【2027年施行】医師の開業規制に関する完全ガイド!今後の対策方法も解説
目次
2027年から、医師のクリニック開業に対して新たな規制が施行されます。
今回の開業規制は都市部への医師集中を是正し、地域医療の偏在を解消することが目的です。
開業規制はクリニックの開業だけでなく、将来的に開業を目指している医師の方のキャリアプランにも大きな影響を与える内容です。
本記事では、2027年に施行される医師の開業規制について、その背景と具体的な施行内容、そして開業を検討している先生方がとるべき対策を詳しく解説します。
医師の開業規制が本格化されている背景
まずは、そもそも医師の開業規制が本格化された背景について理解しておきましょう。
- 都市部に医師が集中しすぎているため
- 地方や特定の診療科で医師が不足しているため
- 患者が希望の医療を受けられなくなるため
それぞれ詳しく解説します。
都市部に医師が集中しすぎているため
現在の日本は、医師の配置に大きな地域格差が生じています。
厚生労働省のデータによると、都道府県別の医師偏在指標は下記のとおりです。
出典:厚生労働省|医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ
医師が多い都道府県 | 医師が少ない都道府県 |
東京都(353.9)京都府(326.7)大阪府(288.6) | 青森県(184.3)岩手県(182.5)新潟県(184.7) |
東京都は新潟県の約1.9倍もの医師密度となっており、特に地方において安定した医療提供が難しくなっているのです。
このような都市部と地方における大きな格差こそが、医師の開業規制が議論されている要因です。
地方や特定の診療科で医師が不足しているため
都市部への医師集中に加え、地方や特定の診療科では医師が不足しています。
2012年から2022年にかけての診療所数の変化を見ると、人口規模が小さい二次医療圏では診療所数が減少傾向にある一方、50万人以上100万人未満や100万人以上の二次医療圏では増加傾向にあります。
出典:厚生労働省|医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ
さらに深刻なのは将来の見通しです。
診療所の医師が80歳で引退し、承継や新規開業がないと仮定した場合、2040年には診療所がなくなる市区町村が約170程度も増加する見込みとなっています。
出典:厚生労働省|医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ
特に地方における医療提供体制の維持が喫緊の課題となっているわけです。
患者が希望の医療を受けられなくなるため
医師の偏在が進むと、住んでいる地域によってはすぐに病院に行けなかったり、専門の先生に診てもらえなかったりするケースが生じます。
特に地方に住んでいる高齢者の方は、現状すでに病院までが遠くて通院がたいへんなケースも少なくありません。
このような状況を改善し、全国どこでも質の高い医療を受けられる体制を構築するためにも、2027年に医師の開業規制が施行されるわけです。
開業規制が施行される2027年以降のクリニック開業で影響すること
2027年に施行される「医師偏在是正パッケージ」は、基本的に医師の偏在を是正し地域医療の充実を図ることを目的としています。
しかしこの規制は、新たなクリニックの開業に大きな影響を与えます。
主な変更点は2つです。
「外来医師過多区域」における新規クリニック開業の条件が厳しくなる
外来医師過多区域とは、医師が過剰に集中していると判断される地域を指します。
このような区域で新たにクリニックを開業する場合、都道府県から開業の6か月前までに提供予定の医療機能などを記載した届出をしなければなりません。
さらに、地域で不足している医療機能の提供を要請される場合があります。
【外来医師過多区域での新規開業時に求められる医療機能】
- 初期救急(夜間・休日の診療)
- 在宅医療
- 公衆衛生(学校医、産業医、予防接種等)
- その他の地域医療として対策が必要な医療機能
これらの要請に応じない場合、段階的な措置が講じられる予定となっています。
出典:厚生労働省|医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ
若手医師の開業は3年以上の病院勤務が必須に
新たな規制では、保険医療機関の管理者になるための要件が大幅に強化されます。
「病院での3年以上の保険医従事経験」が新たに要件化され、これはすべての保険医療機関の管理者に適用される予定です。
【現行制度】
- 医師:臨床研修(2年)で開業可能
- 歯科医師:臨床研修(1年)で開業可能
- 病院勤務の経験は不要
- 保険医であることのみが条件
【新制度(2027年〜)】
- 医師:臨床研修(2年)+病院での保険医従事経験(3年)=最低5年後に開業可能
- 歯科医師:臨床研修(1年)+保険医療機関での保険医従事経験(3年)=最低4年後に開業可能
- 週当たりの一定の所定労働時間での勤務が必須
- 育児や介護をする者への配慮措置あり
医師の場合は「病院での勤務」に限定されていますが、歯科医師の場合は「保険医療機関」とされているため、歯科診療所での勤務も認められる可能性があります。
いずれにせよ、この変更によって若手医師の早期開業は実質的に困難となり、キャリアプランの大幅な見直しが必要になります。
医師の少ない地域で働くと開業が有利に
開業規制は条件が厳しくなるばかりに見えますが、医師が少ない地域で働く医師に対しては、開業が有利になる「医師少数区域経験認定医師制度」が、すでに導入されています。
医師少数区域や医師少数スポットにある病院もしくは診療所で「6か月以上」下記に該当する業務を行うと、医師少数区域経験認定医師として認定されます。
【認定に必要な業務内容】
- 継続的な診療:個々の患者の生活状況を考慮し、幅広い病態に対応する継続的な診療及び保健指導
- 地域連携:他の医療機関や、介護・福祉事業者等との連携
- 地域保健活動:地域住民に対する健康診査や保健指導等の地域保健活動
出典:厚生労働省|医師少数区域等で勤務した医師を認定する制度
認定された際には、下記のような優遇措置が適用されます。
【地域医療支援病院の管理者資格】
認定医師になると、地域医療支援病院の管理者となる資格を得ます。
【補助金を受けられる】
医師少数区域等で診療を行う認定医師のスキルアップを目的とした、研修費や専門書の購入などに関して、国や自治体からの補助が受けられます。
【優遇の融資を受けられる】
認定医師が医師少数区域等で診療所などを開設する際に、建築資金などの融資条件において優遇を受けられます。
【重要】開業規制に関する要請に従わなかった場合のペナルティ
外来医師過多区域で開業しようとした場合、都道府県から要請を受けることがあります。
この要請に従わずに開業した場合には、大きく3つのペナルティが課される可能性があるため注意しなければなりません。
保険医療機関の指定期間が3年に短縮される
通常であれば保険医療機関の指定期間は6年ですが、外来医師過多区域で要請に従わずに開業した場合、この期間が3年に短縮される可能性があります。
これは医療機関の経営に大きな影響を与える可能性があります。
医療機関名などが公表される
要請に従わなかった場合、最終的にはそのクリニック名が公表される可能性があります。
これは医療機関の信頼性や集患に影響を与える恐れがあります。
補助金を受けられなくなる可能性がある
地域医療に関連する補助金の対象から外される可能性があります。
これはクリニック開業時の資金調達や、運営コストに影響を与えるペナルティといえるでしょう。
開業規制の策定によるメリット
開業規制は制限だけでなく、医師にとってメリットもあります。
- 医師の少ない地域による開業で経済的な支援がある
- 研修やキャリア支援の機会が増える
- 集患につながる可能性がある
それぞれ詳しく解説します。
医師の少ない地域による開業で経済的な支援がある
医師の確保を優先的かつ重点的に進めるべき地域を【重点医師偏在対策支援区域】として選定され、この区域で診療所を承継または開業する医師に対して、経済的支援を行うことが検討されています。
【重点医師偏在対策支援区域における支援内容(暫定)】
診療所の承継・開業・地域定着支援(緊急的に先行して実施) | 診療所の承継や新規開業に対する直接的な資金支援地域への定着を促進するための一定期間の経済支援 |
派遣医師・従事医師への手当増額 | 医師少数区域で働く医師への手当増額支援保険者から広く負担を求め、給付費の中で一体的に捻出する仕組み |
医師の勤務・生活環境改善、派遣元医療機関への支援 | 土日の代替医師確保等の医師の勤務・生活環境改善支援医師少数区域に医師を派遣する派遣元医療機関に対する支援 |
診療報酬における対応の検討 | 医師偏在への配慮を図る観点から、診療報酬での対応を検討医師確保への配慮を図る観点からの制度見直し |
出典:厚生労働省|医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ
これらの経済的支援によって、地方での開業や勤務に伴う経済的負担を大幅に軽減できる可能性があります。
研修やキャリア支援の機会が増える
医師偏在対策によって、以下のような支援制度も整備されています。
【キャリア形成プログラムの策定】
厚生労働省は医師が特定の地域や診療科で勤務することに偏りがないよう、キャリア形成を支援するプログラムの策定を推進しています。これにより、医師は自身の専門性を追求しつつ、地域医療にも貢献できるような多様なキャリアパスを選択しやすくなります。
【「医師少数区域経験認定医師」制度の活用と支援】
都道府県が定める医師少数区域や医師少数スポットに所在する医療機関で、6か月以上勤務し、地域医療に必要な業務を行った医師を厚生労働大臣が認定する制度。スキルアップを目的とした研修費用に対する補助金や融資の優遇が受けられる。
【広域連携型プログラムの制度化】
医師多数県に位置する病院と医師少数県に位置する病院が連携し、初期臨床研修医が医師少数県等の臨床研修病院でまとまった期間(例:24週間以上)研修を実施するプログラム。将来のキャリア検討の選択肢を広げ、自身の特性に気付く契機となることも期待されている。
出典:大阪府|初期臨床研修における広域連携型プログラムについて
これらを活用することで、医師は地域医療への貢献と自身のキャリア形成を両立させながら、多様な医療現場で経験を積めます。
特に若手医師にとっては、早期から地域医療の実情を学び、将来の専門性を見極める貴重な機会となり、結果として医師偏在の解消と地域医療の質向上に寄与することが期待されています。
地域に必要とされている医療の提供で集患につながる可能性もある
外来医師過多区域で開業する場合、都道府県から以下のような医療機能の提供を要請される場合があります。
- 初期救急(夜間・休日の診療)
- 在宅医療
- 公衆衛生(学校医、産業医、予防接種等)
- その他の地域医療として対策が必要な医療機能
これらの要請は、言い換えればその地域で医療ニーズが高いにもかかわらず供給が不足している分野を示しています。
そのため要請に応じて医療機能を提供することで、地域住民に求められている医療サービスを提供でき、結果として安定した患者獲得につながる可能性があります。
また、地域医療に貢献することで、クリニックの社会的な信頼性向上も期待できるでしょう。
開業規制の策定による懸念点やデメリット
開業規制は地域医療の充実を目的とした重要な施策である一方で、医師や医療提供体制全体に対して、いくつかの懸念点やデメリットもあります。
開業規制が施行された際に適切な対策を行えるように、あらかじめこれらの課題を理解して対策を講じておきましょう。
専門分野以外の医療サービスを提供する必要も出てくる
外来医師過多区域で開業する際、都道府県から地域で不足している医療機能の提供を要請される可能性があります。
その結果、当初計画していた診療内容や自身の専門領域とは異なる医療サービスの提供が必要になります。
たとえば内科専門医として開業を予定していた場合でも、地域の状況によっては夜間や休日の救急対応、在宅医療、予防接種業務などの医療機能を求められるケースが出てくるわけです。
専門性を活かした診療に集中したいと考えている医師にとっては、想定外の業務負担や新たなスキルの習得が必要になってきます。
クリニックの経営が安定しにくい可能性がある
外来医師過多区域で要請に従わずに開業した場合、保険医療機関の指定期間が通常の6年から3年に短縮されます。
これはつまり、クリニックの経営において長期的な見通しが立てにくくなり、資金調達の面でも不利になる可能性が高まることを意味します。
また補助金を受けられなくなる可能性もあり、開業時の初期投資や運営資金の調達において、より厳しい条件で資金繰りをしなければなりません。
都道府県からの要請に従わなかった場合には、開業当初から経営面での負担が増大し、クリニック運営の安定化に時間を要する恐れがあります。
特に都市部では医療の質に影響が出る可能性
開業規制によって都市部での新規開業が抑制されるということは、既存のクリニックにとっては競争環境が緩和されることを意味します。
これにより、クリニックのサービスの質や患者満足度向上への取り組みが停滞する可能性が懸念されています。
また新しい医療技術や治療法、効率的な経営手法を持った意欲的な医師の参入が阻害されることで、地域全体の医療水準の向上が妨げられる恐れもあるわけです。
クリニック開業予定の医師が検討しておきたいこと
ここでは2027年以降の医師の開業規制が施行されたあと、クリニックを開業する際に事前に押さえてくべきポイントを3つ紹介します。
医師偏在対策や開業規制の情報収集を継続して行う
2025年現在、公表されている医師偏在対策や開業規制の内容は、多くが暫定的なものであり、具体的な運用方法や対象地域、支援内容などは今後変更される可能性があります。
そのため厚生労働省や各都道府県の公式サイト、医師会からの情報発信を定期的にチェックし、最新の制度変更や運用開始時期について把握しておくことが重要です。
医師が少ない地域での開業も視野に入れる
都市部での開業競争が激化し、規制も強化される一方で、これまで敬遠されがちだった地方や医師不足地域での開業は優遇されます。
重点医師偏在対策支援区域における経済的インセンティブを活用することで、従来の地方開業で課題となっていた、初期投資の負担や経営の不安定性を大幅に軽減できる可能性があるわけです。
また、医師少数区域経験認定医師制度による融資優遇や補助金制度も整備されており、地方開業のハードルは着実に下がります。
地方は競合のクリニックも少ないため、質の高い医療サービスを提供することで地域住民からの信頼を獲得しやすく、安定した患者基盤を構築できる可能性が高まります。
とはいえ地方ならどこでも需要があり、経営が安定するとは限りません。
地方だからこそ、クリニック開業で失敗しないために「診療圏調査」も入念に行う必要があります。
関連記事:診療圏調査の手順や注意点・簡易診断できるサービス紹介
医院継承を活用する
2027年に施行される開業規制は、基本的に「新規開業」が対象です。
すでに開業されているクリニックを承継する「医院継承」であれば、新規開業に比べて規制を受けにくい可能性があります。
ただし医院継承でも「事業譲渡」の場合には、行政上の手続きは新規開業と変わらないため、開業規制の対象となる可能性があるので、注意しなければなりません。
医院継承は、既存の患者基盤や設備を引き継ぐため、新規開業に比べて資金面におけるリスクや負担を低減し、スムーズなスタートを切れるというメリットもあります。
今回の開業規制で新規開業に不安や悩みを抱いているのであれば、医院継承の専門家に相談してみるのもよいでしょう。
まとめ:開業規制を理解して地域患者に求められるクリニック経営を実現しましょう
2024年12月25日に策定された「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」により、2027年以降のクリニック開業には大きな変化が訪れます。
特に都市部での開業を検討されている先生にとっては、これまでと異なる準備や対策が必要です。
一方で地方における開業には新たな支援制度も整備されており、むしろ有利な条件で開業できる場合もあります。
重要なのは規制の内容を正しく理解し、地域の医療ニーズに応えるクリニック経営を実現することです。
開業規制は一見制約のように感じられますが、地域医療の充実と患者満足度の向上につながる取り組みでもあります。
私たちエムステージマネジメントソリューションズでは、医師の先生方の開業や医院継承をサポートしています。
今回の開業規制に関するご相談や今後の開業戦略についてお悩みでしたら、ぜひ私たちにご相談ください。地域患者に求められるクリニック経営を実現するために、私たち「エムステージマネジメントソリューションズ」がお手伝いいたします。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。