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介護事業承継とは?4つの方法とM&Aの進め方、廃業との違いを解説

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介護事業承継とは?4つの方法とM&Aの進め方、廃業との違いを解説

介護事業の経営を続けてきたものの、「後継者がいない」「このまま単独で継続できるか不安」「廃業しかないのではないか」と悩む方は少なくありません。

介護事業は、一般的な事業承継よりも、利用者へのサービス継続、職員の雇用維持、指定や加算の管理など、検討すべき論点が多い分野です。実際、介護業界では人材確保が大きな課題となっており、厚生労働省は介護人材を「量と質の両面から確保」するために、参入促進・資質の向上・労働環境や処遇の改善に取り組むとしています。

【出典】厚生労働省「介護人材確保に向けた取組について」

一方で、介護事業の承継方法は一つではありません。親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)、廃業の4つを比較し、自社に合う方法を早めに検討することで、利用者・職員・地域との関係を守りながら次の担い手へつなげられる可能性があります。これは元原稿でも一貫している視点です。

この記事では、介護事業承継の基本、4つの方法の違い、M&Aの進め方、承継前に点検したい実務ポイント、相談先までをわかりやすく解説します。

介護事業承継とは

介護事業承継とは、介護事業所や介護法人の経営を、現在の経営者から次の担い手へ引き継ぐことです。引き継ぎ先は、親族、社内の従業員、外部の第三者などさまざまで、事業継続が難しい場合には廃業を選ぶケースもあります。

介護事業承継が難しい理由は、単に代表者を交代すれば終わる話ではないからです。介護の現場では、職員配置、人員基準、利用者との信頼関係、地域のケアマネジャーや医療機関との連携、行政対応など、経営と現場が密接につながっています。承継後に体制が崩れると、サービス品質の低下や離職、利用者離れにつながる可能性があります。これは元原稿でも繰り返し指摘されている実務上の核心です。

そのため介護事業承継では、「誰に引き継ぐか」だけでなく、「承継後も現場を安定させられるか」という視点が欠かせません。

介護事業承継の4つの方法【比較表】

介護事業承継には大きく4つの方法があります。どの方法にもメリットとデメリットがあり、正解は事業所の状況や経営者の優先順位によって変わります。まずは全体像を把握し、自社に合う方法を見極めることが大切です。

承継方法向いているケース主なメリット主なデメリット・課題
親族内承継親族に後継候補がいる理念や歴史を継ぎやすい相続・保証・適性の見極めが必要
従業員承継意欲ある幹部職員がいる現場の連続性が高い資金調達や個人保証が壁になりやすい
第三者承継(M&A)後継者が不在成立可能性が高く雇用維持も図りやすい相手選びと情報管理が重要
廃業継続が極めて難しい自ら区切りをつけられる利用者・職員への負担が大きい

親族内承継|理念や地域との信頼を引き継ぎやすい方法

親族内承継は、子どもや配偶者、親族へ引き継ぐ方法です。理念や歴史を継ぎやすく、利用者や職員、地域関係者にも受け入れられやすい点が強みです。地域密着型の介護事業では、「変わらない安心感」が承継後の安定につながることがあります。

一方で、親族だからといってうまくいくとは限りません。介護経営では、現場理解だけでなく、採用、労務、行政対応、加算管理、資金繰りなど幅広い力が求められます。後継者の適性を見極め、数年かけて役割を移しながら育成していくことが重要です。

また、相続や株式移転、借入の個人保証など、家族間で揉めやすい論点もあります。事業を継ぐ人と継がない人の納得感をどう設計するかは、早期に整理しておくべきです。

従業員承継|現場の連続性を保ちやすい方法

従業員承継は、管理者や幹部職員など、社内人材に事業を引き継ぐ方法です。現場を理解している人材が後継者になるため、利用者対応や職員マネジメント、地域連携の感覚を引き継ぎやすく、承継直後の混乱を抑えやすい方法です。

ただし、壁になりやすいのは資金面です。株式取得や出資、運転資金の確保が必要になり、個人としての信用力だけでは難しいケースもあります。そのため、金融機関との調整や段階的な持株移転など、現実的なスキーム設計が重要になります。

さらに、良い管理者がそのまま良い経営者になるとは限りません。承継後に意思決定が滞ると現場が疲弊しやすいため、経営数字を見る仕組みや権限分掌、外部相談先の確保まで含めて準備することが大切です。

第三者承継(M&A)|後継者不在時の現実的な選択肢

第三者承継(M&A)は、他法人や他社へ事業を譲渡する方法です。後継者不在でも進めやすく、条件が合えば譲渡対価を得て、借入返済や個人保証の整理、引退後の生活設計につなげられる可能性があります。介護事業承継において、現実的な選択肢として検討されることが増えています。

ただし、介護のM&Aで本当に重要なのは価格だけではありません。買い手の運営方針が現場に合わないと、職員の離職や利用者の不安を招き、結果として事業価値そのものが損なわれることがあります。トップ面談や施設見学を通じて、雇用維持やサービス品質に対する考え方を確認することが欠かせません。

また、情報管理も極めて重要です。噂が先に広がると離職や混乱を招き、交渉力が落ちることがあります。秘密保持契約を前提に、どの情報をどの段階で開示するかを整理し、デューデリジェンスに耐えられる資料を準備しておくことが必要です。

廃業|承継が難しい場合の最終的な選択肢

廃業は、事業そのものを終了する方法です。承継相手を探さずに意思決定できる点ではわかりやすい選択肢ですが、実務負担は軽くありません。清算、資産処分、原状回復、従業員対応、利用者の移行調整など、多くの手間と費用がかかります。

特に介護事業では、利用者の生活に直接影響するため、受け入れ先の調整や関係機関との連携が必要になります。結果として、経営者にも現場にも大きな負荷がかかり、想定より手元資金が残らないこともあります。

そのため、廃業は最初に選ぶのではなく、親族内承継、従業員承継、M&Aの可能性を検討したうえで、最後の選択肢として考えるほうが合理的です。

なぜ今、介護事業の承継・M&Aが増えているのか

介護事業の承継ニーズが高まっている背景には、単なる世代交代ではなく、経営環境の変化があります。高齢化により介護ニーズは今後も見込まれる一方で、事業所運営は年々難しくなっています。内閣府の令和7年版高齢社会白書では、「高齢化率は29.3%」とされています。

【出典】内閣府「令和7年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)」

特に深刻なのが、人材不足と採用難です。厚生労働省は、第9期介護保険事業計画に基づく推計として、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人の介護職員を確保する必要があると公表しています。

【出典】厚生労働省「介護人材確保に向けた取組について」

さらに、介護事業者の市場退出も増えています。東京商工リサーチによると、2025年の介護事業者の休廃業・解散は653件で、4年連続で最多を更新しました。倒産も176件と過去最多で、物価高や人手不足の深刻さが背景にあるとされています。

【出典】東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』の休廃業・解散653件 苦境の『訪問介護』が押し上げ、過去最多を更新」

こうした状況から、「限界が来てから廃業を考える」のではなく、体力が残っているうちに承継の選択肢を持ち、利用者と職員を守る形で引き継ぐ動きが増えています。これは元原稿の問題意識とも一致しています。

介護事業のM&Aの進め方

第三者承継を選ぶ場合は、一般的なM&Aプロセスを理解しておくと、準備の優先順位と交渉の勘所がつかみやすくなります。介護のM&Aでは、買い手探しよりも前に「何を守りたいか」を明確にすることが重要です。

1. 初回面談と方針整理

最初に行うべきなのは、譲渡目的を具体化することです。事業を残したいのか、職員雇用を最優先したいのか、自分も一定期間関与したいのかによって、選ぶ相手も条件も変わります。価格だけでなく、譲渡時期、従業員処遇、引継ぎ期間、個人保証の解除まで含めて整理しておくことが重要です。

2. 資料整理と情報管理

次に、決算書や試算表、指定関係書類、加算関係資料、稼働率や利用者属性などの運営実績、就業規則や賃金台帳などの労務資料を整理します。買い手が知りたい順に揃っていることが、信頼と交渉スピードに直結します。

同時に重要なのが情報管理です。秘密保持契約の締結、開示範囲の段階設定、社内周知のタイミングを設計しておくことで、不要な不安や離職を防ぎやすくなります。

3. マッチングとトップ面談

介護M&Aでは、数字だけでなく文化面の相性が重要です。トップ面談や施設見学を通じて、買い手が雇用維持をどう考えているか、サービス品質をどう保つか、現場支援体制はどうかを具体的に確認します。

4. デューデリジェンス(DD)

デューデリジェンスでは、財務、労務、法務・許認可、運営の各面が確認されます。介護では、収益構造や債務だけでなく、稼働率や加算の再現性、人員体制、未払い残業の有無、離職リスク、資格者の偏り、行政指導歴、事故・クレーム履歴などが重要な確認項目です。

5. 最終契約とクロージング

最終契約では、価格や支払方法だけでなく、従業員処遇、引継ぎ期間、表明保証、違約時の取り扱いなど、後から揉めやすい部分を丁寧に詰めていきます。クロージング後は、従業員、利用者、家族、ケアマネジャー、行政などへの説明を段取りよく進め、不安を最小限に抑えることが欠かせません。

6. 引継ぎとPMI

承継後の引継ぎは、単なる業務移管ではなく、人と文化の橋渡しです。初期100日などの運営計画を用意し、相談窓口、評価制度の変更点、シフトや業務フローの見直し時期を明確にしておくと、離職や稼働率低下を防ぎやすくなります。

承継前に点検したいチェックリスト

介護事業承継では、契約直前に慌てるのではなく、事前に論点を棚卸ししておくことが重要です。特に介護保険事業では、指定や加算、労務管理、感染症・BCP対応など、一般企業より点検項目が多くなります。厚生労働省は、介護施設・事業所向けにBCP作成支援の研修資料や動画を公開しています。

【出典】厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画」

承継前に確認したい主な項目

  • 未払い残業代や労務トラブルはないか
  • 就業規則、雇用契約書、勤怠管理は整備されているか
  • 加算算定要件を継続して満たしているか
  • 人員配置基準を安定的に満たせるか
  • 指定更新や変更届の漏れがないか
  • 行政指導、監査、返還リスクの履歴を把握しているか
  • 事故、苦情、不適切請求の疑義を整理できているか
  • BCPや感染症対応指針などの義務対応は整っているか
  • 車両、リース契約、賃貸借契約、委託契約の承継条件は確認済みか
  • キーパーソン職員の離職リスクは把握できているか

これらは「問題がゼロか」よりも、「把握し、説明できる状態か」が重要です。

介護事業の価値評価で見られるポイント

介護事業の譲渡価格は、単純に売上や利益の大きさだけで決まるわけではありません。介護は「人」と「制度」で成り立つ事業であるため、買い手は利益が将来も再現できるかを重視します。

特に評価がぶれやすいのは、人員体制、稼働率、加算の取得状況、コンプライアンスの健全性です。ここが安定している事業所は、短期的な数字が同程度でも、承継後の安定性が高いとみなされやすくなります。

評価で見られる主な指標としては、売上、利益、EBITDAなどのキャッシュ創出力に加え、利用者数推移、稼働率、有資格者比率、定着率などがあります。採用が難しい環境では、安定した人員体制そのものが大きな価値になります。

介護事業承継を成功させるポイント

早めに動く

介護事業承継は、引退直前に考えるほど選択肢が狭くなります。人員不足や管理者不在、行政対応の遅れが表面化してからでは、条件が悪化しやすくなります。比較検討できる余力があるうちに動くことが大切です。

法人・事業の見える化を進める

財務の実態、収益構造、資金繰りの傾向を整理し、説明できる状態にしておく必要があります。人材の層、有資格者比率、定着率、稼働率、加算取得状況、地域連携の強さなど、自社の強みを数値で示すことも重要です。

弱みを隠さず、改善計画とセットで示す

契約、規程、許認可、車両や設備、債務、個人保証、キーパーソン依存などは、早めに棚卸ししておくべきです。弱点を隠すのではなく、改善計画とセットで示したほうが信頼につながりやすくなります。

相手選びでは価格だけで判断しない

特にM&Aでは、譲渡価格だけでなく、承継後の雇用維持、サービス品質、現場支援体制まで確認することが重要です。介護事業の価値は、契約締結時点ではなく、承継後に現場が安定するかで決まります。

相談先の選び方

介護事業承継の相談先には、金融機関、公的機関、税理士・会計士・弁護士などの専門家、M&A仲介会社があります。どこに相談するかで、得られる支援の内容は変わります。

公的機関としては、事業承継・引継ぎ支援センターがあります。ポータルサイトでは、「国が設置する公的相談窓口」であり、親族内承継も第三者への引継ぎも含めて、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談に対応すると案内されています。

また、同サイトでは第三者承継支援、親族内承継支援、後継者人材バンクなどの支援内容も示されています。まず全体像を整理したい段階や、特定の仲介に偏らず比較したい段階で有効です。

専門家や仲介会社を選ぶ際は、介護分野での成約実績、指定や加算手続きへの理解、支援範囲、手数料体系、利益相反の有無などを確認することが大切です。

よくある質問

介護事業承継とは何ですか?

介護事業承継とは、介護事業所や介護法人の経営を、親族、従業員、第三者などへ引き継ぐことです。承継相手によって進め方や準備が変わります。

後継者がいない場合は、廃業しかないのでしょうか?

いいえ、後継者がいない場合でも、従業員承継や第三者承継(M&A)という選択肢があります。実際には、廃業の前に承継可能性を検討するほうが、職員や利用者への影響を抑えやすい場合があります。

介護事業のM&Aでは何を確認されますか?

財務、労務、法務・許認可、運営状況などが確認されます。特に介護では、人員体制、未払い残業、加算算定要件、行政指導歴、事故・苦情履歴などが重要な論点になります。

赤字の介護事業でも承継できますか?

可能性はあります。赤字でも、利用者基盤、人員体制、地域でのポジション、加算取得余地などに魅力があれば、承継候補が見つかることがあります。ただし、財務・労務・行政面の課題整理はより重要になります。これは元原稿の価値評価・DDの考え方とも整合します。

介護保険事業の指定はそのまま引き継げますか?

スキームによって異なります。介護保険事業では、指定の維持や変更手続きが重要論点であり、行政対応のスケジュールを誤ると承継後の運営に支障が出ることがあります。事前に専門家や行政への確認が必要です。

まとめ

介護事業承継は、単なる経営者交代ではなく、利用者の生活と職員の雇用を次につなぐための重要な経営判断です。選択肢は、親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)、廃業の4つに整理できますが、どれが適切かは事業所の体制や経営者の優先順位によって変わります。

大切なのは、限界が来てから考えるのではなく、比較検討できる余力があるうちに準備を始めることです。介護事業承継では、価格だけでなく、雇用維持、サービス継続、制度対応、承継後の安定運営まで見据えて進める必要があります。後継者不在で悩んでいる場合も、廃業しかないと決めつける必要はありません。まずは現状を整理し、自社に合う承継方法を比較したうえで、必要に応じて公的機関や専門家へ相談することが、後悔の少ない判断につながります。

ヘルスケアM&Aのご相談は、エムステージマネジメントソリューションズにお問い合わせください。

この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。

【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。

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