クリニックの開業資金はいくら必要?診療科目別でわかる費用や調達方法を紹介
クリニック開業を目指す際は、必要な費用やその内訳、足りない場合の対処法などに関する悩みが多いかと思います。
本記事ではクリニックに必要な開業資金の目安から診療科目別の詳細な費用まで一挙にまとめました。また、初期費用を抑える方法や開業後に失敗しないためのポイントも紹介しています。
本記事を読めば開業に必要な費用を把握できるだけでなく、あなたのクリニック開業に最適な方法も見つかるでしょう。
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クリニックの開業資金はいくら必要?
クリニックを新規開業する際に必要な資金は、5,000万〜1億円程度と言われますが、必要な開業資金は診療科目や開業するエリア、クリニックの規模、導入する医療機器などで大きく変わります。
たとえばMRIを導入する場合は8,000万〜2億円程度の費用がかかるため、クリニックの開業資金が億単位で必要になる可能性もあります。
高額な医療機器が必要なく、小規模のクリニックを開業する場合は5,000万円程度で収まることもあるでしょう。
クリニックの開業に必要な資金は、診療する内容によって大きく変動します。コストを抑えてクリニックを開業したい方は、医院継承も検討してみましょう。
クリニックの開業に必要な費用の内訳
クリニックの開業に関して必要な費用は、大きく4つに分類されます。
- 土地や建物、テナント費用
- 内装の工事費用
- 医療機器や設備の導入費用
- クリニック開業後の運転資金
クリニックを開業する際は、土地や建物を購入するか、医療モールなどのテナントに入居する必要があります。
開業する場所が決まったら、次に内装工事が必要です。スケルトンや居抜きなど、物件の状態によっても内装工事の費用は大きく変動します。
また、元々の内装がクリニック向けではなかった場合には、電気や水道などの工事も必要になるため、さらに費用が高くなります。
つぎに、医療機器や設備の導入費用が必要です。特に2024年10月に改定された診療報酬点数の引き上げ条件を満たすには、電子カルテの導入が欠かせません。
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内視鏡や心電図計など、診療科目によって必要な医療機器も異なるため、設備投資に大きく差が出るポイントと言えます。
最後は、クリニック開業後の運転資金が必要です。
保険診療を行った場合は、報酬が振り込まれるまで約2か月かかるため、一般的に開業後約2か月間は、自由診療以外の収益がない状況が続きます。
その間も、スタッフの給与の支払いや診療に必要な医療用品や設備の維持費などを支払わなければなりません。そのため、クリニックの経営が安定するまでの運転資金が必要です。
自己資金の目安は開業資金の1〜2割
5,000万〜1億円もの開業資金をすべて自己資金で補うケースはほとんどなく、一般的には金融機関などから融資を受けて開業をします。
自己資金ゼロで開業を目指すのも可能ですが、審査は通りにくいでしょう。銀行の融資を受けるのであれば、融資金額の10%〜20%程度の自己資金は持っておいたほうが良いとされています。
たとえば5,000万円の融資を受けるのであれば、自己資金として最低500万円は用意しておくと安心です。
【診療科目別で見る】クリニック開業に必要な資金の目安
診療科目別の、クリニックの開業に必要な資金の目安は、以下のとおりです。
診療科目 | 開業資金の目安 |
内科 | 5,000万〜8,000万円 |
眼科 | 5,000万〜7,500万円 |
小児科 | 4,000万〜5,000万円 |
皮膚科 | 2,000万〜6,000万円 |
整形外科 | 5,000万〜9,000万円 |
泌尿器科 | 3,000万〜5,000万円 |
産婦人科 | 5,000万〜6,000万円 |
耳鼻咽頭科 | 4,000万〜6,000万円 |
脳神経内科・外科 | 6,000万〜2億5,000万円 |
精神科・心療内科 | 1,500万〜3,000万円 |
上記の表を見てわかるように、診療科目によって必要な開業資金は大きく違います。
それぞれ詳しく解説していきましょう。
内科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
5,000万〜8,000万円 | 500万〜1,600万円 |
内科は一般内科のほかに消化器内科や循環器内科など、専門とする分野によって必要な設備も異なるため、目安の費用も5,000万〜8,000万円と幅が広くなります。
特に消化器内科や呼吸器内科は回復室やトイレの複数設置、内視鏡検査のための機器の導入などが必要なため、一般内科よりも多くの開業資金が必要です。
眼科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
5,000万〜7,500万円 | 500万〜1,500万円 |
眼科は対応する診療の範囲によって、必要な開業資金が大きく変わります。
特に白内障の手術やレーザー治療に対応する場合は、設備投資の費用が高額になります。また、若い世代をターゲットにする場合は、コンタクトレンズ用の診断機器の導入も必要でしょう。
眼科の場合は患者のニーズによって設備費用が変動するといえます。
小児科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
4,000万〜5,000万円 | 400万〜1,000万円 |
小児科は高額な医療機器を導入しなくても診療できるため、他の科目に比べると開業資金は抑えられます。
キッズルームや駐車場の確保が望ましく、戸建て・テナントを問わず他の診療科目よりも広い面積が必要といえます。
もし、スペースの都合上キッズルームを確保できない場合は、インターネット順番待ち予約システムの導入や、待ち時間の短縮のための工夫が必要です。
レイアウトによって必要な資金も変動するため、開業する前に決めておくとよいでしょう。
皮膚科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
2,000万〜6,000万円 | 200万〜1,200万円 |
皮膚科の開業資金の幅が大きいのは、保険診療と自由診療で必要な医療機器が異なるためです。
保険診療のみであれば、そこまで高額な医療機器は必要ありませんが、美容皮膚科などの自由診療も行う場合は、高額なレーザー機器の導入が必要なため、開業資金も高くなります。
整形外科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
5,000万〜9,000万円 | 500万〜1,800万円 |
整形外科は他のクリニックに比べて必要な床面積が大きく、検査用の機器やリハビリ用の設備なども必要なため、多くの開業資金が必要です。
また、理学療法士など専門知識を持ったスタッフの雇用も必要なため、人件費も他の診療科目に比べると高い傾向にあります。
泌尿器科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
3,000万〜5,000万円 | 300万〜1,000万円 |
泌尿器科の開業資金はクリニックのなかでも比較的低く、3,000万〜5,000万円が目安です。
設備としては、主に結石破砕装置や尿分析装置などの医療機器が必要になります。他の診療科目に比べると泌尿器科医は少なく、競合が少ない傾向にあるのが特徴です。
産婦人科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
5,000万〜1億円 | 500万〜2,000万円 |
産婦人科の開業資金は、分娩の有無によって大きく異なります。
分娩なしの場合は5,000万〜6,000万円が目安で、分娩ありの場合は8,000万〜1億円ほどの開業資金が必要です。
また、不妊治療に関する医療機器も非常に高額なため、対応する診療範囲によって必要な開業資金に差が出ます。
耳鼻咽喉科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
4,000万〜6,000万円 | 400万〜1,200万円 |
耳鼻咽喉科は聴力検査のための防音室の設置が必要なため、ほかの診療科目と比べると建物の工事費が高くなる科目と言えます。
手術の対応の有無によっても必要な設備が異なりますが、患者に説明しやすいように、カメラやモニターなどを設置しているクリニックが多いです。
脳神経内科・外科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
6,000万〜2億5,000万円 | 600万〜5,000万円 |
脳神経内科・外科は高額な医療機器の導入が必要なこともあり、他の科目に比べて必要な開業資金も高い傾向にあります。
設備投資の費用で大きく差が出るのは、CTやMRIなどの画像診断装置の有無です。MRIを導入するだけでも、億単位の費用が必要になることもあります。
一方、周辺の病院と連携することで、画像診断装置を持たなくとも開業できるケースもあります。
精神科・心療内科の開業資金
開業資金の目安 | 自己資金の目安 |
1,500万〜3,000万円 | 150万〜600万円 |
精神科・心療内科は、クリニックのなかでも必要な開業資金が少ないのが特徴です。
特に高額な医療機器も必要なく、広い診療スペースも不要なため、最低限の設備投資で開業できます。
クリニックの開業資金を調達する方法
クリニックの開業資金を調達する方法は、主に以下の3つがあります。
- 補助金の活用
- 金融機関からの融資
- リース会社からの借り入れ
一般的に融資は金融機関から受けるものですが、リース会社からも借り入れ可能です。
また、クリニックの開業に関して補助金の制度もあります。開業資金の負担を減らし、安定した経営をスタートするためにも、補助金の制度を活用しましょう。
補助金の活用
クリニックの開業に関して、国や自治体が実施している補助金制度を活用できるか、チェックしましょう。代表的な補助金の制度は、以下のとおりです。
制度の名称 | 概要 | 問い合わせ先 |
IT導入補助金 | ITツールの導入する場合の費用の一部を補助する制度 | IT導入補助金2024HP |
事業承継・引継ぎ補助金 | 医院継承で開業した場合に受けられる補助金制度 | 事業承継・引継ぎ補助金HP |
医療施設等施設設備費補助金 | 主にへき地医療の確保や研修環境の充実を目的とした施設整備に対する補助金 | 管轄の都道府県のHP |
ものづくり補助金 | クリニックに設置する医療機器や器具などの設備費用に関する補助金制度 | ものづくり補助金総合サイト |
上記の補助金制度は、医療法人は利用できないなど、条件はさまざまです。詳しい条件については、それぞれの問い合わせ先をチェックしましょう。
金融機関からの融資
クリニックの開業資金は、金融機関から融資を受けて準備することがほとんどです。
開業医が利用できる融資として、主に以下の3つが挙げられます。
医療向けの融資を実施している機関 | 特徴 |
日本政策金融公庫 | 政策金融機関のため、比較的低金利で融資を受けられる |
銀行や信用金庫 | 医療機関の開業向けの融資プランを提供しているところもある |
独立行政法人福祉医療機構 | 医療貸付制度があり、償還期間は最長30年以内と長期間 |
医師会 | 医師会に加入する必要があるが、多額の融資をしてもらえる |
地方自治会 | 「制度融資」という方法で信用保証のお金を支払うことで、低金利で借りられる |
審査のハードルや融資条件は各機関によって異なるため、それぞれのホームページなどをチェックしましょう。
また、金融機関で融資の審査を受ける際には、事業計画書の内容が非常に重要です。
審査に通るための事業計画書の作り方については「医院・クリニック承継開業の資金調達」を参考にしてください。
リース会社から借り入れる
医療機器などのリース会社から、開業資金の借り入れも可能です。
リース会社のなかには、開業支援として「貸付プラン」を提供しているところもあり、医療機器のリース契約と同時に、ローン契約を行う流れです。リース契約が条件となっていることが多いですが、他の融資に比べると審査は通りやすい傾向にあります。
ただし金利は高めなことが多いため、他の融資方法を優先し、それでも必要な場合に利用するのがおすすめです。
初期費用を抑えてクリニックを開業するおすすめの方法
クリニックの安定した経営を目指すためにも、開業時の初期費用は可能な限り抑えておきたいものです。初期費用を抑えながらクリニックを開業する方法を3つ紹介します。
- 医院継承で開業する
- 居抜き物件で開業をする
- 医療モールで開業をする
それぞれの特徴を解説しますので、診療科目やクリニックのビジョンなどを考慮しながら、最適な開業方法を見つけてください。
医院継承(医業承継)で開業する
医院継承でクリニックを開業するメリットは、設備や環境が整っている状態で経営をスタートできるのはもちろんのこと、最初からある程度の収益が見込める点も大きいと言えます。
新規開業をした場合、患者数を予測しにくいだけでなく、地域住民に認知してもらうために広告を出稿する必要性もあるでしょう。
医院継承は、クリニックの経営に関する多くの不安要素を解消してくれる開業方法です。また、医院継承は収益性が見込めるため、銀行などの融資が通りやすい点もポイントです。
居抜き物件で開業をする
居抜き物件とは、内装や設備など、以前その物件で営業していた状態が残っている物件のことです。
クリニック向けの居抜き物件の場合、同じ診療科目であれば内装や設備をそのままに開業できるため、設備投資の費用を抑えられる点がメリットです。
ただし、居抜き物件の期間が長かった場合には、経年劣化によって設備が故障していたり新たに内装工事が必要だったりと、結局費用が必要になることもあります。
そのため、あらかじめ内装や設備の状態を確認しておくことが大切です。
医療モールで開業をする
医療モールとは、複数のクリニックや調剤薬局が1つの建物に集まっている施設のことです。医療モールの形態は大きく3つに分類されます。
形態 | 特徴 |
医療ビレッジ | 同じ敷地内に戸建てタイプのクリニックが集まっている形態 |
医療モール | 商業施設内にクリニックが集まっている形態 |
医療ビル | ビル内すべてがクリニックや調剤薬局の形態 |
医療モールは商業施設内にあり、多くの地域住民が利用しているため、開業時に高い認知度を見込める点がメリットです。トイレや駐車場などの施設は、商業施設側で用意されていることが多く、初期投資も抑えられます。
一方で、診療時間を医療モールの規定に合わせる必要があったり、テナント料や固定費が高かったりする点はデメリットと言えるでしょう。
クリニック開業で後悔や失敗をするケース
念願のクリニックを開業して喜んでいた矢先、さまざまな問題が発生して後悔される開業医の方は多くいらっしゃいます。
ここでは「開業前に対処しておけばよかった…」と後悔される、よくある事例を3つ紹介します。
同じ事態を繰り返さないために、開業前に対処しておきましょう。
スタッフの採用が大変
スタッフの採用は、院長を中心にクリニックの理念に合うスタッフ像を考え、求人内容を具体的に設定することが大切です。
採用活動を丁寧に行なって良いスタッフを揃えたいと思うことは当然ですが、実際は他にもやるべきことが多く、採用だけに注力することは難しいでしょう。
開業に間に合わせるためにギリギリのスケジュールで選考を進めた場合、採用のミスマッチが発生しやすいため注意が必要です。ミスマッチによって早期離職が発生すると、開業直後のクリニックにとっては大きなダメージとなります。
医院継承であればスタッフの雇用を継続でき、採用や採用後の教育プロセスを大幅に省略できます。場合によっては前院長に経営やマネジメントを相談できることもあるため、その点においては医院継承の方が有利といえるでしょう。
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スタッフ教育が間に合わない
先述したスタッフの採用が完了したら、クリニックの理念に合わせて教育をしなければなりません。しかし、開業までに間に合わず、患者とのトラブルが多発してしまうことは、よくあるケースです。
新規開業時は、特に受付スタッフの電話や受付対応に注意しなければなりません。患者と初めて接する立場にあるため、クリニックの印象を左右する大きな要素となります。
また、スタッフ同士のチームワークが構築されていなかった場合には、医療ミスの原因になったりスタッフ同士の関係性が悪化したりするでしょう。
開業までにスタッフ教育を完了するための、計画的な教育スケジュールも欠かせません。
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初期費用が高額になり経営が圧迫
診療科目によっては、高額な医療機器の導入が必要になるなど、初期費用は開業資金に大きな影響を及ぼします。
運転資金が想定よりも早く切り崩されている現実に悩む開業医の方は非常に多くいらっしゃいます。
開業直後から疲弊してしまわないためにも、必要な費用は多めに見積もり、開業後の運転資金も余裕を持って用意することが大切です。
開業エリアの競争が激しく患者が集まらない
アクセスが良く、内装や設備も希望通りのクリニックを開業したにも関わらず、集患に失敗するケースがあります。
その原因の多くが、同じ地域にある他のクリニックの状況を把握せずに開業してしまうことです。近くの同じ診療科目のクリニックがあれば、先行者利益で患者を獲得しにくい傾向があります。
また、競合となるクリニックがなかった場合でも、診療科目と地域住民のニーズが合っていなければ、患者は集まりにくいでしょう。
クリニックの開業は費用面の問題以上に、マーケティング戦略が非常に重要です。
医院継承での開業なら、すでに患者がついていたり開業費用を抑えられたりと、先述の失敗事例のリスクを抑えられます。
また、一人で開業を目指すよりも、専門家のサポートを受けながら開業するほうが安心です。医院継承を専門としている私たちに、お気軽にご相談ください。
クリニックの開業資金を抑えるためには医院継承(医業承継)がおすすめ
クリニックの開業資金は、約5,000万〜1億円程度は必要といわれています。
診療科目によっては何千万もの高額な医療機器の導入が必要になり、開業資金に直接影響するでしょう。
また、新規開業後は安定した収益を見込めるわけではないので、余裕を持った運転資金も用意しておかなければなりません。融資で開業資金を集めても、利息の支払いなどで経営が圧迫されることも考えられます。
クリニック開業の成功の秘訣は、初期費用をできるだけ抑えることです。「医院継承」であれば、設備投資の費用を抑えられるだけでなく、すでに患者が定着しているため開業後のリスクも抑えられます。
また、開業資金の融資の申請から開業後の経営方法まで、いつでも専門家に相談可能です。クリニックの開業には不安や心配が尽きないかと思います。私たちにお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。