クリニックの分院開業に必要な資金とは?調達方法や注意点も解説


目次
「本院の成功を維持しながら分院を展開できるのか」「開業資金をどう準備すれば良いのか」と悩んでいませんか。資金調達や開業地選び、経営計画など、課題は多岐にわたります。医業承継なら、既存の患者層やスタッフ、施設をスムーズに引継ぐことができ、分院の開業が可能です。
また、金融機関からの融資や補助金を活用すると、資金面の負担を軽減できます。しかし、準備不足で承継に失敗すると、資金の負担が増えるだけでなく、経営トラブルにもつながりかねません。そのため、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に計画を進めることが重要です。
本記事では、クリニックの分院開業に必要な資金、調達方法や注意点を解説していきます。分院開業を考えている方は、ぜひご覧ください。
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クリニックの分院展開3種類
承継後の本院が患者数の増加や業務負担の課題に直面している場合、分院で初期診療やフォローアップを行うと本院の負担を軽減し、効率的な運営が可能です。分院展開の方法は3種類あります。
多店舗展開型
多店舗展開型は、クリニックの本院で行っている医療サービスやコンセプトをそのまま他の地域に展開する方法です。飲食業のチェーン展開に似た形態で、同じ診療内容や運営スタイルを複数の拠点で提供するのを目的としています。多店舗型展開のメリットとして、本院での戦略をそのまま分院に適用しやすい点が挙げられます。
承継したクリニックを分院として活用すると、初期投資を抑えて効率的に分院展開ができるだけでなく、経営リスクの分散にもなります。
垂直展開型
垂直展開型は、 本院の医療サービスの上流または下流を担う分院を展開する方法です。本院と分院が異なる役割を持ち、連携して患者をサポートします。例えば、分院で外来診療を行い、手術や入院が必要な患者を本院に紹介するなどの役割分担です。
この展開方法により、本院の負担を軽減し、効率的な患者対応が可能になります。ただし、分院の収益が本院に依存する場合が多く、経営リスクが分散しにくい点に注意しましょう。
水平展開型
水平展開型は、本院と関連性のある医療領域を分院で担う方法です。例えば、産婦人科の本院が、小児科の分院を開設して赤ちゃんのケアを引き継ぐ、整形外科の本院が、高齢者向けの訪問診療を分院で行うなどです。
本院と分院が相互補完的に機能し、患者の幅広いニーズに対応可能です。また、本院の患者が分院のサービスを利用する可能性が高く、集患がスムーズになります。
クリニックの分院を開設するための条件
分院を開設するには、医療法人であることが前提となります。個人開業医では、複数の診療所を運営することはできません。なぜなら、個人診療所では基本的に開設者と院長が同一人物である必要があり、複数の診療所を運営できないためです(医療法第12条)。
分院には分院長を配置する必要がありますが、分院長は常勤の医師で、医療法人の理事として登録されている必要があります。
また、医療法人の定款には、分院の住所や診療内容を記載しなければいけません。そのため、分院開設前に都道府県知事から定款変更の認可を受けることが必要です。その後、診療所開設許可の申請、開業届の提出などを行います。
医療承継による分院開業では、法人の資産や許認可をそのまま引き継ぐ形となるため、「登記事項変更完了届」や「役員変更届」を都道府県へ提出するのも忘れずに行いましょう。
クリニックの分院開業に必要な資金
クリニックの分院開業では、診療科目や立地条件、規模によって必要な資金が異なります。
参考例として、家賃、内装工事、設備、消耗品、広告、人件費などを含めておよそ5,000万円〜1億2,000万円ほど必要です。
承継の場合、医療機器や設備費用が抑えられる一方で、譲渡価格、仲介手数料、設備更新費用がプラスされます。そのため、融資や補助金を利用して、計画的に開業しましょう。
関連記事:クリニックの開業スケジュールと必要な準備を徹底解説
開業資金の調達方法
開業資金の調達では、自己資金と融資を活用しましょう。融資の審査によっては自己資金がいくらあるかが項目に含まれるため、自己資金は総額の10〜20%ほど準備しておくと安心です。新規開業実態調査によると、創業資金調達総額に占める自己資金の割合は24%となっています。
融資の際は、承継する医院の実績、事業計画書、自己資金の準備が大切です。承継する医院の経営状況が悪い場合、融資審査が通りにくくなる可能性があります。また、過去のローンやクレジットカードの滞納がある場合、審査に影響するため注意です。
医院承継は、新規開業に比べて初期費用を抑えられますが、譲渡価格や運転資金の確保が必要です。そのため、金融機関の融資や補助金の活用、リース契約など多くの手段の中から最適な方法を選びましょう。事業計画書の作成や譲渡条件の確認を徹底し、専門家のサポートを受けるのもおすすめです。
出典:2023年度新規開業実態調査|日本政策金融公庫総合研究所
開業時に利用できる融資
開業時に利用できる融資は、主に5つあります。
- 日本政策金融公庫
- 信用保証協会の制度融資
- 福祉医療機構
- リース会社
- 補助金や助成金
- 銀行の診療所向けローン
- 医師会の開業支援ローン
詳しく解説します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府系金融機関であり、創業支援を目的とした低金利の融資を行っています。設備投資や運転資金として利用でき、全体として、最大7,200万円まで融資が受けられます。
設備資金 | 運転資金 | |
上限金額 | 7,200万円 | 7,200万円のうちの4,800万円 |
返済期間 | 20年以内 | 10年以内 |
具体的な審査基準は公開されていませんが、自己資金の割合や承継する医院の経営実績、収益性が融資審査の重要なポイントです。仮に承継する医院の経営状況が良くない場合、利益が上がらない時の対策をしっかり考えておきましょう。
関連記事:医院・クリニック承継開業の資金調達【コンサルタント解説】
信用保証協会の制度融資
信用保証協会の制度融資は、中小企業や個人事業主が金融機関から融資を受ける際に、信用保証協会が保証人になり、融資を受けやすくする仕組みです。事業承継を支援する制度として「経営承継借換関連保証」や「事業承継特別保証制度」などがあります。
経営承継借換関連保証 | 事業承継特別保証制度 | |
特徴 | 金融機関からの借入れによる債務を経営者保証が不要とする融資に借り換えるための保証制度。 | 経営者保証が不要であり、また経営者保証ありの既存の借入金についても借換により経営者保証を不要にすることが可能な保証制度。 |
保証限度額 | 2億8,000万円 | |
保証料 | 0.45〜1.90% | |
保証期間 | 一括返済の場合:1年以内分割返済の場合:10年以内 |
※保証限度額=融資額ではありません。企業の借入に対して保証を行う際の保証の上限金額を指します。
信用力が不足していても、保証が付くため金融機関から融資を受けやすくなるメリットがあります。また、低金利での融資が受けられますが、保証の種類によって異なる保証料がかかるため注意が必要です。
福祉医療機構
福祉医療機構は、医療や福祉分野に特化した融資を行う公的機関です。クリニック開業時に必要な建築資金や設備資金、運転資金などを低金利で融資が受けられます。融資限度額は以下の通りです。
内容 | |
融資額(新築資金) | 3億円償却期間は20年以内 |
融資額(運転資金) | 4,000万円償却期間は5年以内 |
※融資額(新築資金)は、病床不足地域での新設、または診療所不足地域での新設の場合です。
福祉医療機構の審査では、審査のポイントとして以下の8つを挙げています。
- 資金計画の確実性
- 法人経営の健全性
- 運営状況の健全性
- 債務保全の実効性
- 行政庁の関与度合い
- 事業規模の適正性
- 事業実施の確実性
- 事業の継続性
各ポイントを抑えて融資審査に臨みましょう。
リース会社
リースを利用することで、購入時の多額の資金負担を軽減できます。そのため、初期費用を削減、最新機器を導入しやすい、銀行の融資枠を確保できるなどのメリットがあります。ただし、金利が高いため、総支払額が高くなる傾向です。
リース契約は途中解約が難しく、契約期間中はリース料の支払いが継続するため注意です。残りのリース料を一括で支払うか、やむを得ない事情(廃業、死亡、長期入院)がある場合に限り途中解約が認められる場合があります。
医療機器に限らず、建物、往診車もリースの対象となるリース会社もあるため、賢く活用しましょう。
補助金や助成金
補助金や助成金は、国や地方自治体が提供する資金援助制度で、創業者や中小企業の事業活動を支援する目的で設けられています。返済不要なのが大きな特徴です。創業者向け補助金のうち「事業承継・引継ぎ補助金」と「創業補助金」について解説します。
事業承継・引継ぎ補助金 | 創業助成金 | |
特徴 | 事業承継や新規事業立ち上げを支援する補助金です。補助金は事業期間内に発生した経費のみが対象になります。 | 新たに事業を立ち上げる際に必要な経費の一部を国や地方自治体が補助する制度です。 |
補助額 | 最大800万円補助率は1/2または2/3 | 最大400万円補助率は2/3以内(東京都の場合) |
補助対象 | 設備費M&A仲介手数料広告宣伝費人件費広報費外注費など | 賃借料設備費人件費広報費委託費など 消耗品費や水道光熱費、通信費は対象外 |
医院承継の場合、事業承継・引継ぎ補助金の対象になり、創業助成金は基本的には対象外です。例外的に、事業承継を伴う新規法人設立や、承継後に新たな事業を開始する場合に対象となる可能性があります。また、補助対象や補助額が異なるため、自身の事業状況や計画に応じて適切な補助金を選択することが重要です。
出典:
事業承継の支援策|中小企業庁
融資・助成制度|東京都創業NET
銀行の診療所向けローン
銀行では、診療所や開業医向けに向けてローンを展開しています。上限融資額、返済期間、金利などは銀行により異なるため、各銀行に問い合わせましょう。
例えば、三井住友銀行の開業医ローンである「ドクターズパートナー」は、最大5,000万円まで融資が可能で借入期間は最長10年です。開業時の設備・運転資金に使えますが、土地・建物購入・建築などは対象外となっています。また、歯科や美容外科などの自由診療では対象外のためご注意ください。
医院承継時に活用すると、開業初期の負担を軽減し経営に専念しやすくなります。
医師会の開業支援ローン
医師会の開業支援ローンは、クリニックや診療所を開業する医師を対象に、医師会や医師信用組合が提供する特化型の融資制度です。
低金利で幅広い資金用途に利用できる点が特徴です。中には条件を満たせば、無担保・保証人不要で融資を受けられる場合もあります。ローンの内容は医師会によって異なるため、承継予定地の医師会に確認しましょう。
融資を申し込む際の注意点
融資を申請する際は、以下の4点に気を付けましょう。
- 承継する医院の経営状況を確認する
- 詳細な事業計画書を作成する
- 複数の融資方法を検討する
- 融資額と返済計画を正確に見積もる
それぞれ解説します。
承継する医院の経営状況を確認する
承継する医院の経営状況が融資審査に大きく影響します。特に、収益性や負債状況を正確に把握するのが重要です。経営状況が悪い場合、融資条件が厳しくなってしまいます。以下の4項目についてあらかじめ確認しておきましょう。
- 過去数年分の財務諸表(売上、利益、負債の状況)
- 診療科目や患者層の特性
- 設備や建物の老朽化状況(修繕費用が必要かどうか)
- 既存スタッフの雇用状況や給与体系
上記の経営状況を考慮して、承継後の経営安定性、具体的な返済計画を盛り込んだ事業計画書を作成することが重要です。
詳細な事業計画書を作成する
医院承継を成功させるためには、融資を申し込む際の注意点を理解し、金融機関に提出する詳細な事業計画書を作成することが重要です。作成のポイントは以下の通りです。
内容 | |
現状分析 | 現在の収支、資産、負債の状況を明確に記載します。特に、承継時に引き継ぐ負債がある場合は、その返済計画も含める必要があります。 |
市場分析 | ターゲット層や市場規模、成長性を示します。また、自社の強みや独自性など、競合他社との差別化ポイントを説明します。 |
診療内容と運営計画 | 承継後の医院のビジョンや経営方針を明確に記載します。提供する医療サービスの内容(診療科目、診療時間、ターゲット層など)を具体的に説明します。 |
資金計画 | 医療機器の更新、施設の改装など必要な資金の内訳を詳細に記載します。融資額の返済計画も含め、現実的で説得力のある数字を提示します。 |
収支予測 | 過去の経営実績を基に、承継後の収益予測を立てます。売上高、経費、利益率などを具体的な数値で示し、収益性を証明します。 |
リスク管理 | 承継後に予想されるリスク(患者数の減少、競合医院の存在など)と、それに対する具体的な対策を記載します。例えば、診療日数の増加や新たなサービスの導入など、収益を補う施策を盛り込みます。 |
詳細な事業計画書を作成すると、金融機関に対して事業の将来性や信頼性をアピールできます。事業計画書の作成が難しい場合は、医療経営に詳しい専門家やコンサルタントのサポートを受けるのも検討しましょう。
複数の融資方法を検討する
万が一、1つの金融機関で融資が通らなかった場合に備え、複数の金融機関に並行して申し込むのが大切です。融資額、金利、返済期間などを比較して最適な方法をピックアップしましょう。
日本政策金融公庫は低金利での融資が可能なため、初期費用を抑えたい場合に有効です。承継開業の場合は、過去の医院の実績を基に審査が行われるため、新規開業よりも融資が通りやすい傾向があります。
また、医療機器の更新や設備投資が必要な場合、リース契約や設備ローンを活用すると、初期費用を抑えられます。
融資額と返済計画を正確に見積もる
医院承継において融資を依頼する際には、融資額と返済計画を正確に見積もるのが重要です。譲渡価格や設備費用、運転資金がどれくらい必要かを見極めます。
譲渡価格は「営業利益1年分+建物や医療機器の簿価(時価)」となり、約1,000~4,000万円程度です。設備費用は、医療機器や内装がどれだけ老朽化しているかによって異なります。また、運転資金は、数か月分あるとよいでしょう。
返済計画を立てる際は、収益予測、返済期間と毎月の負担額を考慮しましょう。そこには、承継前の医院の経営状況もプラスして考え、収益を予測します。
よくある質問
以下で融資についてよくある質問に答えていきます。
- 融資の準備はいつから始めたらいい?
- 融資を受けるために重要な要素は?
詳しく解説します。
融資の準備はいつから始めたらいい?
医院承継の計画を立て始めた段階とできるだけ早い段階で始めましょう。ただし、融資制度によって必要な期間は異なるため注意が必要です。金融機関との交渉は、事業計画書が完成した後に行いますが、事前に金融機関の選定や条件の確認を進めておくとスムーズです。
融資を受けるために重要な要素は?
融資制度により異なりますが、詳細な事業計画書、自己資金の準備、経営状況の確認などが必要です。新規開業実態調査では、創業資金調達総額に占める自己資金の割合は24%であり、自己資金もそれなりに必要になります。
分院を開業するための資金調達方法を知り開業を成功させましょう
クリニックの分院展開には、「新規開業」と「承継開業」の2つの方法があります。それぞれに特徴や利点、注意点が存在します。
新規開業はゼロから計画を立て、立地や診療内容を自由に設定できる点が魅力です。しかし、多額の初期投資や集患の難しさが課題となります。一方、承継開業では、既存の患者層やスタッフ、医療設備を引き継げるため、初期費用を抑えながらスムーズな運営が期待できます。
特に分院展開においては、承継開業のメリットが大きいです。既存施設を活用すると、資金負担を軽減できるだけでなく、経営リスクの分散も可能です。さらに、専門家の助言を得ながら計画を進めると、失敗のリスクを最小限に抑えられます。
分院開業を成功させるには、承継開業を検討することが賢明といえるでしょう。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。プレジデント社より著書『”STORY”で学ぶ、М&A「医業承継」』を上梓。