閉院と廃院の違いは何?手続きの違いやメリット・デメリットを解説
目次
「閉院」と「廃院」は、どちらも病院やクリニックが業務を停止する際に使われる言葉ですが、その意味や手続きには明確な違いがあります。
「閉院」は一時的な休業や診療の停止を指し、将来的に再開の可能性がある場合に用いられます。一方、「廃院」は病院自体の解散や完全な業務終了を意味し、再開の予定はありません。
本記事では、これらの違いや手続きの流れ、さらにそれぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
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閉院と廃院の基本的な違い
病院・クリニックの後継者不在、または院長の入院・療養などの理由で事業を停止する場合、閉院もしくは廃院の手続きをする必要があります。
閉院、廃院ともに病院の事業をストップさせ、閉めることを意味しますが、意味が異なります。
基本的な違いとしては、閉院は病院・クリニックなどの医療機関がその事業を一時的、または永久的に停止することであり、廃院は前記の医療機関が解散し、完全に事業を終えることをいいます。
閉院とは
閉院とは、医療行為を事業として提供している医療機関が、その事業を一時的、または永久的に辞めることをいいます。
一時的な停止の場合、医療機関としての存在はそのまま残り、運営のみが停止している状態のため、医療機関の新たな承継者が出てきたり、または入院や療養をしていた開業医が復帰したりすることで、また運営を始められます。
ただし、閉院や閉院から運営を再開する際にはそれぞれの手続きが必要です。
廃院とは
廃院とは、医療行為を事業として提供している医療機関が、完全に解体、解散し、二度と事業を行えない状況になることをいい、また同時に、医療機関が法的にも存在しなくなることを指します。
閉院との大きな違いは、再開ができないという点にあります。
事業を行っていた診療所やクリニックを取り壊す、医療機関としての登録を抹消する、または医療法人として解散手続きをする場合に廃院となります。廃院する場合も、閉院と同じく必要な手続きが存在します。
閉院の手続きと特徴
閉院には一定の手続きを行う必要があり、手続きには時間、コストがかかります。
閉院の手続きの特徴としては、医療の事業に関連するさまざまな公的機関において手続きをしなくてはならないことが挙げられるでしょう。たとえば、保健所、地方厚生局、税務署、年金事務所などがあります。
閉院手続きの流れ
円滑に休業に入るためには閉院手続きが必要です。まず、閉院の決定後、患者やスタッフへの通知を行い、診療録や必要書類を整理します。
次に、公的機関への申請を行わなければなりません。保健所には休止届を、地方厚生局には保険医療機関指定の取り消し申請を提出します。税務署には確定申告を行い、年金事務所では社会保険の解約手続きを行います。
医療法65条において、正当な理由なく休止期間が1年を超えた場合、認可を取り消すことができると定められているため、廃院の目処が立たない内の休止は避けた方が無難といえるでしょう。
なお、医療機関を再開する場合にも、休止を届け出た保健所、地方厚生局へ届出が必要となります。
参考:医療法人の事業報告書等の届出及び経営情報等の報告の徹底について|公益社団法人全日本病院協会
閉院後の対応
個人診療所やクリニックを閉院した場合にも、医療機関が取得した患者に関するカルテやレントゲンフィルム、また治療用エックス線装置などの診療用放射線照射装置を置いていた医療機関においては、エックス線装置等放射線障害発生の恐れがある場所の測定結果記録を保管する義務があります。
カルテについては過去5年分、レントゲンフィルム、レントゲンデータは過去3年分、エックス線装置等放射線障害発生の恐れがある場所の測定結果記録は過去5年分を保管しなければなりません。
それぞれ根拠条文として、医師法第24条、保険医療機関及び保険医療養担当規則、医療法施行規則第30条の21、22が挙げられます。
そのほか、第1種向精神薬、第2種向精神薬を取り扱っていた場合、廃棄についての記録を行う義務があり、廃棄記録は2年間保管しなくてはなりません。
また、向精神薬は廃棄の方法についても、麻薬及び向精神薬取締法において、廃棄した向精神薬が簡単に回収できないように焼却、化学物質による分解、ほかの薬剤と混合するなどの方法で行うことが規定されています。
参考:
医師法|厚生労働省
保険医療機関及び保険医療養担当規則|厚生労働省
医療法施行規則|厚生労働省
閉院による患者・スタッフへの対応
閉院する場合、医療機関が保管する情報や薬以外にも、患者やスタッフへの対応が必要になります。
自身の診療所、クリニックをかかりつけとする患者がいる場合、事前に患者へ閉院の予定を伝え、他院へ紹介するなどの配慮をすることが大切です。もし入院施設があり、入院中の患者がいる場合には、入院の手配も必要になります。
加えて、治療費などについて未収金がある場合、閉院までにきちんと回収しておくことも重要です。
また、スタッフを雇入れている場合、スタッフにも閉院を予定している日の遅くとも2か月前には伝えて、スタッフが転職の準備に取り掛かれるようにすることが大切です。
閉院を理由にしたスタッフの解雇は雇入れをしている使用者側の事由による解雇となり、いわゆる整理解雇に該当しますが、解雇手続きに妥当性が必要とされ、妥当性を欠く場合には労働トラブルの火種となる恐れがあります。
退職金について規定を定めている場合は、スタッフに対して退職金の支払いも必要であり、また、社会保険に関する手続きも忘れてはなりません。たとえば、健康保険・労働厚生保険適用事務所全喪届や、被保険者資格喪失届などです。
廃院の手続きと特徴
廃院手続きは、医療機関が診療を廃止する際に必要な公式な手続きです。保健所へ診療所の廃止届を提出するほか、地方厚生局では保険医療機関指定の取り消しを申請します。また、税務署への廃業届提出や、年金事務所での社会保険解約手続きも必要です。
上記に加え、医療法人の場合は、都道府県に解散認可申請や解散届を提出し、資産や負債の清算を行います。一方、個人診療所の場合は、比較的簡易な手続きで済む場合が多いです。
廃院手続きの流れ
医療法人が廃院する場合、医療法第55条において規定されている以下の項目について、該当するものを理由として、解散することになります。
- 定款をもって定めた解散事由の発生
- 目的たる業務の成功の不能
- 社員総会の決議
- 他の医療法人との合併
- 社員の欠亡
- 破産手続開始の決定
- 設立認可の取消し
定款は、医療法人を設立する際に定めた法人についての基本的な規則のことをいいます。
つまり、医療法人が解散する場合は、すでに決められた解散事由に該当するか、または医師がいない、認可の取消しを受けたなどの業務が行えない状態になっている必要があるといえます。
なお、個人診療所、クリニックの場合にも、廃院の理由は廃止届において記載事項となります。
まずは廃院すべき事態にあるのかを客観的に判断する必要があるといえるでしょう。
廃院すべき状況であれば、必要な手続きを期限のあるものは期限以内に各種行い、適切な時期に患者やスタッフへの対応を行います。
なお、廃院の際の具体的な手続きとしては以下が例として挙げられます。
- 保健所:診療所廃止届、エックス線廃止届
- 地方厚生局:保険医療機関廃止届
- 福祉事務所:生活保護法指定医療機関廃止届
- 税務署:個人事業廃止届
医療機関が法人であるか、スタッフを雇っているかどうかによって必要な手続きが異なるため、不安な場合は医療機関の手続きに長けた専門家や専門会社に相談や依頼することをおすすめします。
廃院後の義務
廃院時にも閉院時と同じく、患者やエックス線に関する特定の情報について、一定期間保管の義務があります。
- 患者のカルテ保管:5年間
- レントゲンフィルム、データ保管:3年間
- エックス線装置等放射線障害発生の恐れがある場所の測定結果記録:5年間
また治療や診察などに用いた医療装置に関しても処置が必要になり、血液や病原微生物の付着の恐れがある機器はそのなかでも特に処分に手間がかかります。
それぞれの機器について、滅菌、消毒の処置を施した後、特別管理産業廃棄物の取り扱いについて許認可を得た業者を利用し、処分しなければなりません。
そのほか、使用していた什器の廃棄や、建物の処理手続きも必要になります。建物自体を取り壊す場合は取り壊し、賃貸物件の場合は原状回復が必要であり、どちらの場合も費用がかかります。
加えて、スタッフを雇用していて退職金規定を設けている場合は、退職金の支払いもしなければなりません。
以上の処理の義務から、廃院の際には、多額のコストがかかってきます。
廃院が起こるケース
多額のコストがかかってしまう廃院ですが、廃院が起こってしまうケースとしては以下が挙げられます。
- 院長が亡くなり、承継する医師の不在
- 資金調達や資金繰りなどの失敗により事業継続が困難
- 診療所やクリニックを運営する人材の確保、育成ができていない
院長1人で開業している場合、高齢化と後継者不足が重なってしまうと廃院するリスクは格段に上がるといえるでしょう。
実際に、帝国データバンクによると、2023年度の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の休廃業、解散数は急増しており、倒産件数の12.9倍もの709件の医療機関が休廃業、解散しています。
2023年度の休廃業、解散数はこれまでの最多数となり、今後も廃院となる医療機関は増加するとみられています。
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閉院と廃院のメリット
ネガティブな面が目立つ閉院と廃院ですが、メリットも存在します。
医療機関や経営者にとっては、閉院、廃院をした方がより良い選択になる場合もあり、自身のケースについて詳細に検討する必要があるといえるでしょう。
閉院、廃院を選ぶ場合のメリットは主に以下の3つです。
- 後継者問題で悩まなくて良くなる
- 自分のタイミングで引退できる
- 経営責任やストレスがなくなる
それぞれについて詳しく解説します。
後継者問題で悩まなくて良くなる
診療所やクリニックを続ける上で、必ずなくてはならない存在である後継者問題について、閉院、廃院をする場合は悩む必要がなくなります。
子供や親類に後継者となれる医療資格者がいない場合であれば、縁を頼ったり専門サービスを利用したりすることで後継者を探さなければいけません。
また、子供や承継者といった継いでくれる人が現れたとしても、自身の診療所、クリニックだけでなく、かかりつけとして利用している患者や近隣住民にとっても相応しい人物であるのかといった点で悩むことがあるでしょう。
その上、後継者の候補が複数いた場合、誰に継がせるかといった問題も発生します。
後継者問題に頭を悩ませる必要がなくなる点は、閉院、廃院のメリットです。
自分のタイミングで引退できる
閉院や廃院は、経営者のタイミングで行うことができるため、自身の決めた時期に引退することが可能です。
後継者がいたとしても、診療所もしくはクリニックを引き継ぐ前に別の病院やクリニックで働いている場合、後継者の引き継ぎタイミングに自身の引退時期を合わせるしかありません。
また、引き継いだとしても、すぐに引退できるかどうかは後継者によって違うといえるでしょう。
特に子供といった親類に引き継いでもらう場合、いつになっても承継してもらえず、自身で事業を継続するしかないといったケースも存在します。
自分のタイミングで引退ができる点は、閉院、廃院する主なメリットの1つです。
経営責任やストレスがなくなる
閉院、廃院をすることで、診療所やクリニックの経営を維持していく責任やストレスから解放されます。
自身で開業する場合、診療だけでなく、医療機関の経営をしていかなければ事業不振となり、立ち行かなくなってしまいます。
経営に失敗してしまえば、自分1人だけでなく、自分自身の家族や、雇い入れているスタッフの人生に大きな影響が出てきます。
責任を背負いつつ、さまざまなコスト管理や事務手続きを統括する経営者の立場で医療サービスを提供することは多くの人にとって重圧でしょう。
自分の代で閉院、廃院することで、これらのプレッシャーや経営責任から逃れられるという点は、閉院、廃院の大きなメリットとして数えられます。
閉院と廃院のデメリット
閉院や廃院にメリットを感じられるケースもありますが、多くの場合、デメリットの方を強く感じるでしょう。
閉院、廃院をする際のデメリットは、主に以下の4つです。
- 地域における医療が不足する
- 閉院コストがかかる
- 従業員の仕事がなくなる
- 患者の引継ぎが必要
それぞれのデメリットについて、詳しく解説します。
地域における医療が不足する
診療所やクリニックの閉院、廃院は、地域における医療の希薄化に繋がり、地域住民の医療サービス利用にとって大きなデメリットがあります。
具体的には、かかりつけとして利用していた患者が別のクリニックに行かざるを得なくなり、通院手段がないような場合、医療サービスに繋がりにくくなる恐れがあります。
また、地域医療において、クリニックが位置していた場所の医療サービスが空洞化してしまうことも否定できません。
医療環境の悪化や、これまで利用してくれていた地域の人々のQOL(クオリティオブライフ)の低下に繋がる可能性は、開院時に医療を提供していた医療従事者にとっても嬉しいものではないでしょう。
閉院、廃院による地域医療への悪い影響は、実際的な医療サービスの不充実だけでなく、関係者の心理的にもデメリットがあるといえます。
閉院コストがかかる
閉院、廃院には多くのコストがかかってしまうことも、閉院、廃院をする大きなデメリットとして挙げられます。
閉院、廃院する場合には、数多くの手続きを行う必要があり、医療や福祉に関する行政機関だけでなく、スタッフの雇用に関する機関や税務署でも手続きが必要です。建物を取り壊したり、賃貸物件を引き払ったりする場合にも費用がかかります。
医療専用の機器を処分するためにも、通常の大型家具を処分する場合よりも多くの費用を払って適切な処理を行わなければなりません。
その上、複数のスタッフを雇い入れていて退職規定を設けているクリニックの場合、退職金としてスタッフに支払わなければならない費用が膨大になってしまう可能性があります。
従業員の仕事がなくなる
これまでクリニックを支えてきてくれていたスタッフが職を失ってしまうことも、閉院、廃院のデメリットだといえます。
閉院、廃院を予定している日よりも前に従業員へ通知していたとしても、働き続けたい従業員は、閉院、廃院するまでに新しい職場を探さなくてはいけません。従業員の失職は地域雇用の縮小にもつながってしまう恐れがあります。
閉院、廃院する場合は、勤めてきてくれたスタッフに対して、通常の勤務以外の負担を強いてしまうリスクがあるといえるでしょう。
患者の引継ぎが必要
閉院、廃院をする場合、かかりつけとして利用してくれていた患者を引き継ぐ必要がある点も、閉院、廃院のデメリットといえます。
患者それぞれの症状などに合わせて他院を紹介し、時には自身で他院に赴いて引き継ぎを行わなければならない可能性もあります。また、実際に通っていた患者への説明や承諾を得る必要があり、精神的にも負担があるでしょう。
実際の手間やコストだけでなく、関係者のメンタル面でもデメリットがある恐れがあります。
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閉院や廃院を選択する際のポイント
閉院や廃院を選択する際には一度立ち止まって、ポイントごとに検討することをおすすめします。
事業の運営が現時点で困難であっても、場合によっては経営が立ち直り、閉院や廃院を選択する必要がなくなることがあります。
黒字化できるか?
閉院、廃院を検討している診療所やクリニックで現状赤字となっている場合、黒字化できるかを検討してみる必要があります。
まずは、赤字の理由をリストアップし、それぞれについて対策を考えることが重要です。たとえば、以下のような原因が挙げられます。
- 人件費が高すぎる
- 経費がかかりすぎている
- 収益が少ない
閉院、廃院を検討している大きな理由が赤字である場合は、赤字の原因についてコストカットができないか、または収益をアップする施策がないかを具体的に検討してみましょう。
運転資金は確保できるか?
閉院、廃院の手続きを始める前に、一定期間の経営に必要な運転資金を確保することが可能かどうか検討することも必要です。たとえば、以下のようなものが挙げられます。
- 家賃(賃料)
- スタッフの給与、社会保険料などの人件費、福利厚生費
- 水道光熱費
- 医療機器のリース費用
運転資金としては、金融機関の融資を受けるだけでなく、自己資金を充てるケースも考えられます。一度ランニングコストを見直し、資金調達の可否も検討してみましょう。
経営を行うモチベーションがあるか?
医療機関を経営し、診療を行う院長自身のモチベーションも、進路を検討する際に必ず考慮しましょう。
院長の体力的な問題はもちろんのこと、クリニックの資金繰りの状況や周囲の人の協力度合いによっても左右されるでしょう。
経営者自身が自分自身を振り返って、どのような選択がベストかを考える必要があります。
廃院ではなく医院継承(医業承継)を選択肢に入れましょう
閉院、もしくは廃院はさまざまな手続きやコストが必要なだけでなく、患者やスタッフへのケア、対処が欠かせません。また、状況的にも自身が高齢になったり事業が不振に陥ったりするなど、万全な状態ではないことが多いでしょう。
しかし、医院継承であれば、閉院や廃院の手続きを取らず、医療機関を存続させることができます。
閉院や廃院の判断が必要となる前に、承継者がいないなど今後閉院または廃院の恐れがある場合は早めから検討しておくとよいでしょう。
医院継承は専門家への相談が最もスムーズで効率的です。気になる方はこちらからお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。