病院やクリニックの閉院理由|手続きの流れや注意点解説
目次
「そろそろ閉院を考えているが、何から手をつければいいのかわからない」
このようにお考えの先生もいるのではないでしょうか。2025年に休廃業・解散した診療所は661件で、過去最多を更新しました。同じ判断をした先生は、全国に数多くいます。
とはいえ閉院は保健所に廃止届を出せば終わるものではありません。届出先は10前後にわたり、原状回復や医療機器の処分に1,000万円規模の費用がかかる場合もあります。患者の転院先とスタッフの再就職先も必要です。
そこで本記事では、クリニックの主な閉院理由から、医療法人と個人立それぞれの手続きの流れ、閉院前に確認しておきたい注意点とコストまでまとめました。
病院・診療所の閉院理由

出典:医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)|帝国データバンク
診療所が閉院する最大の理由は、経営者の高齢化と後継者不在です。全国の診療所経営者のうち、70歳以上が56.7%を占めています。
経営難ではなく引退が理由にあることは、閉院の内容でわかります。2025年に休廃業・解散した診療所は661件で、倒産28件の23.6倍でした。倒産ではなく休廃業・解散を選ぶには、借入を返しても資産が残る状態でなければなりません。
この倍率が高いほど、閉院の時点で借入を返せる余力が残っていたことを示します。全業種の平均は6.60倍ですから、診療所では経営が行き詰まる前に自分の意思で閉院する先生が多いとわかります。
一方で病院の閉院理由は収支の悪化です。休廃業・解散15件に対して倒産は13件で、倍率は1.2倍まで下がります。2021年は11倍でしたから、この4年で倒産が休廃業・解散に並ぶ水準まで増えました。
物価高と賃上げでコストが膨らむ一方、収入は国が決める診療報酬で上限が決まっているためです。閉院の時期を自分で選べないまま、資金繰りが尽きる病院が目立ちます。
関連記事:病院の後継者不在の実態|院内継承・第三者継承(M&A)のメリット・デメリット
医療法人を解散するときの流れ

医療法人が運営する病院を閉院する際にはただ経営を終了すれば良いわけではなく、必要な手続きや提出しなければならない書類などがあります。
医療法人が運営する病院と個人が運営するクリニックや診療所では閉院の流れが異なりますので、それぞれの場合を確認しておきましょう。
まず、医療法人を閉院(解散)する場合。医療法人は、医療法第55条*に定められている通り、解散する理由によって提出書類や手続きが異なります。
医療法第55条 社団たる医療法人は、次の事由によつて解散する
一 定款をもつて定めた解散事由の発生
二 目的たる業務の成功の不能
三 社員総会の決議
四 他の医療法人との合併(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る。次条第一項及び第五十六条の三において同じ。)
五 社員の欠亡
六 破産手続開始の決定
七 設立認可の取消し
解散認可申請が必要な場合
医療法第55条における「二 目的たる業務の成功の不能」と、「三 社員総会の決議」の場合、解散認可申請が必要になります。
解散認可申請に必要な書類
- 解散の理由書
- 解散を決議した社員総会または理事会および評議委員会の議事録
- 財産目録および貸借対照表
- 残余財産の処分方法を記載した書類
- 解散及び清算人就任を登記した登記事項証明書(履歴事項全部証明書)原本
解散届の提出が必要な場合
医療法第55条における「一 定款をもつて定めた解散事由の発生」と、「五 社員の欠亡」の場合、解散届を提出する必要があります。
社員の欠亡がなくほかに医師がいる場合でも、病院を承継する医師がいなければ、社員総会の決議を経て解散認可申請を行う必要があります。
解散届の提出に必要な書類
- 医療法人解散届
- 解散を決議した社員総会または理事会および評議委員会の議事録
- 財産目録および貸借対照表
- 残余財産の処分方法を記載した書類
- 解散及び清算人就任を登記した登記事項証明書(履歴事項全部証明書)原本
解散認可申請や解散届の提出後に必要な手続き
- 解散の登記(合併、破産手続き開始の決定以外のみ必要)
- 精算人就任の登記
- 医療法人解散登記完了届
- 清算人の就任登記届の届出
- 清算手続き(2か月以内に3回以上の公告を官報に記載)
- 清算結了の登記
- 清算結了届の届け出
このほか、出資持分の払い戻しなどの対応も必要になります。
個人経営のクリニックや診療所を閉院するときの流れ

個人が運営するクリニックや個人診療所の閉院する際の流れは、医療法人の病院の閉院のときの流れとは異なります。施設のある管轄の保健所や厚生局などの各窓口へ必要書類を提出する必要があります。
必要書類と提出先
個人経営のクリニックや診療所を閉院する際に必要な手続きは、以下になります。
各都道府県によって異なる場合があるので、閉院が決まったら各都道府県の病院・医療機関向け公式ページでも確認しましょう。
- 保健所ー診療所廃止届または開設者死亡(失踪)届、エックス線廃止届
- 厚生局ー保健医療機関廃止届
- 各都道府県ー麻薬施用者業務廃止届
- 福祉事務所ー生活保護法指定医療機関廃止届
- 医師会ー退会届
- 税務署ー個人事業廃止届
- 各都道府県税事務所ー個人事業廃止届
- 医師国民健康保険組合ー資格喪失届
- 年金事務所ー適用事業所全喪届 、被保険者資格喪失届
- 労働基準監督署ー確定保険料申告書
▶閉院以外の選択肢として、クリニック売却・譲渡の進め方を詳しく見る
病院やクリニックを閉院するときの注意点
病院やクリニックを閉院するには、各関係機関へ手続を行って終了というわけではありません。
勤務するスタッフや通院患者への対応、賃貸物件の場合には解約手続きや内装工事、機器の廃棄なども行う必要があるので、閉院が決まったらスケジュールを立てて漏れなく対応するようにしましょう。
スタッフや通院患者には、閉院3カ月前までには告知を
少なくても閉院予定日の3カ月前までには勤務するスタッフに閉院する旨を伝え、通院患者への説明を協力してもらわなければなりません。
規定があれば退職金の支払いや、退職する際の社会保険手続きなども行う必要があります。通院患者にも閉院の2~3カ月前までにはほかの病院を探し、引継ぎを行うなどの配慮をするようにしましょう。
閉院後も続く、診療データの保管義務
病院には閉院後も、患者の診療データを一定期間保管しておく義務があります。
・カルテ(5年)
カルテは、閉院後も20年を目安に保存しておくと安心です。医師法が定める保存期間は5年※で、閉院してもこの義務は残ります。管理者だった先生が保管を続けることになります。
ただし患者から損害賠償を請求される可能性は、5年を過ぎても残ります。人の生命または身体が侵害されたことによる損害賠償請求権の時効は、権利を行使できる時から20年※です。万が一に備えて20年分を保存している医療機関もあります。
※出典:民法第166条第1項第2号・第167条|e-Gov法令検索
・レントゲンフィルム(3年)
レントゲン写真は、診療が終わった日から3年間の保存が義務づけられています。
出典:保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条|e-Gov法令検索
処方せん・手術記録・看護記録・検査所見記録も同じ対象です。閉院時にまとめて廃棄しないよう、残す物品を先にリスト化しておきましょう。
閉院時に気をつけたい、機器や医薬品の処分方法
X線機器を廃棄するときは、廃棄証明書取が必要になります。また、残った医薬品も返品が可能かを調べ、返品できない場合は自分で処分しなければなりません。
閉院には多くのコストがかかる
病院やクリニックを閉院するには以下のようなコストがかかります。
- 建物の原状回復又は取り壊しの費用
- 借入金の残債の清算
- 医療機器などの処分費用
- 医療機器、医薬品などの医療廃棄物の処分費用
- 規定がある場合は、従業員の退職金
- 登記や法手続きに関する費用
閉院にかかる費用は、病院の規模によっては1,000万円を超えます。私たちエムステージマネジメントソリューションズのコンサルタントが関わった案件でも、1,000万円以上もかかった例がありました。
関連記事:クリニックの原状回復費用を安く抑えるコツ5選!注意点やトラブルも解説
病院やクリニックを閉院するメリット
このように、煩雑な手続きや注意すべき点が多いことの多い病院やクリニックの閉院。閉院する前には、「本当に閉院すべきか」をよく考えるようにしましょう。
その際に判断材料となる、病院を閉院するメリットとデメリットを見てみましょう。
閉院するメリット①自分のタイミングで引退や転職できる
後継者がいなくても自分が希望する時期に引退できたり、違う職種や開業医から勤務医への転職などをすることができます。
閉院するメリット②後継者問題や経営に煩わされない
後継者がなかなか決まらず家族も一緒に悩んでいたり、経営不振に悩む病院やクリニックは多いですが、閉院してしまえばそのような悩みも解消されます。
病院やクリニックを閉院するデメリット
一方、病院やクリニックを閉院することによるデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
閉院するデメリット①通院患者がかかりつけ医を失う
経営者自身のデメリットではありませんが、閉院するということは通院の患者は継続治療が難しくなり、ほかの病院やクリニックに移ってもらわなければならなくなります。
また、地域医療が失われることにも繋がります。
閉院するデメリット②勤務スタッフが職を失う
これも経営者自身のデメリットではありませんが、自身が雇用している病院やクリニック勤務のスタッフが離職しなくてはならなくなります。
まとめ:長く続けてきた診療所こそ閉院よりも医院継承がおすすめです
2025年に休廃業・解散した診療所は661件で、過去最多を更新しました。増加の最大の要因は経営難ではなく、経営者の高齢化と後継者不在です。
先生が何十年もかけて集めた患者や育てたスタッフ、整えた設備は、閉院するとその日で消えます。手元に残るのは原状回復と医療機器の処分にかかった1,000万円規模の請求書です。
医院継承なら譲渡益を残せる可能性があります。利益が出ていないクリニックでも譲渡はでき、経営状況が厳しい場合には無償譲渡という選択肢もあります。
私たちエムステージマネジメントソリューションズでは、医院継承を専門に多くの先生をサポートしてきました。閉院の手続きを始める前に、ぜひ医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにお問い合わせください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計70件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。
【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。