【関西×小児科】売り手と買い手が良好な関係を築き、自宅兼診療所のクリニックを承継

【関西×小児科】売り手と買い手が良好な関係を築き、自宅兼診療所のクリニックを承継
【関西×小児科】売り手と買い手が良好な関係を築き、自宅兼診療所のクリニックを承継
エリア 関西圏
診療科目 小児科、内科
運営組織 医療法人
譲渡理由 後継者不在
運営年数 30年

クリニックでは、院長の自宅建物の一部を診療所スペースとしているケースも少なくありません。このような場合、売り手がその建物に居住したままで、クリニックを譲渡することは難しいと考えられるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。

今回ご紹介する事例も、住宅街にある木造住宅の2階に院長が居住し、1階部分で開院されているクリニックでした。院長が譲渡を望まれた状況や、買い手が重視した点、M&A成功のポイントについて解説します。

【売り手側】30年間診療を続けるも健康不安により承継を検討した院長の山崎先生(71歳)

山崎クリニック(仮称)は、関西地方某県の住宅街の一角に所在します。診療科目は内科・小児科で、もとは小児科の勤務医だった山崎先生(仮名)が、30年ほど前に、1階が診療所、2階が自宅となる木造住居を建てて、開院しました。

運営主体は出資持分の定めがある医療法人で、院長個人が所有する建物の、診療所スペース部分を医療法人に貸し付ける形となっています。

30年の長きにわたって診療を続けてきた山崎クリニックには、祖父母、親、子と、3代にわたって通われてきた患者さんもおり、地域住民から厚い信頼を受けています。

その信頼に応えるため、ほとんど休みもなく診療を続けてきた山崎先生ですが、70歳を超えて体に不調が生じ、これまで通りの診療を続けることに不安を覚えるようになりました。山崎先生にはお子さんはいましたが、医師ではなく地元から離れたところで働いているため、親族内承継はできません。

「万一、自分が倒れるようなことがあれば、住民の皆さんに迷惑を掛けてしまう」

そう考えた山崎先生は、元気なうちにクリニックを承継させることが地域住民への責任を果たすことだと考えてM&Aを検討し、私たちにご相談いただきました。

【買い手側】医師・経営者として、クリニックの理想を追求したい

私たちは、提携先を含む買い手候補のデータベースから、数件の候補をピックアップしました。その中で、最初にお声をお掛けしたのが、山崎クリニックと同じ市内にある大手病院で内科医として勤務していた42歳の金谷先生(仮名)です。

金谷先生は、医師でありながら、経営大学院に通ってMBA(経営学修士号)を取得されたという経歴の持ち主です。それもあって、かねてより現状の医療現場の経営マネジメントや人材マネジメントへの改革志向を持たれていました。

患者さんのウェルビーイングをより高め、かつ、スタッフもやりがいと喜びを持って働けるような、理想の医療機関を自らの手で経営したいという強い思いを持たれていたのです。

優良経営のクリニックだが、譲渡にあたっての懸念点もあった

地域住民からの信頼が厚い山崎クリニックは、患者が途切れることなく、安定して高い収益を上げていました。山崎先生も相応の報酬を得ていましたが、それでも医療法人への内部留保は2億円ほどを残していました。業績・財務的には、優良クリニックです。

一方で、山崎クリニックの譲渡検討の際に、懸念される点もありました。

山崎先生は、お一人で小児科・内科を診られており、患者さんのニーズもあることから、後任の院長にもその両方の診療科を引き継いでほしいという要望があったことです。内科は大人の患者が対象であり、小児科はもちろん子どもが対象です。

特に小児科は専門性が高いので、医師の専門分化が進んでいる昨今では、両方の専門的な経験を持つ買い手は少ないことが懸念されました。

懸念点を解消した方法

上記の懸念点に対して、私たちは内科・小児科の両方に対応可能な買い手候補を数名選定しました。

結果として、最初にご紹介した金谷先生とのマッチングがスムーズに進み、わずか5か月ほどの短期間で最終契約までこぎ着けることができました。

金谷先生は、そのときは内科の勤務医でしたが、以前は救急救命医として勤務していたことがあり、子どもの外傷などの診療はある程度の経験がありました。

また、売り手、買い手双方の不安を払拭するために、譲渡契約の締結後、実際に院長を交代する前に、金谷先生はそれまでの勤務先を退任せず、非常勤医師として山崎クリニックに勤務してもらい、山崎先生から直接指導してもらいながら、小児科の診療ノウハウをキャッチアップしてもらうことを、私たちからご提案しました。

そして、実際に、約4か月間そのような形での実地指導が行われました。

さらに、院長を交代した承継後も、山崎先生にフォローしてもらうために、週に1回、非常勤医師として働いてもらうという契約を結ぶことができました。この際に、山崎先生が診療所の2階に居住しているということが、プラスのポイントとなっています。

これらのファローアップ関係が築けたことにより、スムーズに、内科・小児科クリニックを承継できる目処が立ったのです。

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営業権(のれん代)はゼロで算定した譲渡価格

今回は、出資持分の定めがある医療法人の譲渡となったため、譲渡対価の支払い方法としては、「出資持分譲渡+退職金スキーム」と呼ばれる方法を採用しました。

出資持分の譲渡価格の算定に際しては、医療法人の「時価純資産価額」に、いわゆる「営業権(のれん代)」と呼ばれるプラスアルファ部分を乗せた、「時価純資産額+営業権」として算定することが一般的です。

しかし今回、山崎先生は地域住民への責任としてクリニックを無事に承継させることを主眼としており、M&Aによって多額の譲渡利益を得ることは考えていませんでした。そのため、営業権(のれん代)はゼロ円と評価して、単純に時価純資産額だけで評価すればよいとおっしゃいました。

一方で、法人に内部留保されていた現金の大半は、譲渡前に退職金として山崎先生に支払われます。30年も院長を務めていたので、退職金の非課税額を計算する功績倍率法を考慮しても、相当に多額の退職金を支給することが可能でした。

なお、医療法人譲渡であるため、山崎氏個人の所有である診療所の賃料は、それまで通り、医療法人から山崎氏個人に支払い続けることになります。

スキームのメリット

このスキームにより、今回のケースでは以下のメリットが生じました。

1点目は、医療法人にあった内部留保の大半を退職金として支給したため、時価純資産価額が縮小し、結果として譲渡対価が下がったことです。今回は営業権もゼロ円とされたこともあり、買い手の金谷先生が負担した対価額はかなり抑えられた金額となりました。

2点目は、多額の退職金支給によって、医療法人のその期の決算では大きな欠損金(赤字)が計上されたことです。その欠損金は翌期以降に繰り越されて、翌期以降の課税収益と相殺される「繰延税金資産」となり、承継後の経営にとってプラスとなります。

クリニック承継後の状況

金谷先生は、院長交代をする少し前から非常勤で山崎クリニックに入っていましたが、山崎先生のこれまでの歩みをまとめて、功績をたたえる「壁新聞」を手作りで作成して、クリニック内に掲示をしました。

また、山崎先生が退任する日には、患者さんや近所の住民を集めて、退任式も大々的に実施しています。退任式では、山崎先生の生まれ年のワインを用意して、それをプレゼントするとともに、クリニックに飾るなど、感動的なセレモニーになりました。

地元の医療維持に多大な貢献をしてきた山崎先生、山崎クリニックが引き継がれ、代替わりして新体制で今後も続いてくという「承継ストーリー」を地元の方たちに伝えて、山崎クリニックブランドを訴求していったのです。

こうした施策も奏功して、承継後も、以前と変わらない規模で患者さんを迎え入れることができています。

一方、売り手の山崎前院長はクリニックの経営を金谷先生に任せつつ、必要に応じて金谷先生をフォローしてクリニックのスムーズな運営を支え、また、自身も週に1回だけ医師として出勤して顔なじみの患者さんを診察するなど、無理のない働き方を続けられていることに大いに満足しています。

クリニック承継成功のポイント

本ケースの成功のポイントをまとめておきます。

①売り手側の考えるM&Aの目的が明確だったこと

第一の成功要因は、売り手の山崎先生が「地域に医療機関を残す」という目的を、当初から明確にしていたことでしょう。そのために、営業権(のれん代)をゼロ円にするという買い手に有利な条件を設定し、また、買い手に求めるマインドや医療スキルも明確にしていたことが、早期の成約に結びつきました。

②買い手側が悩まずに即決したこと

売り手の山崎先生はもちろん、買い手である金谷先生にとっても、今回が初めてM&A経験でした。初めてM&Aの買い手となる方によくある失敗が、「もっといい条件があるのではないか」と目移りしたり、欲張りすぎたりして、交渉に時間を掛けてしまい、せっかくの好条件の売り案件が、他の人に買われてしまうというケースです。

その点、金谷先生は、私たちが説明する今回の好条件のポイント、収益力の高さや、営業権がゼロ円であること、繰延税金資産が生じることなどをすぐに理解していただき、即決で譲り受けを決断していただけました。これも、成功に結びついたポイントです。

③自宅であることは問題にならなかった

買い手の金谷先生は、山崎先生との初期の面談時から、住民から厚い信頼を得ている山崎先生を医師として尊敬し、特に自分に知識の薄かった小児科については、素直に教えを請うという姿勢で接していました。

山崎先生も、自分の息子に近い年齢の金谷先生がクリニックを承継してくれることを喜び、協力を惜しまない姿勢を見せていました。

こうして両者の間に信頼関係が築かれていたため、山崎先生が診療所の2階に居住しているということは、マイナス要素にはならず、むしろ金谷先生にとって、「いつでも助けてもらえる」というプラス要素として感じられたということです。

まとめ

クリニックの譲渡を早期に成功させるためには、目的の優先順位を決めておくことが重要です。今回の売り手となった山崎先生は「地域に医療を残す」ことを最優先としたことが、早期の事業承継成功に結びつきました。

また、院長の自宅兼診療所としているクリニックでは譲渡が難しいのではないかと思われる方が多いかもしれませんが、本ケースのようにそれがむしろ歓迎される場合もあります。

自院の場合はどうなるのか不安があれば、お気軽に専門コンサルタントにご相談ください。

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