管場所のために待合室を小さくする必要性も出てくるでしょう。
また、薬の在庫管理が必要になり、調剤を行うための人件費なども発生します。
院内処方を行うのであれば、在庫管理のスペースや人件費を考慮し、利益の出る経営状態を作らなければなりません。
在庫を抱えることで赤字の可能性がある
院内処方を行う場合、薬の期限切れなどによる赤字のリスクがあります。
ギリギリの在庫では必要な時に不足が起きる可能性があり、逆に抱えすぎると保管場所が足りなくなる可能性があるでしょう。また、薬の期限切れが多くなると、経営にも悪影響を及ぼします。
実際にも、院内処方は利益よりも赤字のリスクのほうが高いと考えられており、減少の傾向にあります。
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院内処方と院外処方の規則
院内処方と院内処方には、それぞれ守らなければならない規則があります。
- 院内処方と院外処方の併用は原則できない
- 院外処方の場合に特定の薬局を指定してはいけない
それぞれ詳しく解説します。
院内処方と院外処方の併用は原則できない
患者に対して診療日した日に薬の一部を院内処方し、残りを院外処方するといった併用は原則できません。
併用できると、患者が処方料と処方箋料を二重で支払うことになるため、認められていません。
ただし、「院外処方を交付したあと患者の容態が急変し、緊急で投薬の必要性があった」というような緊急事態には併用が可能です。
この場合はまずは院内処方で薬を投与し、患者が回復したのち院外処方で薬を受け取ることも可能です。
上記の処方を行った場合は、投薬で必要だった薬剤料と処方箋料のみを算定し、レセプトにも院内投薬を行った日付や理由などの記載をしなければなりません。
院外処方の場合に特定の薬局を指定してはいけない
医療機関側は処方箋を交付する際に、患者に対して薬を受け取る薬局を指定してはいけません。
これは調剤薬局と医療機関が互いに利益を得ようとする「癒着関係」にならないために、法律で定められています。
保険医は、処方箋の交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行つてはならない。2保険医は、処方箋の交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行うことの対償として、保険薬局から金品その他の財産上の利益を収受してはならない。 |
患者から薬局の場所を聞かれた場合は、近くの薬局を回答しても問題ありませんが、医療機関側から積極的に薬局の場所を伝えないように注意しましょう。
薬剤師のいない医療機関が院内処方を行った場合の違法性
原則として薬の調剤は薬剤師しか行えないため、薬剤師のいない医療機関で従業員が調剤を行うと違法です。
しかし、薬剤師法第19条には例外的に「薬剤師のいない場合でも医師や歯科医師による調剤が認められるケース」が記載されています。
医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合において自己の処方箋により自ら調剤するとき、又は獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときは、この限りでない。 一 患者又は現にその看護に当たつている者が特にその医師又は歯科医師から薬剤の交付を受けることを希望する旨を申し出た場合 二 医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第二十二条第一項各号の場合又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)第二十一条第一項各号の場合 |
医師による調剤が認められるのは、以下の2パターンです。
- 患者がその医師や歯科医師から薬剤を受け取りたいと申し出たとき
- 医師法第22条や歯科医師法21条で定められている特殊なケースの場合
たとえば医師法第22条の場合、以下のケースで医師による調剤が認められています。
一 暗示的効果を期待する場合において、処方箋を交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合 二 処方箋を交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合 三 病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合 四 診断又は治療方法の決定していない場合 五 治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合 六 安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合 七 覚醒剤を投与する場合 八 薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合 |
薬剤師がいない場合でも、上記のようなケースであれば医師による調剤が認められています。
ただし、あくまで例外的なケースであり、間違えると違法になるため、院内処方は薬剤師を雇用して行いましょう。
病院・クリニック開業に向けた院内処方と院外処方の選び方
院内処方は数が減少しているため希少価値は高まりますが、院外処方の方が様々なリスクを抑えられるでしょう。
ここでは病院やクリニックが開業する際に、院内処方と院外処方どちらを選ぶべきか、ポイントを紹介します。
患者の利便性や費用面を考慮するなら院内処方
薬代や移動の負担を抑えられるため、院内処方と院外処方の両方ある場合には、院内処方を選ぶ患者が多いでしょう。
院内処方を行っている医療機関は全体の約2割程度まで減少しており、患者にとっては貴重な存在ですが、コストのほうが大きいと意味がないため、薬の在庫管理や人件費を考慮することが大切です。
経営面を考慮するなら院外処方
院外処方は薬剤師や薬の管理などが必要なくなるため、院内処方に比べて赤字のリスクが低いです。
特に小さなクリニックが院内処方で開業する場合、人件費や在庫などのコストの割合が大きくなりやすいでしょう。
経営を考慮するのであれば、院外処方のほうが安定しているといえます。
また、院外処方で開業する場合には、患者の利便性を考慮して調剤薬局と近い場所を選ぶことが大切です。
どちらで開業する場合でも、地域の競合や調剤薬局などの把握が欠かせませんが、医療の開業に精通している専門家であれば、最適な開業方法や地域が見つけられます。開業で気になっていることがあれば、お気軽に無料相談をご利用ください。
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令和5年に始まった「電子処方箋」で院外処方の利便性が向上
令和5年(2023年)1月から運用が開始された電子処方箋は、紙の処方箋をデジタル化し、医療機関と薬局の情報連携をスムーズにするシステムのことです。
従来の院外処方で課題となっていた待ち時間の長さや紙の紛失リスク、重複投薬などの問題をデジタル化によって解決し、より安全で効率的な医療サービスを可能にしています。
ここでは、電子処方箋によるメリットと、導入時に活用できる補助金について紹介します。
薬の待ち時間が減少する
患者がアプリなどで電子処方箋を使用できるようになれば、薬を受け取るまでの待ち時間の減少につながります。
あらかじめ患者が調剤薬局に電子処方箋を送信しておけば、到着したときには調剤が済んでおり、スムーズな受け渡しが可能です。
また、電子処方箋なら紛失の可能性もないため安心です。
患者はいつでも薬の相談が可能
電子処方箋のシステムが導入されれば、患者はLINEなどのアプリを通じていつでも薬剤師に相談できるようになります。
従来の院外処方では薬に関する悩みや相談をしたい場合には、薬局の営業時間内に直接来店する必要がありました。
しかし、システムを導入することで、時間や場所に縛られずにスマホですぐに相談できます。
患者によっては、対面や電話では相談しにくいと感じる場合もありますが、アプリで薬剤師と直接やり取りが可能になれば、デリケートな内容でも相談をしやすいでしょう。
処方履歴から適切な薬の提供が可能
これまでは、患者が複数の医療機関を受診していた場合に、各処方内容の把握が難しく、重複投薬や薬の飲み合わせなどの問題が起こるリスクがありました。
しかし、電子処方箋であれば、過去3年間に複数の医療機関から処方された薬やアレルギーの情報を一元管理し共有できるため、患者の体質や状態に合わせた、より適切な薬の処方が可能になります。
システムが自動的に重複投薬や薬の飲み合わせをチェックして医師や薬剤師に警告も出せるため、より安全な薬の処方が実現できるでしょう。
電子処方箋の導入には補助金が活用できる
令和6年4月からオンライン資格確認の導入が原則義務化されたことで、政府は医療機関や薬局への電子処方箋の導入を促進するため、補助金制度を設けています。
医療機関の規模によって、以下のような補助金が用意されています。
病院(大規模病院以外) | 診療所 |
事業額の1/3を補助(上限108.6万円) | 事業額の1/2を補助(上限19.4万円) |
出典元:医療機関等向け総合ポータルサイト|電子処方箋管理サービス等関係補助金の申請について
また、電子処方箋管理サービス以外にも、以下のような新機能を同時に導入した場合には、さらに受け取れる補助金が増えます。
- 処方箋ID検索
- リフィル処方箋
- マイナンバーカードによる電子署名対応
- 口頭同意による重複投薬などチェック結果閲覧
病院(大規模病院以外) | 診療所 |
事業額の1/3を補助(上限135.3万円) | 事業額の1/2を補助(上限27.1万円) |
出典元:医療機関等向け総合ポータルサイト|電子処方箋管理サービス等関係補助金の申請について
上記の電子処方箋に関する補助金制度の期間や補助内容は変更の可能性があるため、詳細は「医療機関等向け総合ポータルサイト」で確認してください。
また、電子処方箋とオンライン資格確認の導入に関する補助金は、両方受け取ることが可能です。
すでにオンライン資格確認の補助金を受け取っている医療機関でも、電子処方箋のシステム導入時に補助金が受け取れます。
院内処方と院外処方は医療業界の将来性や患者のメリットを考慮した選択を
院内処方は患者の利便性が高く、希少価値のある医療サービスとして差別化が図れる一方で、在庫管理や人件費など運営コストが大きな課題となるでしょう。
院外処方は、電子処方箋の導入によってこれまでよりも利便性が向上し、経営リスクも抑えられます。
どちらを選択する場合でも、開業予定の地域の競合状況や患者層の分析、近隣の調剤薬局の有無などの市場調査が必要不可欠です。
特に開業時は施設の改装費用や設備投資など、多額の資金が必要になるため医院継承による開業がおすすめです。
院内処方や院外処方の体制が整っている医療機関を引き継ぐことで、初期投資を抑えながら安定した経営のスタートができます。
医院継承による開業なら、病院経営の専門資格「医療経営士」の資格をもった専門家による無料相談をぜひご利用ください。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。