ロックイン戦略とは?種類やメリット・デメリット、活用方法を解説


目次
「患者がなかなか定着しない」「新患を獲得してもすぐ離れてしまう」などの悩みは、多くのクリニックが抱える課題です。課題を放置すれば、経営は安定せず、将来への不安も大きくなります。
そこで実施したいのがロックイン戦略です。ロックイン戦略により患者が定着すれば、経営の安定につながります。
本記事では、ロックイン戦略の種類や具体的な導入方法、注意点までを詳しく解説します。医院承継を検討している方や集患に課題を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
医院継承について無料相談してみませんか?
エムステージグループの支援サービスについての詳細はこちら▼
ロックイン戦略とは
ロックイン戦略とは、ユーザーを自社の製品やサービスに囲い込み、他社へ移りづらくして安定した売上を確保する手法です。具体的には、会員制プログラムや独自のポイント制度、使い慣れたシステムの提供などがあります。その結果、顧客は他社への乗り換えを躊躇し、継続的な利用が期待できます。
クリニックでは、定期通院しやすい仕組みや予約のしやすさ、安心感のある対応などで実施可能です。ロックイン戦略により患者の定着率が高まり、安定した経営が実現できるでしょう。
ただし、ロックイン戦略に依存しすぎると新規患者の獲得が疎かになり、新患率が低下して経営が衰退していくなど将来的なリスクを抱えるおそれがあります。同時に新規患者の増加も並行して考え、バランスの取れた経営を行うことが重要です。
ロックイン戦略の種類
ロックイン戦略には、主に4種類あります。具体的な内容は以下の通りです。
経済的ロックイン | 顧客が他の選択肢に切り替える際に、経済的なコストが発生する仕組みを作る戦略。例)ポイントプログラムや割引制度を導入し、継続利用すると経済的なメリットを提供する。 |
技術的ロックイン | 特定の技術やシステムに依存させることで、他の選択肢への移行を難しくする戦略例)専用のアプリやオンライン予約システムを導入し、患者がそのシステムに慣れることで他院への移行を抑制する。 |
心理的ロックイン | 顧客の感情や信頼を基盤に、ブランドやサービスへの依存を高める戦略例)高品質なカスタマーサービスや個別対応を通じて、患者との信頼関係を構築する。 |
契約的ロックイン | 法的または契約上の制約を設けることで、顧客が他の選択肢に移行しにくくする戦略例)定期的な健康診断プランやメンバーシップ契約を提供し、長期的な関係を築く。 |
上記のロックイン戦略を導入すると患者の定着率増加につながります。ただし、過度なロックイン戦略は患者の不満につながるため注意しましょう。
ロックイン戦略のメリット
ロックイン戦略のメリットは大きく2つあります。
- 患者の継続利用を促進できる
- クリニックの価値の向上につながる
以下で詳しく解説します。
患者の継続利用を促進できる
患者の継続利用は、診療時に次回の予約を決定すると、自然に通院しやすい環境を整えられます。また、患者ごとにオリジナルのケアプランを提供することも有効です。
通院が習慣化されると医院の収益も安定し、経営の見通しが立てやすくなります。
医院承継後も、継続的に利用してくれる患者の存在は、新しい経営者にとっても大きな強みです。そのため、患者の流出を防ぎ、安定した収益基盤を整える体制づくりが大切です。
クリニックの価値の向上につながる
ロックイン戦略を活用すると、クリニックのブランド価値を高められます。患者が一度クリニックを利用し、診療の質やサービスに満足すると、信頼感が高まりやすいです。
たとえば、ポイント制度の導入や予約システムの会員登録制など、患者が「他院よりも通い続けたほうが得」と感じる仕組みを整えると、自然とリピート率が向上します。満足した患者は、クリニックに対してポジティブな印象を持つためです。
信頼されるクリニックになること、新規患者の獲得はもちろん、既存患者の定着率も向上し、安定した経営につながるでしょう。

ロックイン戦略のデメリット
ロックイン戦略にはデメリットもあります。
- 患者の不満につながるリスクがある
- 競争力の低下につながる
- 患者離脱時の損失が大きくなる
それぞれ解説します。
患者の不満につながるリスクがある
ロックイン戦略には、患者の不満につながるリスクがあります。特定のクリニックやサービスに囲い込むことで、他の選択肢を奪う形になりやすいためです。たとえば、診療時間や診療科目が限られている場合でも、他院に切り替えにくくなるため、患者は不便さを感じる可能性があります。
過度なロックイン戦略は、患者が「縛られている」と感じ、ストレスを蓄積してしまう原因です。不満が高まると、クリニックのサービス全体に対する評価が低下し、ネガティブな口コミが広がるリスクが高まります。
口コミサイトやSNSでの悪評が拡散されると、新規患者の獲得にも悪影響を及ぼしかねません。そのため、ロックイン戦略を導入する際は、患者の利便性や満足度を損なわないよう慎重に設計する必要があります。過度な囲い込みは逆効果になり得るため注意が必要です。
競争力の低下につながる
ロックイン戦略は、現状に満足して新たな取り組みへの意欲が低下するリスクがあります。患者が特定の医療機関に慣れ親しむと一定の固定客を確保できますが、その安定感が現状維持の意識を生み、新しい医療技術や治療法の導入を遅らせます。
医療業界では技術の進歩が著しく、新しい治療法や設備を積極的に取り入れる向上心が必要です。現状に満足してしまうと、他の医院がより高度な技術を導入した際に患者が流出する可能性が高まります。患者はより良い治療を求めて選択肢を広げるため、競争力を維持するには常に進化し続ける姿勢が必要です。
医院の承継後も安定した経営を続けるには、新しい技術の導入や集客方法の工夫が欠かせません。オンライン診療の活用やデジタルマーケティングの強化など、時代に合った戦略を積極的に採用すると、長期的な成長が期待できます。
患者離脱時の損失が大きくなる
患者の継続利用が収益の大半を占めるため、患者離脱時の損失が大きいです。たとえば、自費診療やリピーターを重視する診療科では、一度ロックインに成功すれば安定した収益を確保できます。しかし、仮に何らかの理由で主要な患者層が離脱すると、収益は一気に減少し、経営に大きな影響を与えます。
離脱した患者の穴を埋めるために新規患者の獲得に取り組んでも、その成果がすぐに現れるわけではありません。広告やマーケティングにはコストがかかり、信頼を築くには時間が必要です。特に、地域医療では口コミの影響が大きいため、新規患者を獲得するには長期的な取組が求められます。
そのため、医院承継では、ロックイン戦略だけに依存せず、新規患者の流入経路を確保するのも重要です。デジタルマーケティングの活用など、持続的な成長を支える施策を並行して進めると、経営の安定化を図れます。
医院承継(医業承継)でロックイン戦略を活用する方法
ロックイン戦略を活用する方法は主に3つあります。
- 定期検診や診察後にフォローを実施
- 利便性を向上させるツールの導入
- 地域密着型サービスを提供
詳しく解説します。
定期検診や診察後にフォローを実施
医院承継を成功させるためには、既存患者との関係維持と新規患者の定着が重要です。そのための有効な手段が、定期検診や診察後のフォローの徹底です。
診察後に次回の予約を積極的に案内したり、患者の症状や治療計画に関するフォローを行うと、患者との信頼関係を深められます。
上記の施策を継続すると、患者の来院習慣が定着し、医院経営の安定につながります。医院承継後にスムーズな運営を実現するためにも、ロックイン戦略を活用した患者フォローの仕組みを積極的に取り入れることが重要です。
利便性を向上させるツールの導入
ロックイン戦略の一環として、利便性を向上させるツールの導入が重要です。オンライン予約システムや電子カルテと連携した患者専用アプリを導入すると、患者は診療履歴の確認や予約をスムーズに行えます。待ち時間の短縮や受付業務の効率化にもつながり、患者満足度の向上が期待できます。
また、オンライン診療を取り入れると、自宅から診療を受けられる環境が整い、通院の継続もしやすいです。「予約が取りづらい」「診療の流れが分かりにくい」などの不満が解消され、他院へ移る理由を減らせます。承継後も患者が安心して通い続けられる体制を整えると、医院承継の成功につながります。
地域密着型サービスを提供
地域密着型のサービスを強化することはロックイン戦略として有効です。地域住民に向けた健康教室やセミナーを定期的に開催すると、地域の人々との接点を増やせます。たとえば、高血圧や糖尿病予防の講座、運動指導、食生活改善セミナーなどを実施すれば、地域住民の健康意識の向上にも貢献できます。
継続的な活動により、地域住民との関係が深まり、医院の認知度や信頼性の向上につながりやすいです。医院継承では、新しい院長の顔を知ってもらう機会にもなり、スムーズな承継が期待できます。また、信頼関係が強固になれば、患者は他院へ移らずに継続的に通院する可能性が高まるでしょう。
結果的に、新患の獲得や既存患者の離脱防止につながり、安定した経営基盤を確立できます。地域密着型サービスの提供は、医院経営を長期的に成功へ導く重要な施策です。
関連記事:開業医が知るべき、患者が来ない理由と集患・増患対策
ロックイン戦略を実施する際の注意点
ロックイン戦略を実施する際には、以下の3点に注意が必要です。
- 患者の不満を溜めない
- 継続的にサービスを改善する
- 現状の患者に依存しすぎない
それぞれ解説します。
患者の不満を溜めない
ロックイン戦略とは、患者が特定の医院から離れにくくなる仕組みです。しかし、強引な囲い込みを行うと、患者の不満が蓄積し、かえって離脱を招くリスクがあります。たとえば、電子カルテや診療予約システムの変更によって他院への転院が困難になる状況を作り出した場合、患者は不便さを感じ、医院に対する信頼を失う可能性があります。
医院承継の際には、患者が「医院を引き続き利用したい」と思える環境づくりが重要です。ロックイン戦略を進める際は、患者の利便性や快適さを高める形で導入する必要があります。
患者の選択肢を奪わず、むしろ通い続けると得られるメリットを実感してもらうことが大切です。自由な選択を尊重しながら、信頼を育てる取り組みが医院経営の安定と成長につながります。
継続的にサービスを改善する
ロックイン戦略を成功させると患者が定着しやすくなりますが、それに満足してサービス改善を怠ると、患者の離脱を招くリスクがあります。医療機関では患者の信頼が重要であり、一度不満を持たれると他院へ移ってしまう可能性が高いです。そのため、ロックイン戦略を実施した後も、患者満足度を高めるために継続的なサービス改善が不可欠です。
一定数の患者が離れてしまった場合、新しい患者の来院が見込めなければ、経営へのダメージは大きくなります。特に、口コミやオンラインの評判が影響を与える現代では、一度悪評が広がると新規の獲得も困難です。そのため、定期的に診療の質やスタッフの対応を見直し、患者に選ばれ続ける医療機関を目指すことが重要です。
現状の患者に依存しすぎない
ロックイン戦略を成功させると、患者が安定して通院し、継続的な収益が期待できます。しかし、たとえ現在の患者が定着しているように見えても、ライフスタイルの変化や転居、競合クリニックの出現などにより離脱するリスクは常に存在します。そのため、現状の患者に依存しすぎると、思わぬ経営リスクにつながるおそれがあります。
リスクを回避するためには、新患の獲得にも継続的に力を入れることが大切です。たとえば、SEO対策を強化して検索流入を増やしたり、地域の健康イベントに参加して認知度を高めたりするなど、複数の施策を活用すると効果的でしょう。また、口コミを促進するために既存患者の満足度向上を図ることも、新患獲得につながります。ロックイン戦略と新患獲得のバランスを取りながら、安定した経営基盤を築くことが大切です。
ロックイン戦略を活用して集患を成功させましょう
ロックイン戦略を活用すると、患者が継続的に来院しやすい仕組みを作れます。定期的なフォローアップや会員制度などを導入すれば、患者の健康維持をサポートしながら、安定した経営基盤を築くことが可能です。
戦略には「経済的」「技術的」「心理的」「契約的」の4種類があり、適切に活用すれば患者の継続利用や医院のブランド価値向上に効果的です。しかし、過剰な囲い込みは患者の不満を招くリスクがあります。
たとえば、解約の手続きが煩雑だったり、不要なサービスが押し付けられると、かえって患者の信頼を損ない、離脱につながる可能性があります。
医院承継の際は、以前の経営方針を見直しながら適切なバランスを保つことが重要です。新しい患者層の獲得と既存患者の定着を両立するためには、ロックイン戦略にくわえて新患を取り入れるための施策の実施が必要です。その第一歩として、ロックイン戦略で医院承継後の集患を成功させましょう。
クリニックの開業をご検討中の方は、医院継承に特化した私たちエムステージマネジメントソリューションズに、ぜひご相談ください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。プレジデント社より著書『”STORY”で学ぶ、М&A「医業承継」』を上梓。