医者におすすめの副業とは?法律上の注意点についても解説


目次
医者として働きながら副業をするのは、クリニック運営を安定させるために大切です。しかし「どのように始めればいいのか」「どのような副業を選んだら良いのか」「法的なリスクはないのか」と不安を抱いている方もいるでしょう。
近年では、医療機関における副業が解禁されてきており、収入の柱を増やしやすいです。結果的に、クリニック運営の安定にもつながります。
本記事では、医者におすすめの副業や法律上の注意点を分かりやすく解説します。医者で副業を考えている方は、ぜひご覧ください。
病院・クリニックの承継をご検討中の方はプロに無料相談してみませんか?
エムステージグループの医業承継支援サービスについての詳細はこちら▼
医者は副業可能?
医者の副業は完全に禁止されているわけではないですが、いくつか制限があります。主に医師法、地方公務員法、国家公務員法の3つの法律が影響しています。
医師法 | 副業可能。ただし、研修医は医師免許を用いた副業は禁止。 |
地方公務員法 | 副業禁止 |
国家公務員法 |
(出典:医師臨床研修に関するQ&A(研修医編)|厚生労働省、地方公務員法第35条、国家公務員法第103条、104条)
上記の表の通り、公務員に該当する医者の副業は不可能です。例えば、市立・県立病院などで働く医者が該当します。一方、独立行政法人や国立大学病院の医者は、公務員扱いではないため副業が可能です。また、医院承継後の院長も自院の就業規則で禁止していなければ、副業を行えます。
副業する際には、労働時間に関して注意が必要です。2024年4月から導入された医者の働き方改革により時間外労働の上限が決められています(病院で働く医者の場合、月100時間未満、年間960時間以内)。上限時間は病院の機能により異なる水準(A・B・C水準)が設けられています。(出典:医師の働き方改革|厚生労働省)
一般的な医療機関に勤務する医師はA水準が適用され、年間960時間以下、月100時間未満です。一方、救急医療を提供する病院で働く医師は、年間1860時間以下、月100時間未満となります。C水準は研修医などが対象です。
医者に副業がおすすめな理由
医者が副業をすると、例えば、新規開業時の収益が安定するまでの経済的負担を軽減できます。新規の開業では、設備投資や集患などが軌道に乗るまでの運転資金など多額の初期費用が必要ですが、副業で収入源を増やすと、資金面の課題に対応しやすくなります。
また、副業を通じて異なる業務を経験する場合、経営やマーケティングなど開業に必要なスキルを学ぶ機会が増えるかもしれません。このように、本業だけでは得られない視点や実践的なノウハウを習得することで、医院運営の基盤を強化し、より安定した経営を目指すことができるでしょう。
医師資格を活かせるおすすめの副業
医者の副業は時給が高く、高収入が期待できます。医師資格を活かせる副業は、主に以下の5つです。
- スポットアルバイト
- 非常勤医者
- セミナー講師
- 医療記事の執筆や監修
- オンライン診療
詳しく解説します。
スポットアルバイト
スポットアルバイトとは、単発または短期間での医療業務を指し、時給1万円前後と高い傾向です。通常の常勤勤務や定期非常勤とは異なり、1日や数日間だけの勤務が可能で、空き時間を有効活用できる働き方です。
例えば、スポットアルバイトには外来診療、当直業務、健診診断や予防接種などがあります。特に当直や救急対応では高時給が期待できるため、短期で高収入を得たい方におすすめです。さまざまな現場を経験するとスキルアップにもつながるでしょう。
非常勤医師
非常勤医師とは、常勤医師のようにフルタイムで働くのではなく、週32時間未満の勤務時間で働く医師を指します。一般的に時給1万円以上と相場が高いです。勤務時間や頻度は柔軟に調整できるため、他の仕事やプライベートとの両立が可能になります。
また、決まったスケジュールで働く場合がほとんどであるため、安定して収入が得られます。他院で業務を行った経験が、自院の経営に活かせることもあるでしょう。スキルアップや柔軟な働き方を求める医者におすすめの副業です。
セミナー講師
医者の経験を活かして、製薬会社や医療機関でセミナーを行うのも選択肢の一つです。例えば、新薬の解説、治療法の普及、医療従事者向けのセミナーなど、専門知識を活用した内容で活躍できます。
企業から依頼されるセミナーでは1回数万〜数十万円と高額な報酬を得やすく、収入面で大きなメリットです。露出度も増えるため、医者としての知名度や信頼性向上にもつながります。セミナー講師としての活動は、新たな人脈形成にもつながるため、経営改善のきっかけにもなり得ます。
一方で、セミナー内容の準備や依頼を得るまでに時間と労力を要する点は課題ですが、専門性を活かしつつ高い成果を得られるため、取り組む価値のある副業といえるでしょう。
医療記事の執筆や監修
医療記事の執筆や監修は、医者が持つ専門知識を活かして、医療や健康に関する正確な情報を提供する副業です。自宅や仕事場で隙間時間を活用してできるため、忙しい医師でも柔軟な働き方ができます。報酬は案件内容によりさまざまで、1記事あたり約30,000円〜50,000円ほどが相場です。
執筆だけでなく、ライターが作成した記事の内容を確認し、誤りを修正する「監修」業務も選択肢の一つです。監修業務では、自身のプロフィールが記事に掲載される場合が多く、医院の信頼性や認知度を高める効果が期待できます。特に、専門分野での記事監修は、正確性が重視されるため需要が高く、自院のブランディングにもつながる有益な副業です。
オンライン診療
オンライン診療とは、インターネットを通じて診察や治療を行う診療形態です。スマートフォンやパソコンを使用し、自宅や職場などから診療を行えるため、隙間時間でできるのが特徴です。
オンライン診療は、時給換算で1万円以上の高収入が期待できる副業の一つでもあります。特に、AGA治療や美容医療などの自由診療分野では、報酬が高い傾向です。自由診療は、保険診療に比べて診察1件あたりの利益率が高く、効率的な副業として人気があります。
また、オンライン診療で得た経験は、自院に同じサービスを導入する場合の経験値に役立ちます。具体的には、診療の進め方や患者とのコミュニケーション方法を実践的に学べるため、クリニック経営の幅を広げることが可能です。
関連記事:医師の時給はいくら?エリア・診療科別相場
医療分野以外でおすすめの副業
医療分野以外では、以下の3つの副業がおすすめです。
- 不動産投資
- 株式投資
- 施設運営
それぞれ解説します。
不動産投資
医療分野以外の副業では、不動産投資がおすすめです。医者は高収入のため税負担が大きくなりやすいですが、不動産投資では減価償却費や費用を計上すると節税効果を得られます。また、不動産投資による不労所得は、経済的な安定や将来的な資産形成につながります。不動産投資は、リスクを伴うものの、適切な物件選びと管理を行えば比較的安定した収益を得られるでしょう。
資産運用や管理に関する知識は医院運営にも役立ちます。しかし、負債額が大きいと銀行から融資を受けられなくなる可能性があるため注意が必要です。不動産投資が赤字だと、医者としての給与を合わせた全体がプラスだとしても、銀行側は赤字を給与で補填していると捉えるため、借入が難しくなる可能性があります。
株式投資
株式投資とは、企業が発行する株式を購入し、その株価の値上がり益(キャピタルゲイン)や配当金(インカムゲイン)を得るのを目的とした投資活動です。1株数千円単位から始められる投資もあり、時間や場所に囚われずできます。
株式投資は「資産運用」として扱われるため、医療機関や公務員の副業規制には基本的に該当しません。ただし、医療機関の経営に関連する企業の株式を購入する場合、利益相反が問題となる可能性があります。
医院承継と株式投資は、どちらも「既存の資産を引き継ぎ、運用して利益を得る」点で類似しているため、株式投資の知識が活きるかもしれません。
施設運営
医者の副業では、施設運営の手段もあります。施設運営とは、特定の施設やサービスを管理・運営し、その収益を得る副業です。例えば、駐車場やコインランドリー、レンタルスペースの運営が一般的です。
運営の手間が少なく、本業が忙しくても取り組みやすいメリットがあります。また、初期投資が必要な場合もありますが、運営にかかるランニングコストが比較的低い傾向です。
整形外科やリハビリ科と連携したフィットネスジムの運営などを行うと、自院の利益にもつながります。ただし、医療法人が運営する場合は「疾病予防運動施設」として届け出が必要なため注意しましょう(医療法第42条)。
医者が副業する際の注意点
副業する際には、法的な面と税金関係に注意しましょう。具体的には、以下の4つです。
- 就業規則の確認
- 税金や確定申告
- 時間外労働の上限規制
- 患者情報の取り扱い
詳しく解説します。
就業規則の確認
医者が副業を行う場合、法律上は基本的に問題ありませんが、勤務先の就業規則を確認するのが大切です。多くの医療機関では、競業を防ぐために副業を禁止する規則が設けられている場合があります。
以前は副業禁止の医療機関が多かったですが、最近では許可を得れば副業できる医療機関が増えてきています。勤務先と競合するような業務、例えば同じ地域での診療所勤務などは、就業規則で禁止されている場合があるため注意しましょう。
また、自分が医院長の場合、医院承継後の就業規則の見直しを行うと副業ができる環境を整えられます。就業規則の改定時には、スタッフが10人以上在籍する場合、改定後の就業規則を労働基準監督署に届け出る必要があります。
税金や確定申告
医者が副業を行う場合、税金や確定申告に関する知識を知っておきましょう。副業で得た所得が20万円を超える場合、確定申告が必要です。所得は、10種類に分類されており複雑です。以下で、医者の副業に関わる所得を解説します。
内容 | |
給与所得 | 給料や賞与など、雇用関係に基づいて支払われる所得です。例)スポットアルバイト、非常勤講師 |
雑所得 | 公的年金、原稿料、講演料、印税など他の所得に該当しない所得です。例)医療記事の執筆、投資 |
配当所得 | 株式の配当、証券投資信託の収益分配、出資の剰余金の分配などから得られる所得です。 |
不動産所得 | 土地や建物などの不動産の貸付けによって得られる所得です。 |
2カ所以上の勤務先から給与を受け取っており、年末調整をしていない給与の収入金額と、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く)との合計額が20万円を超える場合、勤務先以外の収入の確定申告が必要です。
副業の収入増加に伴い社会保険料、住民税、所得税も増加するため注意しておきましょう。
時間外労働の上限規制
副業を行う際は、労働時間の上限に注意が必要です。2024年4月から施行された医師の働き方改革では、時間外労働は月100時間未満、年間960時間以内と決められています。上限を超える場合、勤務先の医療機関に罰則が科される可能性があります。
副業先が「宿日直許可」を取得している場合、その勤務時間は労働時間としてカウントされないため、上限規制の影響を受けません。宿日直許可とは、医療機関が労働基準監督署から取得する許可で、医者や看護師が行う「宿直」や「日直」の業務を、労働基準法上の労働時間規制の適用外とする制度です。本制度は、医療機関が診療体制を維持しつつ、医者の労働負担を軽減するのを目的としています。
医院承継後、開業医として働く場合も、労働時間の上限規制は適用されるため注意しましょう。また、非常勤医師を雇用する場合、その医者の労働時間管理が必要です。
患者情報の取り扱い
医者が副業を行う際には、患者情報の取り扱いに注意が必要です。医師法第19条では、医師には守秘義務が課されています。診療を通じて知り得た患者の情報を、患者の同意なく第三者に漏らすことは禁止です。副業中であっても、この義務は適用されます。
守秘義務は、診療録、検査結果、処方箋、画像データなど、患者に関するすべての情報に適用されます。副業先でこれらの情報を取り扱う場合も、厳重な管理が必要です。
仮に患者情報を副業先で利用する場合、利用目的の範囲内で利用し、利用目的の範囲を超える場合は、患者の同意を得ることを守りましょう。
個人情報保護法に違反した場合、罰金や行政指導が科され、患者の信頼を損います。その結果、医院や医者の評判に悪影響を与えるため、情報の取り扱いには注意しましょう。
よくある質問
以下では、医者の副業に関して、よくある質問を紹介します。
- 副業禁止の病院で副業したらバレる?
- 副業で得られる収入はどれぐらい?
- 忙しい医者の仕事をしながら、副業を両立する方法は?
- 就業規則で副業が禁止されている場合はどうしたらいい?
それぞれ解説します。
副業禁止の病院で副業したらバレる?
副業がバレる可能性は低いです。バレる理由として、住民税の通知、税務署からの指摘が考えられます。住民税は、本業の給与から天引きされる場合、給与に見合わない住民税額が原因で発覚しやすいです。
例えば、本業の給与に基づく住民税が月額2万円程度であるはずが、副業収入を含めた住民税が3万円以上になると、経理担当者が不審に思うでしょう。また、確定申告を怠ると税務署から指摘を受ける可能性があります。
副業で得られる収入はどれぐらい?
副業で得られる収入の目安は、以下の通りです。
収入目安 | |
非常勤医師 | 時給1万1,231円 |
スポットアルバイト | 時給1万円前後夜勤では3万円前後 |
オンライン診療 | 時給1万円前後 |
医療系記事の執筆や監修 | 文字単価3円~10円ほど |
セミナー講師 | 時給1万円以上 |
ほとんどの職種が時給1万円以上であり、高収入が期待できます。
出典:「令和3年賃金構造基本統計調査」における「短時間労働者の職種(小分類)別1時間当たり所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業別)|厚生労働省
忙しい医者の仕事をしながら、副業を両立する方法は?
本業に影響を与えにくい仕事を選びましょう。例えば、不動産投資、資産運用、オンライン診療など労力が少なめのものがおすすめです。スキルアップも目的である場合、セミナー講師や非常勤講師もぴったりです。医業承継後の運営に影響しないような働き方をしましょう。
就業規則で副業が禁止されている場合はどうしたらいい?
禁止されている場合、職場に相談して許可を得ます。副業の目的と内容、本業に影響を与えないことを説明しましょう。無断で副業すると懲戒処分の可能性があるため注意です。自分が院長なら就業規則を変更するのも一つの手段です。ただし、変更する場合は、就業規則変更届を労働基準監督署に提出する必要があります。
長期的な安定収入には副業よりも開業がおすすめ
医者の副業にはさまざまな選択肢がありますが、収入を大きく伸ばし、長期的な安定を得るには「開業」がおすすめです。特に、医院承継を活用すると設備を引き継げるため、初期コストを抑えながら開業できます。
他にも、患者をそのまま引き継げるため、新規開業に比べて集客をしやすいです。上記の通り、医院承継は新規開業に伴うリスクを減らし、短期間で経営を軌道に乗せる効果的な手段となります。
収入を増やしながら医師としてのキャリアをさらに充実させたい方は、医院承継を活用した開業をぜひご検討ください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。プレジデント社より著書『”STORY”で学ぶ、М&A「医業承継」』を上梓。