定年を数年後に控えた教授が大学を辞め、M&Aによりクリニックを承継開業した事例

定年を数年後に控えた教授が大学を辞め、M&Aによりクリニックを承継開業した事例
【首都圏×内科】定年を控えた教授が大学を辞め、クリニックを承継開業した事例
エリア 首都圏
診療科目 内科、泌尿器科
運営組織 個人経営
譲渡理由 高齢化
運営年数 20年

勤務医として長く働いてきた医師が、定年が近づく50代後半でクリニックを承継開業するケースが増えています。

本事例で買い手となったI先生は、某医科大学の教授で大学附属病院にて医師としても勤務していましたが、定年を待たずに大学を退職。59歳でクリニックを承継し、開業医に転身しました。

承継開業の場合、一般的には高齢になるほど譲り受けのハードルは高くなります。しかし、今回はいくつかのポイントを押さえたことにより、希望にマッチしたクリニックの承継に成功しました。

【売り手側】ポテンシャルのある施設を活用し、地域医療を充実させてくれる買い手を希望のJ院長(76)

クリニックの譲渡を希望したのは、首都圏にある某県の郊外、人口40万人ほどのX市で内科のJYクリニックを運営していたJ院長でした。

J院長は、高齢により引退を考え始めましたが、身内にはクリニックを継ぐことができる医師がいませんでした。

地域の住民に頼られ、かかりつけ医として通院してくれる患者も多いことから、廃院は避けたいという思いでM&Aによる第三者承継を検討します。

JYクリニックは、市の中心部に近い好立地な商業ビルにあります。
その2階のワンフロアすべてを、JYクリニックが利用していました。
フロア面積は約150平米と、医師1人の単科クリニックで利用するにはかなり余裕のある広さです。

また、クリニック開設をしたのは20年前でしたが、ビルオーナーが頻繁にフロアのメンテナンスをしており、J院長自身もきれい好きであったことから、内装は新築に近い状態が保たれていました。

入居物件のポテンシャルを活かせる買い手を求める

J院長からは、一度私たちのWebサイトを通じてお問い合わせをいただいたものの、その後状況が一変し、M&A仲介に詳しい知人に一任されることになりました。

しかし、半年後に「いい買い手が見つからないので意見を聞かせてほしい」と改めてご相談があり、その後正式に仲介のご依頼をいただくことになりました。

当初依頼されていたJ先生の知人は、クリニックに関するM&Aの経験が少なく、J院長の希望と見合う買い手候補をなかなか探し出せなかったようです。

J院長は、地域に医療を残すことを主目的にM&Aを希望されており、金銭的な条件へのこだわりはあまり強くありませんでした。

ただ、150平米の大型フロアに内科のみではスペースが余るため、できれば他の診療科を加えて、提供医療の幅を拡げてくれる買い手が望ましいと考えていました。
周辺には内科と整形外科のクリニックが多く、その他の診療科は不足していたため、住民にも喜ばれると考えたのです。

【買い手側】定年にとらわれず医師として働き続けたい医大教授、U先生(59)

クリニックを承継したのは、関東圏のY医科大学で教授職を務め、Y大学付属病院でも泌尿器科の医師として勤めていた59歳のU先生です。

U先生は大学に勤める傍ら、自宅近くの在宅療養支援診療所の非常勤医師としても働き、内科の診療を行っていました。

U先生は、以前ご家族を病気で亡くした際に、地域のクリニックの診療体制に対して懸念を感じる点があったといいます。
一方で、勤務している大学病院は、高度な専門医療で患者を治療することが基本的な役割です。
そこで、地域の一般的な患者もできるだけ良質な医療が受けられるようにとの思いから、在宅診療所での非常勤の仕事を始めるようになりました。

なるべく長く医師として働き続けたい

U先生は、大学の定年(65歳)が近づく50代後半になり、これからのキャリアについて具体的に考え始めました。
65歳の定年でリタイアするのは早すぎるため、元気なうちはなるべく医師として働き、地域への医療貢献を続けたいと思いました。
そのためには、定年後に民間病院で非常勤医師として勤務する方法もありますが、せっかく働くなら、自らの提供したい医療を主体的に運営する方がやりがいがありそうだと考えたのです。

しかし、65歳の定年後にゼロからクリニックを開業することは負担が大きいと感じたため、、思い切って大学を早期退職し、クリニックを承継開業する決意を固めたのでした。

さらに、2024年4月から始まった「医師の働き方改革」で時間外労働に上限規制が設けられ、以前のように長時間働けなくなることも、U先生の決断を後押ししました。

そこで、Webサイトを通じて私たちにご相談いただき、1年ほど譲渡案件を探していました。
しかし、専門である泌尿器科での譲り受けと、比較的人口の多い都市部に限定して探索していたことから候補の母数が少なく、マッチングにはいたっていませんでした。

内科をメインにして、泌尿器科をプラスすることを提案

J院長のご希望を受け、私たちはすぐにU先生に連絡を取りました。

1つ目のポイントは、JYクリニックのエリアがU先生の希望エリアと近かったことです。

2つ目は、U先生の専門は泌尿器科でしたが、非常勤で内科診療の経験もあると伺っていたためです。
この経験を活かして、内科+泌尿器科という形でクリニックを運営できる可能性があると考えたのです。
懸念点としては、U先生のご希望が人口の多い都市部であったのに対し、Jクリニックの所在地は郊外であったことです。しかし、私たちが診療圏調査を行ったところ、泌尿器科に関しては、周辺に競合となるクリニックが少ないことがわかりました。
つまり、比較的広域からの集患が見込め、泌尿器科を標榜する上でのポテンシャルが非常に高いエリアと判明したのです。

集患数は医療機関への需要とその供給のバランスで決まるので、人口が多いエリアであっても、競合となる医療機関が多ければ集患がうまくいかない恐れもあります。

このような状況をご説明することで、U先生にも診療圏調査から明らかになった泌尿器科のポテンシャルをご理解いただくことができました。

また、売り手側であるJ院長の意向や複数の診療科を標榜するメリット・デメリットを含めてU先生にご提案したところ、すぐにご理解をいただき、ぜひ譲り受けたいという意向を持って、トップ面談を実施する段階に進めたのです。

成約までの流れと、譲渡スキーム

売り手のJ院長にとって、希望通り診療科を増やしてもらえることと、医大教授の経歴を持つU先生に承継できることは、不満のない条件でした。
結果として、面談から最終契約までに2か月もかからずに承継が実現しました。

なお今回の案件では、買い手候補として40代前半の内科医師であるZ先生もエントリーしており、U先生と並行して交渉に臨んでいました。

実は当初J院長は、長期的な将来性から、若いZ先生の方が承継者にふさわしいと考えている場面も見られました。
しかし、上記のような条件にマッチしたことに加えて、意思決定の速さによって、U先生との契約に至ったのでした。

U先生は、最初の面談で「J院長がよければ、すぐにでも契約して承継します」と、明確な意向を伝え、譲渡価格についても特に希望を出さず、J院長の提示価格を受け入れました。40代のZ先生も、面談において前向きな意向を表明したものの、譲り受け時期については「家族や現在の勤務先病院に相談してから決めさせてほしい」と、決定を一部留保する部分がありました。

J院長は、即断即決できるU先生の意思決定の速さも評価して、譲渡を決めたのでした。

譲渡スキームは、廃院・開院によるクリニック事業譲渡

今回、譲渡の対象となったのは個人開設の診療所であり、買い手も個人医師です。
そのため行政に確認した上で一度JYクリニックの廃院届けを提出し、その後、同じ場所でU先生が開設するクリニックとして新たに届出を提出するという、クリニック譲渡の一般的なスキームとなりました。

譲渡対価は、JYクリニックで保有するさまざまな資産に、営業権として1年分の医業利益を加え、約3,000万円です。
U先生は、比較的高齢でもあり、多額の個人資産を有していましたが、M&A資金は事業資金として銀行から全額の融資を受けました。
U先生の実績や個人資産状況から、融資は何の問題もなく実行されました。

承継後の状況

すでにJYクリニックの承継は完了し、内科・泌尿器科を標榜する新・JYクリニックとして運営されています。

院長が交代した直後は多少の患者数の減少がありましたが、すぐに持ち直しています。
また事前の想定通り、広域から泌尿器科の患者を集めることに成功し、現在では承継前を上回る収益を上げられるようになりました。

今回診療科を増やしたことから、スタッフのオペレーションに関する危惧もあったのですが、「当面の間、膀胱鏡は使わない」など泌尿器科の診療内容は限定的なものとしています。
そのためスタッフのオペレーションにも問題はなく、スムーズに診療ができています。

本事例のポイント

最後に、本事例のポイントをまとめます。

①50代後半からでも、クリニックの承継開業は可能

「クリニックを承継開業したいが、50代ではもう遅いのではないか」と考える医師は少なくありません。
しかし、本事例のように50代後半や60代であっても承継開業に成功している医師は多く、私たちがご紹介する案件でも増加傾向にあります。

医師全体の平均年齢も高齢化が進んでいるため、今後もこの傾向は続くでしょう。

ただし、複数の買い手が競合するような場合は、高齢の買い手がやや不利になる傾向があることも否めません。

そこで、本事例のU先生のように、意思決定を迅速化することや、資金面で余裕を持つといったことが大切になります。
とくに意思決定の速さは、M&Aでは非常に重要なポイントです。

②内科クリニックでも、地域状況によっては他科への譲渡が可能

今回は、最終的に内科+泌尿器科という形での承継となりました。
これは、JYクリニックの入居しているフロア面積に余裕があったという要因もありましたが、診療圏調査により泌尿器科のポテンシャルが高い地域と判明したことも理由でした。

内科はどうしても競合が多くなるため、買い手から選ばれにくい場合もあります。
しかし、本事例のように診療科を加える、あるいは異なる診療科に変更するなどして承継してもらうという選択肢もあるのです。

③依頼しているM&A仲介会社の動きが鈍いときは、遠慮せずにセカンドオピニオンを

売り手のJ先生は当初、知り合いのいるM&A仲介会社に仲介を依頼していましたが、半年以上経っても有力な買い手候補が見つからなかったため、セカンドオピニオン的に私たちにお声を掛けてくださいました。

依頼しているM&A仲介会社の動きが鈍くても「他社に声を掛けるのは悪いのではないか」と遠慮してしまうことがあります。
しかし結果として、無駄に時間を浪費してしまいかねません。

とくに本事例のように自身のリタイアが承継の目的である場合は、長期間先延ばしにするわけにもいきません。
疑問や不満に感じることがあれば、早めに他のM&A仲介
会社にセカンドオピニオンを依頼することも大切です。

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