高齢化

特別編【首都圏×泌尿器内科】休診からの再生。愛される医院が新たな医師に託されるまでの物語

公開日
更新日
高齢化
エリア
首都圏
診療科目
泌尿器科、内科
運営組織
個人経営
譲渡理由
高齢化
運営年数
22年

地域に愛された医院の危機──そして再生への道筋

東京都台東区の駅前で25年間、地域医療を支えてきた泌尿器科クリニック。
しかし院長の体調不良により、ついに休診を余儀なくされました。
一度は閉院も考えた院長でしたが、ある提案によってクリニックは問題なく新たな医師へと引き継がれることになります。

本記事は、通常の成約実績とは異なる特別編として制作された成約ストーリーです。
休診という困難な状況から、どのようにして希望価格での譲渡が実現したのか。その理由を関係者の心境とともにご紹介します。

※匿名性保護のため、登場する人物などの名称や設定の一部にフィクションを含んでおります。

<主な登場人物紹介>

【売り手側】
氏名:田中良太(仮名)
立場:たなか泌尿器科クリニック(仮称) 院長/医療法人理事長
医院運営:25年
年齢:70代前半
専門:泌尿器科
経歴:駅前という好立地で地域に根ざした診療を続けてきたが、神経系疾患の発症により休診を決断。

【買い手側】
氏名:渡辺健一(仮名)
年齢:40代前半
専門:泌尿器科
経歴:静岡県の大手病院で泌尿器科医師として勤務。妻の母親の介護のため台東区での開業を検討中。

起|繁栄から転機へ──25年の歴史に突然の終止符

起|繁栄から転機へ──25年の歴史に突然の終止符

ある朝、田中良太院長は震える手で診察用のペンを握っていました。

「先生、手の震えが……大丈夫ですか?」

心配そうに声をかけてきた看護師の言葉に、田中院長は力なく微笑みます。もう隠しきれないところまで来てしまったのです。

台東区の駅前ロータリーに面したビルの2階。25年間この場所で愛され続けてきた「たなか泌尿器科クリニック」の診察室に、重い沈黙が流れました。

70歳を迎えた田中院長に最初の異変が現れたのは、半年ほど前のことでした。軽い疲れだと思っていた症状は、次第に手の震えとなって現れて、時折強い倦怠感に襲われるようになりました。

精密検査の結果は、神経系の疾患。

医師である田中院長自身が、誰よりもその診断の意味を理解していました。

「もう、診療を続けるのは無理かもしれない…」

その夜、田中院長は妻と向き合って、ついにその言葉を口にしました。25年間支え続けてくれた妻の目に、涙が浮かんでいました。

翌日から、たなか泌尿器科クリニックは休診となります。

毎朝7時前から開院を待っていた常連の患者さんたち。

「田中先生にお世話になって15年になるのに…」と涙を流しながら帰っていく姿を、田中院長は2階の窓から見つめていました。

駅前という最高の立地。地元地主のオーナーの理解による格安の家賃。泌尿器科という専門性を活かした安定経営。すべてが恵まれた条件でした。

「なぜ今なのか…」

誰もいない診察室で、田中院長はつぶやきました。

長年使い続けてきた診察台や患者さんとの思い出が詰まったカルテの山、壁に飾られた感謝の手紙。すべてが愛おしく、同時に胸を引き裂かれるように切ないものでした。

経済的には困らない状況でした。25年間の安定経営で老後の蓄えは十分にありました。

しかし、医師人生の集大成であるこのクリニックを、ただ閉院で終わらせることが正しいのか…、田中院長の心は激しく揺れていました。

「このまま本当に、すべてを手放してしまっていいのだろうか」

夜中に目が覚めると、そんな自問自答が頭の中を駆け巡っていたのです。

承|復活への道筋──運命を変えた診療再開

承|復活への道筋──運命を変えた診療再開

休診からしばらく経過した頃、田中院長は一つの決断をしました。

「このクリニックの価値を、誰かに正当に評価してもらいたい」

もしかしたら、価値を理解してくれる医師がいるかもしれない。そう考えた田中院長は、医院継承の専門会社に相談することを決意します。

「休診中のクリニックでも譲渡は可能です。ただし…」

エムステージの担当者の表情が、少し曇りました。

「患者さんがついているという最大のメリットが失われている状況では、どうしても評価が厳しくなってしまいます」

田中院長の心は沈みました。理屈では理解できます。しかし、25年かけて築き上げたものを、そう簡単に安く評価されることは到底納得できませんでした。

「私が人生をかけて築いたこのクリニック…。本当にそんなに価値がないものなのでしょうか」

その時、担当者から思いもよらない提案が飛び出しました。

「田中先生、一時的に診療を再開してみませんか?」

田中院長は驚きで言葉を失いました。

「体調の回復を待って、短期間だけでも診療を再開していただければ、実際の患者さんの来院状況と収益を確認できます。それがあれば、クリニックの本来の価値を正当に評価できるんです」

「でも、私の体調では…」

「無理をしてはいけません。でも、もし可能であれば…」

担当者の真剣な眼差しに、田中院長の心の奥で何かが動きました。

その夜、田中院長は妻と相談をしました。

「あなたの体が一番大切よ」妻は心配そうに伝えます。

「でも、私も分かってる。あなたにとってあのクリニックが どれほど大切な場所か」

田中院長の目に涙が浮かびました。

「もう一度、もう一度だけあの診察室に立ちたい」

数日後、たなか泌尿器科クリニックの入り口に、小さな張り紙が現れました。

「診療再開のお知らせ」

その知らせを見た患者さんたちの反応は、田中院長の想像を遥かに超えていました。

再開初日の朝、クリニックの前には長い列ができていました。

「先生、心配していました」

「体調はもう大丈夫ですか?」

「先生に診てもらいたいと、ずっと待っていました」

患者さんたちの声に、田中院長の目からは涙があふれます。

「私は、間違っていなかった」

その瞬間、田中院長は確信しました。このクリニックには、確かに価値がある。

そして、その価値を理解してくれる人が現れるまで、諦めてはいけないのだと。

転|理解と信頼、台東区という縁

転|理解と信頼、台東区という縁

診療再開から数週間が経った頃、エムステージの担当者から電話が入りました。

「田中先生、台東区で泌尿器科の開業を希望している医師の方がいらっしゃいます」

その医師の名前は、渡辺健一。

静岡県の大手病院で泌尿器科医として活躍していましたが、家庭の事情で東京への転居を迫られていました。

「妻の母親が要介護状態になりまして、一人娘の妻が介護に入る必要があるんです」

渡辺先生の事情を聞いた田中院長は、運命的なものを感じずにはいられませんでした。

実家は台東区。しかも診療科目は同じ泌尿器科。新規開業と医院継承の両方を検討していた渡辺先生にとって、田中院長のクリニックとの出会いは、まさに天からの贈り物でした。

初回の面談は、診療後の静かなクリニックで行われました。夕日が窓から差し込む相談室で、2人の医師が向き合います。

「私は、このクリニックを単なる事業として見てほしくないんです」

田中院長の第一声は、渡辺先生の心を強く揺さぶりました。

「25年間、この地域の患者さんと向き合ってきた場所です。ここには、数字では表せない大切なものがあります」

渡辺先生の表情が変わりました。

「実は、私の父も地方で小さな診療所を営んでいました」

渡辺先生の声に、深い感情が込められていました。

「父がいつも言っていました。『医療は地域の人たちとともにあるもの』だと。先生のお話を聞いていて、父の言葉を思い出しました」

田中院長の目が輝きます。

「そうです!まさにその通りなんです」

2人の医師の間に、世代を超えた共感が生まれていました。

「私も腰を据えて地域医療に貢献したいと思っています。台東区は妻の故郷でもありますから」

渡辺先生の言葉に、田中院長は深くうなずきました。

話が進むにつれ、2人の共通点がどんどん見えてきました。診療科目が同じことはもちろん、地域医療への想い、患者との信頼関係を大切にする姿勢。

年齢は30歳近く離れていましたが、医師としての価値観が驚くほど一致していたのです。

「承継後も、クリニックの名前は変えません」

渡辺先生の言葉に、田中院長は胸が熱くなりました。

「田中先生が築かれた信頼と歴史を、私が引き継がせていただきます」

その瞬間、田中院長の心の中で何かが完結しました。

「この人になら、安心して託せる」

25年間積み重ねてきたすべてが、目の前の医師に受け継がれていく。そう確信した瞬間でした。

面談が終わった後、田中院長は一人診察室に残りました。

明日からは新しい未来が始まる。

そう思うと、不思議と心が軽やかになりました。

結|未来への扉、継続する医療の形

結|未来への扉、継続する医療の形

引き継ぎが始まった日、田中院長は渡辺先生と並んで診察室に立っていました。

「皆さん、来月から渡辺先生が診療を引き継がれます」

患者さんへの説明を聞きながら、渡辺先生は一人ひとりの顔を真剣に見つめていました。

引き継ぎ期間中、田中院長は渡辺先生に自分の医師人生のすべてを語りました。

開院当初の苦労話や地域に根ざしていった過程、そして何より、25年間通い続けてくれた患者さん一人ひとりのこと。

「この方は10年前に手術をされて、それ以来定期的に検査を受けています。とても心配性な方なので、丁寧な説明を心がけてください」

「あの方のご家族は皆さんうちの患者さんです。お孫さんが生まれた時は、とても嬉しそうにお話しされていました」

渡辺先生は、一つひとつ丁寧にメモを取りながら聞いていました。

単なる患者リストではなく、一人ひとりの人生の一部を引き継ぐということに、深い責任を感じていたためです。

そしてついに、正式な引き継ぎの日がやってきました。

診療後の静まり返ったクリニックで、田中院長は最後に診察室を見回しました。25年間の思い出が、走馬灯のように頭を駆け巡ります。

「田中先生、本当にありがとうございました」

渡辺先生が深く頭を下げます。

「こちらこそ。このクリニックを、そして患者さんたちを、どうかよろしくお願いします」

田中院長の声は、安堵と感謝に満ちていました。

あれほど絶望的だった状況から、まさか理想的な承継が実現するとは。体調の不安から始まった休診が、最終的には運命的な出会いをもたらしてくれました。

3か月後のある午後、田中院長は偶然クリニックの前を通りかかりました。

「たなか泌尿器科クリニック」

看板はそのまま残されていました。約束を守ってくれた渡辺先生への感謝が、胸の奥から湧き上がってきます。

2階の窓から見えた待合室には、見覚えのある患者さんたちがたくさんいて、それぞれが安心した表情で診察を待っています。

「本当に、良かった」

田中院長は心の中で、静かにつぶやきました。

クリニックの承継は、建物や設備を引き継ぐだけではありません。そこに込められた想いと、患者さんとの信頼関係を未来につなぐこと。

一度は閉ざされかけた扉は新しい医師の手によって再び開かれ、新たな歴史が刻まれていきます。

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M&Aにおける課題や論点(売り手側)

完全休診中の状態が評価を下げる要因に:
院長の神経系疾患により2か月間休診していたため、収益実績が消失し、営業権の価値評価が困難な状況だった。

譲渡価格に対する強いこだわり:
生活資金を得る必要はなかったが、「安値で手放す」ことへの心理的抵抗が大きく、希望価格(約3,000万円)を維持したままの譲渡を目指していた。

マイナー診療科目(泌尿器科)で買い手が限られる:
泌尿器科に特化したクリニックであったため、対象となる買い手医師が限定的で、交渉のハードルが高かった。

M&Aにおける課題や論点(買い手側)

開業が必須ではない状況:
買い手であるわたなべ医師は、妻の介護事情により台東区への転居を検討していたが、勤務医として働き続ける選択肢もあり、M&Aに対して強い動機を持っていたわけではなかった。

初の医院承継で不安が大きかった:
クリニック経営の実績がなく、譲渡価格の妥当性や運営リスクに対して慎重であり、判断材料が必要だった。

譲渡希望価格と資金の納得形成:
設備・立地条件・患者継続率などに対して客観的な説明が求められた。過大評価されているという懸念も初期にはあった。

 M&Aの成功要因

「一時的な診療再開」による営業実績の回復:
仲介担当の助言により、休診状態を一時解除。一定期間だけ診療を再開することで、患者の来院数・収益を実績として提示可能になった。

買い手と売り手の希望条件が完全一致:
「台東区で開業したい泌尿器科医師」と「台東区の泌尿器科クリニック」という、極めてレアな組み合わせが早期にマッチング。

希望価格への納得を生んだ立地と収益構造:
駅前・集患力のある立地と、オーナー都合による安価な賃料設定(地域相場の6〜7割)などの優位性が、買い手にとって明確な合理性となった。

M&A支援会社による丁寧な事前調整と面談設計:
初回面談までに、双方の条件・価値観・金額感覚のすり合わせを済ませ、対面ではスムーズに最終合意まで到達。

M&Aの譲渡スキーム

事業譲渡(個人クリニックの承継):
個人経営クリニックの営業権・設備・患者ベース等を一括して譲渡する形で、法人格の承継はなし。

譲渡金額:
約2,500万〜3,000万円(+内装・設備費用、運転資金等で総額4,000万円以内)。

不動産(テナント)条件:
家賃が相場より3〜4割安く、好条件のまま引き継ぎ可能。買い手にとって資金回収の早期化に寄与。

契約期間:
初回打診から最終契約締結まで、約1か月でのスピード成約。

<本件のM&Aスキーム図解>

本件のM&Aスキーム図解

 承継後の変化と成果

地域医療の継続性が保たれた:
医院名・スタッフ・診療内容に変更はなく、患者がそのまま継続して来院している。

買い手医師のライフスタイル実現:
家庭環境と医療活動の両立が可能となり、地域で腰を据えた医療展開がスタート。

初承継でもスムーズなスタート:
価格や体制に納得した状態での承継となり、大きな混乱なくスムーズに診療開始。スタッフからの信頼感も維持。

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