医院継承後に失敗しない美容クリニックの体制作りとは?
目次
「美容クリニックを開業したいが、何から始めればいいのか分からない」そんな悩みを抱えていませんか。
美容クリニックの経営は、医療スキルだけでなく、資金調達・人材採用・機器選定・マーケティングなど多岐にわたる準備が必要です。特に自由診療は集患力やリピート率が売上に直結するため、戦略的な体制づくりが不可欠です。
本記事では、美容外科と美容皮膚科の違いや、必要なスタッフ構成、開業に必要な準備、承継後に体制を整えるポイントなどを網羅的に解説します。
美容クリニックの種類
美容クリニックの種類は大きく2つに分けられます。
- 美容外科
- 美容皮膚科
それぞれ解説します。
美容外科
美容外科は、外科手術による美容を行う診療科です。主に豊胸手術、脂肪吸引、フェイスリフトなどが該当します。高額な医療機器の導入が必要で、初期投資の負担が大きい診療科です。
美容外科の施設数は2020年から2023年の間で43.6%増加しており、競争が激しい市場です。ターゲット層は30代〜50代の女性が中心で、加齢など見た目の変化に対する施術を希望する層が多い傾向です。
必要なスタッフは麻酔科医や手術助手など多職種に及び、採用や教育にもコストがかかります。1回あたりの単価が高く、初回で大きな収益が見込めますが、リピート率は低めです。そのため、新規顧客の獲得が売上維持の鍵となります。
美容皮膚科
美容皮膚科は、手術を行わずレーザー治療、ボトックス・ヒアルロン酸注射などを中心に肌の悩みを改善する診療科です。しみ・しわ・たるみ・ニキビ跡などの幅広い症状に対応できます。使用する医療機器は高額なものもありますが、美容外科に比べ初期投資は抑えられます。
ターゲット層は20代後半から40代と幅広い年代の女性が中心で、リピート来院する方が多い傾向です。1回の施術単価はやや高めでありながら継続治療が必要なものが多いため、売上の安定性が見込めます。スタッフは少人数でも運営可能で、看護師と受付スタッフで対応可能な場合もあります。
美容クリニックのスタッフ体制
美容クリニックのスタッフは、医師、看護師、受付スタッフが最低限必要な職種です。クリニックの規模拡大や提供サービスの多様化に伴い、カウンセラー、薬剤師、広報担当、人事担当などの職種が追加されます。
カウンセラーは施術前後の相談に対応し、患者の不安を和らげる役割です。ただし、医療行為に該当する説明や判断は医師に限られます。カウンセラーが治療内容や効果を断定する行為は、医師法違反となる可能性があるため注意が必要です。
薬剤師を配置すると、薬の服薬指導や患者への説明がより確実に行えます。また、施術やサービスを広く認知してもらうために広報・マーケティング担当が求められる場合もあります。人事担当が加わると、スタッフの勤怠や教育体制も整いやすいです。規模の拡大とともに、組織全体の機能強化を意識した職種配置が求められます。
美容クリニックを開業する前に準備すること
美容クリニックの開業前には、いくつか準備することがあります。
- 開業・運転資金の調達
- 長期的な経営戦略の立案
- 適切な開業地を選定
詳しく解説します。
開業・運転資金の調達
美容クリニックの開業には、高額な医療機器が必要です。特にレーザー機器などの施術装置は数百万円単位の費用がかかります。これらを揃えるためには、自己資金だけでなく金融機関からの融資、医療機器のリース制度を活用すると良いでしょう。リースを利用すれば初期費用を抑えつつ最新の設備を導入しやすくなります。
運転資金には、家賃、人件費、広告費、消耗品費なども含まれるため、半年から1年分を見込んでおくと安心です。また、診療報酬が支払われるのに2〜3か月程度必要なため、十分な資金が必要です。資金計画は開業後のキャッシュフローに大きく影響するため、事業計画書を作成して必要な資金を明確にしましょう。
長期的な経営戦略の立案
美容クリニックは急増しているため、安定した経営を実現するには長期的な経営戦略を立てる必要があります。まず市場分析を行い、自院の強みや差別化ポイントを整理します。そのうえで、短期・長期的な経営目標を立てましょう。
たとえば1年後の売上目標、3年後の分院展開、5年後の地域シェア拡大など、段階的なゴールを明文化します。スタッフの育成やサービス改善、収益モデルの見直しも戦略に含めます。トレンドの変化に柔軟に対応するため、定期的な戦略の見直しも必要です。開業時の勢いに頼るのではなく、持続可能な成長を見据えた戦略設計がポイントとなります。
関連記事:【2025年最新】美容医療の市場規模の推移を公開!開業で成功するためのポイントも解説
適切な開業地を選定
美容クリニックの競争は激しくなっており、開業地の選定は特に重要です。集患に直結するため、ターゲット層の居住地や行動範囲を把握する必要があります。
富裕層や美容意識の高い人が多いエリア、通勤や買い物の動線上にある場所は候補にしやすいです。くわえて、同業他院の有無や集患状況も確認しましょう。競合が多い場合でも、差別化が可能であれば成り立つ場合があります。
反対に、美容需要が低いエリアでは苦戦すると予想されます。開業にあたっては、競合調査を行い、自院のポジションを明確にすることが不可欠です。
美容クリニックの承継後に体制を整えるポイント
承継後に美容クリニックの体制を整えるポイントは7つあります。
- 院長交代後の信頼構築をする
- マーケティングの体制を整える
- 優秀な人材を採用する
- コスパよく機器を購入する
- カルテや予約システムを整備する
- スタッフ教育制度を整える
- トラブル対応の手順を整える
それぞれ解説します。
院長交代後の信頼構築をする
美容クリニックの承継において、スムーズな院長交代は患者離れを防ぐ鍵です。特に自由診療が中心の美容医療では、患者との信頼関係が継続来院や紹介に直結するため、交代直後の対応が重要となります。
院長が交代すると患者は不安になるため、信頼関係の再構築が大切です。まずは、顔と名前を覚えてもらい、日々の診療で誠実な姿勢を示すと徐々に信頼が高まります。診療の継続性を示しつつ、丁寧なカウンセリングや一貫した対応を心がけると安心感につながります。
また、スタッフとも密な対話を重ねると、内部の信頼も築けるでしょう。小さな相談や意見交換の積み重ねが、職場の雰囲気を良好に保ちます。
マーケティングの体制を整える
美容クリニックの開業前には、マーケティング体制の構築が欠かせません。競合が多い市場では、広告やSNSの活用が集客に直結します。特に開業初期は認知度が低いため、ターゲット層に情報を届ける手段としてWeb広告やInstagramなどのSNSが有効です。単に発信するだけでなく、クリック率や来院数などで効果測定を行い、改善することが重要です。
開業前の段階からマーケティング体制を整えると、スムーズな開業が可能になります。適切に媒体を選び、費用対効果の高い施策を実行しましょう。
優秀な人材を採用する
美容クリニックには外見や肌の悩みなど、デリケートな悩みを抱える人が来院します。優秀な人材には、悩みに共感し丁寧に対応する対人スキルが求められます。また、施術に関する知識や技術も重要で、常に学ぶ姿勢を持つ人材が理想です。採用時には資格やスキルを重視し、求める人物像を明確にした上で選考基準を設定しましょう。
経験だけでなく、患者と向き合う姿勢を評価に含めると、ミスマッチの少ない採用につながります。採用後に定着してもらうためには、働きやすい職場環境を整えることが効果的です。休暇の取りやすさや人間関係の良さ、成長できる機会の提供が職員の満足度を高めます。
コスパよく機器を購入する
美容クリニックでは、施術の質を左右する医療機器の選定が経営に直結します。医療機器にもさまざまな機能があり、費用も幅広いです。施術に必要な機能だけを備えた機器を選ぶと、コストパフォーマンスが高まります。価格とニーズのバランスを考え、適切な機器を購入しましょう。
高額な最新機器に頼らずとも、実績のある中古機器やリースを検討するのも一つの方法です。ただし、コストを抑えるために安い機器を選ぶと機能が不十分だったり、すぐに壊れてしまう可能性もあります。そのため、国内で承認されている機器を導入するとよいでしょう。
購入後の修理や部品交換の対応、保証期間の有無なども確認しておくと、長期的に見て安心です。
カルテや予約システムを整備する
診療の質と業務効率を維持・向上させるためには、カルテと予約システムの整備が不可欠です。紙のカルテでは情報管理に手間がかかり、ミスや確認漏れのリスクが高まります。電子カルテを導入すれば、患者情報の情報の検索性や共有性が向上し、診療のスピードや正確性が高まります。電子カルテ利用時には、過去の記録が適切に引き継がれているかも確認が必要です。
また、予約システムもデジタル化すると患者の利便性が上がり、無断キャンセルの抑制にもつながります。予約のしにくさは患者減少の原因になりやすいです。WEB予約やLINE連携など、患者の利便性を考慮した予約管理のシステムを導入するとよいでしょう。
予約状況の可視化によってスタッフの配置や準備もしやすくなり、受付業務の負担も軽減できます。これらのシステム整備は開業後すぐに効果を実感できるため、初期段階からの導入をおすすめします。
スタッフ教育制度を整える
スタッフ教育制度には、施術の知識や技術だけでなく、接客マナーや患者対応スキルも含むことが重要です。スタッフを教育すると、患者対応が円滑になりクレーム減少にもつながります。
たとえば、定期的なロールプレイやOJT研修、マニュアルに基づいた接遇指導などです。新入職員だけでなく、既存スタッフへのフォローアップも欠かせません。
スタッフの成長は患者満足度の向上に反映されるため、教育制度の整備は長期的に見ても価値の高い投資です。また、教育制度を整えてクリニック全体で習慣化すると長期的な成長が期待できます。
関連記事:クリニックが成功するスタッフ教育とは?「やってはいけないこと」や重要なポイントを解説
トラブル対応の手順を整える
美容クリニックでは、施術結果に対する不満、料金トラブル、SNSでの悪評拡散など、さまざまな問題が起こる可能性があります。トラブルが起きた際の対応の流れをあらかじめ整えておくと、スムーズな運営が可能になります。
初期対応は迅速かつ丁寧に行う必要があり、受付スタッフや看護師がその場で感情的に対応しないことが重要です。報告・連絡・相談の体制を明確にし、対応履歴を記録するルールを設けます。
マニュアルだけでなく、実際に想定されるケースを用いたロールプレイ研修を行うと、スタッフの対応力が高まります。冷静な対応が信頼の維持につながります。
クリニックの経営方針を引き継ぐ
承継直後に経営方針を大きく変更するのは避けたほうが無難です。いきなりすべてを変えてしまうと、患者やスタッフも戸惑い、これまで築かれてきた信頼関係が崩れるおそれもあります。
まずは現状をしっかり観察し、院内の空気や流れを把握することが大切です。信頼関係を築いたうえで徐々に方針を調整していくと、受け入れてもらいやすくなるでしょう。
美容クリニックの体制を整えて経営しましょう
美容クリニックの承継後は、医療技術だけでなく経営戦略や体制作りが重要です。美容外科と美容皮膚科では初期投資やリピート率に違いがあり、ターゲット層や必要スタッフも異なるため診療科に合った経営戦略を立てましょう。
開業時は資金調達・経営戦略・立地選定が必須で、特に集患力のある立地選びが成功を左右します。また、承継後は、院長交代による信頼構築、マーケティング、人材採用、機器のコスパ、システム整備、教育体制、トラブル対応の7点が体制整備の要です。
経営方針の急な変更は避け、患者やスタッフとの信頼を尊重しながら安定した経営を目指しましょう。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。