今求められる「総合診療医」の地域を支える役割

医療経営・診療所経営 2023/04/07

総合診療医(総合医)は、これからの地域医療にも都市部の医療にも欠かせない重要な存在です。総合診療医が十分に活躍することで地域の医療システムが十分に機能し、患者の利便性確保や医療財政の健全化にもつながります。

この記事では、総合診療医の定義や役割から、必要な資質、また総合診療医へキャリアチェンジするにはどうすればいいのかなどについてご紹介します。

総合医・総合診療医とは

「総合診療医」とは、日常遭遇する疾患や障害の幅広い問題に対し、領域、年齢、性別を問わず、全人的な医療を提供する医師のことです。「総合医」とも呼ばれます。

診療科あるいは、それよりもさらに狭い専門領域別の専門医が「深さ」を特徴とするのに対し、総合診療医は「扱う対象の広さと多様性」が特徴となります。総合診療医は、診断学と最新医学の知見に基づく細やかな問診、診察により、的確に病状を判断し、必要に応じて、患者に最適な専門医を紹介します。

総合診断医は、患者を専門医へとつなぐ役割だけではなく、自ら継続的な医療に携わることもあります。そこでの医療とは、治療をはじめ、疾病の予防や健康管理、介護、あるいは看取りなど、多種多様です。患者の住環境や家族構成、地域の実情などを踏まえ、柔軟に医療をコーディネートすることも、総合診療医に求められる役割です。

総合診療医が働く場は、地域の診療所(開業医)のほか、市中病院や大学病院で総合診療科を設けるところが多くなっているので、そこでも働くことができます。また、救命救急センターに総合診療科が設けられていることもあります。それらの場で、総合診療医は、地域医療の主体的な担い手や「診たてのプロ」として活躍します。

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総合医・総合診療医が求められる背景

総合診療医が必要とされる背景には、高齢化社会の進展があります。高齢者は、複数の慢性疾患を抱える患者が少なくありません。また、その疾患の質においても、糖尿病や認知症など慢性疾患が増えます。そうした多疾患患者や慢性疾患患者を日常的に診るには、特定領域に特化した専門医よりも、全人格的なケアに対応できる総合診療医のほうが適切です。

また、高齢者に対しては、一般的な医療行為だけでなく、継続的な予防や健康管理、介護や看取りといった地域での生活に根ざした福祉的対応が複合的に必要となります。そうした広範囲の医療、福祉に対応できるのは、幅広い医療知見とコーディネート力に長けた総合診療医です。

加えて、医師偏在が解消されていない日本には、医師や特定の診療科の数が極端に少ない地域もあります。そのような地域には、子どもから高齢者まで、あらゆる患者を1人で診られる総合診療医が必要です。

一方、都市部では、過度な専門分化による診療科のはしごや過剰な検査、処方などで患者が不便や不満を感じているという事情もあります。都市部の医療を使いやすくするには、診たてのプロである総合診療医が、患者と領域別の専門医を媒介することが望ましいといえるでしょう。

総合診療医は、問診や身体診察で診断を絞り込み、必要最低限の検査で診断を確定することができます。そこから過剰な検査が削減されることになり、増大する一方の総医療費の削減にも資することが期待されています。

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総合医・総合診療医の役割や必要な資質

総合診療医に求められる役割は、地域医療のオールラウンダーです。年齢・性別を問わず、あらゆる患者のあらゆる疾患、障害に対して、適切な初期対応と継続的な医療を提供します。

すでに触れましたが、総合診療医は診断や治療にとどまらず、生活習慣病の予防や介護、看取りなど、地域の生活や老い、死に向き合った広範囲の活動を展開します。また離島や山間部など、医師が不足したへき地では、地域医療を一手に引き受けることにもなります。

さらに診断のプロとして、過度な専門分化で複雑化した医療システムを効率化することも、総合診療医に期待される役割です。問診と身体診察で領域横断的な診断をすることで、診療科のたらい回しや過剰な検査をなくし、患者の便宜を図ります。

このような役割を担う総合診療医には、専門医とは異なる資質も求められます。その点について、厚生労働省の資料「総合診療専門医に関する委員会のまとめ」に、網羅的にまとめられています。下記の通り、総合診療医には幅広い知識や技術、能力が必要です。

(4)総合診療専門医が持つべき医学的な知識および技術。
①健康増進と疾病予防
②幼少児・思春期のケア
③高齢者のケア
④終末期のケア
⑤女性の健康問題
⑥男性の健康問題
⑦リハビリテーション
⑧メンタルヘルス
⑨救急医療(蘇生を含め、初期救急への対応が出来る)
⑩臓器別の問題(臓器別各種の疾患に対する初期対応、専門医への紹介の必要性の判断、必要に応じた継続医療が出来る)
心血管系、呼吸器系、消化器系、代謝内分泌系、神経系、腎・泌尿器系、リウマチ、筋・骨格系、皮膚、耳鼻咽喉、眼、生殖器系、など。

(5)総合診療専門医に求められる能力。
1)患者中心・家族志向の医療を提供する能力
2)包括的で継続的、かつ効率的な医療を提供する能力
3)地域・コミュニティをケアする能力(地域内での医療者間との連携・コミュニケーション能力、24時間対応の医療チームの構築、ドクターヘリなどによる緊急搬送、等を含む)
4)身体的ケアと共に精神的ケアが出来る能力

この他、全ての医師が備えるべき能力(資質)として以下の事項が挙げられる。
1)医師としての高い倫理観・使命感・責任感(プロフェッショナリズム)を有する。常に、倫理的な診療を心がけ、職能集団としての規範を守り、自ら設定した高い行動基準に基づいて医師としての責務を果たす。
2)生涯にわたって医師としての能力の向上に努める。
3)医療安全への配慮。
4)チーム医療の実践、など。
※引用:厚生労働省「総合診療専門医に関する委員会のまとめ」

総合医・総合診療医を目指すには

領域別の専門医から総合診療医へのキャリアチェンジを目指す場合、総合診療医としての経験が積める総合診療科のある病院に転職するという方法が一般的です。そういった場で十分な経験を積めば、自ら総合診療科の診療所等を開業する選択もあります。

ちなみに2018年4月から始まった新専門医制度では、「総合診療専門医」が19番目の新しい専門医に加えられました。そのため、これから大学を出て医師免許を取得する場合は、「総合診療専門医」としてキャリアをスタートさせることも可能です。

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若手医師の場合

若手医師の場合は、総合診療医として働きながら知識や技能を向上させられる、総合診療科のある病院や救急救命センターなどに転職することがおすすめです。

中には、専門のプログラムを設けて、若手医師の総合診療医へのキャリアチェンジを積極的に支援している医療機関も存在します。働きながら総合診療医養成のプログラムに参加し、基礎力を磨いたり、開業に向けた準備をしたりすることが可能です。

また総合診療医として病院等で実務経験を積みつつ、後述する各種の研修に参加し、さらなる学びを得るのもよいでしょう。研修を受ければ認定証や資格が得られることから、開業や再転職の際にも役立ちます。

ベテラン医師の場合

すでに総合診療医に必要な資質を備えたベテラン医師の場合は、自らの診療所を開業する選択肢もあります。

総合診療医を目指す現役医師向けの研修としては、例えば、全日本病院協会が主催する「全日病総合医育成プログラム」があります。総合診療医として自院で診療を実践しつつ、以下3つのコースで知識や技能を向上させられます。

▼全日病総合医研修プログラム

  • 診療実践コース(22回):総合医が日常遭遇しやすい疾患・病態に対する適切な初期対応やマネジメントのスキルを習得する。
  • ノンテクニカルスキルコース(10回):リーダーシップやチームビルディング、コンフリクトマネジメント、問題解決、人材育成など、医学以外の組織人としての技術を学ぶ。
  • 医療運営コース(2回):日本の医療・介護制度や医療の現状、将来像、地域社会における自施設の役割などを学び、考え、医療システムを俯瞰できるようになる。

※参考:公益社団法人全日本病院協会「全日病総合医育成プログラム」

まとめ

社会の高齢化や医師偏在の状況は、当面の間続きます。そのような状況下で、総合診療医に対する需要は今後も高まるでしょう。

また、高度に専門化、細分化が進んだ現代医療において、患者を1人の人間としてとらえ、全人格的なケアを施すことを目指す総合診療医の仕事には、専門医とはまた違ったやりがいや充実感があります。

もちろん、専門医も当然必要であり、どちらが優れているというものではありませんが、医師としての医療への関わりかたの1つの選択肢として、総合診療医という道があることは、意識していてもよいのではないでしょうか。

総合診療医を目指し開業を考えている方は、0から構築していく「新規開業」ではなく、既存のクリニックや医院を引き継ぐ「承継開業」も検討してみてください。

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