トップ面談による意思決定のヒント【譲受者向け】
目次
M&Aプロセスは、ソーシング、マッチング、中間合意、エグゼキューション、クロージングの順で進みます。マッチングからエグゼキューションに移る際、トップ面談が行われ、売り手・買い手のトップが互いの人柄や考え方を確認します。トップ面談後にM&A仲介会社の報酬が発生し、多くの定性情報が得られます。譲渡の意思決定には定量情報だけでなく訂正情報やタイミングも大切です。
本記事では、M&Aの買い手として医療機関の譲り受けを検討している方を対象にして、M&Aにおけるトップ面談の位置付けや重要性について解説します。
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M&Aプロセスの流れとトップ面談の位置付け
M&Aのディール(取引・交渉)プロセスは、一般的には、下記のように進みます。
①ソーシング → ②マッチング →(③中間合意)→ ④エグゼキューション → ⑤クロージング
ソーシングとは相手探し、マッチングとは相手との条件のすりあわせなど、エグゼキューションとは、マッチングした相手とのデュー・デリジェンス(買収監査)や、契約書の策定・締結、クロージングは代金の支払いや施設の引き渡しなどを、それぞれ指しています。
また、マッチングからエグゼキューションに進む段階で、中間合意契約書(基本合意契約書)を取り交わすこともよくあります(必須ではありません)。
マッチング段階で、譲渡医療機関の収益、財務、あるいは希望譲渡価格などの数値面や、その他条件など、資料の書面により判断できる条件内容において、売り手・買い手の希望に大きな隔たりがなく、交渉を前に進めたいとなれば、本記事のテーマであるトップ面談が実行されます。
なお、トップ面談の「トップ」とは、医療法人であれば理事長、クリニックであれば院長など組織のトップであり、M&Aの当事者となる人のことを指します。
大半のM&A仲介会社で報酬が発生するのはトップ面談の後から
大部分のM&A仲介会社では、M&Aの報酬は、トップ面談の後(中間合意後)の段階で発生します。つまりトップ面談により、互いの相性が合わないといった理由で破談になったとしても、M&A仲介会社に支払う費用は発生しないということです。
(ただし、一部には、マッチングの初期段階から「着手金」といった名目の費用が発生するM&A仲介会社もあります)。
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トップ面談の意義
M&Aの譲渡プロセスに法律で定められた手続きはありません。トップ面談も必ずおこなわなければならないわけではありません。売り手、買い手双方が、その必要がないと判断すれば実施されないこともあります。
しかし通常は、売り手、買い手双方ともに、相手の人柄を知りたいと思います。
特に、売り手にとっては、大切に経営してきた病院、クリニック、そのスタッフや患者を委ねることになる相手ですから、「お金さえ払ってくれれば、相手はどんな人でもいい」と考える売り手はあまりいません。
ほとんどの売り手は、自院と、そのスタッフや患者を大切に引き継いでくれる相手かどうか、実際に会って話して、考え方や人柄を確かめたいと考えます。
他方、買い手にとっても、後述するように、どのような医療機関なのかを知るための重要な情報をトップ面談がもたらしてくれます。
このように、互いに相手の人柄や考え方を知ることがトップ面談の主目的となります。したがって、通常はその場で譲渡価格などの条件交渉がおこなわれるようなことはありません。
譲り受けの意思決定に必要な情報の種類
M&Aの譲り受けの意思決定をするためには、数値化して表せる「定量的な情報(定量情報)」と、数値化できない「定性的な情報(定性情報)」の2種類の情報が必要になります。
数値で示すことができる定量情報
例えば、損益計算書に関する情報(医業収益、医業外収益の額、費用の額や内訳など)、貸借対照表に関する情報(資産、債務、純資産、その内訳など)は、定量情報の代表的なものです。
また、開業年数、病棟の築年数、診療科ごとの外来患者数、入院患者数、手術数、スタッフ数、またそれらの推移など、数値によって表せる情報はすべて定量情報です。
M&Aの希望譲渡価格は、これらの定量情報を主に用いて算出されますが、その譲渡価格自体も、もちろん買い手にとっては重要な定量情報です。
数値化できない定性情報
買い手が医療機関を譲り受けるのは、そのこと自体が目的ではなく、譲り受け後の事業継続により、収益、スタッフ確保、既存施設との間での送患など、経営的な効果を得ることが目的です。
譲り受け後、スムーズに経営を引き継ぎ効果が得られるかどうかには、数値では表すことができない定性情報も、大いに関係しています。
例を挙げれば、病院の組織文化、スタッフの士気、院内の雰囲気、どのようなタイプの患者が多いのか、地域での評判、競合との比較における強み、弱みなどが定性情報となります。
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定量情報に定性情報を加えて意思決定がされる
決算書のデータをはじめとした定量的な情報は、定式化された資料で容易に確認することができます。資料は、通常M&A仲介会社が用意してくれます。
一方、定性的な情報には、ニュアンスや現場の雰囲気といった、言語化が難しく、フェイス・トゥ・フェイスではなければ伝わらない情報も多く含まれます。
そういった情報は、診療時間中の医療機関を見学することや、スタッフへのヒアリングなどなどである程度わかります。しかし、それに加えて、組織のトップである売り手と直接話すことで得られる情報も多々あります。
ドクターが院長のみのクリニックであれば、トップの考え方がそのクリニックの考え方そのものですし、多数のスタッフを抱える病院であっても、スタッフの考え方や行動は、トップの方針に大きく左右されているのが普通だからです。
したがって、売り手から直接話を聞くことで、その病院の文化や雰囲気、あるいは、地域における競合と比較しての強みや弱みなど、譲り受けの意思決定に関わる重要な定性情報の多くが得られます。そのため、トップ面談がその絶好の機会になるというわけです。
実際のM&Aの場面においては、定量的な部分での条件が一定の範囲内であれば、「収益などの数値面では多少問題があるけれども、トップの理念に強く共感できるし、スタッフの士気が高いので改善が見込める」といった具合に、定量情報に、定性的な情報を加えて、最終的な譲り受けの意思決定がなされます。
譲り受けの意思決定には、タイミングも大切
現在のM&A市場では、基本的に、譲り受けの需要に対して譲渡案件の方が少ない“売り手市場”となっています。
ケース・バイ・ケースではありますが、比較的条件のよい医療機関の譲渡では、買い手候補が複数現れて、売り手が買い手を選ぶ状況になることもよくあります。
そういった場合に限らず、トップ面談は、買い手が売り手から選ばれる場でもあることを、買い手は強く意識しておく必要があります。
その上で、譲り受けの意思決定には、タイミングを捉えることも大切です。
市場が基本的に需要過多になっており、かつ、M&Aにおいては、同じ譲渡案件は2つとないことから、もし、トップ面談で売り手と意気投合して、前向きな気持ちになったのであれば、機を逃さずに譲り受けの意思決定を相手に伝えることも大切です。
まとめ
トップ面談は、M&Aによる譲り受け意思決定の大きな山場となります。資料の数字だけではわからない定性情報を得る場として、また、売り手に対して、自分が譲り受けることによるメリットをアピールする場として、トップ面談を活用しましょう。
どう話せばいいかわからないなど、トップ面談に不安がある場合は、M&A仲介会社のコンサルタントに助言を求めれば、適切なアドバイスが得られるはずです。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。