医師の開業は何歳からがベスト?適した年齢や勤務医との年収の違いは?
目次
自分のクリニック・診療所を開くには、大学の医学部や医科大学で6年かけて医師免許をとったのち、臨床研修病院などで2年間の初期研修を修了する必要があります。
つまり、大学に18歳で現役合格すると仮定すれば、26歳が理論上の最短開業年齢です。
とはいえ、開業医には医療技術以外にも様々な能力が求められる上、開業資金も何千万と必要なため、最短での開業は現実的ではありません。
そこで本記事では、医師が開業するのに適した年代、および開業医の仕事内容や問題点について解説します。将来クリニック・診療所を開きたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
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医師が開業する際の平均年齢は41.3歳
2009年に日本医師会が行った「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」には、新規開業医の平均年齢が41.3歳と記されています。
開業後の年数別に見ると、30年超のクリニック・診療所で開業年齢が平均37.5歳、5年以内のクリニック・診療所で同44.9歳となっており、時代が進むにつれて新規開業者の年齢層も上がっていってることが分かります。
本データ自体は少々古いものですが、後述する医師の開業の適齢期を考えれば、今でも1つの目安にはなるでしょう。
医師が開業する適齢期
十分にキャリアを積んだ上で開業の道へ進もうと思ったら、まずは専門医資格をとっておかなければいけません。
専門医になるには、初期研修を終えたのちに診療科を選択し、さらに3〜5年間の専門研修を受ける必要があります。専門研修後の認定試験に一発で受かったとしても、専門医の資格を得た時点で大抵は30歳を超えるでしょう。
一般的に、医師の年収は30代から大きく増加し、具体的には平均年収が1,000万円を超えるといわれています。
しかし、クリニック・診療所の開業には建物代や設備代がそれぞれ一千万円単位でかかり、開業ローンを組むにしても自己資金が2〜3割は必要です。
資金が貯まるまでの期間を考えると、やはり日本医師会調査の平均値通り、40代前半が開業医デビューの適齢期といえるでしょう。
クリニック・診療所を引き継ぐ場合の適齢期
開業医になる上で、必ずしも新たにクリニック・診療所を建てる必要はありません。
閉院を検討中の経営者から施設を買い取る「継承開業」であれば、開業医になる上での初期投資を大幅に抑えることが可能です。
厚生労働省が公表する「令和4年(2022年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」の統計表によれば、クリニック・診療所の開設者・法人代表者の総数5,251人のうち、60代以上が3,608人に上りますから、現役開業医の引退に伴う継承開業の機会は今後ますます増えていくと考えられます。
ただ、継承開業の適齢期に関しては、新規開業と変わらず40代前半というのが通説です。
しかし、初期投資問題がある程度解消されるにも関わらず、なぜ早期の開業が難しいのでしょうか?
継承元のクリニック・診療所というのは、基本的に長年経営が続いている故、すでに客層がある程度固定されています。
よって開業後の患者離れを防ぐには、継承元で数年、短くても1~2か月間勤務し、診療方針や患者のニーズを引き継がなければいけません。
加えて、既存のスタッフや地域の医療機関との関係構築なども考慮すると、やはり継承開業の実現にはそれなりの年月を要するでしょう。
開業医に求められる役割
開業医になると、勤務医として働いていた時代に比べ、はるかに多くの役割を要求されます。
具体的には、医師として様々な医療分野への対応が必要なことに加え、クリニック・診療所の責任者として経営戦略や人事管理などもこなさなければいけません。
以下で詳しく見ていきましょう。
医師
個人で開業するような小規模なクリニック・診療所の多くは、「かかりつけ医」として様々な病状の患者を受け入れることになります。
かかりつけ医の役割を全うするには、幅広い医療知識、および患者の不安を解消できるホスピタリティが欠かせません。
この2点を満たし、「体のことを何でも気軽に相談できる」というイメージを地域住民の間に定着させることが、クリニック・診療所の経営を安定させるための第一歩です。
管理者
開業医は自院の最高責任者として、予算や売上の管理、および事業存続に必要な行政手続きを一手に担う存在です。
また責任者である以上は、院内で医療ミスやクレーム事案が起こった際、真っ先に矢面に立たされることも覚悟しなければいけません。
加えて開業医には、従業員の募集・採用や労務管理、指導用のマニュアル整備といった人事面の役割も求められます。
長期的に良好な職場を保つには、事務的な管理だけでなく、定期面談で従業員の細かい悩みを洗い出すようなマネジメントも必要になってくるでしょう。
経営者
事業を成功させるには、長期的に安定して利益を取れるよう、経営戦略を日々アップデートしていく必要があります。
開業医の場合、経営戦略を立案する上で最も重要度の高い作業は、人口や年齢層、都市計画などから1日の患者数を推計する「診療圏調査」です。
また、近隣に他のクリニックや診療所があれば、そこの業績や評判、サービス内容の変化の有無なども確認しておくべきでしょう。
これらの外的要素を随時把握しておくことに加え、自院の強みと弱みを定期的に分析することが、効果的な経営戦略の立案には欠かせません。
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開業医と勤務医との年収の違い
開業医と勤務医の平均年収を比較すると、統計上は開業医の方が高収入となっています。
厚生労働省が公表している「医療経済実態調査報告」の2023年版をもとに計算すると、同年における開業医の平均年収は2,631万円、勤務医は1,461万円と倍近い差が出ました。
もちろん、開業医の年収が上記の水準になるのは、クリニックや診療所の経営が軌道に乗ってからの話です。
また、開業医の場合は設備費や人件費など数多くの経費がかかるため、実際の手取りは物価などの社会情勢にも左右されます。
それでも、日々の患者数や経営状況次第で稼ぎを大きく増やせるというモチベーションは、勤務医のままでは決して得られません。
医師が開業を志す8つの理由
ここからは、医師が勤務医から開業医に転身した理由の中で、特に多いものを8つ紹介します。
1つでも当てはまる項目があり、かつ開業医デビューの適齢期を迎えている方はぜひ、現存の預貯金と相談しながらクリニック・診療所の開業の選択肢を検討してみてください。
1. 勤務医の年収に限界を感じた
勤務医の年収は一般的に30代から1,000万円を超え、ピーク時には2,000万円に達することも珍しくありません。
しかしピークの年代を過ぎると、その後は定年に向けて、緩やかに収入が減っていく傾向もみられます。
40〜50代の医師が「今よりもっと稼ぎたい」となれば、おのずと選択肢は開業に絞られるでしょう。
また、経営がうまくいけば平均2,600万円以上の年収を、自身の体が続く限り稼ぎ続けられるため、定年後の生活が心配な場合にも開業医デビューは有力なキャリアプランです。
2. やりがいのある仕事がしたい
勤務医の場合、クリニック・診療所の様々な決まり事によって仕事内容が制限されるほか、人事面の事情によっては診療科自体が希望通りにならないケースもあります。
その点、開業医なら働き方を自由に決められる上、新しいシステムやサービスも自分の裁量で導入できるため、勤務医とは仕事のやりがいが段違いです。
開業初期は経営面で試行錯誤しながら収益を伸ばし、引退を考える頃には後進を育成するといった具合で、キャリア全体に渡って高いモチベーションで働けることでしょう。
3. 理想の医療を追求したい
日本医師会が2009年に実施したアンケート調査によると、開業動機の中で最も多いのは「理想の医療の追求」となっています。
例えば自分が目標とする医療水準に合わせて、診療メニューや検査機器を一から整備するというのは、雇われの身ではまず実行できません。
他には在宅医療・夜間診療の導入等により、自分にとって最も重要な患者層に医療を届けるというのも、自身が最高責任者だからできることです。
4. 精神的ストレス
医師業は、労働時間の長さと職責の重さ、2つの意味で多大な精神的ストレスを背負う職業です。
労働時間が長いだけでなく、医療過誤によって民事・刑事責任を問われるリスクがあります。手術中の過失はもちろん、診療段階でも誤診や処方ミスが訴訟につながる可能性があるでしょう。
その点、開業医であれば、診療内容を自身の得意分野に絞ることで、医療過誤のリスクをある程度減らせます。
5. 家庭の事情
医師が開業する理由の中には、育児や介護など家庭の事情がある場合も少なくありません。
勤務時間が自由なのはもちろん、勤務地も空き物件さえあれば自宅近くに設けられるため、家庭の事情で退職を考えている医師にとって、開業医への転身は有力な選択肢といえます。
また、夫婦が共に医師の場合も、一緒に開業することでワークライフバランスを整えやすくなるでしょう。
6. 開業を家族から要求された
育児や介護といった家庭の事情を背景に、自分のクリニック・診療所を持つよう家族から求められるケースも稀にあります。
医師本人が勤務医の労働環境に不満を持っていなくとも、度重なる残業などで家族に不利益が出ている場合は、円満な暮らしのためにも早めに開業を決断すべきでしょう。
「資金が全然足りない」「近隣にクリニック・診療所が多すぎる」など、開業したくない理由がある場合も必ず話し合いの場を持ってください。
7. 過重労働
医師は数ある業種の中でも、特に過重労働が問題視されている職業です。
特に勤務医は、救急の受け入れや入院患者の容体急変などにより、頻繁に時間外労働が必要になります。2024年4月に施行された「医師の働き方改革」では、時間外労働の上限は月100時間未満に制限されましたが、過労死ラインぎりぎりの水準です。
その点、個人のクリニック・診療所なら救急対応も入院治療も不要ですから、時間外労働の機会は勤務医時代に比べて大幅に減ることでしょう。
8. 開業医の労働条件の良さ
東京保険医協会が2019年に実施した「開業医の働き方調査」では、回答275件のうち実に83%が、週あたりの総労働時間(診療時間+時間外労働)を60時間未満と回答しました。
同指標においては60時間以上が過労死ラインであることを考えれば、開業医の多くは適正な労働時間を保てているといえるでしょう。週50時間未満の開業医が64%、40時間未満の人も39%おり、育児や介護などとの両立も現実的であることが分かります。
また、平均年収は勤務医の倍近くですから、医師の多くが独立開業を目標とするのも無理はありません。
医師が開業する際の問題点
医師が開業する際の問題点としては、開業資金や経営戦略といった準備段階でのハードルが主に挙げられます。
また、開業後は経営者や管理者といった役割も必要なため、それらに必要な能力・経験も事前に積んでおかなければいけません。
以下で詳しく見ていきましょう。
開業資金
クリニック・診療所を新規開業するにあたっては、物件費に内装費に設備費と、モノを揃えるだけで莫大なお金がかかります。
そこで事前に覚えておきたいのが、開業にあたって融資を利用する際、審査に通りやすくするためのコツです。
融資審査において一番の基準となる事業計画書には、想定リスクへの具体的な対応など、実現可能性の高さをアピールできる内容を可能な限り盛り込みましょう。
申込先の金融機関は、クリニック・診療所開業の専門プランが存在するところを最優先としつつ、審査落ちのリスクを加味して何か所かの金融機関へ同時に申し込むのがおすすめです。
一方で、継承開業の場合は新規開業に比べて初期コストを抑えやすいほか、既存のクリニック・診療所の実績があるぶん審査も比較的通りやすくなっています。
詳細は以下の記事でご確認ください。
経営の方向性
クリニック・診療所の経営戦略は計画段階で立てるだけでなく、開業後も情勢を見ながらこまめに戦略を見直す必要があります。ここでいう情勢とは、簡潔にいえば、地域の人口構成に基づく医療需要の変化です。
例えば、生産人口の多い地域では夜間診療の需要増を、高齢の単身世帯が多い場合には在宅医療の需要増をそれぞれ見込めます。
こうした地域のニーズが、開業当時のままずっと変わらないということはなく、安定したクリニック・診療所の経営を長く続けるには先述の診療圏調査を定期的にやり直すことが求められます。
経営やマネジメントに関する能力
開業医には医師・経営者・管理者という3つの役割が求められますが、勤務医の仕事の中で経営やマネジメントの能力を磨く機会はそうそう訪れません。
通信講座などを仕事の合間に受けるなど、知識を身につける方法は多くありますが、人を相手とする業務であるため、やはり経験が重要です。
新規開業の場合は、経営やマネジメントに関してどこで経験を積むかが、準備段階における最大の課題といえるでしょう。なお、継承開業の場合は継承元のクリニック・診療所で実際に働くプロセスがあるため、上記の課題で行き詰まることはほぼありません。
何歳から開業するか逆算して準備することが重要
クリニック・診療所の開業に適した年齢、および開業にあたって必要な能力や準備作業について解説しました。
開業医になる方法には新規開業と継承開業の2種類あります。しかし、初期投資を抑えられることや経営・マネジメントの経験を事前に積めることなどを考えると継承開業の方がおすすめです。
開業医デビューの適齢期を迎えている医師の方は、ぜひ本記事を参考に今後のキャリアプランを検討してみてください。
また、医業承継に興味をお持ちの方は、ぜひ一度私たちに無料でご相談ください。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。