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医療法人の倒産件数は?倒産以外の選択肢や立て直し方も解説

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医療法人の倒産件数は?倒産以外の選択肢や立て直し方も解説
医療法人の倒産件数は?倒産以外の選択肢や立て直し方も解説

近年、医療法人を取り巻く経営環境は急速に悪化しています。2024年には、医療機関の倒産が過去最多を記録し、休廃業や解散の件数も深刻な水準に達しました。
経営者の高齢化、物価上昇、人材不足など複合的な要因が医療法人を圧迫するなか、事業の継続や地域医療の維持には、早期のM&A検討がこれまで以上に重要となっています。

本記事では、倒産の現状や原因に触れつつ、医療法人が取り得る選択肢や、立て直しの方法としてのM&A活用のポイントを詳しく解説します。

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【2024年度】医療法人の倒産件数

2024年における医療法人の経営状況は、これまでにない厳しさが浮き彫りとなりました。病院、診療所、歯科医院を含む医療機関全体で倒産件数は64件に達し、過去最多を更新しました。

また、休廃業や解散の件数も722件と非常に高い水準を記録しています。とくに診療所と歯科医院の件数が急増しており、経営者の高齢化や後継者不足を背景に、自主的な退出が目立つ傾向です。

出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)」

出典:帝国データバンク「「医療機関」倒産動向」

医療法人の倒産の原因

2024年度、医療機関(病院・診療所・歯科医院)全体で64件の倒産が確認され、これは過去最多の水準となりました。帝国データバンクの調査によると、このうち64.1%(41件)が倒産の主因として「収入の減少(販売不振)」を挙げており、医療法人の経営がかつてないほど厳しい局面にあることが明らかです。

以下では、医療法人の倒産に影響する主な要因を項目ごとに解説します。

出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)」

通院控えや医療機関の見直しによる患者数の減少

新型コロナウイルスの流行以降、発熱外来や感染症対応などへの負担が続く一方で、慢性疾患や軽症の患者が通院を控える傾向が強まりました。加えて、ワクチン接種を契機にかかりつけ医を見直す動きが増加しました。

このような変化によって、患者数が回復せず、診療報酬が減少したことで、収益が大きく落ち込んだ医療機関が多数発生しています。とくに、診療所や歯科医院といった小規模施設にとっては致命的な影響となりました。

コロナ補助金の終了と収益構造の脆弱化

コロナ禍においては、感染症対策や診療体制維持のために各種補助金が支給されていました。しかし、2023年以降こうした補助金が順次終了し、これまで補填されていた赤字が一気に表面化する結果となりました。

特に、恒常的に赤字だった医療機関は、補助金頼みの経営から脱却できておらず、補助金の打ち切りによって資金ショートに陥るケースが相次ぎました。

医薬品・資材費・設備費の高騰

2024年に入ってからも続く円安や国際的な物流コストの上昇により、医薬品や検査キット、消耗品といった医療資材の価格が高騰しています。さらに、老朽化した設備の更新費用も重なり、キャッシュアウトが急増しました。

売上が戻らない中で固定費や仕入れコストが膨らんだ結果、利益が出ず、運転資金が枯渇するという悪循環に陥ったケースもあります。

人件費の上昇と人材確保難

医療・介護業界全体で人手不足が深刻化しており、人材確保のために賃金水準を上げざるを得ない医療法人が増えています。看護師や医療事務職など、特定の職種で採用競争が激化し、人件費比率が経営を圧迫しました。

加えて、求人に応募が集まらず、既存職員への負担が増加するなど、職場環境の悪化によって退職が続き、人材の流出に歯止めがかからない事例も報告されています。

コロナ関連融資の返済開始と資金繰り悪化

2020〜2021年に実施されたコロナ関連融資(実質無利子・無担保融資)の返済が2023年から順次始まり、医療法人のキャッシュフローを直撃しました。本来ならば返済に備えて利益を積み増すべき期間に、原価上昇や補助金終了などで赤字が拡大し、返済余力が失われた法人も多く見受けられます。

このように、収入減少と支出増加が同時に進行したことで、資金繰りに窮し、倒産する医療法人が増加したと考えられます。

医療法人が倒産しそうな場合の選択肢

経営悪化によって事業継続が困難になった医療法人が選ぶべき道は、単なる清算にとどまらず、今後の地域医療への影響や職員の雇用維持を踏まえた多面的な判断が求められます。ここでは、代表的な2つの選択肢である「破産」と「M&A」について解説します。

破産

破産は、医療法人が負債の返済が不可能となった場合に、裁判所を通じて法人の清算を行う法的手続きです。すべての債務を整理し、法人は解散となります。負債の返済には、法人の資産が配分されますが、多くの場合、債権者への返済は一部にとどまり、法人としての活動は完全に停止します。

医療法人の破産は、診療継続の打ち切り、患者の通院先喪失、職員の大量離職を招くことから、地域社会への影響が大きく、社会的な責任も重くのしかかります。また、理事長や経営陣が個人保証をしている場合には、破産後に個人財産を失う可能性もあるため、慎重な判断が必要です。

関連記事:医療法人の解散|手続きの流れややるべき事項の基本 | 病院やクリニックの医業承継(事業承継・M&A)はエムステージ

M&A

破産を避けつつ事業を存続させる方法として注目されるのがM&Aです。診療所や病院の設備・スタッフ・患者基盤などを、第三者に引き継ぐ形で売却することで、医療機関の機能を維持しながら経営の再建を図ることができます。

とくに近年では、診療圏や専門性に魅力のある医療法人を対象に、同業他社や医療グループが買収を希望するケースが増えており、破産による清算よりもメリットが多い選択肢といえます。買収後の雇用継続や患者受け入れ体制の確保が図られるため、社会的責任にも配慮した対応が可能です。

M&Aには、「事業譲渡(設備やスタッフといった資産などを譲渡)」と「法人譲渡(医療法人そのものを承継)」の2種類があり、負債状況や法人形態によって適したスキームが異なります。早期に検討を始めることで、資産価値を維持したまま次の体制へ移行できる可能性が高まります。

関連記事:医療法人内の1つの医院を譲渡する際のスキーム・注意点 | 病院やクリニックの医業承継(事業承継・M&A)はエムステージ

医療法人が倒産する際に決めること

医療法人が倒産を検討する段階では、単なる資金繰りや負債整理にとどまらず、患者の安全や診療体制の継続性、従業員の雇用など多くの要素について早期に意思決定を行う必要があります。ここでは、破産申立てに至る前後で必ず検討しなければならない重要事項を紹介します。

事業停止日

医療機関が事業を停止する日をいつにするかは、極めて重要な判断です。たとえばベッドが空いている状態が続いている、診療報酬の債権が既に譲渡されている、不動産や医療設備が差し押さえられている、といった深刻な状況では、医療の提供を継続すること自体がリスクとなります。

こうした場合、無理に診療を続けることで患者に重大な影響が及ぶ可能性があるため、速やかな事業停止と転院支援が求められます。診療継続の可否は、医療体制の安全性を最優先に検討されるべきです。

患者の受け入れ先

医療法人の倒産において重視されるのが入院・通院中の患者への対応です。経営者や申立てを行う弁護士は、行政機関や医師会、裁判所と連携しながら、診療の空白を生じさせないように慎重に手続きを進める必要があります。

とくに入院患者がいる場合には、適切な医療機関への受け入れが確保されているか、移転までの間の診療体制は維持できるかといった視点から検討を行います。通院患者であっても、継続的治療が必要な場合には、受診状況を把握した上で行政機関と協力して代替医療機関を案内するなど、具体的な支援体制を構築することが不可欠です。

従業員の次の雇用

倒産手続きが始まると、原則として全従業員は一斉に解雇されることになります。破産管財人が選任された後は、法人の資産管理や手続執行がその管理下に置かれるため、事前に解雇予告や通知の準備が必要です。

ただし、医療機関の場合は例外も存在します。たとえば破産管財人の補助として、病棟の事情に精通した看護師や、事務処理を担うスタッフを一部雇用継続するケースもあります。とはいえ、原則は解雇となるため、次の雇用機会や職業紹介に関する情報提供など、円滑な労務移行が求められます。

診療録の取り扱い

医療法人が破産したとしても、カルテをはじめとした診療記録の保存義務は消滅しません。医師法や関係法令では、診療終了から5年間はカルテの保存が義務付けられ、手術記録や看護記録、レントゲン写真なども3年間保存する必要があります。

施設を買い受けて継続運営する医療機関があれば、診療録を引き継いでもらうのが理想です。しかし、引き継ぎ先がない場合には、破産財団から費用を捻出して記録を安全に保管する必要があります。診療録の紛失や管理不備は、患者への信頼を損なうだけでなく、法的責任を問われるリスクもあるため、最終段階まで慎重な対応が不可欠です。

医療法人を立て直す際のポイント

経営危機に直面した医療法人が再建を目指すには、現状を正確に分析し、経営資源の配分や運営体制の見直しを段階的に進める必要があります。ただ単に赤字を削減するのではなく、地域医療を継続するための実行可能な体制づくりが重要です。

ここでは、医療法人を立て直すための具体的なポイントを解説します。

経営状況の把握

立て直しの第一歩は、現状を正しく認識することです。たとえば、直近3年分の財務諸表や診療報酬明細を確認し、「どの診療科が黒字なのか」「何にコストがかかっているのか」「患者数や稼働率はどう推移しているか」などの数値を整理します。Excelなどで月別の収益・費用・人件費を一覧化し、傾向や急増した支出項目を特定して、根本的な経営課題を浮き彫りにしていくことが重要です。

不採算部門・コスト構造の見直し

明らかになった経営課題に対しては、まず赤字の原因となる診療科やサービスの見直しを行います。たとえば、月の外来患者数が著しく少ない診療科については、診療時間の短縮や科の統廃合を検討します。加えて、医療材料や検査費の単価をリスト化し、購入価格が高い業者を見直して見積もりを取り直す、外注検査項目を院内化する、というように具体的なコスト削減策を実行していきます。

人材配置と業務効率の最適化

人員配置の見直しも不可欠です。外来・病棟ごとの混雑状況を観察し、時間帯別に人手不足が起きている部署では人員の再配置を行います。

たとえば、看護師が医師の事務作業を手伝っているような現場では、医療クラークを配置することで医師の生産性を上げ、同時に看護師が本来のケア業務に集中できるようにします。また、受付・会計業務では自動精算機やオンライン予約の導入を検討し、人的リソースの負担を軽減します。

資金繰り改善と金融機関との交渉

資金繰りを改善するためには、現時点の手元資金と毎月の入出金予定をリスト化し、6か月~1年先までの資金繰り表を作成します。赤字が続く場合は、取引金融機関に対して返済条件の見直し(元本据え置きや返済期間の延長)を交渉する際の資料としても活用できます。

その際には、経営改善計画書をあらかじめ作成し、「いつまでに、どの費用をどれだけ削減し、どうやって黒字化するのか」を明記した上で説明します。

医療DXや外部委託の活用

業務効率を高めるには、医療DXの導入が有効です。たとえば、紙カルテを使用している場合には電子カルテに切り替えることで、診療内容の共有・入力業務の効率が大幅に改善されます。また、予約や問診もWeb化することで、受付業務の混雑を緩和できます。

さらに、清掃や給食、レセプト点検などの業務は、業者を再選定し、費用対効果の高い委託先に切り替えることで、コストを抑えながら一定の品質を維持することが可能です。

医療法人の立て直しにはM&Aが効果的

財務悪化や後継者不在で将来の見通しが立たない医療法人にとって、M&A(合併・買収)は単なる撤退回避策ではなく、再生と成長のきっかけとなる選択肢です。たとえば、赤字が続くクリニックであっても、医療グループの傘下に入ることで、医師の応援体制や購買スケールの恩恵を受けられ、コスト削減や集患の強化が図れます。

また、後継者が見つからない診療所でも、譲渡によってスタッフや患者との関係性を維持したままスムーズに事業承継が実現できます。譲受側が個人でも法人格を引き継げるため、医療機関としての許認可や診療報酬請求体制も継続され、行政手続きや運営の中断リスクを抑えられる点も大きなメリットです。

M&Aは単に経営を手放す手段ではなく、地域医療の継続と職員の雇用維持、経営者自身の次のステージへの転換を支援する「前向きな選択肢」として、今後ますます重要性を増していくでしょう。

医療法人のM&Aにおけるポイント

以下では、医療法人のM&Aを成功させるために押さえておくべきポイントを詳しく解説します。

出資持分の有無の確認と整理

医療法人のM&Aを行うにあたり、まず確認すべきは「出資持分」の有無です。持分あり医療法人では、出資者が法人財産に対する権利(残余財産請求権)を有するため、出資持分の評価や譲渡方法が交渉の大きなポイントになります。

一方で、持分なし医療法人は出資者の経済的権利が制限される代わりに、M&A時の買収ハードルが低く、手続きも比較的円滑です。
売却を視野に入れる医療法人は、事前に持分の整理や移行の検討を行っておくとスムーズに交渉が進みます。

事業承継スキームの設計(親族/第三者)

M&Aによる事業承継には、親族への承継と第三者への承継の2つのパターンがあります。親族承継では、後継者候補が医師資格を持っているか、医療機関の運営に理解があるかが重要となります。一方、第三者承継では、法人格の維持と安定した医療サービスの継続が鍵となるため、承継前から内部体制を整えておく必要があります。

いずれのスキームでも、事業の継続性や患者・従業員への影響を最小限にとどめる設計が求められます。

医療従事者の継続雇用と人材引継ぎ

医療法人の重要な資産のひとつが「人材」です。医師・看護師・医療事務スタッフなどの従業員が退職することで、診療体制の崩壊や患者離れにつながるリスクがあります。

そのため、M&Aにあたっては、従業員との信頼関係を維持しつつ、待遇面や雇用条件の明示、説明会の開催などを通じて、安心して職務を継続できる環境を整えることが欠かせません。買手企業との人材面での引継ぎスケジュールも早期に調整しておくことが望まれます。

法的・税務面のデューデリジェンス

医療法人のM&Aでは、一般企業とは異なる法的・税務上の特殊性が多く存在します。医療法や医療法人の運営ルールに則った法人形態であるか、許認可の状況に問題はないか、診療報酬の不正請求や労務トラブルがないかなど、専門的な観点からのデューデリジェンスが不可欠です。

税務面でも、出資金の評価や譲渡益の取扱い、法人格の移行時の消費税・法人税への影響など、専門家と連携しながら慎重に対応する必要があります。

診療科目や地域性を加味した買い手選定

買手企業の選定においては、単に財務体力があるかどうかだけでなく、診療科目の親和性や地域における医療ニーズとの整合性も考慮することが大切です。たとえば高齢者の多い地域であれば、在宅医療や慢性期医療に強みを持つ法人とのマッチングが望ましいでしょう。

また、買手側の医療理念や運営方針が売手と大きく異なる場合、従業員や患者の離脱を招く可能性もあるため、事前の面談や現場視察で相性を確認することも重要です。

医療法人のM&Aは早めに検討しよう

2024年の医療法人の経営状況は過去に例を見ないほど厳しく、倒産や廃業に追い込まれる事例が急増しています。しかし、事業停止や清算を選ぶ前に、M&Aを活用して事業を第三者に承継することで、患者の治療機会を守り、職員の雇用も維持できる可能性があります。

医療法人の経営に不安を感じている経営者は、危機的状況に至る前に、信頼できる専門家と連携しながら、M&Aによる再建を選択肢の1つとして早期に検討することが求められています。
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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
>著者プロフィール詳細(wikipedia)

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