【関東×内科】譲渡評価額の高い高収益クリニックを2名の若手医師が共同で医院継承
【関東×内科】譲渡評価額の高い高収益クリニックを2名の若手医師が共同で譲り受け
エリア | 関東圏 |
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診療科目 | 内科 |
運営組織 | 医療法人 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
運営年数 | 30年 |
目次
クリニックでも、業況や資産によっては、譲渡対価が数億円から10億円を超える金額となる場合があります。譲渡対価が高額になると、個人医師では買いにくくなるため、相手探しや成約までのプロセスに時間がかかるケースもあります。本件では、承継意思決定からわずか5か月でのスピード成約が実現した高収益クリニックの事例をご紹介します。
【売り手側】地域からの信頼に応えるため、将来を見据えて承継を実施
おおぞら内科クリニック(仮称)は、北関東の某市にある内科クリニックです。 市の中心部ではないものの、インターチェンジにも近い県道沿いに建てられた2階建ての診療所を経営しています。
クリニックの目の前には、自治体の要望で設置された診療所名を含んだバス停があり、朝7時の開院時刻前から通勤前の地元住民が開院待ちをしているなど、終日患者の絶えることのない人気クリニックです。医薬品は院内処方をしており、その分も含めて年間の収入(売上)は2億円超、利益は1億円超の優良経営でした。スタッフは、医師1名(院長)以外に交代で勤務する看護師が5名、薬剤師が1名で、事務職を兼務しています。
同クリニックは、30年前に院長の大空先生(仮名)によって個人クリニックとして開院され、後に医療法人化されました。
医療法人は大空先生のほか、奥様、長男の太郎(仮名)さん、長女の花恵(仮名)さんの家族全員が出資をして社員兼理事に就いています。典型的な家族経営の医療法人です。
なお、医療法人の理事長は大空先生ではなく、医師である長男の太郎さんが就任していますが、太郎さんは大阪の大きな病院に勤務して院内結婚しており、おおぞら内科クリニックを承継する意思はありません。一方、長女の花恵さんは医師ではなく医療法人の事務長として働いています。
地域住民のために、確実なクリニック承継を希望
大空先生が第三者承継を意識し始めたのは70歳近い年齢になったころでした。仕事をする上での気力や体力に衰えは感じていませんでしたが、いつなにがあるかわかりません。地域住民のために、確実にクリニックを残すことへの責任感から、自分が元気なうちに事業承継を済ませておきたいと考えました。長男の太郎さんはクリニックを承継しない意思を明確にしているため、自ずと第三者承継が候補になります。
その決断を後押ししたのは、20年ほど勤務していたベテランの看護師2名が家庭の事情から相次いで退職の意思を伝えてきたことです。
新しい若手スタッフを採用するにあたって、安心して長く働ける職場だと感じてもらうには、事業承継を済ませておくことが必要です。
そこで、スタッフの退職の申し出を契機として、大空先生は医療法人の社員でもあるご家族と話し合い、M&A仲介会社に依頼して第三者承継を具体化させることとしたのです。
ただし、院長自身は、M&A後も当面、非常勤医師として勤務することを希望していました。
【買い手側】若手医師2名が連名でクリニックを譲り受けて、共同経営へ
本件の買い手となったのは、それぞれ30代前半の若手医師、山田先生(仮名)と谷口先生(仮名)のお2人です。2名でほぼ半額ずつを出資して、連名で譲り受けをしました。承継後は共同経営をすることになります。
個人医師がクリニック(医療法人)を譲り受けるのは普通のことですが、2名の先生による共同での譲り受けは、比較的珍しいケースでしょう。
共同経営を指向
山田先生、谷口先生は、大学の同級生で、学生のころから医療に対する姿勢に共通するものがあり気が合う友人でした。
それぞれ勤務医になってからも連絡を取り合っていましたが、1~2年以内に自分たちのクリニックを持ちたいという話になって、M&A仲介会社に登録をしていたのです。
山田先生、谷口先生には、理想の医療を目指す仲間として一緒に医院経営をしたいという気持ちがありましたが、それだけが共同での譲り受けの理由ではありません。
2名共同になることで、資金的な裏付けや金融機関に対する信用力が、1名だけの場合と比べて高まります。この点も、共同譲り受けを決めた大きな理由でした。
あえて地方物件を探索
山田先生、谷口先生は、東京都内に住んでいましたが、地方のクリニックを譲り受け候補として探していました。
その理由の1つ目は、クリニックが多く競争が激しい大都市部よりも、地方で地元に根付いて経営をしているクリニックの方が競合が少ない分、将来まで安定的な経営が期待できると考えたことです。
また、都市部のクリニックはオンライン・オフライン含め、各種マーケティング施策を実施しているところが大半です。一方、地方ではまだそういった意識が浸透していないこともあります。実際、NCクリニックも、ネットでの宣伝活動などは皆無で、1ページの簡素なホームページがあるだけでした。
これは裏を返せば、マーケティング施策や経営改善施策の実施により、さらに患者を増やせる「伸びしろ」が大きいとも考えられます。これが、あえて地方での探索をしていた2つ目の理由でした。
M&Aがスムーズに進み、スピード成約が実現した理由
大空先生が、ご家族との話し合いを経てクリニックの第三者承継を決断してから、実際に譲渡契約が締結されるまで、わずか5か月ほどでした。規模が大きく譲渡対価の高いクリニックのM&Aとしては、かなりのスピード成約です。
このスピード成約の背景には、以下の2つのポイントがありました。
院長の長女がM&A担当となり、意思統一をしてから交渉にあたったこと
1つ目は、忙しい大空先生が自分の代わりに、事務長を務めていた長女の花恵さんを、いわば“M&A担当”に任命して、すべてを任せる窓口としたことです。
花恵さんは、NC院長をはじめ、家族全員の意見を集約してから、私たちM&A仲介会社や買い手との話し合いに臨みました。そのため、M&Aプロセス上の重要な論点について家族間で意見の相違が生じて交渉が滞るといった、よくありがちなトラブルが一切なかったのです。
その上、花恵さんは事務長として病院の経営状況・財務状況などをほぼ把握していたため、スピーディーな決断が可能でした。
医療法人の社員・理事であり、事務長として病院の内実を理解している家族が、M&A実務をまかされる窓口となったことが、スピード成約のポイントの1つ目でした。
M&A仲介会社を早期に1本化したこと
M&Aの検討当初、花恵さんは複数のM&A仲介会社に買い手候補の紹介を依頼していました。これはよくあることです。
しかしその後、かなり早い段階で他のM&A仲介会社への依頼を断り、私たちに一本化してくださいました。そのため、無駄なやりとりや相手の返答待ちの時間などが減ったことも迅速な成功の大きな理由でした。
私たちに一本化してまかせていただいた理由として、花恵さんがおっしゃっていたのは、「医療機関特有のM&A準備について具体的にアドバイスをしてくれた」ということでした。他のM&A仲介会社は、買い手候補の紹介はしてくれたものの、M&A準備については一般論のみで、医療機関ならではの必要な準備などのアドバイスなどが、まったくなされなかったようです。
M&Aスキームと融資について
おおぞら内科クリニックは業績も財務状況も良好だったため、譲渡対価は4億円を超える評価額となりました。クリニックとしてはかなり高額です。
その支払いスキームですが、出資持分のある医療法人であったため、基本的には出資持分譲渡+退職金支給となりました。
加えて、院長個人(別法人)が保有していたクリニックの土地・建物は医療法人が買い取ることになりました。
家族それぞれへの理事としての退職金、出資持分の譲渡対価、不動産譲渡対価を加えた総額で、院長一族が受け取った総額は5億円ほどでした。そのうち約3億円は、医療法人の内部留保から支払われたもので、買い手が負担した金額は約2億円ほどです。その全額が銀行融資でまかなわれました。
経営が安定しているクリニックで不動産の担保価値もあるとはいえ、もし仮に買い手が山田先生か谷口先生のどちらか1人だけだったとしたら、M&A資金の銀行融資は少しハードルが高かったかもしれません。
しかし本件は、2名での譲り受けであり、1名あたり1億円程度の融資額であるため、スムーズに実行されました。
本事例のポイント
最後に、本事例のポイントをまとめておきます。
①売り手家族内でM&A担当が決められたため、スムーズにプロセスが進展した
小規模な医療法人は、家族全員が社員・理事となって運営されていることが、一般的です。家族だからこそ、相続などとの兼ね合いによって利害の対立が生じ、意思決定ができない、あるいは時間がかかることがM&Aのプロセスでよく発生します。
本件の長女の花恵さんのような「取りまとめ役」を1人決めて、その人が家族内の意見集約や調整を図っておくとM&Aプロセスがスムーズに進み、早期の成約につながります。
②2名の医師が共同で譲り受け、資金調達に成功
M&A資金の融資は、基本的には将来の事業収益見込みを背景にして実施されます。
とはいえ、融資金額が数億円になり、かつ、それに見合うだけの担保価値のある個人資産を持たない場合、属人的な信用力の観点から融資のハードルはどうしても高くなるでしょう。本件では買い手が2名の連名だったため、その分属人的な信用力は高まり、融資のハードルは下がりました。
③顔が見えることが、個人の買い手の優位性
最近は多数のクリニックを譲り受け、多店舗経営を行う医療法人が増えています。そういった医療法人は資金力が強いため、本件のように譲渡対価が比較的高額となる場合は、買い手としての存在感を発揮します。
実際、本件は5件の買い手候補がありましたが、山田先生、谷口先生のコンビ以外は、すべて医療法人でした。そして、それらの医療法人は、山田先生、谷口先生たちよりやや高い譲り受け価格を提示していました。
しかし、売り手が最終的に選んだのは、山田先生、谷口先生です。その選定理由は、「承継後にどんな考え方の先生が診療してくれるのか、『顔が見える』から安心できる」というものでした。
売り手は必ずしも、対価だけを基準に譲り受け相手を選ぶわけではありません。売り手の思いを汲んでもらえるかどうかが、対価よりも重視されることも少なくありません。
多くの買い手候補の中から選んでもらう際に、どんな思いで譲り受けるのか、どんな診療をしていくのかを、顔を見せながらアピールができることは、個人医師ならではの優位性につながる場合があります。