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美容クリニックの最適な広告宣伝費の割合は?媒体別の費用相場と選び方を解説

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美容クリニックの最適な広告宣伝費の割合は?媒体別の費用相場と選び方を解説

美容クリニックの経営において、広告宣伝費は患者獲得のために欠かせない投資です。
しかし「どのくらいの費用をかけるべきか」「どの広告媒体を選べばよいか」と悩む先生も多いのではないでしょうか。

そこで、本記事では、美容クリニックの適切な広告宣伝費の割合から媒体別の費用相場、効果的な広告運用のポイントまで、初心者の方にもわかりやすく適切な広告運用について解説します。

医療業界は広告に関して「医療広告ガイドライン」をしっかりと遵守しなければなりません。
残念ながら特に美容クリニック業界は、広告の表現で違反件数がもっとも多い診療科目です。
広告によって患者から信頼を失わないためにも、この記事で適切な広告運用を身につけましょう。

美容クリニックの最適な広告宣伝費は売上に対して約10%〜15%

民間企業の調査によると、医療業界における広告宣伝費の目安は、売上に対する5〜10%程度となっていて、その中でも美容クリニックは売上に対して10%〜15%程度が目安だと言われています。※

※出典:くりにっく経営の教科書

たとえば月の売上が1,000万円の美容クリニックであれば、100万円〜150万円を広告宣伝費に充てられる計算です。

医療業界の中でも美容クリニックの広告宣伝費の割合が高い理由として、自由診療が中心となる美容クリニックは認知度の向上や集患のためのマーケティングが欠かせないことが考えられるでしょう。
また、美容業界は競争率も高く、ほかのクリニックと差別化を図るためにも特に広告への投資を重要視されている先生も多いのです。

ただし、「売上に対する10〜15%」という設定は、特に新規開業の場合はあくまでも「想定売上」から逆算するしかありません。
開業直後は売上の見通しもわからないため、運営資金を圧迫しすぎない程度の広告予算を立てることも重要です。

過度な広告宣伝費によって倒産した美容クリニック

広告宣伝費を過度にかけすぎると経営を圧迫し、最悪の場合は倒産に至る可能性があります。
2024年12月に大手医療脱毛「アリシアクリニック」が破産申請を行ったことは、美容業界でも記憶に新しいニュースです。※

※出典:朝日新聞|医療脱毛「アリシアクリニック」経営法人が破産、債権者は9万人超

アリシアクリニックは急速な店舗展開と大規模な広告宣伝により知名度を上げましたが、売上に対して広告宣伝費が適正範囲を大幅に超えていたとされています。
結果として資金繰りが悪化し、民事再生法の適用を申請することになりました。

この事例でもわかるように、広告宣伝費は売上とのバランスを常に意識し、費用対効果を検証しながら運用しなければなりません。

【媒体別】美容クリニックの広告宣伝費の相場

美容クリニックが活用できる広告媒体は非常に多岐にわたります。
そこでここでは大きく下記3つに分類し、それぞれの主な広告の種類や費用相場を紹介します。

  • Web広告
  • ホームページ運用
  • その他の広告戦略

Web広告

インターネット上で行う「Web広告」は、幅広い層にアプローチできて詳細な効果測定をできる点がメリットです。
ここでは、Web広告の中でも主な広告を3つ紹介します。

リスティング広告

リスティング広告とは、GoogleやYahoo!の検索結果に表示される広告のことです。
たとえば「脱毛 クリニック」「二重整形 東京」といったキーワードで検索した際に、検索結果に「スポンサー」として上位に表示される仕組みです。

費用相場は月20万〜100万円程度ですが、競争率の高いキーワードの場合はさらに高くなることもあります。
メリットとしては、悩みが明確なユーザーに直接アプローチできて、広告を開始した直後から効果がでやすい点が挙げられます。

ディスプレイ広告

ディスプレイ広告とは、Webサイトやアプリ上にバナーや動画で表示される広告のことです。
文字だけの情報となるリスティング広告に比べて視覚的なアピールが可能で、特にクリニックの認知度向上に効果的と言えます。

費用相場は月10万円〜50万円程度です。
美容クリニックの場合、施術前後の比較画像や動画を使用したディスプレイ広告が効果的ですが、医療広告ガイドラインに注意して制作する必要があります。

また、動画作成費用なども必要となり、動画のクオリティも費用対効果に大きく影響するため業者選びが重要です。

美容系ポータルサイトの掲載

ホットペッパービューティーなどの、美容系ポータルサイトへの掲載も有効な集患方法です。
美容に関心の高いユーザーが集まるプラットフォームのため、ターゲット層にアプローチしやすい特徴があります。

掲載そのものは無料〜数万円程度が目安で、予約が発生した場合にのみ費用が発生する「完全成果報酬型」のサイトなら、運営資金を圧迫する心配もありません。
口コミ機能もあるため、患者満足度が高ければ良い評価が集まり、さらなる集患にもつながります。

ホームページ運用

クリニックの公式ホームページは、患者が最終的に利用を判断する際の重要な情報源です。
ここでは美容クリニックの顔とも言える、2つのホームページ運用方法と広告宣伝費の目安を紹介します。

ホームページ作成(SEO対策)

ホームページの制作費用は、ページ数や機能によっても大きく異なります。
基本的な10ページ程度のサイトを業者に依頼した場合は、20万円〜50万円程度が目安です。

ただし、ホームページを作成しただけでは患者は訪れません。
Googleなどの検索エンジンで上位表示され、ホームページに訪れるユーザー数を増やす必要があります。

そこで、検索エンジンでホームページが上位に表示されるための施策「SEO対策」も重要です。
SEO対策の効果が出るのは一般的に数ヶ月〜1年程度必要になるため即効性は低いですが、一度上位に表示されれば長期間にわたって集患効果が期待できます。

さらに広告宣伝費はホームページの運営費用だけなので、成功すれば非常にコスパの良い集患方法です。

MEO対策

MEO対策とは、Googleマップ検索でクリニックが上位表示されるように最適化することです。
「近くの美容クリニック」「地域名 美容皮膚科」で検索した際に、Googleマップ上に優先的に表示されるため、特に地域密着型のクリニックで効果が期待できます。

Googleが無料で提供している「Googleビジネスプロフィール」を設定することで、Googleマップ上にクリニックの情報が表示されるようになります。
MEO対策を業者に依頼した場合、月額約3万〜5万円程度が目安です。

しかし、Googleビジネスプロフィールの登録や運用は無料でできるので、費用を抑えたいなら自院での運用がおすすめです。

その他の広告戦略

デジタル広告以外にも、美容クリニックには様々な集患方法があります。
ここでは特に美容クリニック向けの広告戦略を4つ紹介します。

  • チラシ
  • 広告看板
  • インフルエンサーマーケティング
  • SNS運用

ターゲット層や地域の特性に応じて、最適な広告を選択しましょう。

チラシ

地域住民に直接アプローチできるチラシ配布は、地域密着型のクリニックには有効な手段です。
チラシの制作費用は1万円〜5万円程度、ポスティングの費用は配布枚数や地域によって異なりますが、1部あたり3円〜5円程度が相場です。

看板広告

クリニックの外観や近隣に設置する看板広告は、通行人への認知度向上に効果的です。

【主な看板広告】

  • 屋上看板
  • 壁面看板
  • 駅看板
  • 電柱広告
  • デジタルサイネージ

特に駅前や商業施設の近くで開業するクリニックにとって重要な集患方法と言えるでしょう。
費用相場は制作費用が20万円〜100万円、設置費用が月額5万円〜30万円ほどです。

インフルエンサーマーケティング

SNSで影響力のあるインフルエンサーに、クリニックでの施術体験を投稿してもらうマーケティング手法です。
特に若い女性層に対する訴求力が高いことから、特にTikTokやInstagramのインフルエンサーマーケティングが美容クリニックとの相性は抜群です。

費用はインフルエンサーのフォロワー数や平均再生数、投稿される媒体でも大きく異なります。

【費用の目安】

TikTokInstagram
フォロワー数 × 3〜5円フォロワー数 × 1〜6円

例えばフォロワー数1万人のTikTokインフルエンサーに依頼した場合、1投稿あたり3万〜5万円という計算です。

ただし、美容系インフルエンサーに依頼する際には、医療広告ガイドラインを理解しているのか、投稿動画などからチェックすることも重要です。

SNS運用

クリニックの公式SNSアカウントを開設し、施術内容や院内の雰囲気を発信する方法です。
TikTokやInstagramなどの動画配信サービスが特に効果的で、若い世代への認知度向上に役立ちます。
自院でSNS運用を行う場合は、人件費程度のコストで済みます。

しかし、効果的な投稿を継続的に行うには専門知識やノウハウも必要なため、外部の運用代行会社に依頼しているところも多いです。
運用代行を依頼する場合、企画からコンテンツ制作、投稿、効果分析まですべて任せられるサービスもあります。

費用は月額10万円〜30万円程度で、投稿頻度や動画制作の有無によって変わります。

美容クリニックの患者層に応じた最適な広告媒体の選び方

広告の効果を最大限発揮するには、闇雲に広告を出すのではなく、ターゲットとする患者層に合わせた媒体選びが重要です。
クリニックがアプローチしたい患者が、普段どのような媒体に触れているのか考慮し、戦略的に広告を使い分けましょう。

地域密着型で高齢者向けならオフライン広告

クリニックの周辺地域に住む住民や、比較的年齢層の高い世代を主なターゲットとする場合、オフライン広告が効果的です。 
たとえば、新聞折込チラシやポスティングは、特定のエリアに確実に情報を届けられます。

特に高齢者は時間をかけてチラシを読む傾向にもあり、クリニックの詳細な情報を伝えやすい点もメリットです。
また、地域の信頼性を重視する傾向にもあるため、院長の経歴や実績、地域での活動歴などを前面に出すことで、安心感を与えられます。

若い世代や認知度UPが目的ならオンライン広告

10代〜30代の若い世代へのアプローチや、広範囲にわたるクリニックの認知度向上が目的であれば、オンライン広告のほうが効果的と言えます。

この年代はスマホによる情報収集が当然の世代なので、SNSによる口コミや評判を重視する傾向にあるためです。

そのため、特にSNS広告やインフルエンサーマーケティングは、若い世代に響きやすい手法と言えます。
また、リスティング広告や美容系ポータルサイトは、美容への関心が高い顕在層に直接アプローチできるため、効率的な集患を期待できます。

【要注意】美容クリニックの広告運用は医療広告ガイドラインを遵守

美容クリニックが広告を行ううえで、必ず遵守しなければならない点が「医療広告ガイドライン」です。
これは、不適切な広告から患者を守るために厚生労働省が定めたルールであり、違反した場合には罰則が科せられる可能性もあります。

【医療広告ガイドラインの主な規制内容】

  • 治療効果に関する誇大な表現
  • 加工や修正した術前術後の写真の掲載(※限定解除要件あり)
  • 「必ず成功」「絶対安全」などの保証表現
  • 「〇〇満足度No.1」など、客観的な根拠のない最上級の表現

関連記事:医療法による広告規制と限定解除要件|NG表現事例紹介

特に近年は消費者による通報も多いため、医療広告ガイドラインを遵守しなければ患者からの信頼がすぐに失われてしまいます。

医療広告の違反に関する通報は令和5年度で2,214件

厚生労働省の発表によると、医療広告に関する違反通報が令和5年度で2,214件もあります。
そのうち、審査が実施され「違反あり」と判断されたのは1,664施設です。

厚生労働省|ネットパトロール事業について(令和5年度)

出典:厚生労働省|ネットパトロール事業について(令和5年度)

この数字から、クリニックの不適切な医療広告に対して、世間の目も厳しくなっていることがわかります。

医療広告ガイドライン違反は美容クリニックが最多

ネットパトロール事業の報告では、違反が確認された広告を分野別に集計したデータも公開されています。

厚生労働省|ネットパトロール事業について(令和5年度)

出典:厚生労働省|ネットパトロール事業について(令和5年度)

上記のデータを見てみると、違反サイト数がもっとも多かったのは「美容」分野で362サイト、1サイトあたりの平均違反件数も8.0件と、他の分野を大きく引き離して最多となっています。

これは美容クリニックの特性上、特に術後の変化に関する不適切な表現をしてしまったり、他のクリニックとの差別化を図ろうとした結果、誇大な表現をしてしまったりしていることが考えられます。

これらの違反を避けるためにも、自院で広告を作成する際に医療広告ガイドラインを必ずチェックするのはもちろんのこと、外注する際は医療広告の知識に長けている業者選びが重要です。

医療広告ガイドライン違反による罰則

医療広告ガイドラインに違反した場合、罰則の対象となり6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

さらに悪質な違反を繰り返した場合には、管理者の変更命令や開設許可の取り消し、または閉鎖命令といった厳しい行政処分を取られることもあるので注意が必要です。※

出典:厚生労働省|医療広告ガイドラインに基づく標準的な対応期限も含めた指導・措置等の実施手順書のひな型について

もしも医療広告ガイドライン違反に関する通知が届いたら、すぐに改善を行いましょう。

美容クリニックの広告運用を最大限活かすポイント

厳しい規制がある中でも、工夫次第で広告の効果を最大限に高めることは可能です。
ガイドラインを遵守しつつ、集患につながる広告運用のポイントを解説します。

ターゲットを明確にする

効果的な広告運用には、まずはターゲットとなる患者層を明確にすることから始まります。
年齢や性別、職業、ライフスタイル、美容への関心度など、詳細にターゲット(ペルソナ)を設定しましょう。

【ターゲット設定の具体例】

  • 30代前半の働く女性:年収400万円〜600万円、美容への関心が高くて日常的にSNSを利用
  • 40代後半の主婦:時間的に余裕があり、エイジングケアに興味を持っている
  • 20代後半の大学生:新社会人、脱毛やニキビ治療に関心があり、価格を重視

自院のターゲットが明確になれば、適切な広告媒体や訴求すべきメッセージなどの判断がスムーズになります。

独自性のある強みや理念をアピールする

競合の多い美容クリニック業界では、他院との差別化が成功の鍵です。
クリニックの独自性や強みを明確にし、それを一貫してアピールしましょう。

【差別化のポイント】

  • 院長の経歴や専門性(形成外科専門医、皮膚科専門医など)
  • 特殊な機器や最新技術の導入
  • アフターケアの充実
  • 患者への寄り添った診療方針
  • 清潔で落ち着いた院内環境

ただし「最高の技術」「地域一の実績」といった比較優良表現は医療広告ガイドライン違反となるため注意しなければなりません。
客観的事実に基づいた表現を心がけ、具体的な情報を提供することで信頼性を高めましょう。

実績や数字を打ち出す

患者の信頼を得るためには、具体的な実績や数字が効果的です。
ただし、実績を公開する際にも医療広告ガイドラインに従い、客観的で検証可能な情報を掲載しなければなりません。

【適切な実績公開の例】

  • 開院からの年数
  • 月間患者数(概算)
  • 院長の経験年数
  • 保有する医療機器の種類
  • スタッフの資格や研修実績

「症例数○○件」といった具体的な治療実績も「限定解除の要件」を満たせば掲載可能です。
ただし、その場合でも期間や治療内容、リスク、副作用といった内容を併記しなければなりません。

クリニックに対する口コミや投稿は丁寧に返信をする

患者はGoogleマップの口コミやSNSの評判を参考に、クリニックを選ぶことも多いです。
そのため良い口コミはもちろんのこと、たとえ厳しい意見が書かれたとしても、真摯に受け止め丁寧に返信しましょう。

特にネガティブな口コミに対して、改善していく姿勢を示すことが欠かせません。
口コミは他のユーザー(患者)もよく見ているため、誠実な対応を心がけることがクリニック全体の評判向上につながります。

ネガティブな口コミは貴重な意見ですので、しっかりとスタッフと共有し、今後のクリニック運営の改善につなげていきましょう。

関連記事:クリニックが成功するスタッフ教育とは?「やってはいけないこと」や重要なポイントを解説

まとめ|適切な広告宣伝費と患者層に合わせた広告選びが重要

美容クリニックの適切な広告宣伝費は、売上の10%〜15%が目安です。

比較的年配の患者にはチラシや看板といったオフライン広告が効果的で、20代〜30代などの若い世代にはSNS運用やインフルエンサーマーケティングなどのオンライン広告が適しています。

そして広告運用で何よりも重要な点が、医療広告ガイドラインの遵守です。

医療広告に関係なく、ユーザーはいわゆる「広告」に対して不快に思ったり、不信感を抱いたりする傾向が強くなっています。
適切な表現を心がけないと、かえってクリニックの信頼を落としてしまうでしょう。

違反件数の多い美容業界だからこそ、ガイドラインに則って誠実に発信したほうが患者から信頼され、結果的に安定した集患にもつながります。

医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継

この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。

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