医師の定年はいつ?定年に向けて準備することと早めに考えておくべき問題点について解説
目次
医師として働く上で、定年は重要なライフイベントの一つです。
しかし、医師の定年は一般企業と異なり、法的に明確な年齢が定められていない場合も多く、勤務先や職種によって異なることがあります。そのため、自分のキャリアプランに合わせた準備が必要です。
この記事では、医師が定年に向けてどのような準備をすべきか、また早めに考えておくべき問題点について解説します。
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医師の定年について
医師として長年キャリアを積んできた人の中には、いつまで働けるのか、および退職後どう生きていけばいいのか、不安を抱えている方も少なくないでしょう。
年金の支給開始年齢の引き上げなどに起因し、昨今は再雇用や勤務延長を模索する人も増えていますが、これらをスムーズに実現するには早めのキャリアプランニングが不可欠です。
そこで今回は、医師が定年後に直面する問題やセカンドキャリアの選択肢、および定年を前に予め考えておきたい4つのポイントを解説します。
公務員の勤務医の定年
かつて公務員の定年は60歳、特例定年の対象である公務員医師も65歳までとなっていましたが、2023年の法改正によってそれぞれ5歳ずつ引き上げられました。
よって2024年現在、公務員医師は最長70歳まで勤務を続けることが可能です。
公務員医師には国家公務員と地方公務員の2種類があり、それぞれ以下のような医師が該当します。
<国家公務員医師>
- 厚生労働省の医系技官
- 厚生労働省が直営する検疫所やリハビリテーションセンターの勤務医
- 自衛隊の防衛医官や刑務所の矯正医官など、省庁直轄組織の勤務医
<地方公務員医師>
- 県立病院や市立病院など自治体直轄病院の医師(※)
- 警察医など自治体直轄の組織に所属する医師
なお、国立病院機構や日本赤十字社などの独立行政法人に所属する医師は「みなし公務員」に分類され、定年は各法人が独自に定めています。
例えば、日本赤十字社の定年が従来通り65歳なのに対し、国立病院機構ではシニアフロンティア制度によって最大70歳まで勤務延長が可能です。
(※)運営元が独立行政法人の場合は該当しない
民間病院の勤務医の定年
民間病院には、医療法人や社会福祉法人、あるいは個人が運営する病院が該当します。
民間勤務医の定年は病院によって60歳〜70歳程度と幅広く、定年延長や再雇用制度の有無も病院によって異なります。詳しい規定に関しては、各病院の就業規則より確認しましょう。
なお、公務員に比べて民間が有利な点としては、院長や医長などの幹部職を定年制度の対象外にしている病院が少なくない、という傾向が挙げられます。
開業医やフリーランス医師の定年
開業医やフリーランス医師といった、特定医療機関に所属しない医師の定年に関して、法律上の規定は特にありません。
医師免許は一度取得すれば生涯有効の国家資格であり、自動車免許の認知機能検査に類する高齢者向けのハードルも皆無です。
とはいえ生涯現役のケースは稀であり、経営者の場合は一般的に71歳〜75歳(※)程度が引退の目安と考えられています。
(※)「日医総研ワーキングペーパーNo.440」引退予定年齢より
医師が定年したあとの働き方は?
医師が定年した後の働き方としては、元いた病院に再雇用制度や勤務延長制度があれば利用し、なければ他の病院に常勤または非常勤として再就職を目指すのが一般的です。
また、産業医や健康診断医などに転身し、病院以外の場でキャリアを続ける選択肢もあります。
以下で詳しく見ていきましょう。
再雇用制度や勤務延長制度で働く
勤務先に再雇用制度や勤務延長制度が設けられている場合は、それらを利用して同じ職場でキャリアを続けるのが一番スムーズです。70歳までの就業が推進される昨今、再雇用や勤務延長を選べる病院は続々と増えていくことでしょう。
ここで、両制度のメリット・デメリットを見ていきます。
まず再雇用制度の場合、一旦は定年退職するため、退職金を従来通り受け取れます。そして厚生労働省の規定上、遅くとも翌々日には再雇用となりますから、空白期間ができる心配もありません。
しかし、新たに雇用契約を結ぶ以上、労働条件も一から組み直しになるため、大なり小なり待遇はダウンします。
次に勤務延長制度の場合、退職日自体が数年後に延びるため、労働条件の多くは定年前の内容が据え置かれます。給与水準の維持が大きなメリットではありますが、定年前と同様の職務に対する年齢的負担も考慮しなければいけません。
定年後も同じ病院での勤務を希望する場合は、どちらの制度を適用するか、早いうちから人事部などに相談しておくといいでしょう。
非常勤で勤務
年齢的負担を考慮した上で、無理のない範囲でキャリアを続けたいという場合に、非常勤医師の選択肢が生まれます。
各病院が定める勤務時間を全うする常勤医師に対し、非常勤の場合は「週1日」「午前のみ」など勤務日時を柔軟に設定できるのが魅力です。
ただし勤務時間が短いぶん、社会保険の加入条件(週20時間以上の勤務)を満たさない可能性が高いなど、福利厚生面のデメリットがある点は覚えておきましょう。
また、非常勤医師の求人は一般的に単発案件が多いため、収入はどうしても安定しません。
再就職
常勤医師としての勤続を望むも、今の職場に再雇用制度などが存在しない場合は、他院に再就職する選択肢もあります。
再雇用制度と同じく待遇は多少下がるものの、非常勤に比べれば収入は格段に安定しますから、心身に余力があるなら他院で常勤を続けるのがおすすめです。
療養病院など医療処置の機会が少ない現場を選んでおけば、労働量に関しても定年前よりは抑えられるでしょう。
ただし、高齢の医師を常勤で募集している現場がそもそも少ないため、転職活動はかなり早いうちから始めておく必要があります。
健康診断医として働く
健康診断医とは、定期健診や人間ドックなどの診療業務を担う医師です。
幅広い内科知識やレントゲンの読影スキルなどが求められる一方、異常が見つかっても他の病院に引き継ぐだけで医療行為は要さないため、経験豊富な高齢医師とは非常に相性のいい職種といえます。
就業形態はほぼ、各地の健診センターでの非常勤業務のみとなりますが、興味があれば求人を探してみるといいでしょう。
産業医として働く
産業医とは、企業に所属した上で社員の健康相談やメンタルケアなどを担う医師です。
常勤の場合は週4〜5日、非常勤の場合は週1や月1で働けることから、収入と働きやすさのどちらを重視する場合でも選択肢に入りやすい職種といえます。
業務内容に関しても、健康診断医と同じく医療行為とは無縁なため、十分な医学的知識さえあれば問題ありません。ただ、産業医という肩書きを得るには、労働安全衛生規則第14条第2項に定めるいずれかの要件を満たす必要があります。
大学を経由しない場合は、日本医師会認定の産業医学基礎研修を受講するか、もしくは労働衛生コンサルタント試験の合格を目指しましょう。
高齢でも活躍している医師はいる?
結論として、60歳を超えても現場で活躍する医師は多く存在します。特に開業医は定年がなく、70代になっても診療を続ける先生も珍しくありません。
厚生労働省が2022年に公表した「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」によると、同年時点で医師総数の30%弱が60歳以上となっており、70歳以上に絞っても全体の10%以上を占めています。
2020年の同調査と比較して、60代と70代以上の医師数が共に2年間で2,000人以上増えている点をみても、医療業界全体として高齢医師を歓迎する流れなのは間違いないでしょう。
開業医という選択もある
希望に合う働き口が全く見つからない場合は、自ら病院を開業するという手もあります。
医師免許に有効期限がない以上、開業医の定年もないため、開業資金の目途さえ立つなら理想の働き方の1つといえるでしょう。
ただし、開業準備や人材確保には時間がかかる上、高齢になるほど多額の借入が難しくなる問題もあるため、開業医の道を選ぶなら早めの決断とアクションが重要です。
医師が定年後に悩む問題点は?
ここからは、医師が定年後に直面する主な悩み、具体的には「生活資金の問題」と「働き続ける場合の健康問題」に触れていきます。
退職金がいくらあるのか
医師の退職金に関して、公的な統計データは存在しませんが、一般的には1,000万円〜2,000万円が相場といわれています。
金額の大小を左右するのは主に在籍年数であり、複数の病院を渡り歩いてきた医師よりは、1つの病院に長年所属していた医師の方が圧倒的に有利です。もちろん、病院の規模や自身の役職によっても変わるため、具体的な金額を知るには就業規則の退職金規定を確認する他ありません。
なお、自ら病院を経営している人に関しても、退職金に相当する一時金をもらう方法が2つ存在します。
1つは、病院を医療法人化して退職慰労金や特別功労金を受け取れるようにしておく方法、もう1つは小規模企業共済に加入して退職金を毎月積み立てていく方法です。
法人化の場合は役員としての在籍年数、企業共済の場合も加入年数が退職金を左右しますから、開業医で老後資金が必要な方は早いうちに手を打っておきましょう。
健康の問題
定年後も医師として働く場合、一番に心がけたいのは自分自身の健康管理です。若い頃の感覚でハードなスケジュールを組んでいると、すぐに体調を崩してしまいます。
また、医療行為を伴う形で働き続ける場合は、業務上の失敗が法的責任につながる可能性があることも考慮しなければいけません。
手先や判断力などに少しでも狂いを感じた際は、自身の健康と患者の安全のためにも、引退時期について真剣に考えた方がいいでしょう。
年収が下がる
医師に限ったことではありませんが、定年後に仕事を継続できたとしても、定年前と同様の給与を得られる可能性は極めて低いです。
厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の2023年版においても、調査対象である全業界の年齢別賃金が50代をピークに減少へ転じています。
ましてや常勤医師となれば、定年前の年収は大抵1,800万円を超えますから、労働条件据え置きの勤務延長を除けば大きな減収は避けられないでしょう。
開業医としてキャリアを続ける場合も、患者が定着し売上が安定するには時間がかかるため、初期資金にはかなりのゆとりが必要です。
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医師が定年する際に準備しておきたいこと
定年を迎えるにあたって最も重要なのは、定年後の生活の軸を考えておくことです。
軸が決まることで初めて、定年までに必要な人脈を築いたり、定年後の経済状況をシミュレーションしたりといった具体的な準備を始められます。
以下で詳しく見ていきましょう。
定年後何をするか考えておく
定年後というのは基本、それまでに比べて毎日の自由時間が大幅に増えるものです。
しかし高齢である以上、時間の使い道が見つからないまま過ごしていると、あっという間に最期を迎えてしまいます。
医師を完全に引退する場合はもちろん、非常勤である程度の勤務を続ける場合も、今後の軸となるライフワークを予め確立しておくべきでしょう。
医師業そのものがライフワークであれば、勤務延長や新規開業などで引き続き仕事中心の生活を送るのもアリですが、その場合も完全引退後のセカンドプランは考えておく必要があります。
人脈を作っておく
定年後の選択肢として非常勤や再雇用などを挙げましたが、実際のところ高齢医師向けの職場を一から探すのは簡単ではありません。
スムーズな再就職を目指すにあたっては、学会や研究会などで人脈を広げておくことが非常に効果的です。
施設や業種を絞らず、様々な方面とつながりを持つことで、定年後の居場所は格段に増えることでしょう。
もちろん、同僚をはじめとした現存の人脈を繋ぎとめておくことも重要です。
とはいっても、人脈を形成・維持する上で特に政治的な立ち回りをする必要はなく、基本的には一度会った相手と定期的に連絡を取るだけで事足ります。
定年後の生活を考えておく
年収が下がったあと早期に生活が破綻するのを防ぐためにも、定年後の勤労形態による年収の変化を予め把握した上で、早いうちから生活水準を見直すといいでしょう。
具体的な見直しの流れとしては、まず水道光熱費や携帯代などの固定費から無駄を削減し、それから趣味や買い物の出費を見直すことになります。
用意すべき老後資金に関しては、昨今叫ばれ続けている「老後2,000万円問題」を余裕をもってケアできる金額がベストです。
なお、この2,000万円というのは、高齢者の平均収入から平均支出を差し引いた金額であるため、引退する場合や新規開業する場合はさらに多くの資金が必要です。
定年後に働く場合は必要な資格やスキルを確認しておく
定年後に医師以外の仕事を検討する場合は、必要な資格やスキルも合わせて確認しておきましょう。
産業医に研修受講や資格取得が求められるように、求人を見つける以前の段階でハードルが設けられている職業は多々あります。
資格が不要な場合も、働ける期間が限られる以上は早期に仕事に馴染むことが求められるため、必要な知識や技術は事前にある程度身につけておくのがベストです。
最近は資格やビジネススキルのオンライン講座が充実していますから、現状仕事が多忙な場合でも、時間の合間を縫っての勉強はさほど難しくありません。
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定年後もキャリアプランを考えておくことが重要
以上、医師の定年後のキャリアプランについて、働き方の選択肢や事前に準備すべきことなどを解説しました。開業医の場合は定年を自分で決められるため、承継開業は選択肢としておすすめです。
そのため、定年後に働く場合はキャリアプランを明確にし、必要な資格取得も視野に入れましょう。
本記事の内容が少しでも、医師の方々がセカンドキャリアを考える際の一助になれば幸いです。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。