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居抜きクリニックとは?開業費用を抑える方法と成功のポイント

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居抜きクリニックとは?開業費用を抑える方法と成功のポイント

クリニックを開業する際、初期費用をできるだけ抑えたいとお考えの先生は多いことでしょうそこで近年「居抜き物件」による開業方法も注目されています。

居抜き物件とは、前のクリニックが使用していた内装や設備がそのまま残された状態の物件のことで、スケルトン物件と比べて初期費用を大幅に削減できる点が魅力です。本記事では居抜き物件でのクリニック開業について、メリット・デメリットから失敗しないためのポイント、さらには医院継承(医業承継)との比較も行います。

失敗のない開業を実現するために、ぜひ参考にしてください。

居抜き物件(クリニック)とはすぐに開業できる状態の物件

居抜き物件とは、前のテナントが使用していた内装や設備、什器などをそのまま残した状態の物件のことで、クリニックの場合は待合室の椅子や受付カウンター、照明設備などがそのまま残されています。

特にクリニックの居抜き物件では、医療機器や診察台、レントゲン装置などの高額な設備が残されているケースもあり、これらを活用できれば開業費用を大幅に抑えることが可能です。またすでに医療施設として利用されていたので、電気容量や給排水設備、空調設備なども医療施設の基準を満たしている点も大きな特徴です。

近年では、クリニックの事業拡大による移転に伴い、前の店舗が居抜き物件として市場に出るケースも増えています。このような物件は、経営不振による閉院ではなく、ポジティブな理由での退去であるため、立地条件が良好な場合が多い傾向にあります。

スケルトン物件との違い

スケルトン物件とは内装や設備がすべて撤去され「コンクリート打ちっぱなし」となった、文字どおり「骨組み」だけの物件です。

レイアウトやデザインをゼロから自由に設計できる点が最大のメリットですが、その分内装工事費や設備工事費が高額になるほか、設計から工事完了までの期間が長くなる点はデメリットと言えます。
居抜き物件とスケルトン物件の主な違いは以下のとおりです。

スケルトン物件との違い

開業費用を抑えるための居抜き・承継開業の全体像を見る

クリニックの居抜き物件は増加傾向

近年クリニックの居抜き物件は増加傾向にあり、この背景には医療機関の休廃業や倒産件数の増加が関係しています。帝国データバンクの調査によると、2024年にはクリニックを含む医療機関の休廃業・倒産件数は過去最多の合計786件に達しました。

医療機関の倒産件数・負債総額、休廃業・解散件数の推移
医療機関の倒産件数・負債総額、休廃業・解散件数の推移

出典:帝国データバンク

この数字は年々増加傾向にあることから、居抜き物件もまた増加していくと予想されます。開業を目指す医師にとっては、選択肢が広がっている状況とも言えるでしょう。

関連記事:クリニックの廃業率は0.47%|倒産・廃業の理由と対策

居抜き物件でクリニックを開業するメリット

居抜き物件を活用することには、主にコスト面とスピード面で大きな利点があります。ここでは具体的なメリットを4つ紹介します。

初期費用を抑えられる

居抜き物件での開業における最大のメリットは、初期費用を大幅に抑えられる点です。

新規開業では内装工事や医療機器の購入に数千万円の費用がかかりますが、居抜き物件では既存の内装や設備を活用できるため、この費用を削減できます。特にレントゲン装置や内視鏡などの高額な医療機器が残されているなら、その費用削減効果は非常に大きくなります。

開業初期の資金繰りに余裕を持たせられる点は、経営の安定性を高める上で重要な要素です。

関連記事:クリニックの開業資金はいくら必要?診療科目別でわかる費用や調達方法を紹介

開業までの準備期間が短縮できる

居抜き物件なら内装工事の期間を大幅に短縮できるため、開業までの準備期間も短くなります。

スケルトン物件の場合、一般的に設計から内装工事の完了まで3か月から6か月程度かかります。一方で居抜き物件なら既存の内装の軽微な修繕のみで済むため、1か月から2か月程度で開業準備を整えることも可能です。開業までの「空家賃(収益が発生しない期間の家賃)」の負担を減らせる点もメリットです。

関連記事:クリニックの開業スケジュールと必要な準備を徹底解説

内装や設備工事の手間を省ける

居抜き物件は既存の内装や設備をそのまま使用できるため、工事に関する手間も大幅に省けます。スケルトン物件での開業では下記のような、さまざまな業者との調整が必要です。

  • 設計事務所や内装業者との打ち合わせ
  • 医療機器メーカーとの交渉
  • 電気・水道・ガスなどのインフラ工事の手配

これらの作業は時間がかかる上に、医療の専門知識だけでなく建築や設備に関する知識も求められます。居抜き物件ならすでに完成している空間を活用するため、このような煩雑な手続きを最小限に抑えられます。

内装のデザインやレイアウトで悩む必要もなく、医療機器の選定や購入の手間も削減できるのがメリットです。

検査や手続きもスムーズな傾向にある

居抜き物件は前のクリニックが保健所の検査を通過していた実績があるため、開業時の検査や手続きもスムーズに進む傾向にあります。

新規開業の場合、保健所による施設基準の確認や消防署による防火設備の検査など、さまざまな行政機関の検査で指摘事項が出た場合に、改修工事で開業が遅れる可能性もあります。

居抜き物件なら基本的に医療施設としての基準を満たしているため、大幅な指摘を受ける可能性は低いです。ただし、前のクリニックが廃業してから時間が経過している場合、設備の劣化や法改正などで新たな基準が適用される可能性がある点は注意しましょう。

居抜き物件でクリニックを開業するデメリット

居抜き物件は費用負担に関するメリットが大きい反面、特有のリスクやデメリットも存在します。これから紹介するデメリットも十分に理解し、対策なども行っておきましょう。

設備の老朽化リスクがある

居抜き物件で最も注意すべきデメリットは、既存設備の老朽化リスクです。

前のクリニックが長年使用していた医療機器や空調設備、電気設備などは、見た目には問題がなくても内部で劣化が進んでいる可能性があるためです。開業後すぐに故障が発生すれば、修理費用や買い替え費用が発生し、当初見込んでいた初期費用削減効果が失われてしまいます。

特に下記の設備には注意しましょう。

【医療機器】

レントゲン装置や内視鏡などの高額な医療機器は、使用年数や保守状況を必ず確認しましょう。メーカーのサポート期間が終了している機器は、故障時の修理が困難になる可能性があります。

【空調設備】

医療施設では温度や湿度管理が重要です。空調設備の老朽化は、患者の快適性だけでなく、医療機器の保管環境にも影響します。

【給排水設備】

配管の劣化は目に見えにくく、開業後に水漏れなどのトラブルが発生するケースもあります。

レイアウトの変更に制約がある

居抜き物件は間取りや設備配置が決まっているため、自身の診療スタイルに合わせた動線の確保が難しい場合があります。例えば「診察室をもう一つ増やしたい」「感染症対策のために動線を分離したい」といった要望があっても、配管の位置や壁の構造によっては実現できなかったり、できたとしても改修費用が高額になったりします。

特に前のクリニックと診療科目が異なる場合には、必要な設備の配置も大きく異なる可能性があるので注意しましょう。

前のクリニックのイメージが残る可能性がある

居抜き物件では、前のクリニックのイメージが患者や地域住民の記憶に残っている可能性があります。

前のクリニックの評判が良かった場合はメリットになりますが、逆に評判が悪かった場合は、新しいクリニックにもマイナスのイメージが引き継がれるリスクがあります。例えば「待ち時間が長すぎた」「スタッフや先生の対応が冷たくて、そっけなかった」といったことが患者離れに繋がり閉院した物件なら、特に注意しなければなりません。

このようなリスクを軽減するためにも、前のクリニックの閉院理由や口コミ評判を十分に調べましょう。

造作譲渡料が高額になる場合がある

居抜き物件では、残された内装や設備に対して「造作譲渡料」が発生します。この造作譲渡料が適正価格より高額に設定されている場合、居抜き物件の「費用負担が少なくて済む」という恩恵が少なくなってしまいます。

造作譲渡料の妥当性を判断するためにも、専門家に設備の査定を依頼しましょう。また不要な設備を譲渡対象から外す交渉や、設備の状態に応じた価格交渉を行うことも重要です。

居抜き物件のクリニック開業で失敗しないためのポイント

居抜き物件は初期費用を抑えられる魅力がありますが、前のクリニックが閉院した理由や設備の実態を見誤ると、想定以上の費用がかかってしまう可能性や開業後の経営が上手くいかないリスクもあります。ここでは、そうした失敗を避けるために確認すべき4つのポイントを解説します。

立地条件と診療圏調査を入念に行う

「居抜き物件の中でも特に安いからここにしよう」という開業場所の選定はいけません。クリニック経営が成功するかどうかは、立地で決まるといっても過言ではないためです。

その場所で本当に集患が見込まれるのか、詳細な診療圏調査が重要です。対象エリアの人口動態、年齢構成、競合クリニックの数や診療内容などを分析する必要があります。

特に前のクリニックが「経営不振」で閉院した場合は、立地そのものに問題がある可能性が高いため、より慎重に調査しなければなりません。診療圏調査はクリニック経営の成功を握る重要な要素ですので、専門家に依頼して必ず実施しましょう。

関連記事:診療圏調査の手順や注意点・簡易診断できるサービス紹介

造作譲渡料や賃料などの契約条件を確認する

居抜き物件の契約では、造作譲渡料の内訳を詳細に確認しましょう。どの設備が譲渡対象に含まれているか、不要なものがあれば交渉で外すことも検討する必要があります。

また医療機器の動作確認や保守履歴、メーカー保証の有無も重要です。賃料が周辺相場と比較して適正か、契約期間や更新条件、原状回復義務の範囲なども必ず確認しなければなりません。これらの契約条件は、仲介会社の担当者や弁護士に相談しながら確認することをおすすめします。

内装がキレイで高額な設備が残っている物件を選ぶ

居抜き物件のメリットを最大化するには、やはり物件の状態が良いものを選ぶことが鉄則です。内装が清潔に保たれており、壁紙や床の汚れが少なければ、クリーニング程度ですぐに開業できるでしょう。患者はクリニックの清潔感を非常に重視するため、内装が薄汚れていた場合にはリフォーム費用がかさむ原因になります。

またCTやMRI、電子内視鏡システムなどの高額な医療機器が残されており、それらがまだ十分に使用可能な状態であれば、開業時の設備投資もかなり抑えられます。
ただしメーカーや型式が古すぎないか、保守対応は継続可能かといったスペック面の確認も忘れずに行いましょう。

診療科目の設備要件を満たしているか確認する

前のクリニックと異なる診療科目で開業する場合、必要な設備要件が満たされているのか確認が必須です。

例えば内科の居抜きで皮膚科を開業する場合や、眼科の居抜きで耳鼻科を開業する場合など、科目によって必要な電力容量や給排水設備、部屋の広さや数が異なります。特に耳鼻科や婦人科などは特殊な処置スペースやプライバシー配慮が必要となるため、既存の間取りでは対応できないことも多く注意しなければなりません。

電気容量が不足していれば増設工事が必要となり、ビルの設備によっては増設自体が不可能なケースもあります。自身の標榜科目に必要なスペックを備えているか、しっかりと現地調査を行いましょう。

居抜き開業なら医院継承(M&A)も視野にいれる

居抜き物件を検討する際には、医院継承(M&A)も視野に入れましょう。居抜き物件はあくまで「場所と箱(建物・設備)」を引き継ぐものですが、医院継承はそれに加えて「事業(患者・スタッフ・ノウハウ)」を包括的に引き継ぐ開業方法です。

居抜き物件と医院継承それぞれの特徴は下記のとおりです。

居抜き物件と医院継承それぞれの特徴

医院継承ならではのメリット

医院継承には、居抜き物件での開業にはない独自のメリットがあります。ここでは主なメリットを3つご紹介します。

患者を引き継げるから開業直後から安定した収益が見込める

最大のメリットは、通院中の患者さん(カルテ)をそのまま引き継げる点です。

新規開業(居抜き含む)の場合、患者数はゼロからのスタートとなり、地域に認知されるまで数か月から1年程度は赤字が続くことが一般的です。医院継承なら開業初日から一定の来院数が見込めるため、早期に単月黒字化を実現しやすく、経営が圧倒的に安定します。

スタッフも引き継げるからオペレーションもスムーズ

医院継承では、看護師や医療事務などのスタッフも引き継ぐことができます。新規開業では、スタッフの採用から教育まですべてイチから行う必要があり、特に開業直後はスタッフも慣れていないためオペレーションが安定するのも時間がかかります。

医院継承なら、すでにクリニックの業務に精通したスタッフがいるため、開業初日からスムーズな運営が可能です。受付業務や診療補助、レセプト業務など複雑な医療事務の流れもすでに確立されているため、新しい院長も開業直後から診療に集中ができます。

銀行の融資審査も有利

医院継承は、銀行の融資審査においても有利に働きます。新規開業の場合は実績がないため、銀行は医師の経歴や事業計画の内容から返済能力を判断するしかありません。そのため融資額が希望より少なくなったり、審査に時間がかかったりすることもあるわけです。

医院継承なら、すでにクリニックが運営されていて経営実績もあります。銀行は過去の診療報酬や患者数のデータから将来の収益を予測できるため、融資の審査もスムーズに進む傾向にあります。

特に安定した経営実績があるクリニックを承継する場合には、融資額も希望に沿った金額が得られやすくなります。

医院継承ならではのデメリット

医院継承による開業は、居抜き物件と比較した場合にデメリットもあります。

居抜き物件よりも譲渡価格は高額な傾向

医院継承は有形資産(建物・設備)の価格に加えて、無形資産である「営業権(のれん代)」も加算されます。これは、そのクリニックが持っている収益力やブランド価値に対する対価です。

そのため、単なるモノの売買だけになる居抜き物件に比べると、トータルの譲渡価格は高くなる傾向にあります。ただし開業直後から安定した収益を得られる点を考慮すれば、初期費用の回収期間は新規開業よりも短くなるケースも多いです。

スタッフとの相性が合わない可能性

引き継いだスタッフと新しい院長の診療方針や経営方針が合わず、トラブルになってしまうケースもあります。特に長年勤務しているスタッフほど、前の院長のやり方に慣れ親しんでいるため、急激な変化に反発することもあります。

承継の前に面談を行って人柄を確認したり、承継後もコミュニケーションを積極的に行ったり、就業規則の再整備なども重要です。これをPMI(統合プロセス)と呼び、医院継承の成功には欠かせない要素です。

関連記事:診療所・病院の承継でありがちなトラブル

居抜き物件によるクリニック開業に関するよくある質問

居抜き物件の初期費用はどれくらいかかりますか?

物件の規模や立地、診療科目によって異なりますが、坪単価は10万円から30万円程度が相場で、例えば30坪の物件なら300万円から900万円程度です。

ただし居抜き物件の場合は、ほかにも医療機器の導入費用や広告宣伝費、スタッフの採用などさまざまな費用がかかります。これらを考慮すると最低でも1,000万円から2,000万円程度の初期費用は必要と言えるでしょう。

関連記事:クリニックの開業資金はいくら必要?診療科目別でわかる費用や調達方法を紹介

居抜き物件で気をつけるべきポイントは?

居抜き物件を選ぶ際に特に気をつけるべきポイントは3つです。

まず閉院理由の確認が重要です。経営不振による閉院の場合、立地や診療圏に問題がある可能性があります。院長の高齢化や引退による閉院であれば、立地自体は問題ない可能性が高いといえます。

次に設備や内装の状態を詳しく調査しましょう。見た目だけでなく、設備の動作確認や保守履歴、使用年数などをチェックし、可能であれば水回りの状態も実際に確認します。

最後に造作譲渡料が適正価格かどうか、相場と比較して判断することが重要です。相場より高額な場合は価格交渉を行いましょう。

スケルトンと居抜きではどちらが良いですか?

「先生が何を優先するか」によって適切な開業方法は異なります。初期費用を抑えてスムーズに開業したい、とにかく早く開業したい、まずはリスクを抑えてスタートしたいという先生は「居抜き」が適しています。

一方で自分の理想とする完璧な診療環境やデザインを実現したい、資金に余裕がある、最新の設備を導入したいといった先生には「スケルトン」がおすすめです。

まとめ:居抜き物件とM&Aで最適なクリニック開業方法を選ぼう

居抜き物件での開業は初期費用を抑え、準備期間を短縮できる点において魅力的な開業方法です。ただし設備の老朽化やレイアウトの制約といったデメリットがあることは理解し、慎重に物件を選定する必要があります。

居抜き物件での開業を検討する際には、医院継承(M&A)も併せて検討しましょう。医院継承では患者やスタッフを引き継げるので、開業初日から安定した収益を得られます。自分の開業目的や資金状況、診療方針などを総合的に考慮し、最適な方法を選択しましょう。

私たちエムステージマネジメントソリューションズでは、医院継承(M&A)の案件を数多く取り扱っております。先生のご希望やライフプランに合わせ、最適な開業スタイルをご提案いたします。

サイトには掲載していない未公開案件も多数ございますので、まずは一度お気軽にご相談ください。

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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。

【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。

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